上 下
5 / 99
繋がりが欲しくて

しおりを挟む
 慌てて服をかき集めた。こんな夜遅くに秋彦さんが部屋を訪ねてくることなんて、私が風邪を引いているときくらいだ。普段なら、まず有り得ない。

 部屋を出て行く豪さんと、秋彦さんが鉢合わせしなくてよかった、と心から安堵した。もしも情事の最中に来られていたら、気付かれて大変なことになっていたわけで。

 さあっと血の気が引くのを感じつつ、服を着て、乱れているところがないか確認してから扉に向かった。その途中で、低く静かな声が聞こえた。

「寧々様、夜分に申し訳ありません。まだ起きていらっしゃいますか?」
「はっ、はい!」

 扉を開けると、申し訳なさそうな顔をした秋彦さんが立っていた。就寝前だからか、シンプルなシャツの上にカーディガンを羽織り、下はゆったりとしたスラックスを履いている。執事の燕尾服えんびふくに慣れていたから、見慣れないその無防備な格好に、私は不覚にもドキッとしてしまった。

 それにしても、何の用事だろうか。もしかしたら、豪さんとの関係を悟られたかもしれない。そう考えてひやっとしながら、秋彦さんを見上げた。

 いくつもの武道に精通している秋彦さんは、たくましい体格と、きりっとした精悍せいかんな顔つきをしている。豪さんとはまた違う系統の美形だ。だから、屋敷のお手伝いさんたちの間でも人気がある。

 執事としても優秀で、常に落ち着いていて、完璧な立ち振る舞いを見せる。豪さんからとても信用されていて、私もここに来たときからずっとお世話になっている人。温かく、気遣いに溢れた人格者でもある。

 そんな人に、今から何を言わせてしまうのか。動揺して目を泳がせていると、秋彦さんはふっと微笑ほほえんだ。

「お休みになられる前だったんですね。髪、跳ねてますよ」

 秋彦さんが、私の髪を撫でた。豪さんが触れた部分と同じところだ。懸念を見透かされたような気がして、更に鼓動が速くなった。

「あっ、だ、大丈夫です!」
「起こしてしまったみたいで、申し訳ありません。私も今から休ませていただくのですが、明日は何時頃にお出掛けになられるか、確認しそびれたもので」
「あ、そういうことですね」

 ほっとして、一気に肩の力が抜けた。用事は、単なる時間の確認だった。情事がバレたわけじゃない。そう分かって、胸をなでおろす。

「えっと、八時半に出発します。マネージャーが迎えに来ますので」
「かしこまりました。では、予定と変わりないですね。私の気付きが足りず、ご迷惑をお掛けしました」
「いえ。遅くまでお疲れ様です。おやすみなさい」
「……」

 安心しきった私は、頭を下げて、扉を閉めようとした。けれど、私の手を秋彦さんが掴んで止めた。

「えっ」
「寧々様、もう少しだけお時間をください。一つ、お願いがございます」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...