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繋がりが欲しくて
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慌てて服をかき集めた。こんな夜遅くに秋彦さんが部屋を訪ねてくることなんて、私が風邪を引いているときくらいだ。普段なら、まず有り得ない。
部屋を出て行く豪さんと、秋彦さんが鉢合わせしなくてよかった、と心から安堵した。もしも情事の最中に来られていたら、気付かれて大変なことになっていたわけで。
さあっと血の気が引くのを感じつつ、服を着て、乱れているところがないか確認してから扉に向かった。その途中で、低く静かな声が聞こえた。
「寧々様、夜分に申し訳ありません。まだ起きていらっしゃいますか?」
「はっ、はい!」
扉を開けると、申し訳なさそうな顔をした秋彦さんが立っていた。就寝前だからか、シンプルなシャツの上にカーディガンを羽織り、下はゆったりとしたスラックスを履いている。執事の燕尾服に慣れていたから、見慣れないその無防備な格好に、私は不覚にもドキッとしてしまった。
それにしても、何の用事だろうか。もしかしたら、豪さんとの関係を悟られたかもしれない。そう考えてひやっとしながら、秋彦さんを見上げた。
いくつもの武道に精通している秋彦さんは、逞しい体格と、きりっとした精悍な顔つきをしている。豪さんとはまた違う系統の美形だ。だから、屋敷のお手伝いさんたちの間でも人気がある。
執事としても優秀で、常に落ち着いていて、完璧な立ち振る舞いを見せる。豪さんからとても信用されていて、私もここに来たときからずっとお世話になっている人。温かく、気遣いに溢れた人格者でもある。
そんな人に、今から何を言わせてしまうのか。動揺して目を泳がせていると、秋彦さんはふっと微笑んだ。
「お休みになられる前だったんですね。髪、跳ねてますよ」
秋彦さんが、私の髪を撫でた。豪さんが触れた部分と同じところだ。懸念を見透かされたような気がして、更に鼓動が速くなった。
「あっ、だ、大丈夫です!」
「起こしてしまったみたいで、申し訳ありません。私も今から休ませていただくのですが、明日は何時頃にお出掛けになられるか、確認しそびれたもので」
「あ、そういうことですね」
ほっとして、一気に肩の力が抜けた。用事は、単なる時間の確認だった。情事がバレたわけじゃない。そう分かって、胸をなでおろす。
「えっと、八時半に出発します。マネージャーが迎えに来ますので」
「かしこまりました。では、予定と変わりないですね。私の気付きが足りず、ご迷惑をお掛けしました」
「いえ。遅くまでお疲れ様です。おやすみなさい」
「……」
安心しきった私は、頭を下げて、扉を閉めようとした。けれど、私の手を秋彦さんが掴んで止めた。
「えっ」
「寧々様、もう少しだけお時間をください。一つ、お願いがございます」
部屋を出て行く豪さんと、秋彦さんが鉢合わせしなくてよかった、と心から安堵した。もしも情事の最中に来られていたら、気付かれて大変なことになっていたわけで。
さあっと血の気が引くのを感じつつ、服を着て、乱れているところがないか確認してから扉に向かった。その途中で、低く静かな声が聞こえた。
「寧々様、夜分に申し訳ありません。まだ起きていらっしゃいますか?」
「はっ、はい!」
扉を開けると、申し訳なさそうな顔をした秋彦さんが立っていた。就寝前だからか、シンプルなシャツの上にカーディガンを羽織り、下はゆったりとしたスラックスを履いている。執事の燕尾服に慣れていたから、見慣れないその無防備な格好に、私は不覚にもドキッとしてしまった。
それにしても、何の用事だろうか。もしかしたら、豪さんとの関係を悟られたかもしれない。そう考えてひやっとしながら、秋彦さんを見上げた。
いくつもの武道に精通している秋彦さんは、逞しい体格と、きりっとした精悍な顔つきをしている。豪さんとはまた違う系統の美形だ。だから、屋敷のお手伝いさんたちの間でも人気がある。
執事としても優秀で、常に落ち着いていて、完璧な立ち振る舞いを見せる。豪さんからとても信用されていて、私もここに来たときからずっとお世話になっている人。温かく、気遣いに溢れた人格者でもある。
そんな人に、今から何を言わせてしまうのか。動揺して目を泳がせていると、秋彦さんはふっと微笑んだ。
「お休みになられる前だったんですね。髪、跳ねてますよ」
秋彦さんが、私の髪を撫でた。豪さんが触れた部分と同じところだ。懸念を見透かされたような気がして、更に鼓動が速くなった。
「あっ、だ、大丈夫です!」
「起こしてしまったみたいで、申し訳ありません。私も今から休ませていただくのですが、明日は何時頃にお出掛けになられるか、確認しそびれたもので」
「あ、そういうことですね」
ほっとして、一気に肩の力が抜けた。用事は、単なる時間の確認だった。情事がバレたわけじゃない。そう分かって、胸をなでおろす。
「えっと、八時半に出発します。マネージャーが迎えに来ますので」
「かしこまりました。では、予定と変わりないですね。私の気付きが足りず、ご迷惑をお掛けしました」
「いえ。遅くまでお疲れ様です。おやすみなさい」
「……」
安心しきった私は、頭を下げて、扉を閉めようとした。けれど、私の手を秋彦さんが掴んで止めた。
「えっ」
「寧々様、もう少しだけお時間をください。一つ、お願いがございます」
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