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ずっと一緒にいたいから
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寧々を部屋に残して、ホテルを出た時。秋彦から、俺のスマホに電話が入り、梢が急性胃腸炎で倒れて入院したことを知った。
それを聞いて、罪悪感で頭がいっぱいになる。さすがに参りそうだ。間違いなく、俺たちの裏切りと、その心的ストレスによるものだ。
起こってしまったものはどうしようもない。もしかしたら、これは梢と話ができるチャンスかもしれない。そう思った俺は、秋彦から入院先の病院名を聞き、そちらに向かうと約束した。
「それと、寧々様の様子はどうですか?」
「随分と気落ちしてる。今日は秋彦に会えるから、多少は気分も紛れるだろうけど。ニュースやネットの情報を見せないように、気を遣ってくれないか」
「かしこまりました」
やはり秋彦が気になるのは寧々のことのようで、声に気合いが入っていた。彼にも充分迷惑を掛けているというのに、嫌な反応一つしない。本当にできた人間だ。寧々が彼の手を取らなかったのが、不思議に思えるくらいに。そう感じるほどに、俺も弱気になっているらしい。
電話を切り、両頬を叩いて気合いを入れ直した。父に殴られた部分は、痣以外順調に治ってきて、もう痛みは感じない。梢が感じている苦しみに比べたら、大したことはなかった。
病院に着き、受付で梢に面会を申請した。だが、事務の人は難しい顔をしており、なかなか取り次いでもらえない。やはりだめかと焦っていると、見舞いに来た梢の父親が、俺に気付いて険しい顔で近づいてきた。
「どうして、君がここにいる!?」
「梢さんが、倒れられたと聞いたので……」
「帰りなさい。話すことなどない! 何度も言っているだろう!」
「待ってください。梢さんご本人と、話をさせていただけませんか?」
引き下がることはできない。話を聞いていた周囲の人目も気にせず、何度も頭を下げていると、一人の看護師が俺を呼びに来た。
「桜庭様、宮坂様が面会をしてもいいとおっしゃっています」
「ほ、本当ですか!?」
「はい。こちらへ」
梢の父は眉をひそめ、かなり不服そうにしていた。梢の方から会ってくれるとは、彼も思わなかったようだ。俺は再び頭を下げて、梢の病室へと向かう。
案内されたのは個室だった。多くの見舞いの品があちこちに置かれていて、梢が有名人であることを物語っている。奥のベッドにに、点滴を打ちながら横になる梢がいた。
「豪……どうして、来たの?」
「見舞いに。それと、話をしたいと思って」
「……そんなに、あの子が大事?」
「ああ……大切に思ってる」
梢は、ずっと俺と寧々の関係を疑っていた。寧々が俺に好意を持っていると、梢は何度もそう俺に伝えてきたが、俺は自分の気持ちを隠すのに精一杯で、何とも思っていないと嘘をつき続けた。
悪いのは俺だ。反省もしている。それでも、俺が愛せるのは寧々だけだ。
「決断を先延ばしにして、全てが丸くおさまる方法を選ぼうとしてた。梢を傷つけたことは、心から申し訳ないと思ってる。本当に、ごめん……」
「……どうして、もっと早く、正直な気持ちを話してくれなかったの? 結婚決めてから撤回とか……豪は寧々ちゃんが好きだって分かってたら、すっぱり諦めてたのに」
想定外の言葉に、俺は目を見開いた。梢が俺の気持ちを気にしていた理由は、嫉妬だけではなく、俺と寧々の関係を確かめるためだったのだ。両想いだったら身を引くと、そう決めていたらしい。
「そう、だったのか……」
「ちゃんと確認したのに、結局裏切られて。じゃあ私は、どうしたらよかったの?」
返す言葉もない。妹のようにかわいがっていた寧々と、婚約者だった俺の両方に裏切られた梢の気持ちは、理解しようとしてもできるものではなかった。
俺が黙っていると、梢は首を動かして窓の外を見上げた。
それを聞いて、罪悪感で頭がいっぱいになる。さすがに参りそうだ。間違いなく、俺たちの裏切りと、その心的ストレスによるものだ。
起こってしまったものはどうしようもない。もしかしたら、これは梢と話ができるチャンスかもしれない。そう思った俺は、秋彦から入院先の病院名を聞き、そちらに向かうと約束した。
「それと、寧々様の様子はどうですか?」
「随分と気落ちしてる。今日は秋彦に会えるから、多少は気分も紛れるだろうけど。ニュースやネットの情報を見せないように、気を遣ってくれないか」
「かしこまりました」
やはり秋彦が気になるのは寧々のことのようで、声に気合いが入っていた。彼にも充分迷惑を掛けているというのに、嫌な反応一つしない。本当にできた人間だ。寧々が彼の手を取らなかったのが、不思議に思えるくらいに。そう感じるほどに、俺も弱気になっているらしい。
電話を切り、両頬を叩いて気合いを入れ直した。父に殴られた部分は、痣以外順調に治ってきて、もう痛みは感じない。梢が感じている苦しみに比べたら、大したことはなかった。
病院に着き、受付で梢に面会を申請した。だが、事務の人は難しい顔をしており、なかなか取り次いでもらえない。やはりだめかと焦っていると、見舞いに来た梢の父親が、俺に気付いて険しい顔で近づいてきた。
「どうして、君がここにいる!?」
「梢さんが、倒れられたと聞いたので……」
「帰りなさい。話すことなどない! 何度も言っているだろう!」
「待ってください。梢さんご本人と、話をさせていただけませんか?」
引き下がることはできない。話を聞いていた周囲の人目も気にせず、何度も頭を下げていると、一人の看護師が俺を呼びに来た。
「桜庭様、宮坂様が面会をしてもいいとおっしゃっています」
「ほ、本当ですか!?」
「はい。こちらへ」
梢の父は眉をひそめ、かなり不服そうにしていた。梢の方から会ってくれるとは、彼も思わなかったようだ。俺は再び頭を下げて、梢の病室へと向かう。
案内されたのは個室だった。多くの見舞いの品があちこちに置かれていて、梢が有名人であることを物語っている。奥のベッドにに、点滴を打ちながら横になる梢がいた。
「豪……どうして、来たの?」
「見舞いに。それと、話をしたいと思って」
「……そんなに、あの子が大事?」
「ああ……大切に思ってる」
梢は、ずっと俺と寧々の関係を疑っていた。寧々が俺に好意を持っていると、梢は何度もそう俺に伝えてきたが、俺は自分の気持ちを隠すのに精一杯で、何とも思っていないと嘘をつき続けた。
悪いのは俺だ。反省もしている。それでも、俺が愛せるのは寧々だけだ。
「決断を先延ばしにして、全てが丸くおさまる方法を選ぼうとしてた。梢を傷つけたことは、心から申し訳ないと思ってる。本当に、ごめん……」
「……どうして、もっと早く、正直な気持ちを話してくれなかったの? 結婚決めてから撤回とか……豪は寧々ちゃんが好きだって分かってたら、すっぱり諦めてたのに」
想定外の言葉に、俺は目を見開いた。梢が俺の気持ちを気にしていた理由は、嫉妬だけではなく、俺と寧々の関係を確かめるためだったのだ。両想いだったら身を引くと、そう決めていたらしい。
「そう、だったのか……」
「ちゃんと確認したのに、結局裏切られて。じゃあ私は、どうしたらよかったの?」
返す言葉もない。妹のようにかわいがっていた寧々と、婚約者だった俺の両方に裏切られた梢の気持ちは、理解しようとしてもできるものではなかった。
俺が黙っていると、梢は首を動かして窓の外を見上げた。
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