上 下
84 / 99
ずっと一緒にいたいから

しおりを挟む
 寧々を部屋に残して、ホテルを出た時。秋彦から、俺のスマホに電話が入り、梢が急性胃腸炎で倒れて入院したことを知った。

 それを聞いて、罪悪感で頭がいっぱいになる。さすがに参りそうだ。間違いなく、俺たちの裏切りと、その心的ストレスによるものだ。

 起こってしまったものはどうしようもない。もしかしたら、これは梢と話ができるチャンスかもしれない。そう思った俺は、秋彦から入院先の病院名を聞き、そちらに向かうと約束した。

「それと、寧々様の様子はどうですか?」
「随分と気落ちしてる。今日は秋彦に会えるから、多少は気分も紛れるだろうけど。ニュースやネットの情報を見せないように、気を遣ってくれないか」
「かしこまりました」

 やはり秋彦が気になるのは寧々のことのようで、声に気合いが入っていた。彼にも充分迷惑を掛けているというのに、嫌な反応一つしない。本当にできた人間だ。寧々が彼の手を取らなかったのが、不思議に思えるくらいに。そう感じるほどに、俺も弱気になっているらしい。

 電話を切り、両頬を叩いて気合いを入れ直した。父に殴られた部分は、痣以外順調に治ってきて、もう痛みは感じない。梢が感じている苦しみに比べたら、大したことはなかった。



 病院に着き、受付で梢に面会を申請した。だが、事務の人は難しい顔をしており、なかなか取り次いでもらえない。やはりだめかと焦っていると、見舞いに来た梢の父親が、俺に気付いて険しい顔で近づいてきた。

「どうして、君がここにいる!?」
「梢さんが、倒れられたと聞いたので……」
「帰りなさい。話すことなどない! 何度も言っているだろう!」
「待ってください。梢さんご本人と、話をさせていただけませんか?」

 引き下がることはできない。話を聞いていた周囲の人目も気にせず、何度も頭を下げていると、一人の看護師が俺を呼びに来た。

「桜庭様、宮坂様が面会をしてもいいとおっしゃっています」
「ほ、本当ですか!?」
「はい。こちらへ」

 梢の父は眉をひそめ、かなり不服そうにしていた。梢の方から会ってくれるとは、彼も思わなかったようだ。俺は再び頭を下げて、梢の病室へと向かう。

 案内されたのは個室だった。多くの見舞いの品があちこちに置かれていて、梢が有名人であることを物語っている。奥のベッドにに、点滴を打ちながら横になる梢がいた。

「豪……どうして、来たの?」
「見舞いに。それと、話をしたいと思って」
「……そんなに、あの子が大事?」
「ああ……大切に思ってる」

 梢は、ずっと俺と寧々の関係を疑っていた。寧々が俺に好意を持っていると、梢は何度もそう俺に伝えてきたが、俺は自分の気持ちを隠すのに精一杯で、何とも思っていないと嘘をつき続けた。

 悪いのは俺だ。反省もしている。それでも、俺が愛せるのは寧々だけだ。

「決断を先延ばしにして、全てが丸くおさまる方法を選ぼうとしてた。梢を傷つけたことは、心から申し訳ないと思ってる。本当に、ごめん……」
「……どうして、もっと早く、正直な気持ちを話してくれなかったの? 結婚決めてから撤回とか……豪は寧々ちゃんが好きだって分かってたら、すっぱり諦めてたのに」

 想定外の言葉に、俺は目を見開いた。梢が俺の気持ちを気にしていた理由は、嫉妬だけではなく、俺と寧々の関係を確かめるためだったのだ。両想いだったら身を引くと、そう決めていたらしい。

「そう、だったのか……」
「ちゃんと確認したのに、結局裏切られて。じゃあ私は、どうしたらよかったの?」

 返す言葉もない。妹のようにかわいがっていた寧々と、婚約者だった俺の両方に裏切られた梢の気持ちは、理解しようとしてもできるものではなかった。

 俺が黙っていると、梢は首を動かして窓の外を見上げた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...