寵愛の檻

枳 雨那

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調教開始

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「そっか。先を越されたなー、なんて」
「……え?」

 千ちゃんは、頭を掻きながら軽く笑った。先を越されたとは、どういう意味だろうか。素直に受け取ってしまえば、私に告白しようと思っていた、ということ。

 心臓が跳ねた。真意を聞きたい。おーちゃんがいなければ、聞けたかもしれないのに。

「千里、僕は真剣なんだ」
「ご、ごめん、冗談だって。朧、怒らないで。応援するから」

 冗談、その言葉で、期待はすぐにしぼんでいった。なんだ、やっぱり望みはなかった。少しでも自惚うぬぼれてしまった自分が恥ずかしい。

 先に食事を終えた二人は、肩を組んでなにやらつつき合っている。仲の良い幼馴染み同士、いつもの関係。その関係を崩したくないから、おーちゃんに相談したのに。

 もし、相談せずに千ちゃんに告白していたら、今どうなっていたのだろう。

「……ごちそうさま」
「胡蝶、もういいの? ほとんど食べてないけど」
「うん。朝、食べ過ぎちゃったかも」

 笑顔を浮かべて、心配する千ちゃんに嘘を返した。こうして、嘘が上手くなっていくのが怖い。

 講義室で隣に座っていた彼女に、二人とはただの幼馴染みだと強調してしまったことが悔やまれた。私とおーちゃんがおためしで付き合っている、という情報は、きっと瞬く間に広がるだろう。千ちゃんが黙ってくれていたとしても、おーちゃんと二人でいる時間が増えれば、必然的に察しはつく。

「電車を乗り過ごしたのも、体調が悪いからだったんじゃないの?」
「え? いや、単に眠かっただけだよ」

 千ちゃんが気にしてくれるのは嬉しいのに、今は喜べない。もうどうか、放って置いてほしい。乗り過ごしたことは嘘だし、おーちゃんとの関係も嘘。これ以上、詮索されたくなかった。

「俺が、送って行こうか?」
「帰りは僕が送り届けるから、大丈夫。今、自分で応援するって言ったばかりじゃない」
「あ、そうだった。じゃあ、俺は一人で寂しく帰るよ」

 私のアパートには帰らない。大学に来る前に、必要最低限の荷物は、おーちゃんのアパートに持って行っている。

 千ちゃんに、おーちゃんが変わってしまったと、助けを求めたかった。



 全ての講義が終わって、おーちゃんと二人、アパートの部屋に帰ってきた。何をされるのか不安で、気分が重くなっていく。

「さて、と。胡蝶、おいで」
「……うん」

 帰り道は至って普通だったのに、おーちゃんは部屋の中だと別人みたいになる。ケージの前で手招きされて、気は進まないけれど、従うことにした。

「僕は今からバイトに行ってくる。それまで、この中で過ごして」
「分かった」
「それと、今からまた僕はご主人様。いいね?」
「……はい、ご主人様」
「よくできました」

 おーちゃんは私の頬に触れ、すっと撫でた。それだけで、ぴくりと反応してしまう。

「ただ待ってるだけだとつまらないよね。プレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」

 また拘束具みたいなものだろうか。私が怯えていると、おーちゃんはクローゼットに向かい、扉を開いた。中にあった段ボール箱から、服のようなものを取り出している。

「胡蝶に似合うと思って」

 おーちゃんがそれを広げ、私は言葉を失った。
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