寵愛の檻

枳 雨那

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「胡蝶、大丈夫?」
「う、ん……」

 あれから、おーちゃんの部屋を出て、私のアパートで荷物をまとめようと向かっている。

 さっき脱がされたショーツは、もう履けなかった。というより、おーちゃんが取り上げてしまった。

 下着の無い状態で外にいることが、とてつもなく不安で、恥ずかしい。突風が吹かないことを祈った。おーちゃんは私の心境を分かっていて、心配する素振りを見せている。

「もう少しだから、それまでの辛抱だよ」
「うん。あの、おーちゃん。私のスマホ、知らない?」
「ああ、僕が持ってる」

 さも平然と、おーちゃんがポケットから私のスマホを取り出した。普通なら驚く場面なのに、受け入れてしまう自分がいる。簡単に返してはくれないだろうが、駄目で元々聞いてみることにした。

「返してくれないかな? 大事な連絡、あるかも……」
「いいよ。返してあげる」

 案外あっさりと、おーちゃんは私にそれを差し出した。他意があるんじゃないかと、びくびくしてしまう。

「ただし、僕と一緒に住むことは、誰にも秘密だよ。もちろん、千里にも」
「うん」
「もし、逃げたり、約束を破ったりしたら……」

 分かっている。千ちゃんがどんな目に遭うか分からない。そんなことを盾にされたら、約束を守る他ないことも。

「だ、誰にも言わないから」
「そう、よかった」

 おーちゃんは微笑み、背を屈めて私にキスをした。シャイなおーちゃんが、こんなにも明るい道端で、誰に診られているかも分からない場所で、堂々とキスをやってのけるなんて。

「早くしないと、胡蝶が心許ないね」
「……うん」

 誰のせいでこうなっているの、と言いそうになって口をつぐむ。深呼吸をして、心を落ち着け、片手でスマホのロックを解除した。

 新着メッセージが、一件。送信者を見て、心臓が跳ねた。千ちゃんだった。

 中身は見ずに慌ててロックしたけれど、ほんの少し動揺したことは、おーちゃんに気付かれてしまった。

「胡蝶? 大事な連絡でもあった?」
「ううん……なかった」

 誤魔化ごまかして、角を曲がった直後。



「あ、胡蝶! おぼろと一緒だったの?」

 なぜかそこに千ちゃんがいた。彼はこちらに駆け寄ってくる。

「せ、千ちゃん……どうして、ここに?」
「昨日メッセ送ったのに返事なかったし、既読にもならないし、心配になって」
「ご、ごめんね。色々とその、バタバタしてて」

 真面目で心配性な千ちゃんに、こうして嘘をつくことになるなんて。私とアパートの部屋も近いから、様子を見に来てくれたのだろう。

 それなのに、朝、おーちゃんと一緒に帰ってきた。そこから導き出される答えに、千ちゃんは辿り着いたようだ。


「え、もしかして。ずっと朧の家にいたの?」
「……うん」

 おーちゃんは、黙っている。答え方を一つでも間違えれば、彼を怒らせてしまいそうで、怖い。

「そう、なんだ。もしかして、俺、今邪魔だった?」

 努めて明るく、千ちゃんが言っている。どう答えるべきか迷っていると、おーちゃんが口を開いた。

「胡蝶は僕がちゃんと家まで送るから、大丈夫。また、大学で」

 微笑んではいるけれど、目が笑っていない。それ以上、ここでは関わるなという牽制だった。

「う、うん。分かった、後でな」

 千ちゃんは、おーちゃんの語気の強さに戸惑っていた。おーちゃんはさっさと歩き出し、それに引っ張られる形で、私もついて行く。

「千ちゃん、後でね」
「うん……」

 千ちゃんは、手を振ってくれた。心配して来てくれたのに、酷い対応をしてしまったと心が痛む。朝まで一緒にいた私たちの関係を、どういうふうに受け取ったんだろう。

 朝の冷たい空気が、スカートの中を通り抜ける。千ちゃんのことを思うと、身体の芯が熱くなっていった。
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