寵愛の檻

枳 雨那

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事の発端

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 安眠など、できるわけがなかった。精神的にも体力的にも疲れ切っているはずなのに、意識ははっきりとしたままだ。目の前で、幸せそうに小さな寝息を立てるおーちゃんの顔を見つめる。

 眠っている間の彼は、とても無防備で、幼い頃から変わらない表情を見せている。さらさらの黒髪、整った目鼻立ち、特徴的な右目の下の泣きぼくろ。言い寄ってくる女の子はたくさんいたのに、おーちゃんは誰に対しても丁寧に断っていた。

 そんなにもシャイで優しい彼のことだから、今日の出来事を一つ一つ振り返っても、未だに信じられない。でも、足首に感じる冷たい拘束具は、現実を語っていた。

 彼の行為を拒まなかったことは、間違いだったのだろうか。恐らくこのまま、私は監禁され続ける。無理矢理に近い愛撫に感じてしまったことも、消え入りたいほど恥ずかしい。

 おーちゃんは、一体どうしたいんだろう。どうなったら満足するんだろう。私がもっと、この人を理解しなければ。解決できない気がする。

 見捨てて逃げ出すなんてことは、できそうにない。おーちゃんも私の大切な人であることに、変わりはないのだから。

「……胡蝶?」
「あ、おーちゃん」

 私の視線に気付いたのか、おーちゃんが目を覚ました。眠そうに微睡まどろんでいる。

「どうしたの? 眠れないの?」
「……うん」
「今は、何もしないよ。明日はちゃんと大学に行けるから」
「本当?」
「うん。だから少しでも眠ろう?」

 私の髪をくしゃくしゃと撫でて、おーちゃんは笑った。監禁はされない。大学に行ける。それだけで希望が繋がった。

 今は、私たちの関係が少し狂ってしまっただけだ。きっと立て直せる。そうやって自分を納得させて、私も目を閉じた。

 しばらくすると、睡魔が襲ってきた。ようやく眠れそうだ。

「きっと、大丈夫……」

 夢の中では、三人で仲良く遊んだ。
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