寵愛の檻

狂気の始まり

１

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　スピーカーから流れてくるクラシック音楽が、私の意識を呼び起こした。瞼まぶたが重い。腕や脚を動かそうにも、全身が気怠くて叶わない。どうして、私は眠っていたのだろう。

「……！」

　はっとして目を開け、どうにか上半身を起こした。信じられないことに、私の周りを黒い柵のようなものが取り囲んでいる。よく見れば、それは大型犬を入れるような、ケージだった。

　理解しがたい現状に、恐怖感が迫ってくる。閉じ込められてしまったのか。

「なに、これ……？　おーちゃん？　おーちゃん、どこ！？」

　おーちゃんは、私が眠る前まで、確かに一緒にいた人物。私の幼馴染みで、よき理解者だ。

　その名前をみるものの、反応はない。柵の間から外を窺うかがうと、知らない部屋だった。

「だっ、誰か！　助けてっ！」

　大声を上げるけれど、やはり部屋の中は静まり返っていた。

「あ、スマホ……スマホはっ？」

　体のあちこちを確かめ、狭いケージの中を見回しても、スマホは見当たらない。助けを呼ぶ手段が、ない。指が、体が、小刻みに震え始めた。


「胡蝶こちょう？」

　部屋の扉が開き、おーちゃんが入ってきた。胸いっぱいに安堵感が広がる。よかった、これで助かる。

「おーちゃんっ。どうしてか分からないけど、閉じ込められてるの。ここから出して、お願い！」

　おーちゃんは、ケージの前まで来ると、屈んで私の顔を覗き込む。そして、にっこり笑った。

「ぐっすり眠ってたよ。可愛い寝顔だった」
「……おーちゃん？」

　何かが、おかしい。異常な事態なのに、おーちゃんは落ち着き払っているし、驚きすら見せない。

「そのケージは僕のなんだ。気に入ってくれた？」
「な、なに言ってるの？　冗談でしょ？」
「僕が今まで嘘をついたことがあった？　胡蝶なら分かるよね？」
「……」

　信じられなくて、絶句した。

　おーちゃん、いや、葛葉くずのは朧おぼろの狂気と支配は、これが始まりだった。