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胡蝶の変化
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残りの講義が終わってすぐ、おーちゃんは私をアパートに連れ帰った。その間、私が何を話しかけても、一切口をきいてくれなかった。
玄関をあけると、おーちゃんは私を引っ張って一目散にケージのある部屋に向かう。ケージを開けて、その中に私を入れると、左足首に拘束具を着け、ケージの外から鍵を掛けた。
「いやっ! なんで、またこの檻……」
「お仕置きだよ。千里に、本当のことを言おうとしたよね?」
「ち、違う……! 『何もない』って言おうとしただけなの!」
「嘘だ。僕には分かる。その中で、一晩頭を冷やしたら?」
「っ……おーちゃん……」
ケージの柵を掴んで訴えるけれど、おーちゃんは聞く耳を持とうともしてくれない。静かに怒っていた。そのまま、鍵を持って部屋を出て行った。
「……どうしたらいいの?」
私が逆らったり、少しでも疑われるような行動をとれば、おーちゃんが激昂することは分かっていたはずだった。それなのに、千ちゃんの前では気持ちが揺らいでしまった。結果的に暴露しないことにしたけれど、どうするか悩んだのは確かだ。
おーちゃんは、きっとその迷いを見透かしていた。千ちゃんと私が二人きりになった時、私がどんな行動をとるか、疑っていたのだ。
昨夜は優しくしてくれた時間もあったのに。講義室での一件といい、こうして閉じ込められたことといい――おーちゃんが昔のように戻ってくれることは、最早絶望的な気がしてきた。
「ひっ……くっ……」
涙が溢れてくる。この状況は、どうしたら改善できるのか。もう私には考えつかない。おーちゃんの言いなりになるしかない。それでも、おーちゃんのことは嫌いになれなかった。
冷たい床に横になる。拘束具の鎖が、じゃらりと無機質な音を立てた。涙が頬を伝って落ちていくけれど、拭う気力はない。
どのくらいの時間、そうしていただろうか。窓の外は暗くなり、ぼんやりと部屋の景色を眺めていると、おーちゃんが扉を開けて入ってきた。手には、食事の乗ったトレーを持っている。
「胡蝶、お腹空いた? トイレは行かなくていい?」
「……え」
幾分か、おーちゃんの声色が柔らかくなっている。彼はケージの前にしゃがみ、鍵を開けてくれた。どういう心境の変化だろうか。
「泣いてたの?」
「……うん」
身体を起こして、涙の跡を拭う。ケージの外には出ずに、おーちゃんの言葉をその場で待った。私がおーちゃんを見つめていると、彼はトレーをテーブルに置いて、目を細める。
「本当に、千里に言おうとしたわけじゃないの?」
「……うん。おーちゃんは、私のこと好き?」
「もちろん。好きに決まってる」
「じゃあ、どうして私のこと、信じてくれないの?」
「それは……」
おーちゃんの表情が曇った。眉根を寄せ、苦悶するかのように、胸のあたりを押さえている。今までにない変化だった。
「信じてくれるまで、この中でずっと待つから。もう、怒らないで」
「胡蝶……」
おーちゃんはすぐさま拘束具を解き、私をケージの外に連れ出して、抱きしめてくれた。一晩でも二晩でも、ケージの中で過ごす覚悟はできていたけれど、やはり怖かったみたいだ。身体が小刻みに震える。
「ごめん……。『胡蝶のこと気にかけてやって』って、千里から連絡がきたんだ。僕は最初、それを素直に受け取れなかった」
「……」
「信じる。胡蝶のこと信じるから。泣かないで」
「……うん」
「ご飯、一緒に食べようか」
おーちゃんが私の頬を撫でる。彼はいつの間にか穏やかに笑っていて、嬉しかった。
残りの講義が終わってすぐ、おーちゃんは私をアパートに連れ帰った。その間、私が何を話しかけても、一切口をきいてくれなかった。
玄関をあけると、おーちゃんは私を引っ張って一目散にケージのある部屋に向かう。ケージを開けて、その中に私を入れると、左足首に拘束具を着け、ケージの外から鍵を掛けた。
「いやっ! なんで、またこの檻……」
「お仕置きだよ。千里に、本当のことを言おうとしたよね?」
「ち、違う……! 『何もない』って言おうとしただけなの!」
「嘘だ。僕には分かる。その中で、一晩頭を冷やしたら?」
「っ……おーちゃん……」
ケージの柵を掴んで訴えるけれど、おーちゃんは聞く耳を持とうともしてくれない。静かに怒っていた。そのまま、鍵を持って部屋を出て行った。
「……どうしたらいいの?」
私が逆らったり、少しでも疑われるような行動をとれば、おーちゃんが激昂することは分かっていたはずだった。それなのに、千ちゃんの前では気持ちが揺らいでしまった。結果的に暴露しないことにしたけれど、どうするか悩んだのは確かだ。
おーちゃんは、きっとその迷いを見透かしていた。千ちゃんと私が二人きりになった時、私がどんな行動をとるか、疑っていたのだ。
昨夜は優しくしてくれた時間もあったのに。講義室での一件といい、こうして閉じ込められたことといい――おーちゃんが昔のように戻ってくれることは、最早絶望的な気がしてきた。
「ひっ……くっ……」
涙が溢れてくる。この状況は、どうしたら改善できるのか。もう私には考えつかない。おーちゃんの言いなりになるしかない。それでも、おーちゃんのことは嫌いになれなかった。
冷たい床に横になる。拘束具の鎖が、じゃらりと無機質な音を立てた。涙が頬を伝って落ちていくけれど、拭う気力はない。
どのくらいの時間、そうしていただろうか。窓の外は暗くなり、ぼんやりと部屋の景色を眺めていると、おーちゃんが扉を開けて入ってきた。手には、食事の乗ったトレーを持っている。
「胡蝶、お腹空いた? トイレは行かなくていい?」
「……え」
幾分か、おーちゃんの声色が柔らかくなっている。彼はケージの前にしゃがみ、鍵を開けてくれた。どういう心境の変化だろうか。
「泣いてたの?」
「……うん」
身体を起こして、涙の跡を拭う。ケージの外には出ずに、おーちゃんの言葉をその場で待った。私がおーちゃんを見つめていると、彼はトレーをテーブルに置いて、目を細める。
「本当に、千里に言おうとしたわけじゃないの?」
「……うん。おーちゃんは、私のこと好き?」
「もちろん。好きに決まってる」
「じゃあ、どうして私のこと、信じてくれないの?」
「それは……」
おーちゃんの表情が曇った。眉根を寄せ、苦悶するかのように、胸のあたりを押さえている。今までにない変化だった。
「信じてくれるまで、この中でずっと待つから。もう、怒らないで」
「胡蝶……」
おーちゃんはすぐさま拘束具を解き、私をケージの外に連れ出して、抱きしめてくれた。一晩でも二晩でも、ケージの中で過ごす覚悟はできていたけれど、やはり怖かったみたいだ。身体が小刻みに震える。
「ごめん……。『胡蝶のこと気にかけてやって』って、千里から連絡がきたんだ。僕は最初、それを素直に受け取れなかった」
「……」
「信じる。胡蝶のこと信じるから。泣かないで」
「……うん」
「ご飯、一緒に食べようか」
おーちゃんが私の頬を撫でる。彼はいつの間にか穏やかに笑っていて、嬉しかった。
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ずっと更新されてなくて残念
メクるの番外編も読んでまぁす(^o^)
朧は優しくしてくれてるみたいだけど、胡蝶は千里が好きだから、やっぱり千ちゃんとがいいなぁ~、なんて思いつつ…。
これからの展開、いつものことながら想像もできませんが、楽しみにしてます。
うちはきっとまた『えぇぇ!Σ( ̄ロ ̄lll)』ってなるんでしょうね(笑)
うさぎ様
番外編まで読んでくださってありがとうございます(*^_^*)
朧の変態っぷり(ゆえに私の変態であることも…(笑))を披露してしまいますが、楽しんでいただけたらと思います!
千里がまだまだ絡んできていませんが、今後彼にも動きがありますので、ぜひ期待していてくださいね。
いい意味で裏切れる展開にしていきたいと思います(^^)/
内容を見て、監禁!Σ( ̄□ ̄;)って、ちょっとビビったんですが、一気に読んでしまいました。やっぱり雨那さんの文章が好きです。(≧∇≦)
続き、楽しみにしてます!
(同じジャンルっぽい、他の方のもちょっと読んでみたけど、途中で気持ち悪いというか怖くなって読みきらなかったです(。>д<))
うさぎ様
こちらもお読みくださり、ありがとうございます!
(そして、確認が遅くなってしまい申し訳ありません(>_<;))
ヤンデレ&監禁もの、書いてみたくて…笑
文章をお褒めいただけると、とっても嬉しいです(*´v`*)
約1年前に書き始めたものなので、少しずつ修正しながら続きを書いていきますね。
いつもありがとうございます!