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53 ヴィンセント25歳 26
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その後。元のマリアンに戻った彼女は、これまでの皇后の行動を恥じ、異国で暮らしたいと願い出た。
ヴィンセントはそれを受け入れ、二人は婚約破棄となった。
小説でのマリアンは、もともと政略結婚として割り切っていた。そのためか、ヴィンセントに対しての未練はないようだった。
エルシーのほうも、「私がいるとエルの決心がつかないわ」と言って、早々にヴィンセントと離婚した。今は公爵家を継ぐために、婿探しをしている。エルが憑依していた際のアークが誠実に見えたらしく、気になっているらしい。
そしてエルは、エルヴィンの生みの母であることと、クロフォード公爵家の隠し子であることが公表された。
皇室と公爵家の大スキャンダルにならないか心配したエルだが、公爵の作り話によって、涙なくしては語れない美談となった。
幼い頃から病弱で長くは生きられないと宣告されていたエルは、公爵家で隠されて育った。
ヴィンセントはそんな彼女を足しげく見舞ううちに、二人は恋に落ちた。
しかし病弱な娘との結婚に反対した先代皇帝が、エルとエルヴィンを無き者にしようとする。
昏睡状態となったエルを不憫に思ったエルシーは、姉の席を確保しておくつもりでヴィンセントと結婚した。
エルシーの目に余る行動の数々は、姉を想うあまり他の女性に対して過剰反応してしまっていたと。
ちなみに最年少で宮廷魔法師試験に合格したエルと、公爵家のエルが似ていると噂になったが、別人であると公爵は強く主張している。
そこを受け入れてしまうとエルは、公爵が十五歳の時の子になってしまうから。
そのためエルは現在、二十四歳という設定だ。死んでいた三年を差し引いても三歳もサバを読む羽目になってしまった。
死んだり、憑依したり、元の身体に戻ったり、年齢が変わったりと、もう無茶苦茶すぎて笑えてくる。
それと今は絶賛、結婚準備中だ。ヴィンセントはエルに会いたいがために毎日のように、公爵家を訪問している。
エルヴィンを妊娠していた頃も彼は足しげく男爵邸に通い詰めたので、まったく苦ではないらしい。結婚するまで続けるつもりのようだ。
「エル。本当に僕と結婚してくれるのですか? 無理していませんか?」
最近のヴィンセントはこの質問ばかりだ。
「ヴィーは本当は、私と結婚したくないの?」
エルは、エルシーと一緒に庭園へ遊びに行くエルヴィンへ、手を振りながらそう答えた。
「違います! ただ、ずっと僕はエルを困らせ続けてきたのに、僕を受け入れてくれることが夢みたいで」
確かにヴィンセントの行動には困ることも多かったが、それは彼の愛情を素直に受け取れない状況への葛藤のようなもの。
「前に私は、事情があって皇宮に行けないと話したでしょう。じつはその心配を、ヴィーが全て取り払ってくれたのよ」
皇后と皇帝を排除し、エルシーのヴィンセントへの恋心もバッサリと打ち砕いた。そして、復活した皇后も再び葬り、ヒロインは国を去った。
彼はまるで、エルの席を死守するかのように、小説の主要人物たちを次々と皇宮から追い出したのだ。
悪役人生か抜け出したくて、それでもヴィンセントと関わっていると上手くいかなかった。その結果が、この幸せなら文句も言えない。むしろ感謝したいくらいだ。
「僕がですか?」
自覚がないヴィンセントはきょとんとした顔で尋ねる。エルは、秘密を隠すようにふふっと笑みを浮かべた。
「だから私はもう、何も心配することなくヴィーと結婚できるのよ。本当はヴィーのことがずっと大好きだった。プロポーズされたときは、嬉しかったのよ。ヴィーとひとつになれた時も幸せだった」
「エル――」
ヴィンセントに抱きしめられ、深いキスに襲われる。昔は戸惑いもしたが、今は素直に求められるのが嬉しい。
「エルと結婚できる日が待ち遠しいです」
「私もよ。早く三人で暮らしたいわ」
そして結婚式が無事に終わり、その半年後。
ヴィンセントはそれを受け入れ、二人は婚約破棄となった。
小説でのマリアンは、もともと政略結婚として割り切っていた。そのためか、ヴィンセントに対しての未練はないようだった。
エルシーのほうも、「私がいるとエルの決心がつかないわ」と言って、早々にヴィンセントと離婚した。今は公爵家を継ぐために、婿探しをしている。エルが憑依していた際のアークが誠実に見えたらしく、気になっているらしい。
そしてエルは、エルヴィンの生みの母であることと、クロフォード公爵家の隠し子であることが公表された。
皇室と公爵家の大スキャンダルにならないか心配したエルだが、公爵の作り話によって、涙なくしては語れない美談となった。
幼い頃から病弱で長くは生きられないと宣告されていたエルは、公爵家で隠されて育った。
ヴィンセントはそんな彼女を足しげく見舞ううちに、二人は恋に落ちた。
しかし病弱な娘との結婚に反対した先代皇帝が、エルとエルヴィンを無き者にしようとする。
昏睡状態となったエルを不憫に思ったエルシーは、姉の席を確保しておくつもりでヴィンセントと結婚した。
エルシーの目に余る行動の数々は、姉を想うあまり他の女性に対して過剰反応してしまっていたと。
ちなみに最年少で宮廷魔法師試験に合格したエルと、公爵家のエルが似ていると噂になったが、別人であると公爵は強く主張している。
そこを受け入れてしまうとエルは、公爵が十五歳の時の子になってしまうから。
そのためエルは現在、二十四歳という設定だ。死んでいた三年を差し引いても三歳もサバを読む羽目になってしまった。
死んだり、憑依したり、元の身体に戻ったり、年齢が変わったりと、もう無茶苦茶すぎて笑えてくる。
それと今は絶賛、結婚準備中だ。ヴィンセントはエルに会いたいがために毎日のように、公爵家を訪問している。
エルヴィンを妊娠していた頃も彼は足しげく男爵邸に通い詰めたので、まったく苦ではないらしい。結婚するまで続けるつもりのようだ。
「エル。本当に僕と結婚してくれるのですか? 無理していませんか?」
最近のヴィンセントはこの質問ばかりだ。
「ヴィーは本当は、私と結婚したくないの?」
エルは、エルシーと一緒に庭園へ遊びに行くエルヴィンへ、手を振りながらそう答えた。
「違います! ただ、ずっと僕はエルを困らせ続けてきたのに、僕を受け入れてくれることが夢みたいで」
確かにヴィンセントの行動には困ることも多かったが、それは彼の愛情を素直に受け取れない状況への葛藤のようなもの。
「前に私は、事情があって皇宮に行けないと話したでしょう。じつはその心配を、ヴィーが全て取り払ってくれたのよ」
皇后と皇帝を排除し、エルシーのヴィンセントへの恋心もバッサリと打ち砕いた。そして、復活した皇后も再び葬り、ヒロインは国を去った。
彼はまるで、エルの席を死守するかのように、小説の主要人物たちを次々と皇宮から追い出したのだ。
悪役人生か抜け出したくて、それでもヴィンセントと関わっていると上手くいかなかった。その結果が、この幸せなら文句も言えない。むしろ感謝したいくらいだ。
「僕がですか?」
自覚がないヴィンセントはきょとんとした顔で尋ねる。エルは、秘密を隠すようにふふっと笑みを浮かべた。
「だから私はもう、何も心配することなくヴィーと結婚できるのよ。本当はヴィーのことがずっと大好きだった。プロポーズされたときは、嬉しかったのよ。ヴィーとひとつになれた時も幸せだった」
「エル――」
ヴィンセントに抱きしめられ、深いキスに襲われる。昔は戸惑いもしたが、今は素直に求められるのが嬉しい。
「エルと結婚できる日が待ち遠しいです」
「私もよ。早く三人で暮らしたいわ」
そして結婚式が無事に終わり、その半年後。
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