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47 ヴィンセント25歳 20
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その後。エルは、エルシーの記憶をヴィンセントに話したことで、マリアンは皇族殺人未遂の容疑者として捕らえられた。
「それにしても、ヴィーはどこで毒を飲まされたのかしら?」
ヴィンセントと庭園を歩きながら、エルはその疑問を口にした。
庭園パーティーの途中で疲れているように見え始めていたので、その時に出された料理に混入していたのだろうか。
「おそらく、儀式で食べたマカロンです。予想が当たって良かったです」
「え……予想? わざとヴィーが食べたの?」
「はい」
「なぜそんなことを……。怪しければ交換したら良かったじゃない」
「あの儀式に水を差して、エルヴィンに嫌な思い出として残したくなかったですし、エルが愛したエルヴィンを死なせたくもなかったので」
結果的にエルも助けられたと、嬉しそうに彼は話す。
確かにあの場でマカロンを疑い交換していたら雰囲気が悪くなり、あのような祝福は受けられなかったかもしれない。
けれど、彼は頼もしい姿も多いが、無茶も多くて心配が尽きない。
「私とエルヴィンを想ってくれるのは嬉しいけど、自分を犠牲にするのはもう止めて……。今回は、一歩間違えれば死んでいたかもしれないのよ?」
「それでも良かったです。エルヴィンのために死んだなら、天国のエルも許してくれるかもしれないと思っていたので」
「ヴィー!」
エルは悲しくて、腹立たしくて、勢い余ってヴィンセントの上着に掴みかかった。
彼の、エルへの気持ちを変えることはできない。それは今までの経験で嫌というほど理解しているけれど、死んで許されたいなどという感情など持ってほしくない。
「私たちの誤解はもう解けたのよ! ヴィーが私のことで死ぬなんて、これからは絶対に許さないから!」
今朝は、泣いて謝り続けるヴィンセントをなだめつつ、お互いに当時の状況を話して、誤解を解いた。
ヴィンセントが渡した腕輪は、エルを監視するものというよりは、エルに離れてほしくないという彼の願望によるものだった。
国から出て魔法が使えなくなれば、きっとエルは国内に留まる。心配性なヴィンセントが、なんとか耐えられる範囲が国内だったのだとか。
それが不幸にも、彼の父親から受けた襲撃と重なってしまった。
エルのほうも、彼へと誤解を与えていた。エルが逃げる際に男爵邸に置いてきた婚約指輪。あれを見たヴィンセントは、エルに捨てられたと思ったという。
大切だからこそ置いてきたことを丁寧に説明して、なんとか納得してもらった。
ヴィンセントはにこにこしながら、エルへうなずく。
「はい。エルが僕のもとへと戻ってきてくれたので、もう絶対に死にません。エルを幸せにしなければいけないので、死ねません」
「もう……。ヴィーは怒りがいがないわ」
死なない理由も、結局はエル。
やはり彼の気持ちを変えることは不可能だ。
過激な行動を除けば、嬉しいことでもあるのだが。
エルはため息をつきながら再び歩き出すと、ようやく目的地へと到着した。
「ヴィー。ここよ。ここのお墓の前でマリアン嬢は泣いていたの」
エルシーの記憶では、ここでマリアンに毒を飲まされた。なにか手がかりがないかと思い、二人で赴いたのだ。
「こちらは皇族の墓です。マリアン嬢と親しい皇族でもいたのでしょうか」
「うーん……。確か記憶だと、この辺りに立っていたような」
マリアンがいたであろう場所に立ってみたエルは、その墓の名前を見て驚く。
「第二皇子殿下のお墓? マリアン嬢の想い人ってまさか……」
「マリアン嬢の家は、僕を支持している派閥です。それが事実なら、エルシー皇妃に見られて殺害に及んだ理由になりそうですね」
もしもマリアンが本当に第二皇子と恋仲だったとしたら、小説のストーリーはかなり前から崩れていたことになる。
今までもストーリーの辻褄が合うように、展開が変化することはあったが、キャラの役柄が大きく変更されるのは初めて。
(まるで私みたいに、小説のキャラとしての人生に抗っているみたいだわ……)
その夜。ヴィンセントとエルヴィンと一緒に夕食を食べて、二人でエルヴィンを寝かしつけることに。
読んでいた絵本のラストは、子クマがパパクマとママクマと一緒に寝る場面。それを見たエルヴィンは、羨ましそうに呟いた。
「ぼくも、パパとママと三人で一緒に寝たいな」
(ふふ。一緒にいるのに恋しくなっちゃったのね)
可愛い我が子の望みを叶えてあげたい。今ならヴィンセントも拒みはしないはずだ。
期待を込めてエルもヴィンセントを見つめる。けれど彼は、床で眠っていたルヴィを抱き上げてエルヴィンの横に寝かせた。
「パパとママはまだ用事があるから、また今度な。今日はルヴィと一緒に寝なさい」
「はぁい……」
残念そうなエルヴィンだったが、眠気が限界だったのかルヴィを抱きしめるとすぐに眠りへついた。
「ヴィーはまだ仕事が残っているの?」
部屋を出ながらそう問いかけると、彼は先を歩きながら「いいえ」と答えた。
「今日の仕事は終わらせました」
「それならなぜ……?」
今までヴィンセントが、エルヴィンの望みを無下に断ったことは一度もない。
素朴な疑問として尋ねると、彼はぴたりと止まり、エルへと振り返った。
「すみません、息子に嫉妬してしまいました」
「それにしても、ヴィーはどこで毒を飲まされたのかしら?」
ヴィンセントと庭園を歩きながら、エルはその疑問を口にした。
庭園パーティーの途中で疲れているように見え始めていたので、その時に出された料理に混入していたのだろうか。
「おそらく、儀式で食べたマカロンです。予想が当たって良かったです」
「え……予想? わざとヴィーが食べたの?」
「はい」
「なぜそんなことを……。怪しければ交換したら良かったじゃない」
「あの儀式に水を差して、エルヴィンに嫌な思い出として残したくなかったですし、エルが愛したエルヴィンを死なせたくもなかったので」
結果的にエルも助けられたと、嬉しそうに彼は話す。
確かにあの場でマカロンを疑い交換していたら雰囲気が悪くなり、あのような祝福は受けられなかったかもしれない。
けれど、彼は頼もしい姿も多いが、無茶も多くて心配が尽きない。
「私とエルヴィンを想ってくれるのは嬉しいけど、自分を犠牲にするのはもう止めて……。今回は、一歩間違えれば死んでいたかもしれないのよ?」
「それでも良かったです。エルヴィンのために死んだなら、天国のエルも許してくれるかもしれないと思っていたので」
「ヴィー!」
エルは悲しくて、腹立たしくて、勢い余ってヴィンセントの上着に掴みかかった。
彼の、エルへの気持ちを変えることはできない。それは今までの経験で嫌というほど理解しているけれど、死んで許されたいなどという感情など持ってほしくない。
「私たちの誤解はもう解けたのよ! ヴィーが私のことで死ぬなんて、これからは絶対に許さないから!」
今朝は、泣いて謝り続けるヴィンセントをなだめつつ、お互いに当時の状況を話して、誤解を解いた。
ヴィンセントが渡した腕輪は、エルを監視するものというよりは、エルに離れてほしくないという彼の願望によるものだった。
国から出て魔法が使えなくなれば、きっとエルは国内に留まる。心配性なヴィンセントが、なんとか耐えられる範囲が国内だったのだとか。
それが不幸にも、彼の父親から受けた襲撃と重なってしまった。
エルのほうも、彼へと誤解を与えていた。エルが逃げる際に男爵邸に置いてきた婚約指輪。あれを見たヴィンセントは、エルに捨てられたと思ったという。
大切だからこそ置いてきたことを丁寧に説明して、なんとか納得してもらった。
ヴィンセントはにこにこしながら、エルへうなずく。
「はい。エルが僕のもとへと戻ってきてくれたので、もう絶対に死にません。エルを幸せにしなければいけないので、死ねません」
「もう……。ヴィーは怒りがいがないわ」
死なない理由も、結局はエル。
やはり彼の気持ちを変えることは不可能だ。
過激な行動を除けば、嬉しいことでもあるのだが。
エルはため息をつきながら再び歩き出すと、ようやく目的地へと到着した。
「ヴィー。ここよ。ここのお墓の前でマリアン嬢は泣いていたの」
エルシーの記憶では、ここでマリアンに毒を飲まされた。なにか手がかりがないかと思い、二人で赴いたのだ。
「こちらは皇族の墓です。マリアン嬢と親しい皇族でもいたのでしょうか」
「うーん……。確か記憶だと、この辺りに立っていたような」
マリアンがいたであろう場所に立ってみたエルは、その墓の名前を見て驚く。
「第二皇子殿下のお墓? マリアン嬢の想い人ってまさか……」
「マリアン嬢の家は、僕を支持している派閥です。それが事実なら、エルシー皇妃に見られて殺害に及んだ理由になりそうですね」
もしもマリアンが本当に第二皇子と恋仲だったとしたら、小説のストーリーはかなり前から崩れていたことになる。
今までもストーリーの辻褄が合うように、展開が変化することはあったが、キャラの役柄が大きく変更されるのは初めて。
(まるで私みたいに、小説のキャラとしての人生に抗っているみたいだわ……)
その夜。ヴィンセントとエルヴィンと一緒に夕食を食べて、二人でエルヴィンを寝かしつけることに。
読んでいた絵本のラストは、子クマがパパクマとママクマと一緒に寝る場面。それを見たエルヴィンは、羨ましそうに呟いた。
「ぼくも、パパとママと三人で一緒に寝たいな」
(ふふ。一緒にいるのに恋しくなっちゃったのね)
可愛い我が子の望みを叶えてあげたい。今ならヴィンセントも拒みはしないはずだ。
期待を込めてエルもヴィンセントを見つめる。けれど彼は、床で眠っていたルヴィを抱き上げてエルヴィンの横に寝かせた。
「パパとママはまだ用事があるから、また今度な。今日はルヴィと一緒に寝なさい」
「はぁい……」
残念そうなエルヴィンだったが、眠気が限界だったのかルヴィを抱きしめるとすぐに眠りへついた。
「ヴィーはまだ仕事が残っているの?」
部屋を出ながらそう問いかけると、彼は先を歩きながら「いいえ」と答えた。
「今日の仕事は終わらせました」
「それならなぜ……?」
今までヴィンセントが、エルヴィンの望みを無下に断ったことは一度もない。
素朴な疑問として尋ねると、彼はぴたりと止まり、エルへと振り返った。
「すみません、息子に嫉妬してしまいました」
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