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14 ヴィンセント13歳 04
しおりを挟むエルは立ち上がろうとしたが、「待てよ!」と叫ぶ先生に腕を掴まれ、そのままソファへと押し倒された。
「きゃっ!」
「校長にはもう話してあるんだ。絶対に逃がさないからな!」
「やっやめっ……て」
両手首を掴み、エルの動きを完全に封じようとしている先生へなんとか抵抗していると、突然、部屋のドアが乱暴に開かれる。
それと同時に、ランドルフ先生が窓側へと吹き飛んだ。
「エル!」
「ヴィー……」
ヴィンセントが助けに来てくれた。
彼に気づかれないようにこのような真似をしたのに、結局はいつもの厄介な患者を遠ざけてくれるように、お世話になってしまったようだ。
「すみません。気づくのが遅れました」
「ううん。助けてくれてありがとう……」
このような時はどちらが保護者かわからなくなる。
嬉しいやら情けないやら。けれど、これが二人が培ってきた家族の姿でもある。
「なにもされていないですか?」
「ヴィーがすぐに来てくれたから大丈夫よ」
「良かった……」
ヴィンセントは安心したように、エルへと抱きついてきた。
「本当はあいつの顔の形がわからなくなるくらい、ぼこぼこにしてやりたいですが、あとでエルが治療することになったら嫌なので。エルは優しいですから」
「ふふ。さすがに私も、あの人を治療する気にはなれないわ」
「そうですか? それなら――」
ヴィンセントはその場にすくっと立ち上がると、ランドルフ先生へ向けて手をかざした。
それを見た先生は、慌てたようにヴィンセントへ懇願するような視線を向ける。
「まっ待ってくれ! 私はただ、皆が輝ける未来を提案しただけなのに。なぜこんなことをされなければならないんだ!」
「僕は何度も警告したはずです。エルは僕だけの大切な家族だと。割り込む者がいれば容赦しませんと。僕を侮ったのは先生です」
「二人を思っての行動だったんだ。本当に悪かった!」
「僕たちを思って? 滑稽ですね。二度も同じ過ちを繰り返すなんて。先生は追放処分を受けたのでしょう?」
先生は明らかに表情をこわばらせる。
「なぜそれを……」
「どういうこと?」
エルが尋ねると、ヴィンセントは隣へと腰を下ろしてにこりと笑みを浮かべる。
「調べたんです。平民に簡単な勉強を教えるだけの学校に、魔法を教えられる教師がいるのが不思議だったので。先生は皇立魔法学校の教師をしていた際に、女子生徒の研究成果を奪った上で、二人ならもっと上を目指せると結婚を迫ったそうですよ」
研究成果をヴィンセントとして例えるなら、今回の件と似た状況だ。ほしいものをチラつかせて結婚を迫るのが、彼の常とう手段のよう。
エルはヴィンセントを奪われていないだけまだマシか。
「違うんだ。あれは彼女の勘違いで……」
「それに関してはどうでも良いです。ただ、先生には迷惑していたので、皇立魔法学校へ苦情を入れておきました。今頃、先生の復職はチャラになっているでしょうね」
取りなす姿勢を見せていた先生だが、それを聞くなりみるみる怒りで顔が赤くなり歪んでいく。
「なんてことをしてくれたんだっ!」
今の今まで、取り繕えると思っていた先生の様子に、エルは唖然とした。
「どちらにせよ、僕とエルというお土産がなければ復職できなかったのでしょう? 人を恨む前に、ご自分で努力してください」
(十三歳の子が、ここまで他人の悪事を暴けるなんて。さすがは皇后に命を狙われながらも皇帝にまでのし上がったヒーローね)
結局。ランドルフ先生は、エルに暴力を振るったとして、警備隊に連れていかれた。
ヴィンセントがなぜ助けに来られたかについては、休憩からの帰りが遅いエルを心配したモーリス先生が、学校まで様子を見に来てくれたのだとか。
二人には、感謝してもしきれない。
そして事件を聞きつけたオーナーが慌てて駆けつけてきて、ランドルフ先生を学校から追放すると約束してくれた。
だからエルに、仕事を辞めないでくれと。
エルはこれくらいで辞める気などなかったが、ヴィンセントはそれを反対した。エルにこの職場は相応しくないと。
簡単には納得しない雰囲気だったので、結局オーナーは「考える時間に使ってほしい」とエルへ休暇を与えた。
「ヴィー。まだ怒ってる?」
ヴィンセントはベッドの中で、エルに背を向けて寝ている。彼は三年経った今でも、マナ核の音を聞きながら寝たがるのに。今回の件は相当、腹に据えかねているようだ。
彼の忠告を無視した形となってしまったエルとしては、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ごめんなさいヴィー。あなたはちゃんと忠告してくれたのに、私が浅はかだったわ。先生はいつも紳士的だったから、あんな強引な人だとは思わなかったの。私って、見る目がないわね……」
「……エルはなぜ、僕の目を盗んでまで先生と二人きりになったのですか。僕より先生を選ぶつもりだったのですか?」
「……え?」
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