悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています

廻り

文字の大きさ
上 下
15 / 55

14 ヴィンセント13歳 04

しおりを挟む

 エルは立ち上がろうとしたが、「待てよ!」と叫ぶ先生に腕を掴まれ、そのままソファへと押し倒された。

「きゃっ!」
「校長にはもう話してあるんだ。絶対に逃がさないからな!」
「やっやめっ……て」

 両手首を掴み、エルの動きを完全に封じようとしている先生へなんとか抵抗していると、突然、部屋のドアが乱暴に開かれる。
 それと同時に、ランドルフ先生が窓側へと吹き飛んだ。

「エル!」
「ヴィー……」

 ヴィンセントが助けに来てくれた。
 彼に気づかれないようにこのような真似をしたのに、結局はいつもの厄介な患者を遠ざけてくれるように、お世話になってしまったようだ。

「すみません。気づくのが遅れました」
「ううん。助けてくれてありがとう……」

 このような時はどちらが保護者かわからなくなる。
 嬉しいやら情けないやら。けれど、これが二人が培ってきた家族の姿でもある。

「なにもされていないですか?」
「ヴィーがすぐに来てくれたから大丈夫よ」
「良かった……」

 ヴィンセントは安心したように、エルへと抱きついてきた。

「本当はあいつの顔の形がわからなくなるくらい、ぼこぼこにしてやりたいですが、あとでエルが治療することになったら嫌なので。エルは優しいですから」
「ふふ。さすがに私も、あの人を治療する気にはなれないわ」
「そうですか? それなら――」

 ヴィンセントはその場にすくっと立ち上がると、ランドルフ先生へ向けて手をかざした。
 それを見た先生は、慌てたようにヴィンセントへ懇願するような視線を向ける。

「まっ待ってくれ! 私はただ、皆が輝ける未来を提案しただけなのに。なぜこんなことをされなければならないんだ!」
「僕は何度も警告したはずです。エルは僕だけ・・の大切な家族だと。割り込む者がいれば容赦しませんと。僕を侮ったのは先生です」
「二人を思っての行動だったんだ。本当に悪かった!」
「僕たちを思って? 滑稽ですね。二度も同じ過ちを繰り返すなんて。先生は追放処分を受けたのでしょう?」

 先生は明らかに表情をこわばらせる。

「なぜそれを……」
「どういうこと?」

 エルが尋ねると、ヴィンセントは隣へと腰を下ろしてにこりと笑みを浮かべる。

「調べたんです。平民に簡単な勉強を教えるだけの学校に、魔法を教えられる教師がいるのが不思議だったので。先生は皇立魔法学校の教師をしていた際に、女子生徒の研究成果を奪った上で、二人ならもっと上を目指せると結婚を迫ったそうですよ」

 研究成果をヴィンセントとして例えるなら、今回の件と似た状況だ。ほしいものをチラつかせて結婚を迫るのが、彼の常とう手段のよう。
 エルはヴィンセントを奪われていないだけまだマシか。

「違うんだ。あれは彼女の勘違いで……」
「それに関してはどうでも良いです。ただ、先生には迷惑していたので、皇立魔法学校へ苦情を入れておきました。今頃、先生の復職はチャラになっているでしょうね」

 取りなす姿勢を見せていた先生だが、それを聞くなりみるみる怒りで顔が赤くなり歪んでいく。

「なんてことをしてくれたんだっ!」

 今の今まで、取り繕えると思っていた先生の様子に、エルは唖然とした。

「どちらにせよ、僕とエルというお土産・・・がなければ復職できなかったのでしょう? 人を恨む前に、ご自分で努力してください」

(十三歳の子が、ここまで他人の悪事を暴けるなんて。さすがは皇后に命を狙われながらも皇帝にまでのし上がったヒーローね)

 結局。ランドルフ先生は、エルに暴力を振るったとして、警備隊に連れていかれた。
 ヴィンセントがなぜ助けに来られたかについては、休憩からの帰りが遅いエルを心配したモーリス先生が、学校まで様子を見に来てくれたのだとか。
 二人には、感謝してもしきれない。

 そして事件を聞きつけたオーナーが慌てて駆けつけてきて、ランドルフ先生を学校から追放すると約束してくれた。
 だからエルに、仕事を辞めないでくれと。

 エルはこれくらいで辞める気などなかったが、ヴィンセントはそれを反対した。エルにこの職場は相応しくないと。
 簡単には納得しない雰囲気だったので、結局オーナーは「考える時間に使ってほしい」とエルへ休暇を与えた。





「ヴィー。まだ怒ってる?」

 ヴィンセントはベッドの中で、エルに背を向けて寝ている。彼は三年経った今でも、マナ核の音を聞きながら寝たがるのに。今回の件は相当、腹に据えかねているようだ。
 彼の忠告を無視した形となってしまったエルとしては、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「ごめんなさいヴィー。あなたはちゃんと忠告してくれたのに、私が浅はかだったわ。先生はいつも紳士的だったから、あんな強引な人だとは思わなかったの。私って、見る目がないわね……」
「……エルはなぜ、僕の目を盗んでまで先生と二人きりになったのですか。僕より先生を選ぶつもりだったのですか?」
「……え?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪妃になんて、ならなきゃよかった

よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨ 恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……

腹ペコ令嬢は満腹をご所望です【連載版】

古森きり
恋愛
前世は少食だったクリスティア。 今世も侯爵家の令嬢として、父に「王子の婚約者になり、次期王の子を産むように!」と日々言いつけられ心労から拒食気味の虚弱体質に! しかし、十歳のお茶会で王子ミリアム、王妃エリザベスと出会い、『ガリガリ令嬢』から『偏食令嬢』にジョブチェンジ!? 仮婚約者のアーク王子にも溺愛された結果……順調に餌付けされ、ついに『腹ペコ令嬢』に進化する! 今日もクリスティアのお腹は、減っております! ※pixiv異世界転生転移コンテスト用に書いた短編の連載版です。 ※ノベルアップ+さんに書き溜め読み直しナッシング先行公開しました。 改稿版はアルファポリス先行公開(ぶっちゃけ改稿版も早くどっかに公開したい欲求というものがありまして!) カクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェ、ツギクル(外部URL登録)にも後々掲載予定です(掲載文字数調整のため準備中。落ち着いて調整したいので待ってて欲しい……)

私と運命の番との物語

星屑
恋愛
サーフィリア・ルナ・アイラックは前世の記憶を思い出した。だが、彼女が転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢だった。しかもその悪役令嬢、ヒロインがどのルートを選んでも邪竜に殺されるという、破滅エンドしかない。 ーなんで死ぬ運命しかないの⁉︎どうしてタイプでも好きでもない王太子と婚約しなくてはならないの⁉︎誰か私の破滅エンドを打ち破るくらいの運命の人はいないの⁉︎ー 破滅エンドを回避し、永遠の愛を手に入れる。 前世では恋をしたことがなく、物語のような永遠の愛に憧れていた。 そんな彼女と恋をした人はまさかの……⁉︎ そんな2人がイチャイチャラブラブする物語。 *「私と運命の番との物語」の改稿版です。

【完】皇太子殿下の夜の指南役になったら、見初められました。

112
恋愛
 皇太子に閨房術を授けよとの陛下の依頼により、マリア・ライトは王宮入りした。  齢18になるという皇太子。将来、妃を迎えるにあたって、床での作法を学びたいと、わざわざマリアを召し上げた。  マリアは30歳。関係の冷え切った旦那もいる。なぜ呼ばれたのか。それは自分が子を孕めない石女だからだと思っていたのだが───

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

処理中です...