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49 聖女お披露目の宴6

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 前回の聖女誕生祭にて、ジェラートが子作り宣言とも取れる態度を示したことで、派閥の力関係は今、大きく揺れ動いている。
 反王太子派は、『王太子夫婦の関係に不安がある者』と『第二王子を王位に就かせたい者』に分かれているが、特に前者の貴族達はどちらに就いたほうが得であるか、情報取集に奔走していた。

 聖女誕生祭の後、貴族達から見た王太子夫婦は、特に進展があったようには見えなかった。
 シャルロットはそれまでと変わらず別居状態で、ハット家から王宮へ通う日々。
 ジェラートのほうは、『白バラを大量に摘み取る』という不可解な目撃情報があったものの、翌日に『聖女が体調不良』という情報が流れたので、見舞いの花だったのだろうと貴族達は結論づけた。

 その後、ジェラートは聖女探しに明け暮れるが、その間にシャルロットが『王太子がおこなうべき執務の一部を代務』したことで、もともと人気だったシャルロットの株は、さらに上昇した。
 王太子は威圧的で付き合いにくいが、未来の王妃はシャルロット以外に考えられない。改めてその事実を認識させられた貴族達は、じわじわと王太子派の勢力が増すことになる。

 そして、シャルロットを連れて、再び聖女探しへと出かけたジェラートは、ついに聖女を見つけ出して戻ってきた。
 シャルロットが同行していたと知った貴族達は、意図が読めずに意見が割れたが、二人が戻った後『王太子妃が、聖女についての大発見をした』と聞き、大いに盛り上がった。

 やはりこの国は、王太子妃なしでは未来がない。そう熱望する貴族達により、王太子派を『王太子派』に改名しようという話も出たほど。
 シャルロットを王妃にするため『第二王子と再婚させよう』という、とんでもない案を出し始める反王太子派の者も現れ。王太子と第二王子のどちらが、未来の国王に相応しいか。という議論は、混乱を極めた。

 結果的に、『聡明な王太子妃ならば、どちらの王子が未来の国王に相応しいか、導いてくれるはず』と、宗教めいた思考に陥る貴族が多数現れ。
 シャルロットの動向は今、新たな聖女の誕生よりも注目を浴びる事態となっている。

(今日は、やけに視線を感じるわね……。もしかして、側妃問題が貴族の耳にも入っているのかしら……)

 貴族の視線の意味を知らないシャルロットは、居心地の悪さを感じていた。
 小説では、『聖女を王太子の側妃に』と王妃が提案した際、貴族は『やっと世継ぎの目途が立った』と歓迎をする。
 ジェラートとの夫婦仲は改善されたが、子をまだ授かってないシャルロットは、実は小説の状況とさほど変わらないのではと、不安になってくる。

 小説どおりに、この場で王妃が側妃についての提案をしてしまったら、きっと貴族達は歓迎するだろう。
 そうなってしまうと、いくら最終判断がジェラートにあるとはいえ、貴族の声を無視するわけにもいかない。

(あっ……、もしかして。小説のジェラート様も、それで側妃を受け入れたのかしら……)

 小説のジェラートは貴族の声に抗えるほど、シャルロットとの関係が良くなかった。シャルロットとの間に子供を望めないからには、側妃を娶るしかない。
 女性から恐れられているジェラートにとっては、ヒロインとの親しい関係は貴重なもので。側妃を娶らなければならないのなら、ヒロイン以外は不可能。
 この時点ではまだ、『義務』としてヒロインを受け入れたのではないだろうか。

 ジェラートは真面目なので、自分の気持ちだけを押し通したりはしない。温泉へ行った際なども一見、わがままに決断したように見えるが、しっかりとした目的もあってこそのわがままだった。

 小説では側妃を拒否できなかったが、今後の結婚生活に期待を持てる今のジェラートならば、きっと貴族の声があっても側妃を拒否してくれる。

 そうは思っても、シャルロットは不安が尽きない。今のうちに少しでも、夫婦関係が改善されたと貴族にアピールしておきたい。

(ここでも、悪女を使うしかないわね……)

 ビュッフェテーブルへ到着したシャルロットは、にこりとジェラートに微笑んだ。

「ジェラート様。貴族が私達を気にしているようですし、仲良し夫婦を見せつける良い機会ですわ」
「俺もそう思っていたところだが――、具体的にはどうしたら良いだろう?」

 夫も貴族の視線には気がついていたようだ。同じことを考えていたなら好都合だ。シャルロットは甘えるようにジェラートの腕へと抱きついた。

「ちょうどお料理がありますし、私がジェラート様に食べさせて差し上げるのはいかがでしょうか」

 高貴な者達は、公の場では品位を求められる。このような宴で、カップルが盛り上がったとしても、こっそりと人目に付かない場所へ移動するのが普通だ。
 そんな常識のなかで、人目もはばからずに堂々とイチャつく行為は、かなり大胆だと言えよう。

 シャルロットが覗き込むように夫の顔を見上げると、夫は耳を赤くして、恥じらうようにシャルロットを見つめた。
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