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23 聖女誕生祭4

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 マドレーヌは貴族にも慕われており、八十四歳の誕生日を誰もが喜んでいる。

 けれど年々、地方貴族の出席が減っていることが、彼女の『老い』を具現化しているように見える。
 シャルロットの両親が欠席なのも、魔獣討伐が忙しくて領地を離れられないからだった。
 聖女の力は老いに比例して弱まる。こればかりは、どうしようもないことだ。

「曾祖母様、お誕生日のお祝いを申し上げます」
「聖女様、お誕生日おめでとうございます」

 再び合流したシャルロットとジェラートは、マドレーヌのもとへとおもむき、誕生日のお祝いを述べた。
 椅子に腰を下ろしたマドレーヌは、顔をくしゃりとさせながら二人に微笑み返してくれる。

「二人とも、ありがとう。曾孫とそのお嫁さんにまで祝ってもらえるのは、長生きのご褒美みたいなものね」
「俺たちのほうこそ毎年、お祝いできる喜びに感謝しています」
「ジェラートには、聖女探しでもお世話になっているわね。私を思いやってくれるのは嬉しいけれど、シャルちゃんとの時間も大切になさいね」
「……はい。しかし、聖女探しは急務ですので。曾祖母様には、早く故郷へお送りしたいと思っています」
「ありがとう。あなたの優しさには、いつも救われているわ」

 お互いに思いやりに満ちている様子が、横にいるシャルロットにもひしひしと伝わってくる。

(聖女様の望みを叶えようと、ジェラート様はずっと頑張ってきたのよね……)

 その答えを知っているシャルロットとしては、心が痛む。
 けれど、今すぐに新しい聖女の居場所を教えて、小説のとおりにストーリーが進んでしまうのが怖い。

(私がもし断罪されたら、聖女様は悲しむかしら)

 今までは、自分自身や家族が断罪されたら嫌だという気持ちだけだったが、小説のシャルロットが断罪された時、悲しんでくれた人はいたのだろうか。ふとシャルロットは気になった。

 小説のマドレーヌについては、故郷に帰るところまでしか書かれておらず、その後、彼女がどのくらい生きたのかも語られていない。
 田舎に住むマドレーヌのところまで、断罪の知らせは来たのだろうか。

 シャルロットの断罪に関して、心境が綴られていたのはヒロインとジェラートだけ。
 断罪がおこなわれた後、ジェラートは罪悪感で塞ぎこむようになるが、それを支えたのがヒロインだった。
 その過程で、二人の仲がさらに深まるというストーリーだ。

(結局シャルロットは、二人が結ばれるための、道具でしかなかったのよね)

 自分自身の命について虚しさを感じていると、マドレーヌの視線に気がついた。シャルロットは慌てて笑みを戻す。

「シャルちゃんも、宮殿の管理をしてくれて感謝しているわ」
「とんでもございません。私が好きでしていることですもの」
「シャルちゃんのおかげで、毎日の暮らしに明るさが戻ったのよ。お礼くらい言わせてちょうだい」
「聖女様……。私も、聖女様にお会いするのが、いつも楽しみなんです」
「あら、嬉しいわね。故郷へ帰る時は、シャルちゃんを連れて行きたいくらいだわ」
「曾祖母様……」

 ジェラートが困ったような声を上げたので、マドレーヌは「ふふふ」と茶目っ気たっぷりに笑い出す。
 こんなジェラートを引き出せるのもマドレーヌだけだ。シャルロットが感心していると、マドレーヌが意味ありげな笑みを浮かべ始めた。

「そんなにシャルちゃんを取られたくないのなら、少しは意思表示をしてみたらどうかしら?」
「いえ……、そういう意味では……」

 たじろぐジェラートを無視して、マドレーヌはわざとらしく考えるそぶりを見せる。

「そうね……。誕生日のお祝いとして、二人がダンスを踊っている姿を見せてほしいわ」

(あっ……。聖女様が、私のお願いを叶えてくださったのだわ)

 先日、聖女宮を訪れた際にシャルロットが願ったのは『一度でいいから、ジェラート様とダンスを踊ってみたい』というものだった。
 マドレーヌから望まれたら、さすがにジェラートも断れないはず。ダンスが出来るように協力してほしいと、お願いしたのだ。

「それは少し……、厳しいかと……」
「あら、老い先短い曾祖母の願いを、聞いてくれないの?」
「……曾祖母様。その言い方はずるいです……」

 こんなにジェラートを困らせることができるのは、マドレーヌだけではないか。シャルロットはまたも感心してしまう。

(聖女様すごいわ……。私も、聖女様を見習わなければ!)

 気合を入れたシャルロットは、本日二度目のえいっ!と勢いをつけて、ジェラートの腕に抱きついた。

「ジェラート様、せっかくのお誕生日ですもの。聖女様のお願いを叶えて差し上げましょう」
「いや……しかし……」
「では、失礼いたします。聖女様」

 聖女と微笑みあったシャルロットは、心の中で感謝を述べた。それからダンスがおこなわれているほうへと、ジェラートを引っ張りはじめた。

(聖女様も利用する私って、本当に悪女よね)

 自分の悪女ぶりに満足しながらたどり着くと、ジェラートは観念したのか、シャルロットに向けて礼の姿勢を取った。

「ダンスを一曲……、踊っていただけますか」
「はい……! 喜んで」

(わぁ! すごいわ、聖女様は本当にすごいわ!)

 マドレーヌが望めば、ジェラートは正式にダンスを申し込んでくれるらしい。
 もっと早く願えば良かったと、邪な考えを浮かべながら、シャルロットはジェラートの肩に手を乗せた。
 それから反対の手を、ジェラートの手に乗せ。後は、ジェラートがシャルロットの腰を支えたら、ダンスの姿勢は完了――、のはずだが。

 ジェラートの手が一向に、腰に触れる感触がない。
 あれ? と思ったシャルロットが目視で確認すると、ジェラートの手が腰の手前で固まっている。
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