【完結】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?

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24 お茶会当日

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 翌日。クラリス様にお茶会へ参加できることを伝えると、彼女は父親からきつく命令されていたのか、心底ホッとしたような表情で感謝してくれました。

 そして迎えた、お茶会当日。
 殿下にいただいたドレスを身にまとい、殿下が心配しないようにいただいた杖もしっかりと持ち、私は馬車でドレイユ家の屋敷へ向かいました。
 
「変なところはないかしら?」

 自分の体を見回しながら向かいに座っているメイドにそう尋ねてみると、彼女はふふっと笑いました。

「お嬢様、そんなに心配なさらずとも私どもがしっかりと整えさせていただきました」

 メイドは自身たっぷりの様子なので少し安心しましたが、着飾ることに慣れていないので落ち着きません。

 女性ばかりの社交場は、ある意味で王城での夜会よりも緊張します。
 今日のお茶会は、上位貴族の令嬢ばかりを誘っているそうなので、尚更なのですが。
 彼女らとは今後も関わる機会が多いでしょうから、ミスをしないように気をつけなければ。

 心の中で気合を入れていると、馬車はドルイユ家のお屋敷に到着しました。

 ドルイユ家の当主、つまりクラリス様のお父様は伯爵です。
 我が家と家格は同じですが、ドルイユ家のお屋敷は我が家よりもずっと豪華な佇まいでした。
 お父様の話によると、ドルイユ伯爵は交易で急成長をしているのだそうです。
 そこかしこに置かれている彫像も異国の雰囲気があり、外国のお屋敷へ来た気分になります。

 屋敷の横に目を向けてみると、すでに馬車が何台も待機していました。
 思っていたより規模の大きなお茶会が開かれるようで、珍しい彫像を見て和んだ心が再び緊張で固まってしまいました。

「お嬢様、私もおりますからあまり緊張せずに楽しんでくださいませ」
「えぇ。頼りにしているわ」

 何とか笑みを浮かべてから、私たちは馬車を降りました。


 玄関の外まで出迎えに来てくれたクラリス様と挨拶を交わしてから、彼女は申し訳なさそうな表情になりました。

「馬車が多くて驚かれたでしょう? 実は、お母様のお茶会と日程が重なってしまいましたの」

 使用人総動員で二つのお茶会をおこなうけれど、不手際があったら申し訳ないと、先に謝罪したクラリス様は少しお疲れのご様子です。
 家族なら、日程の調整くらいできると思うのですが。クラリス様はあまりご両親との仲が上手くいっていないのではと、少し心配になってしまいます。

 けれど私にできることといえば、彼女のお父様のお望み通りにクラリス様と交友を深めることくらいです。
 せめて今日は、クラリス様の負担にならないよう楽しもう。
 そう考えながら彼女の後をついていくと、案内されたのはバラが咲き乱れる綺麗なお庭でした。

「屋敷内は騒がしいですから、お庭でのんびりいたしましょう」

 にこりと微笑んだクラリス様が指示した場所には、すでにお茶会用に整えられたテーブルがありました。
 けれど、そちらには誰もいません。どうやら先ほど見た馬車は全て彼女のお母様のお客様だったようで、こちらのお茶会へは私が一番早く到着したようです。

 勧められた席へ座ると、クラリス様の元にメイドがやってきて彼女に耳打ちをしました。
 それを聞いたクラリス様が、またも申し訳なさそうなお顔になり。

「ミシェル様、失礼なのは重々に承知しておりますが、もしよろしければメイドを少しお借りできないでしょうか」

 お茶やお菓子を運ぶ人員が足りないのだと、今にも泣き出しそうな雰囲気のクラリス様を見ていられなくて、即座に了承しました。

 いくらお茶会を二ヶ所でおこなっているからといって、この規模のお屋敷でお茶を運ぶ人手すら足りないなんて。クラリス様とお母様の関係がますます心配になってしまいます。

「お嬢様、よろしいのですか?」

 小声でそう尋ねてきたメイドに、私はうなずいて助けになってと伝えました。

 このメイドは魔法が得意なので今日は護衛も兼ねていますが、クラリス様と一緒ならひとりになるわけでもないので大丈夫でしょう。

「お茶もお出ししないままで、申し訳ありません」
「いいえ、私が早く到着してしまったようです。皆様が到着されるまで、おしゃべりでもしていましょう」

 これ以上クラリス様を、申し訳なさそうなお顔にはさせたくありません。
 私にしては珍しく主導権を握り、彼女が楽しめそうな話題を振っていると、再び使用人がクラリス様の元へやってきました。

「クラリスお嬢様、お客様がご到着されました」

 やっと他のご令嬢も到着されたようで、私は思わずホッとしてしまいました。
 クラリス様はよほど不手際を気にしているのか、会話がなかなか盛り上がらず、そろそろ限界に来ていたところだったのです。

 クラリス様は使用人にうなずいてから、私に視線を向けました。

「お客様をお迎えに行ってまいりますわ」

 すぐに戻ると言って席を立ったクラリス様は、私の横を通り過ぎる際「本当に申し訳ありません、ミシェル様……」と呟きました。

 そんなに謝らなくても良いのにと思いながら彼女に微笑みを返した瞬間、私は異変に気がつきました。
 先ほどまでの申し訳なさそうなクラリス様ではなく、明らかに青ざめた様子の彼女を見て、私は寒気を覚えたのです。

 何かが、おかしい。

 殿下にいただいた杖を握りしめたと同時に、後ろからかけられた声には聞き覚えがありました。

「ミシェル、ごきげんよう」
「アデリナ殿下……」

 振り返るとそこには、優雅に微笑んでいるアデリナ殿下が立っていて。

「あら、なんて可愛らしいドレスなのかしら。まるで貴女は、ルシアン殿下のお人形のようね」

 皮肉たっぷりの誉め言葉。
 どう返すべきかと考えた瞬間に、私は突然の眠気に襲われ。

 薄れゆく意識の中で、私は気がついてしまいました。

 クラリス様がずっと申し訳なさそうにしていたのは、家族仲が悪くて不手際が多いことに対してではなく。
 これから私を騙すことに対する、罪悪感の現れだったのだと……。





 私が目を覚ました理由は、気持ちよく眠れてすっきりしたわけではなく、身の危険を感じて覚まさずにはいられなかったからでしょう。

 暖かな日差しを感じながら、ぼやけていた視界が次第にはっきりとしていきます。
 目の前には青空が広がっていて。私の状況とは無関係にゆっくりと流れていく雲は、のどかな午後のひと時を演出しています。

 どうやら私は、地面に寝そべった状態のようです。
 手に土の感触があることに気がついた瞬間、殿下にいただいたドレスを汚してしまったと悟り、悲しみが湧いてきました。
 すぐにでも起き上がってドレスの状態を確認したいけれど、私にその気力はもう残っていません。

 なぜかというと、先ほどから視界に入っては見えなくなりを繰り返している水色の物体によって、私は生存の危機に晒されているからです。

 端的に申しますと、スライムにガンガンHPを削られている真っ最中のようです。

「やっと目覚めたようね。このままスライムに倒されてしまうのではないかと、心配してしまいましたわ」

 私の心配など、露ほどもしていないであろう微笑みを浮かべながら視界に入ってきたのは、私の記憶ではつい先ほど遭遇したばかりのアデリナ殿下です。
 眠らされてからどのくらい時間が経過したのかわかりませんが、空の様子を見る限りではまだ夕方には早い時刻のようです。

 どうしてこのような目に遭っているのか彼女に尋ねたいですが、今は少しでも体力を温存しておかなければ本当に危険です。

 けれどこういう場合、悪役は自ら話さずにはいられないのが、地下書庫にある本の時代からの常識。
 私が黙っていても、理由は知ることができるはずです。

 アデリナ殿下は気分良さげに、いつの間にか奪ったらしい私の魔法の杖を弄び始めました。

「話す余裕もないのね。いいわ、私の未来のお義姉様になり損ねる貴女には、特別に教えて差し上げますわ」

 私のHPが尽きるのを待つかのように、長々と話している経緯を要約すると、彼女は王妃になりたいという願望が人一倍強いようです。

 予想ではルシアン殿下を奪われた恨みかと思っていたのですが、ルシアン殿下に対する想いはそれほど強くなかったようで。

「ルシアン殿下のほうが好みではありますが、王妃の座さえ手に入れられるのならどちらでも構いませんの」

 早々に第三王子に鞍替えしたようですが、クロード殿下を王太子に押し上げるには私の存在が邪魔だったようです。

「貴女、アーデル公爵に溺愛されているようね。ルシアン殿下だけでは飽き足らず老人まで手玉に取るなんて、恐ろしい子。それに本の知識も厄介だわ」

 その二つさえなければ、ルシアン殿下から王太子の座を奪い取るのは容易いとアデリナ殿下は笑いましたが、殿下は私がいなくともこれまで積み重ねてきたように、着実に貴族の心を掴んだと思います。

「だから貴女には申し訳ないけれど、私のためにここで力尽きてちょうだい」

 まるで人を道具のようにしか思っていない様子は、まさに王族らしい態度とも言えます。

 この国も含め周辺諸国の王族は絶対的な存在であり、王族が「不敬だ」と主張すれば、たとえ貴族を手にかけたとしても罪に問われることはありません。
 ただ、民の心がわかると称賛されているこの国の王族は、滅多にそのような理由で人を排除したりはしませんが。

「そろそろかしらね。貴女が力尽きる場面に居合わせるのは私のイメージが悪くなるので、そろそろお暇いたしますわ。ごきげんようミシェル、次にお会いするのは私が寿命を全うした時かしら」

 ふふっと、お茶会を退出するかのような軽い挨拶を一方的におこなったアデリナ殿下。それから、王女とは思えない力強さで私の魔法の杖をボキッと折り、それを私の手元に落としました。

「狩りの最中に杖が折れて、スライムに負けてしまうなんて。落ちこぼれの貴女らしい最後だわ」

 そう言い残して去ろうとしたアデリナ殿下に、付き添っていた従者らしき男性が声をかけました。

「アデリナ殿下、この杖はどうしますか?」

 男性が言っているのは、私がしっかりと手に握っている杖のことでしょう。

「最近は常に持ち歩いているそうだから、それがないと逆に怪しまれるわ。杖をついたところで出口まで戻るHPはもう残ってないはずだから、放っておきなさい」

 アデリナ殿下と男性が去っていく足音を聞きながら、私は一番緊張した場面から解放されてホッと息を吐きました。

 この杖がなければ、本当に人生が終了してしまうところでした。
 眠らされている間も握りしめていられたようで、本当に運が良かったです。

 そしてアデリナ殿下が、私のHPを低く見積もってくれたことも幸いでした。
 彼女は中位クラスの平均レベルを参考にでもしたのでしょうが、私はすでに上位クラスの最低レベルに達しているので、HPにはまだ少しだけ余裕があります。

 幸運が重なったのも大きいですが、それもこれも殿下のおかげです。
 下位クラス時代の私ならとっくに息絶えていたでしょうし、何よりもこの杖がなければ全てが終わっていました。

 殿下に感謝しつつ、しっかりとアデリナ殿下が去ったのを確認してから、回復魔法をかけました。

 体が楽になるのを感じ、命の危機を脱したことに心底安心します。
 次に、のんきな表情で私のお腹の上で飛び跳ねているスライムを倒そうと思ったのですが。

「ミシェル!!」

 いつもタイミングよく現れる主人公の彼に、お任せすることにしました。
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