【完結】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?

廻り

文字の大きさ
上 下
21 / 27

21 殿下の気遣い

しおりを挟む
 殿下はその翌日から、朝も迎えに来てくれるようになり。行きも帰りも殿下の馬車にお世話になるという、申し訳ない状況になってしまいました。

 休み時間も頻繁に様子を見に来てくれますし、お昼休みも必ず一緒に食事をするようになり。放課後も図書室へ移動するために、殿下が教室まで迎えに来てくれます。

「殿下……。毎日私に付きっ切りで、お疲れになりませんか?」

 一緒に廊下を歩きながら、彼の顔を覗き込んでみました。
 心配してくれるのは嬉しいけれど、殿下の時間を奪っているような気がしてしまい申し訳なさでいっぱいです。

「ミシェルは少し、勘違いをしているよ」
「え?」
「俺は今まで、ミシェルに鬱陶しいと思われないように、会いたい気持ちをかなり抑えていたんだ」

 そう言われてみると今までの殿下は、用事もなしに私に会いに来ることはありませんでした。
 わりと強引に会う理由は作られていましたが、そのように考えていたとは。

「鬱陶しいなんて思いませんよ。私も殿下と一緒にいられる時間が増えるのは、嬉しいです」

 そう殿下に向けて微笑むと、彼も柔らかく微笑み返してくれました。

「良かった。本当は今すぐにでも結婚して、一日中ミシェルを独占したいんだけどね」

 婚約もまだなのに、殿下は気が早いです。
 その言葉どおりに殿下は早く婚約を結ぶために、私のレベル上げを前よりもっと精力的におこなうようになりました。

 今までは安全第一の狩りをしていたのですが、最近では回復魔法が必要なモンスターも積極的に狩るようになり。戦闘後に嬉しそうなお顔で、回復魔法をおねだりしてきます。

 そして、私の魔法詠唱に対して恥ずかしくなるような返事をし、時には唇を奪われたりして。
 最近の狩りは、違う意味でも油断ができません。


 図書室に到着すると、カウンター前にいた方々が私たちを見つけてこちらへやってきました。

「今日もミシェルは大人気のようだね。俺は個室にいるから、何かあったら知らせてね」
「はいっ。ここまで送っていただきありがとうございました」
「俺がしたいことなんだから、毎回お礼を言わなくても良いんだよ」

 そう言いながら握っていた私の手を持ち上げた殿下は、彼の口元に私の手の甲を当てるとにこりと微笑みました。

 図書室のど真ん中で、大胆すぎませんかっ。

 私が硬直している間に、殿下はセルジュ様に私の護衛を任せて個室へと入っていきました。

「お前も慣れない奴だな」とセルジュ様に笑われて我に返った私は、慌てて集まってきた方々の対応を始めました。

 この方々は、文官や上位貴族の従者などです。
 勲章を授与されたことにより、私が本に詳しいことが貴族中に知れ渡ったようで。日に日に、本を求めて私を訪ねてくる方が増えているのです。

 殿下は「俺が一緒にいると、皆が恐縮するだろうから」と、この時間だけは私から離れて個室で資料を読んだりしているようです。


 最後の方に本をお勧めし終わりホッと息をついていると、私の護衛をしてくれていたセルジュ様がぽつりと呟きました。

「この前は、エルに王太子妃は荷が重いなんて言って悪かったよ……」
「セルジュ様?」
「俺の知らないうちにエルは、知らない奴とも普通に会話ができるようになっていたんだな」

 セルジュ様は、娘の成長を喜びつつも寂しく思っている父親のような表情で、私に微笑みかけました。

 確かにセルジュ様と交流があった頃の私は重度の人見知りでしたので、今のようには人と接することはできなかったと思います。

 そういえばセルジュ様とは、学園へ入学してから突然に交流が途絶えたのでした。

 その後の私はお兄様だけが唯一の話し相手で、そのお兄様が卒業した後は本当にひとりきりになってしまいました。それでもぼっちを楽しむくらいには、図太く成長したと思っています。
 それに。

「話す内容は本のことばかりですから、意外と緊張せずに話せるんです」
「そっか……。そーゆーところはやっぱ、殿下には勝てないわ」

 気分を変えるように、セルジュ様は大きく身体を伸ばしました。

 セルジュ様のくちぶりからも、この状況は殿下が意図的に仕向けたことのようです。
 殿下自身も私と交流を深めるために本を使用していましたし、王太子妃になってから困らないように、貴族と緊張せずに話すきっかけを作ってくれたのだと私は思っています。





 図書委員活動後のレベル上げも終わり、いつものように殿下に送っていただくことに。
 馬車に乗り込むと向かいの席に、細長い大きな贈答用の箱が置いてありました。
 殿下がどなたからかいただいたのかと思っていると、殿下はそれを手に取り。

「ミシェルにこれを受け取ってほしいんだ」

 そう微笑む殿下に、私は首を傾げました。贈り物をいただくイベントに心当たりがありません。

「私の誕生日は、まだ先ですが?」

 そう答えると、殿下はくすりと笑いました。

「俺が贈りたいだけなんだ。説明したいから、とりあえず中を確認してくれないかな」

 そう催促されたので、渡された箱のリボンを解いて箱を開けてみたのですが。
 中に入っていたものがあまりに予想外で。尚且つ、あまりに素敵なものだったので私は固まってしまいました。

「ミシェルは俺のために、杖を持ち始めてくれたんだろう? それならミシェルが、少しでも気分良く持ち歩けるようにと思ってね」
「あの……、とても素敵なので驚いてしまいました。まるで魔法師が使う魔法の杖みたいです……」

 学園内では指定の武器しか使用を許可されていないので、魔法師が持つデザイン性に優れた杖は学生の憧れだったりもします。

「魔法の杖を改造して作ってもらったから、これで魔法も使えるんだ。いざという時に役立つかもしれないと思ってね」

 学園には事情を説明して、使用許可も得てくれたそうです。

 それから殿下は、真剣な表情で私の肩に手を置きました。

「俺がいない時の護身用と思って、持ち歩いてくれないかな」

 心配そうに見つめる殿下の表情から、この杖を渡したい理由はそちらにあるのだと思えました。
 学園ではこうして毎日、私を心配して一緒にいてくれるのに、屋敷に帰った後の心配までしてくれるなんて。
 殿下の気持ちが嬉しくて、胸がいっぱいになってしまいます。

「はい。素敵な贈り物をありがとうございます、ルシアン殿下」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ではあるけれど

蔵崎とら
恋愛
悪役令嬢に転生したみたいだからシナリオ通りに進むように奔走しよう。そう決意したはずなのに、何故だか思った通りに行きません! 原作では関係ないはずの攻略対象キャラに求婚されるわ悪役とヒロインとで三角関係になるはずの男は一切相手にしてくれないわ……! そんな前途多難のドタバタ悪役令嬢ライフだけど、シナリオ通りに軌道修正……出来……るのか、これ? 三話ほどで完結する予定です。 ゆるく軽い気持ちで読んでいただければ幸い。  

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

異世界転生したらハムスターでした!~主食は向日葵の種です~

空色蜻蛉
恋愛
前世でぽっちゃり系だった私は、今世は丸々太ったハムスターに転生しました。ハムスターに転生しました。重要なので二度言いました。面倒くさいからもう説明しないわよ。 それよりも聞いて!異世界で凄いイケメン(死語)な王子様を見つけたんだけど。ストーキングもとい、ウォッチするしかないよね?! これはハムスターの私とイケメン王子様の愛の攻防戦、いわゆるラブコメという奴です。笑いあり涙ありの感動長編。さあ一緒に運命の回し車を回しましょう! 【お知らせ】2017/2/19 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

悪女と言われた令嬢は隣国の王妃の座をお金で買う!

naturalsoft
恋愛
隣国のエスタナ帝国では七人の妃を娶る習わしがあった。日月火水木金土の曜日を司る七人の妃を選び、日曜が最上の正室であり月→土の順にランクが下がる。 これは過去に毎日誰の妃の下に向かうのか、熾烈な後宮争いがあり、多くの妃や子供が陰謀により亡くなった事で制定された制度であった。無論、その日に妃の下に向かうかどうかは皇帝が決めるが、溺愛している妃がいても、その曜日以外は訪れる事が禁じられていた。 そして今回、隣の国から妃として連れてこられた一人の悪女によって物語が始まる── ※キャライラストは専用ソフトを使った自作です。 ※地図は専用ソフトを使い自作です。 ※背景素材は一部有料版の素材を使わせて頂いております。転載禁止

偽聖女の汚名を着せられ婚約破棄された元聖女ですが、『結界魔法』がことのほか便利なので魔獣の森でもふもふスローライフ始めます!

南田 此仁
恋愛
「システィーナ、今この場をもっておまえとの婚約を破棄する!」  パーティー会場で高らかに上がった声は、数瞬前まで婚約者だった王太子のもの。  王太子は続けて言う。  システィーナの妹こそが本物の聖女であり、システィーナは聖女を騙った罪人であると。  突然婚約者と聖女の肩書きを失ったシスティーナは、国外追放を言い渡されて故郷をも失うこととなった。  馬車も従者もなく、ただ一人自分を信じてついてきてくれた護衛騎士のダーナンとともに馬に乗って城を出る。  目指すは西の隣国。  八日間の旅を経て、国境の門を出た。しかし国外に出てもなお、見届け人たちは後をついてくる。  魔獣の森を迂回しようと進路を変えた瞬間。ついに彼らは剣を手に、こちらへと向かってきた。 「まずいな、このままじゃ追いつかれる……!」  多勢に無勢。  窮地のシスティーナは叫ぶ。 「魔獣の森に入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」 ■この三連休で完結します。14000文字程度の短編です。

処理中です...