【完結】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?

廻り

文字の大きさ
上 下
14 / 27

14 婚約者が決まる季節

しおりを挟む

 週末。
 私はお友達のお茶会に招待されました。

 作法を学ぶために、お母様が開催するお茶会に参加することは度々ありましたが、同世代の子と気兼ねなくお茶を楽しむのは初めてです。

 子爵令嬢であるマリーちゃんのお屋敷でおこなわれたお茶会は、お花に囲まれた素敵なお庭が会場で。下位クラスの女の子全員と、私が参加しました。

 美味しいお茶とお菓子をいただきながら、今一番盛り上がる話題と言えば婚約についてです。

 この国では、魔法の実力を結婚相手の条件として重視する家も多いので、あまり若いうちに婚約は結びません。
 婚約者が決まり始めるのは最終学年になってからが多く、今まさにその時期なのです。

「下位貴族の婚約は結局、余り者同士なのよ。トキメキの欠片もないわ」

 そうマリーちゃんが嘆くと、他の子たちも大きくうなずきました。

 下位クラスの生徒は下位貴族の令嬢令息が大半なので、伯爵家の娘である私はそういう意味でも異質な存在でした。

「そう言いつつもマリーは、幼馴染と婚約したじゃない。うらやましいわ」
「幼馴染と結婚したからって、幸せになれるとは限らないわよ……」

 マリーちゃんの意見には同意します。
 私も幼い頃に、セルジュ様と私を将来結婚させようと親同士が話をしているのを聞いて、泣きながら止めてとお願いした記憶があります。

 ですがマリーちゃんは、まんざらでもないようで。幼馴染から突然婚約者に変わったので、照れているだけのように思います。

「それより私は、ミシェル様の恋の行方が気になりますわ。殿下とのご婚約はいつ頃になりますの?」
「あの……、殿下とそのようなお話をしたことは、一度もなくて……」

 突然に話を振られてびくりとしながらもそう返すと、皆は信じられなさそうな表情をしました。

「王太子とのご婚約ですもの、時間がかかるのだと思うわ」
「どなたを正妃にするかで、意見が分かれているのかもしれないわね」
「ミシェルちゃん、心配なさらないで。殿下はあんなにもミシェルちゃんを溺愛しているのだもの。必ず妃のひとりに迎えてくださるわ」

 皆がそう慰めてくれるのは嬉しいけれど、私はずっと目を背けていた事実を突きつけられた気分です。

 ハーレムは回避できましたが、現実問題でこの国の王族には側室が認められています。
 前世の記憶がなかったころの私なら素直に受け入れられたでしょうが、今の私に一夫多妻制は受け入れられません。

 私は正妃の器でないことは自覚しているので、側室にと殿下に求められたらどうしたら良いのでしょう。

 皆が側室候補で盛り上がっている中、隣に座っているマリーちゃんが私の顔を覗き込みながらにこりと微笑みました。

「殿下はミシェルちゃんしか、目に入っていないと思うわ。政治的に避けられない結婚もあるかもしれないけれど、殿下のお心はミシェルちゃんの元にあると思うの。だから自信を持ってね」

 私の気持ちを知っているかのように、そう元気づけてくれるマリーちゃん。彼女には精神的に助けられてばかりで、感謝の気持ちが絶えません。

「うん……。ありがとうマリーちゃん」

 こんな良い子と婚約した幼馴染くんは、本当に幸せ者だと思います。

 彼女の明るい未来を願いながらも、一夫多妻制ではない貴族家同士の結婚が少しだけうらやましくなってしまいました。





 ある日。学園の廊下でばったりと、アデリナ殿下とお会いする機会がありました。

「この前は大変失礼いたしましたわ。私ったら、つい熱が入ってしまいましたの」

 ふふっと、大したことではなかったかのように微笑むアデリナ殿下に返す言葉が見つからずにいると、彼女はさらに続けました。

「もうすぐ、私がこの国へ来た目的を果たせますの。その時にはぜひ、貴女にも祝福してほしいわ」
「はい……」

 何のお話かよくわかりませんが、王女が何かを成し遂げるなら祝福は当然でしょう。
 彼女は私の返事を聞くと、軽やかな仕草で上位クラスの方へと去っていきました。

「アデリナ殿下はどのような目的で、この国へ来られたのかしら?」

 隣にいたマリーちゃんにそう尋ねてみると、彼女は首を傾げました。

「下位貴族だと、そういう情報はあまり入ってこないのよね。殿下にお聞きしてみたらどうかしら?」

 マリーちゃんの提案は最もですが、最近はお友達と過ごす時間が増えた代わりに、殿下と会う時間がめっきりと減ってしまったのです。

 アーデル地方の病害対策は急務のようで、近頃の殿下は放課後になると急いで王城へ帰ってしまいます。
 お昼休みも何日かに一回は昼食を誘ってくれますが、基本的には図書室の個室に籠っていて、城の従者を呼び寄せては会議などをしているようです。

 たまにしか会えなくなったのに、貴重な時間をわざわざアデリナ様の話題で無駄にはしたくありません。
 どうしても気になるというわけでもないので、その話はその場限りとなりました。






 殿下が忙しいため、一緒に狩りもできず。
 レベル上げは続けてほしいと彼にお願いされたので、最近はシリル様とセルジュ様が狩りに連れて行ってくれます。

 ちなみに中位クラスの男子生徒とも狩りをする予定でしたが、実際に誘ってみると全員「用事があるのでその件は無かったことに」と、なんだか怯えた様子で断られてしまいました。
 あんなに楽しみにしていたようなのに、男心はよくわかりません。



 魔の森。
 モンスターを見つけた私は、杖を構えました。

「えいっ! えいっ!」
「僕の愛に溺れてみますか?」

 シリル様の魔法は水属性で、杖の先から出現した水の龍によってモンスターは飲み込まれてしまいました。

「えいっ! えいっ!」
「お前を守れるのは俺だけだ!」

 セルジュ様は殿下と同じように、武器に魔法を付与して戦います。
 彼は風属性で、鉾を振るう動作に連動して風がモンスターを切り裂きます。

 モンスターが倒されて消えると、セルジュ様はがくりとその場にうずくまりました。

「くっ……ははははは!」
「もう……! いい加減に慣れてください、セルジュ様」
「だって、エルが可愛すぎて! その掛け声、どうにかならないのかよ! あははは!」
「無理です……。勝手に口から出るんですから……」

 私の通常攻撃の掛け声が、セルジュ様のツボにハマってしまったようで。毎日のようにこうして笑われています。
 通常攻撃もスキルという認識なのか、どう頑張ってもこの掛け声は出てしまうんです。

 どうして私が通常攻撃で戦っているかというと、殿下によって魔法禁止令・・・・・が出されてしまったからで。
 殿下曰く「ミシェルの魔法詠唱を、他の者には聞かせたくない」だそうです。

 私としても恥ずかしいのであまり聞かれたくはないのですが、シリル様とセルジュ様の魔法詠唱も、私と負けず劣らずの恥ずかしいものでした。
 と言いますか、この学園に通う生徒の魔法詠唱はたいていの場合恥ずかしいものなので、お互い様なのですが。

「セルジュは放っておいて、先に進みましょうかミシェル嬢」

 シリル様は呆れた表情でそう言ってから、地面に落ちているドロップ品を拾いました。けれど今回も、ドロップされたのはモンスターの素材だけでした。

 二人と狩りをすると、どういうわけか私の欠片がドロップされません。
 もうすぐ百個集まりそうなのに、今は残念ながら停滞中です。

 今さら欠片を集めても意味がないように思いますが、一度始めてしまったのでコンプしたいというコレクション魂で集めています。

 そんなことを考えながら歩いていたら足元をよく見ていなくて、何かにつまずきうつ伏せに転んでしまいました。ルジュ様はここでも大笑いして、ひどいと思います。
 ただ幼い頃とは違い土に埋めるのではなく、猫でも抱き上げるかのように起こしてくれましたが。

「それにしても、殿下もよくあんなに頑張れるよな。王女を選んでおけば楽できるのに」

 笑いが収まったセルジュ様は唐突に話題を振ってきましたが、選ぶとは何の話でしょうか。

「そりゃ殿下は、ミシェル嬢しか目に入っていませんからね」
「私ですか?」

 シリル様の言葉に首を傾げると、二人とも驚いた表情を見せました。

「まさかエル、殿下の気持ちに気がついていないのか?」
「あの……。殿下のお気持ちには気がついていますが、お話の内容がわからなくて……」

 まさかこのような告白を二人にするとは思っていなかったので、恥ずかしいです。
 シリル様は納得したように微笑みました。

「セルジュが言ったのは、殿下の結婚相手についてですよ」
「アデリナ殿下は、殿下のご結婚相手候補ということでしょうか」
「はい。アデリナ殿下は王子のどなたかとご結婚する予定で留学されたのですが……、ご存じありませんでしたか?」

 殿下がアデリナ殿下との関係を話してくれた際には、王家が招いた客人としか言っていませんでした。
 それにこの学園には、魔法を学ぶために周辺諸国からも生徒が集まるので、アデリナ殿下の留学目的については特に疑問をもっていませんでした。

「知りませんでした……。アデリナ殿下とご結婚すると、強力な後ろ盾を得ることになるのですよね?」
「そうですね。隣国とは友好関係にありますから、後ろ盾としての意味は大きいです。けれど殿下が言われていたとおり、地道な信頼関係を築くことで殿下は着実に後ろ盾を増やしています。ミシェル嬢が気にすることではありませんよ」

 シリル様は「余計なことを言うな」と、セルジュ様の頭を杖でぽかりと叩きました。

 気にするなと言われましても、殿下の王位に関する重要な件ですし気になってしまいます。

 セルジュ様の口ぶりだと、殿下はアデリナ殿下を娶るつもりはなさそうですが、果たしてそのようなことが可能なのでしょうか。
 隣国としては次期国王に嫁がせたいでしょうし、殿下の気持ちだけで王子の結婚相手を好き勝手に決められるはずもありません。

 それにこの前アデリナ様が言っていた『目的』とは、結婚相手を決めることだったのだと思うのです。
 それが果たせるとは、もうすぐアデリナ様も結婚相手が決まるということで。彼女の晴れやかなお顔から察するに、希望通りになったと受け取れます。

 そして、アデリナ様がお慕いしている王子は……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢ではあるけれど

蔵崎とら
恋愛
悪役令嬢に転生したみたいだからシナリオ通りに進むように奔走しよう。そう決意したはずなのに、何故だか思った通りに行きません! 原作では関係ないはずの攻略対象キャラに求婚されるわ悪役とヒロインとで三角関係になるはずの男は一切相手にしてくれないわ……! そんな前途多難のドタバタ悪役令嬢ライフだけど、シナリオ通りに軌道修正……出来……るのか、これ? 三話ほどで完結する予定です。 ゆるく軽い気持ちで読んでいただければ幸い。  

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

盲目の令嬢にも愛は降り注ぐ

川原にゃこ
恋愛
「両家の婚約破棄をさせてください、殿下……!」 フィロメナが答えるよりも先に、イグナティオスが、叫ぶように言った──。 ベッサリオン子爵家の令嬢・フィロメナは、幼少期に病で視力を失いながらも、貴族の令嬢としての品位を保ちながら懸命に生きている。 その支えとなったのは、幼い頃からの婚約者であるイグナティオス。 彼は優しく、誠実な青年であり、フィロメナにとって唯一無二の存在だった。 しかし、成長とともにイグナティオスの態度は少しずつ変わり始める。 貴族社会での立身出世を目指すイグナティオスは、盲目の婚約者が自身の足枷になるのではないかという葛藤を抱え、次第に距離を取るようになったのだ。 そんな中、宮廷舞踏会でフィロメナは偶然にもアスヴァル・バルジミール辺境伯と出会う。高潔な雰囲気を纏い、静かな威厳を持つ彼は、フィロメナが失いかけていた「自信」を取り戻させる存在となっていく。 一方で、イグナティオスは貴族社会の駆け引きの中で、伯爵令嬢ルイーズに惹かれていく。フィロメナに対する優しさが「義務」へと変わりつつある中で、彼はある決断を下そうとしていた。 光を失ったフィロメナが手にした、新たな「光」とは。 静かに絡み合う愛と野心、運命の歯車が回り始める。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

【完結】シャーロットを侮ってはいけない

七瀬菜々
恋愛
『侯爵家のルーカスが、今度は劇団の歌姫フレデリカに手を出したらしい』 社交界にこんな噂が流れ出した。 ルーカスが女性と噂になるのは、今回に限っての事ではない。 しかし、『軽薄な男』を何よりも嫌うシャーロットは、そんな男に成り下がってしまった愛しい人をどうにかしようと動き出す。 ※他のサイトにて掲載したものを、少し修正してを投稿しました

異世界転生したらハムスターでした!~主食は向日葵の種です~

空色蜻蛉
恋愛
前世でぽっちゃり系だった私は、今世は丸々太ったハムスターに転生しました。ハムスターに転生しました。重要なので二度言いました。面倒くさいからもう説明しないわよ。 それよりも聞いて!異世界で凄いイケメン(死語)な王子様を見つけたんだけど。ストーキングもとい、ウォッチするしかないよね?! これはハムスターの私とイケメン王子様の愛の攻防戦、いわゆるラブコメという奴です。笑いあり涙ありの感動長編。さあ一緒に運命の回し車を回しましょう! 【お知らせ】2017/2/19 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

処理中です...