【完結】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?

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12 不可侵協定

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 放課後。図書室へ行こうと思い席を立つと、ジル様に声をかけられました。

「図書室へ行くんだろう? ひとりだと危ないから俺も一緒に行くよ」

 モンスターの死骸を置くような危険人物ですし、心配してくれるのはありがたいですが……。今朝のジル様も、割と怖かったですよ。
 けれど同じ図書委員なので、向かう場所は同じ。断るのもおかしいです。仕方なく彼と一緒に図書室へ向かいました。

「……今朝は、すまなかった」

 廊下を並んで歩きながら、ジル様はばつの悪そうな表情でそう切り出しました。

「ミシェル嬢の回復魔法があまりに可愛かったもので、俺もあいつらもどうかしてしまった」

 今の彼は気持ちが落ち着いたのか、詰め寄る気配はなさそうです。

「いえ……。では、狩りの件は無かったことにしてもよろしいでしょうか?」
「いや、それはぜひとも参加させてもらいたい。あいつらも、そう願っているはずだ」
「…………」

 今の流れだと断れると思ったのに、そう上手くはいかないようです。

 気が重くなりながらも図書室へ到着すると、殿下とシリル様がカウンター前の椅子に座っていて。セルジュ様は、暇そうにうろうろしているのが見えました。

 殿下は、私たちを見つけると立ち上がりこちらへとやってきましたが、何だか不機嫌そうなお顔をしています。

「ミシェル、彼は?」
「こちらは同じ図書委員でクラスも一緒の、ジル様です。向かう方向が一緒だったもので――」
「ルシアン殿下は、天使に関する不可侵協定をご存じないのですか?」

 私が最後まで言い終わる前に、ジル様が私を隠すように一歩前へ出ます。そして唐突に、何かの協定の話を持ち出しました。

「知っているよ。天使が怯えぬよう、接触を禁止し遠くから見守る協定だろう」
「同学年の男子生徒全員の賛同で作られた協定を、なぜ破るんですか」
「俺に対して怯えていない時点で、それを守る必要もないと思ったからだ」
「たとえ天使が心を開いたとしても、協定を破る行為は他者を出し抜くことになりますが。他の男子生徒を敵に回してまで、天使を得たいと?」
「そのつもりだ」

 そのような協定があるとは知りませんでしたが、殿下が得たいと思っている天使とは何でしょう? 何かの隠語でしょうか。
 私も図書室の天使などと呼ばれていますが、流石に同学年の男子生徒全員を巻き込むような事態には、心当たりがありません。

「ならばもう少し、ミシェル嬢の周りを気にしたらどうですか。今回の状況から察するに、殿下に非があるのではありませんか」

 突然、話題が私に変わってしまいましたが、それは殿下に言わないでほしかったです。

 ジル様は言いたい事だけ言うと、カウンターの中へと入ってしまいました。

「ミシェル……、何かあったの?」
「あの、実は嫌がらせを受けていまして……」

 殿下にはいつもお世話になりっぱなしなので、巻き込みたくはなかったのですが。殿下に非があるなんて言われたら、誤解をとかないわけにはいきません。

 殿下は顔をしかめると、私の手を取り、歩き出しました。

「話がしたい」と言いながら、殿下は図書室の奥へと進んで行きます。
 二人きりで話がしたいのなら、個室を借りたら良いのに。殿下の表情は焦っているように見えます。

 建物の角まで来ると、殿下は振り返って私の両肩を掴みました。

「ミシェル、何があったのか話してくれるかな?」

 口調こそいつも通りの優しい雰囲気ですが、彼の表情は穏やかではありません。

 ここは包み隠さず話したほうが良いと思い、三日間に起きた出来事を全て殿下に話しました。すると彼は、勢いよく私を抱きしめるのです。

「気がつかなくてごめんね、ミシェル」
「そんな……。殿下が謝るようなことでは……」
「いや、これは俺のミスだ。ミシェルの話を聞いて犯人の見当はついた」

 あの薬品は研究所で厳重に保管されているため、貴族とはいえ一般の生徒が嫌がらせ目的で入手できるようなものではないと、殿下は教えてくれました。

 一般の生徒でなければ、残りはごく限られた人間になります。
 その薬品を手に入れられるような身分で、私に敵意を持っているかもしれない方は……。ひとりしか思い浮かびません。
 殿下を慕っている様子で、私にはきつい視線を向けていた、あの方。

「立場上、彼女を公に罰することはできないけれど、嫌がらせは必ず止めるから」
「はい……ありがとうございます、殿下」

 やはり私が思っている方と、殿下が思っている方は同じようです。
 こんな嫌がらせをするなんてメインヒロインとは思えない行動ですが、彼女はメインヒロインではないのでしょうか。

「それから……。これからはどんなに些細なことでも、俺に相談してくれないかな。他の男にミシェルが助けられるのは悔しい……」

 悔しがらずとも、いつも私を助けてくれているのに。殿下の身体がわずかに震えています。
 その震えを止められないかと、思わず彼の背中に腕をまわしてしまいました。

「殿下はいつも、私を助けてくれているではありませんか。私が学園生活を楽しめるようになったのも、全ては殿下のおかげです」
「そう思ってくれるのは嬉しいな。けれど、嫉妬心だけで言っているんじゃないんだ。俺の知らないところで、ミシェルが辛い目に遭っているかもしれないと思うと、心配で何も手につかなくなる……。俺を助けると思って話してくれないかな」

 殿下に迷惑をかけたくないと思い黙っていましたが、余計に心配をさせてしまうのは私の本意ではありません。

「わかりました。これからは相談するとお約束します、殿下」
「ありがとう、ミシェル」

 今朝のことで、私は知らぬ間に緊張をしていたようです。
 殿下の腕の中に包まれているとその緊張がとけていくようで、ずっとこうしていたいなんて思ってしまいました。



 それからいつものように殿下にお勧めする本の棚へ向かう途中、男子生徒との約束について殿下に早速相談してみました。

「モンスターの死骸を浄化する際に使った回復魔法を、皆様が気に入ってしまったようで。今度殿下との狩りに、誘ってほしいとのことなのですが……」
「ミシェルからの頼みならば、俺は構わないよ。ただ、皆が気に入ったという回復魔法を俺にもかけてほしいな」

 殿下は立ち止まると、にっこりと微笑みます。

「ここで、ですか……?」
「うん。ミシェルを心配しすぎて、HPが減ってしまったよ」

 そんなことで、HPは減らないと思いますが……。
 けれど、心配させてしまったのは事実ですし、狩りに連れて行ってもらうのですから見せる義務はあるように思います。
 殿下はとても強いので今まで回復魔法が必要なかったのですが、ついに見せる羽目になってしまいました。

 殿下に本棚の陰へと移動してもらい、私は杖を取り出しました。

「恥ずかしい詠唱なので、注意してくださいね……」
「今度はどんな可愛い詠唱なのか、楽しみだな」

 とてもご機嫌な殿下は、返すセリフでも考えているのでしょう。注意するべきは、私のほうなのかもしれません。

 ここで魔法が失敗したら、恥ずかしさだけが残り死にたくなりそうなので、深呼吸をして目標に集中しました。

「ミシェルのこと好きって言ってほしいの」

 回復魔法を詠唱すると、殿下の身体は一瞬だけ暖かい光に包まれました。

 けれど、魔法は無事に成功しましたが、肝心の殿下の反応がありません。
 男子生徒みたく固まっているのかと思いながら、殿下の顔を見上げた瞬間。
 彼は、私に背を向けてしまいました。

 よく見れば、殿下の耳が赤くなっています。

「ありがとう、ミシェル……。最高の気分だよ……」





 翌朝。
 殿下は嫌がらせを止めてくれると言ってくれましたが、クラスの男子生徒は今日も見張るために早く登校するかもしれません。なので今日も、早めに屋敷を出ました。

 馬車を降りて学園の門をくぐりましたが、昨日よりも早く到着したので外を歩いている学生はいません。
 玄関にも誰の姿もなく、今日は私が一番に到着したようです。

 誰か来るのを待とうかとも思ったのですが、教室の様子が気になります。一人で向かうことにしたのですが。
 教室にたどり着いたと同時に、ドアが開いて。

「ミシェルおはよう、ずいぶんと早いんだね」

 殿下が、朝日のように爽やかな笑みを浮かべながら、教室から出てきました。

「おはようございます殿下。あの……、教室の様子は……?」
「大丈夫だよ。もう嫌がらせは起きないから、安心して」

 殿下が教室の中に視線を向けたので、私も教室の中を覗いて見ると。室内は奇妙なほど、綺麗に整えられていました。
 まるで、何かを隠蔽したかのように。

 ここで何か起きたのかとても気になりますが、殿下が対処してくれたと思うべきでしょう。

「朝早くから対応していただき、ありがとうございます殿下」
「たいしたことはしていないよ。むしろ、朝からミシェルに会えて嬉しいな」

 早起きをして得したと言いながら殿下が私の頭をなでていると、後ろから数名の足音が聞こえてきました。
 振り返ってみると、ジル様と数人の男子生徒が私たちを見つけて駆け寄ってきます。

「教室の様子は」と尋ねてくるジル様に私が返答するよりも早く、殿下は私を抱き寄せました。

「皆には、迷惑をかけてしまい申し訳なかった。ミシェルを助けてくれて感謝する。この件については俺が処理したから、もう心配はいらないよ」

 皆は殿下に視線を向けたまま、ぽかんとした顔になってしまいました。
 昨日まで犯人の目星もついていなかったのに、突然出てきた殿下にそう言われても、すぐには信じられないのかもしれません。

 ただその中のひとり、ジル様だけは小さく笑みをこぼしました。

 協力してくれたクラスメイトに私からもお礼を述べると、ジル様は平常運転に戻ったかのように軽く手をあげるだけで、そのまま教室へと入っていきました。
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