【完結】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?

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07 メインヒロインの登場? / 狩りの成果

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 しばらく歩くと原始的な村が見えてきて、その中にとても不釣り合いな貴族向けの建物がありました。
 村の入り口にはゴブリンが立っていて、私たちを見つけると「キキッ」と声を上げながら近づいてきました。

 殿下が食事をしたいと伝えると、そのゴブリンは建物へと案内をしてくれます。
 ゴブリンは初めて見るのですが、人間と変わらない行動ができる彼らがモンスターだなんて、不思議な気分です。

 建物の中へ入るとそこは、学園の学食と変わらないほど綺麗なレストランになっていて、大勢の学生が昼食を取っていました。
 休日にこれほどの人数が、レベル上げに励んでいたなんて驚きです。
 そのほとんどが上位クラスの生徒で、熱意の差をまざまざと見せつけられた気がしました。

 その大勢の人たちが一斉にこちらへ視線を向けたので、私は驚いて思わず殿下の後ろに隠れました。
 殿下はくすりと笑いながら私に振り返って「個室が良さそうだね」と提案してくれます。
 こくりとうなずいたところで、殿下の周りに人が集まってきたことに気がつきました。

 殿下の横から覗いてみると、UR美少女ちゃんたちが大勢いらっしゃるではありませんか……!

 紫のしなやかな髪の毛が美しいURエリザベスちゃんに、陶器のように白くてツルツルのお肌が美しいURマーガレットちゃん、あちらには前世の私が好きだったURユリアちゃんが! 長いまつげをバサバサさせている姿が麗しくて私の目が潰れてしまいそう! こんなに近くでURちゃんを拝めるなんて感激!

 はっ。
 前世の私が、思わず出て来てしまいました。

 さすがにこの人数のURちゃんに囲まれると、圧倒されてしまいます。
 SSRの私など、足元にも及ばないのは一目瞭然。容姿うんぬんというより、オーラが違います。

 皆嬉しそうに殿下に話しかけていますが、どうやら殿下が休日に狩りをするのは久しぶりのようです。

 そこへURちゃんたちの間から、ひときわ美しいオーラを放っている女性が進み出てきました。

 彼女は確か、隣国の王女アデリナ殿下。
 この国へは留学のために滞在していて、殿下と同じ上位クラスです。

「ルシアン殿下。皆様も喜んでいらっしゃるようですし、よろしければ昼食と午後の狩りをご一緒にいかがですか」
「悪いが、今日は彼女と一緒にすごしたいんだ」

 殿下はそう言いながら私を抱き寄せ、皆の前に出すのはやめてください。URちゃんたちのオーラに押しつぶされてしまいます。

 硬直した私を、アデリナ様は観察するようにじっくりと見回しました。
 そしてとても優雅な仕草で、余裕に溢れた笑みを浮かべました。

「あら、可愛らしいお嬢様ですこと。皆様、今回は残念ですがまたの機会にいたしましょう」

 彼女はURちゃんたちのトップに君臨しているのか、彼女の発言によりURちゃんたちは、残念そうに元の席へと戻っていきました。
 URちゃんをしょんぼりとさせてしまい、私も心が痛いです。けれど一緒にお食事をするなんて恐れ多くてできませんので、殿下の配慮には感謝したいと思います。

 アデリナ様は席に戻る際、一瞬だけ鋭い視線をこちらに向けました。

 彼女は、前世の私がゲームをプレイしていた時点では、登場していない人物ですが。
 あのメインヒロイン級のオーラは、ただのモブではなさそうです。
 殿下とはどういうご関係なのでしょうか。



「殿下は、アデリナ様とご友人なのですか?」

 個室へ通され席についてから、そう尋ねてみました。
 メインヒロインか、新規URちゃんですか? とは聞けないのでこのような表現にしてみましたが、殿下は意外そうなお顔を私に向けます。

「ミシェルが俺のプライベートを気にするなんて、初めてだね」
「そうでしたか?」

 むしろ殿下のプライベートについては、とても興味がありますが。
 毎日私と狩りをしつつ、ハーレムを維持するのはとても大変だと思います。

「うん。俺に興味を持ってくれて嬉しいよ。今の質問はヤキモチと受け取って良いのかな?」
「良くないです。私は……」

 ただ、アデリナ様の立ち位置を把握しておきたいだけなのですが……。
 今までハーレムの内情も探ろうとしなかった私としては、不自然な質問をしてしまったかもしれません。

「心配しなくても、俺はミシェルしか見えていないよ」

 殿下はまるで、乙女ゲームか少女漫画のようなセリフを、甘い声に乗せてきます。

 ゲームの中でセリフがあるのは美少女だけで、淡々とした説明文での表現しかなかった主人公。
 美少女たちが喜び、頬を染め、時には涙を流していたのは、こんな甘い言葉をかけられていたからなのでしょうか。

「その顔は信じていないね?」
「女の子たちに囲まれた後に言われましても……」
「上位クラスは卒業後に軍に入る者が多いから、仲間としての絆が深いんだ。それに彼女らは、俺を王太子に押し上げるために今まで支えてきてくれた大切な存在だ。けれどその信頼関係と、誰かを想う気持ちを混同しないでほしいな」

 ゲームで例えるなら、殿下はメインストーリーは進めたけれど、美少女とのエピソードは開放していないと言いたいのでしょうか。
 もしそうなら殿下がハーレム形成に励んでいるというのは、私のただの勘違いになってしまいます。
 私に接触してくるのは、ハーレム勧誘が目的だと思っていたのに。

 ではどうして殿下は、私に優しくしてくれるのですか?

 さまざまな理由を考えてみたけれど、殿下の今までの言動と照らし合わせると、どうしてもひとつの答えにしかたどり着けません。
 考えれば考えるほどなぜか心臓が活発に動き、血の巡りが良くなってきます。

「ミシェル」

 必死に自分の勘違いではないかと考えていると、殿下が優しい声で私の名前を呼びました。

 殿下に視線を戻してみると、彼は頬杖をついて満足そうに微笑んでいます。

「頬を赤く染めたミシェルは、とても可愛いよ」






 それから数週間後のお昼休み。私は先生に呼び出されて、職員室にいました。
 先生との話が終わり職員室を出ると、廊下には殿下がいて。

「どうだった? ミシェル」
「明日からは中位クラスで学ぶようにと、先生から指示を受けました……」

 下位クラスの生徒とではレベルが合わなくなったので、中位クラスに編入する必要があると。

 下位クラスの生徒はあまり狩りをしないので、すぐにレベルが合わなくなるはずだと殿下は予想を立てていたのですが、本当にその通りになってしまいました。

 あまりにあっさりと中位クラスになれたことに呆然としていると、殿下は嬉しそうなお顔で私に抱きついてきました。

「おめでとう、ミシェル!」
「でっ殿下、ここは廊下ですよ……」
「誰かに見られると恥ずかしい? 俺としては、皆の前でミシェルを独占したいけど」

 殿下の気持ちに気がついてしまってからというもの、日々大胆になっていく殿下の言動に私は慌ててばかりです。
 冷静で無表情だった私は、どこかへと消え去ってしまいました。

「恥ずかしいに決まっています……」
「そんなふうに、頬を染めるミシェルが可愛くてつい。ごめんね」

 そして私が露骨に狼狽えるものだから、私の頬を染めて喜ぶという遊びを殿下は覚えてしまったようです。

 謝りつつも離れるつもりはなさそうな殿下は、私の頭をなでました。

「よく頑張ったね、ミシェル」
「……頑張ったのは殿下のほうですよ。私は補助魔法でお手伝いをしていただけで」

 レベルが上がり、ひとつだけある攻撃魔法が開放されたおかげで、スライム程度ならひとりでも倒せるようになりました。けれどそれも、殿下の努力によって成り立っているのです。

「モンスターが強くなるほど、補助役の重要性が増すことを忘れないでほしいな。俺はいつもミシェルに助けられているよ」

 補助役としてお荷物だと思っていた私でしたが、殿下がいつも大切な役割だと認めて感謝してくれるおかげで、少し自信がついてきました。
 最近では少しでも狩りで役に立ちたいと思うようになり、補助役として必要な立ち回り方を学ぶため、戦術の本を読み漁る日々です。

「けれど、俺も頑張ったと思ってくれるなら、ミシェルに褒めてほしいな」

 殿下は私から離れると、少し屈んで私と目線を合わせました。
 これは殿下が私にしてくれたように、してほしいということでしょうか。

 殿下の髪に触れてみると、見た目の艶やかさ通りにとてもサラ艶な手触りが伝わってきます。

「私のために、いつもありがとうございます。ルシアン殿下」

 頭をなでながら日頃の感謝をしてみると、彼はふにゃりと微笑みました。

 殿下、それは可愛すぎます。
 可愛いもの好きな前世の私を、刺激しないでください。
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