【完結】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?

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05 下位クラスでのミシェル / クラスの子たちとの狩り

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 翌日。
 私には重大な任務がありました。

 殿下は昨日の狩りで、私が授業で使う素材だけではなくクラス全員の分を集めてくれたのです。
 これをクラスの皆に配らなければならないのですが、私には立ちはだかる難題がありました。

 正直に申し上げますと、私はこのクラスで浮いています。
 基礎能力値でいえば中位クラスでも上のほうに位置するはずの私が、実技の不得意さゆえに下位クラスに落ちてしまったのですから、積極的に仲良くなりたいと思う人がいるはずもなく。
 初めは魔法スキル目的でパーティーに誘われることもありましたが、近年では補助役が見つからない場合の最終手段としてしか誘われません。
 授業の実技でもいつも最後に余るので、仕方なく委員長がパーティーに入れてくれます。

 いじめられているわけではありませんが、前世の言葉でいうところの『ぼっち』状態なのです。

 そんな私が皆に素材を配るなんて、できそうにありません。
 申し訳ありませんが、今回も委員長に頼らせていただくことにします。

「おはようございます、委員長。ご相談があるのですが、少しよろしいでしょうか」

 一番前の席で勉強をしていた彼にそう声をかけると、委員長は教科書から顔を上げて私に視線を移しました。

「おはよう。ミシェル嬢から話しかけてくるなんて珍しいね。どうかしたの?」
「実はルシアン殿下からこのクラス全員に、素材の差し入れがありまして」

 そう言いながら、魔道具の圧縮袋から素材をひとつ取り出して委員長に見せると、彼は眉間にシワを寄せました。

「ミシェル嬢は、殿下と親しい間柄だったの?」
「いえ。親しくはありませんが、狩りをご一緒する機会がありまして」
「そう……。それで? 皆に配る勇気がないから、僕に代わってほしいと?」

 妙にほっとした様子の委員長に、適格すぎる私の要件を言い当てられてしまい。申し訳なく思いながらも返事をすると、彼はため息をつきながら教科書を机の下にしまいました。

「相変わらずだね、ミシェル嬢は。いいよ、僕が代わってあげるから素材を全部渡して」

 嫌々ながらも彼は、いつもこうしてクラスの面倒を見てくれるしっかり者の委員長なのです。

 素材を全て渡してからお礼を伝え、感謝の印として素材をひとつ多く彼に渡して席に戻りました。
 これでなんとか、殿下が集めてくれた素材が皆に行き渡りそうで一安心です。


 委員長はチャイムが鳴ってから、全員に事情を説明しつつ素材を配ってくれました。
 男女関係なく人気があるルシアン殿下からの差し入れということで、クラスの皆はとても喜んでくれました。

「ねぇねぇ、ミシェル様はルシアン殿下とよく狩りをするの?」
「これからは、そうなりそうです」

 今までろくに話したこともなかったSR美少女ちゃんが、気さくに話しかけてきて。内心驚きつつもそう返すと、周りにいた子たちも「きゃー!」と騒ぎながら、私を囲むように集まってきました。

「いいないいな! 今度、私も誘ってほしいな!」
「私も私も!」
「ルシアン殿下に、聞いてみますね」

 SRちゃんとRちゃんたちを連れて行けば、ハーレム好きの殿下は喜ぶのでは?
 もしかしたら彼女たちを気に入って、私への興味が薄れるかもしれません。

 これはぜひとも殿下に提案しなければと思っていると、後ろにいた子が急私の肩を掴んできたので、驚いて一瞬肩を震わせてしまいました。

「ミシェルちゃん硬いわ! クラスメイトなんだから、敬語なんていらないのに」
「そうよ、もっと皆と仲良くしましょう」
「私、ミシェルちゃんとお友達になりたいわ!」
「うん……。ありがとう、皆」

 最終学年になるまで学園にお友達がひとりもいなかった私なのに、殿下の手にかかればあっという間にお友達ができてしまうようです。




「それは良かったね。喜んでくれたなら、次回も全員分集めようか」
「ありがとうございます。皆も喜ぶと思います」

 放課後の図書室。
 殿下に教室での話をして、皆がお礼を言っていた。と改めて感謝すると、彼は嬉しそうに私の頭をなでました。

 今までお友達がいなかった話もしてみましたが、殿下は特に気に留める様子もなく。
 「ミシェルがもっとクラスの子と仲良くなれるように、俺も手伝うよ」と、女の子たちが要望していた狩りのお誘いを受けてくれました。

 スライムを倒せなかった時もそうでしたが、彼は私がどんなに残念な姿を見せても、態度を変えたりしないようです。
 そういう目線で人を判断しない殿下だからこそ、王太子の地位を得られたのかもしれません。


「今日も恋愛小説をご希望ですか?」

 続いて殿下の本を選ぼうと思ったのですが、彼は「うーん」と唸りながら何かを考えているようです。

「ミシェルが今までお勧めしてくれた恋愛小説のヒーローは、あまり共通点がないように思うんだけど。ミシェルは、どういうヒーローが好みなの?」
「え……。殿下にお勧めするので、私が可愛いと思ったヒロインが出てくる小説を選んでいましたが……」

 まさかの、まさか。
 殿下は、ヒーロー目的で恋愛小説を読んでいたのですか?
 どうしましょう。私の脳内で、いけない妄想が膨らんでしまいます。

 必死で脳内のそれらを消していると、殿下は額を押さえてため息をつきました。

「そちらの視点だったか……」

 もっと殿下好みのヒーローが出てくる小説を、お勧めするべきでした。図書委員として大失態です。
 シリル様とセルジュ様ではどちらがお好みなのか、尋ねようと口を開きかけると。

「今度は、ミシェルが気に入っている本をお勧めしてほしいな。ジャンルは問わないよ」
「……私ですか?」
「うん。ミシェルが好きなものを共有させてくれないかな」
「はい……」

 意外なリクエストですが、今までお勧めした本については面白かったと思ってくれたということでしょうか。
 ジャンルを問わないのでしたら、お勧めしたい本は山ほどあります。
 私たちが卒業するまでに読める量は限られていますから、何をお勧めしようか吟味しなければ。そう思っただけで、とてもわくわくした気分になれました。





 翌日の放課後。
 殿下は約束通り、下位クラスの女の子たちと一緒に狩りをしてくれることに。
 森の入り口に集まった女の子は、私も入れて十二人。クラスの女子全員です。

 パーティーの定員は五名なので、三回に分けて殿下とパーティーを組んでもらおうと思ったのですが。皆は見学するだけで良いというので、結局は殿下と二人でパーティーを組むことになりました。
 皆は一緒に狩りをしたいというより、殿下が戦っている姿を見たかったようです。

「ミシェル」

 準備も整い森へ入ろうとしたところ。殿下はいつものように私と手を繋ごうとして、手を差し出してきました。
 その手を見ながら、思わず眉間にシワを寄せてしまいます。

「今日は結構です……」

 さすがにクラスメイトの前で手を繋ぐのは、恥ずかしいです。

「皆の前で派手に転ぶよりは良いと思うけど?」
「…………」

 殿下の指摘がごもっとも過ぎて言葉を失っていると、クラスメイトのひとりが「ふふっ」と笑い出しました。

「ミシェルちゃんっていつも実技で、派手につまずいて転ぶよね」
「そうそう。直接は起こしてあげられなかったから、皆で小声で応援していたんだよ」

 まさか私のつまずき癖が、注目を浴びていたとは思いませんでした。
 皆がじろじろ私を見ていたのは、お荷物だという視線ではなかったのですか?
 私はずっと嫌われていると思っていたのに、物凄く見守られていたなんて恥ずかしすぎます。

「ミシェル、どうする?」
「……お世話になります」

 これ以上恥ずかしい思いはしたくないので、おとなしく殿下の手を取ると、なぜか周りからは「きゃー!」っと歓声があがりました。

 それからは歓声の嵐で。
 殿下が剣を抜けば歓声、殿下が剣を振っても歓声、殿下がドロップ品を拾う場面ですら歓声があがります。

 殿下が髪の毛をかきあげた時など、力が抜けたように地面に崩れ落ちる子までいたりして……。
「まだよ! まだ戦いは終わっていないわ!」などと声を掛け合っていますが、彼女たちは何と戦っているのでしょう。

「ミシェルの愛を受け止めて!」
「必ず受け止めるよ」

 殿下が私の魔法スキルに返事をするのは、狩りでのお決まりになってしまっているのですが、これにも歓声があがり殿下はとても気分が良さそうでした。


 日が沈み狩りを終える頃には、女の子たちはすっかり疲れ切った様子でお互いを支え合っていました。
 それでも表情はとても満足そうで。お肌は狩りを始める前よりも、艶やかに見えます。

 強敵を倒した後の達成感を味わっているような雰囲気に包まれながら、私たちは魔の森を後にしました。


「ミシェルちゃん、今日は無理やり誘ってもらっちゃってごめんね。殿下とそういう関係だと思わなくて……」

 別れ際。そう謝ってきたのは、初めに狩りに誘ってほしいと発言した、SRキャラのマリーちゃんでした。
 ショートカットが似合う彼女はいつも元気で明るいキャラです。

 「そういう関係」とは、私がすでにハーレムの人間だと思われているのでしょうか。
 それは心外ですので否定しようと思ったところで、殿下は私の肩を抱いてご自分に引き寄せました。

「これからも、ミシェルをよろしくね」
「はいっ!!」

 殿下がそう微笑めば、女の子たちは頬を染めて返事をします。

 今日は主人公としての殿下を、まざまざと見せつけられたような気がします。
 殿下はこうして、ハーレムを形成していくわけですね。恐れ入りました。


 高揚した様子の女の子たちが、それぞれの馬車に乗り込むのを見守っていると、マリーちゃんが私に向かって振り返りました。

「そうだ、ミシェルちゃん。良かったら明日のお昼は、一緒に学食へ行かない?」
「うん。嬉しい……」
「ふふ、それじゃまた明日ね!」

 手を振って馬車に乗り込むマリーちゃんを見送りながら、私の心臓はドキドキしていました。
 お友達と昼食を一緒に食べるなんて、初めての経験です。今から楽しみで仕方ありません。

「良かったね、ミシェル」
「はい。学食へ行くのは初めてなので、緊張しますが」

 ぼっちな私が、社交場ともいえる学食へ一人で入れるはずもなく。いつも昼食を持参して一人で食べていたのですから、私にとっては大冒険です。

 最終学年にもなり、学食すら行ったことがないなんてあまり言いたくはありませんが、殿下はそいういうことで態度を変えたりしません。
 素直にそう述べると、殿下は私の予想に反して頭を抱えました。

「初めては、俺が誘いたかった……」
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