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27 物語のその後
2 二年後のリズとアレクシス
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それから二年ほどの月日が流れた、ある日の朝。
十九歳となったリズは、魔女の森にある自宅にて朝食の後片付けをしていた。
増築して少しだけ大きくなったリズの実家には現在、リズの母とアレクシスの三人で住んでいる。
先日結婚したばかりのリズとアレクシスは、新居にここを選んだのだ。
母には「私に気を遣う必要はないのよ」と心配されたが、リズとアレクシスにとって何よりも落ち着くのは、庶民の飾らない暮らし。お互いに望んでのことだった。
ちなみに庶民の暮らしはしているが、アレクシスの地位は現在ドルレーツ王国の王子で、リズは王子妃となっている。
っというのもフェリクスが消えた関係で、ドルレーツ王国の後継者が不在となってしまい。国王は、王弟である公王の息子どちらかに王位を譲りたいと申し出たのだ。
その関係で、ベルーリルム公国はドルレーツ王国へと併合され、公王は王弟としてドルレーツ王族へと復帰した。
元々、王弟が国を作った理由は側室が許されなかったから。フェリクスによってその法律が覆されたので、国を分ける必要はなくなったのだ。
「ふふ。アルは今朝も、たくさん食べてくれたなぁ」
完売御礼となった鍋を洗いながら、リズはにこにこしながら夕食のメニューを考え始めた。アレクシスは庶民の食事でも、美味しいと言って平らげてくれるので作り甲斐がある。
そんなアレクシスは今、村人と一緒に畑仕事に出ている。王宮へ出勤する前のわずかな時間だけだが、彼にとっては良い気晴らしになっているようだ。
洗い物を終えたリズは、次に薬を作り始めた。これがここ二年のリズの日課となっている。
調子はかなり良くなっているが、たまに力のバランスが崩れるとアレクシスが心配するので、あと数年は飲み続けるつもりだ。
できあがった薬をコップに注いだリズは、顔をしかめながらそれを見つめた。この薬の効果は絶大だが、味の改良がされていないのでマズいのが難点。
飲むには少々勇気が必要なので、リズは大きく深呼吸した。
そして、決心してコップの中身を一気に飲み干した瞬間、家の扉が開いた。朝日を浴びて銀髪を輝かせながら、アレクシスが家の中へと入ってくる。
「ただいまリズ。薬を飲んでいたの?」
「うん……おかえり」
苦さに耐えながらリズが返事をすると、アレクシスは爽やかな笑みを浮かべてリズの元へと歩み寄ってきた。
「ちょうど良かった。甘いのいる?」
「わぁ! なになに?」
アレクシスは村人から何かもらってきたようだ。なんだろうと期待していると、彼は両手でリズの頬に触れるとそのまま顔を近づけてきた。
「んんっ……!」
井戸で手を洗ったばかりなのか、頬に触れるしっとり冷たい感触と、唇に触れたアレクシスの温かくて柔らかい感触。そしてリズの口の中は、アレクシスのとろけそうな甘さで塗り替えられた。
「苦いの消えただろう?」
「きっ……消えたけど……!」
(『甘い』の意味が違うよ!)
苦い味を受け取っただろうに、アレクシスは熟れた果実でも頬張ったかのように満ち足りた表情で、唇の水分を親指で拭った。
朝っぱらから夫の色気にあてられて、リズは力のバランスなど崩れていないのに視界がくらくらしてきた。
二十二歳となったアレクシスは、あの頃よりも大人の魅力が増しており、リズにとっては刺激が強すぎる。
彼はこの二年で確実に、妹愛の激しい兄から恋愛小説のヒーローへと変貌を遂げていた。
「甘いの足りなかった?」
「もっ……もう大丈夫!」
心臓を落ち着かせるためにリズはアレクシスに背を向けたが、今度は後ろから彼に抱きしめられる。
「僕はもっと欲しかったんだけどな」
リズの耳元で甘えるように囁いた彼は、ねだるように頬や首筋に口づけし始めた。
(もう許してぇぇ!)
この二年で、リズのお子さまぶりはあまり変わっていない。アレクシスと釣り合うように慣れたいとは思っているが、慣れる隙を与えてもらえないのだ。
助けを求めるようにメルヒオールを目で探したが、彼は察しが良すぎるほうきなので、さっさと外にでも出てしまったようだ。
その代わり、開いていた家の扉からリズの母が姿を現した。
「あら、あなた達。まだ出かけていなかったの?」
「リズが可愛すぎて、時間を忘れていました」
リズを抱きしめたまま弾んだ声でそう返すアレクシスに、母は魔花をたっぷりと摘んだカゴをテーブルに置きながら笑みをこぼした。
「ふふ。今日も仲良しで良いわね」
アレクシスはいつもリズにべったりなので、母はもう慣れっこのようだ。周りはすんなりと適応しているのに、リズだけが慣れ遅れている。
「き……今日も、たくさん摘めたんだね」
リズは気を逸らすように、カゴの中の魔花に目を向けた。
なぜかフェリクスが消えて以来、魔女の森では年中魔花が咲くようになったのだ。
きっとフェリクスの仕業なのだろうが、これまで同様に証拠はない。なのでリズ達も、気兼ねなく摘ませてもらっている。
おかげで万能薬を安定供給することができるようになり、今では国外にも多く輸出されている。もしかしたらどこかで、あの二人の手にも渡っているかもしれない。
「今日は魔法薬店に寄るのよね。ミミちゃんに渡してちょうだい」
今では魔法薬店も王都に支店を構えるようになり、ミミはそこの店長を任されている。
「ありがとうお母さん。王都の魔花は乾燥させたのが多いってミミが嘆いていたから、きっと喜ぶよ」
リズとアレクシスは、メルヒオールに乗って元公宮の第二公子宮殿まで行くと、そこから瞬間移動で王都の王宮へと到着した。
これもおそらくフェリクスの仕業なのだろうが、彼が消えた日に王宮と第二公子宮殿が繋がっている場所が見つかり、大騒ぎとなったのだ。
フェリクスが不在となる国がどうなるかを、まるで予想していたかのよう。おかげでリズ達は、公国があった場所に留まりながらドルレーツ王族としての役目も果たせている。
「わぁ、嬉しい! 生の魔花なんて久しぶりだよぉ!」
王都の魔法薬店へと到着すると、予想どおりミミは大袈裟なくらい喜んでくれた。いつも元気いっぱいなのは、王都へ来ても健在だ。
「調子に乗って薬を作りすぎて、体調を崩すなよ。ミシェリーヌ」
横で釘を刺したのはカルステンだ。実はこの二人、リズ達よりも先に結婚したのだ。
二人の関係を知った時のリズは驚いたが、カルステン曰く、ミミは元気が良すぎるので逆に心配になるのだとか。
鏡の中の聖女のヒロインとミミはタイプが違うが、庇護欲をそそられるという意味で、カルステンの好みに合致したらしい。
「私は大丈夫だから心配しないで。カルくんはリズちゃんの護衛に専念してね! リズちゃんに何かあったら私、泣いちゃうから……」
「リゼット殿下はしっかりお守りするから。泣かないで待っていてくれよ……」
カルステンを言いくるめるのが上手いミミは、未来の伯爵夫人として立派にやっていけそうだ。
タジタジになっているカルステンが可愛くて、リズは笑いをこらえながら馬車へと乗り込んだ。
「本日のリゼット殿下のご予定は、大神殿で祈りを捧げた後――」
馬車の中で、リズの予定を確認し始めたのはローラントだ。聖女となったリズは前よりも忙しくなったので、ローラントがスケジュール管理をしてくれている。
ちなみにカルステンは結婚したが、ローラントは独身のままだ。彼はリズの補佐を生きがいにするのだと、張り切っている。
「昼食は一緒に食べられそうだね。その時間になったら、迎えに行くから」
スケジュールを聞いたアレクシスは、ちゃっかりリズの昼食休憩に会う約束をねじ込んだ。それを不服そうな顔で、ローラントは返す。
「アレクシス殿下は少しくらい、俺達兄妹の時間を尊重してくださってもよろしいのでは?」
「僕は我がままだから。例え兄だとしても、愛する妻が他の男といるのが許せないんだ」
アレクシスが兄だった頃は、ローラントと同じ主張でリズを独占していたのに。リズはぽかんとそのやり取りを見つめる。
「殿下は妻の心配より、国の心配をなさったほうがよろしいのでは? 皆、殿下が国王となられることを待ち望んでおりますよ」
ドルレーツ国王は、王弟の息子のどちらかを後継者にと願ったが、具体的にどちらを後継者にするかまではまだ決まっていない。
国民の多くは、アレクシスが次期国王となることを願っている。彼は私生児ではあるが、あのフェリクスを罪に問うことができた唯一の強者。その手腕を期待する声が大きい。
しかしアレクシスは、ずっとそれを拒否し続けている。理由は公王になりたくなかった時と同じで「リズを愛でる時間が減るから」という、なんとも個人的なもの。
しかもそれを実行すべく、弟を国王に仕立て上げるために毎日のように指導に励んでいる。
傲慢だったエディットを良い子に矯正したように、アレクシスなら目的のためならなんでも実現できそうだ。
リズが絡むと、無限の力が湧き出る人だから。
「国民もきっと、聖女であるリズの幸せを願っていると思うんだ。僕はそれに専念しなければならないから、国民もきっとわかってくれるよ」
アレクシスはリズを抱き寄せながら、幸せそうなため息をついた。
「お昼のデートはどこへ行こうか。今から楽しみだね」
リズの顔を覗き込むアレクシスがあまりに可愛くて、リズの心臓はドキドキしてくる。
彼の言うとおり、国民も理解してくれるだろう。これほど無垢な笑顔を向けられたら、誰もが彼の願いを叶えてあげたくなるはずだから。
かつては当て馬の私生児として、宮殿の隅で目立たないように生きてきた彼だが、今では国民から最も信頼を寄せられるヒーローとなった。
アレクシスの性格ならは、もっと早くにその地位を得られたはず。
けれど彼はリズと出会ったことで、やっと本気になれたのだ。
リズに関すること限定ではあるが、むしろリズは彼を独占できていることが、たまらなく嬉しいのだった。
おわり
十九歳となったリズは、魔女の森にある自宅にて朝食の後片付けをしていた。
増築して少しだけ大きくなったリズの実家には現在、リズの母とアレクシスの三人で住んでいる。
先日結婚したばかりのリズとアレクシスは、新居にここを選んだのだ。
母には「私に気を遣う必要はないのよ」と心配されたが、リズとアレクシスにとって何よりも落ち着くのは、庶民の飾らない暮らし。お互いに望んでのことだった。
ちなみに庶民の暮らしはしているが、アレクシスの地位は現在ドルレーツ王国の王子で、リズは王子妃となっている。
っというのもフェリクスが消えた関係で、ドルレーツ王国の後継者が不在となってしまい。国王は、王弟である公王の息子どちらかに王位を譲りたいと申し出たのだ。
その関係で、ベルーリルム公国はドルレーツ王国へと併合され、公王は王弟としてドルレーツ王族へと復帰した。
元々、王弟が国を作った理由は側室が許されなかったから。フェリクスによってその法律が覆されたので、国を分ける必要はなくなったのだ。
「ふふ。アルは今朝も、たくさん食べてくれたなぁ」
完売御礼となった鍋を洗いながら、リズはにこにこしながら夕食のメニューを考え始めた。アレクシスは庶民の食事でも、美味しいと言って平らげてくれるので作り甲斐がある。
そんなアレクシスは今、村人と一緒に畑仕事に出ている。王宮へ出勤する前のわずかな時間だけだが、彼にとっては良い気晴らしになっているようだ。
洗い物を終えたリズは、次に薬を作り始めた。これがここ二年のリズの日課となっている。
調子はかなり良くなっているが、たまに力のバランスが崩れるとアレクシスが心配するので、あと数年は飲み続けるつもりだ。
できあがった薬をコップに注いだリズは、顔をしかめながらそれを見つめた。この薬の効果は絶大だが、味の改良がされていないのでマズいのが難点。
飲むには少々勇気が必要なので、リズは大きく深呼吸した。
そして、決心してコップの中身を一気に飲み干した瞬間、家の扉が開いた。朝日を浴びて銀髪を輝かせながら、アレクシスが家の中へと入ってくる。
「ただいまリズ。薬を飲んでいたの?」
「うん……おかえり」
苦さに耐えながらリズが返事をすると、アレクシスは爽やかな笑みを浮かべてリズの元へと歩み寄ってきた。
「ちょうど良かった。甘いのいる?」
「わぁ! なになに?」
アレクシスは村人から何かもらってきたようだ。なんだろうと期待していると、彼は両手でリズの頬に触れるとそのまま顔を近づけてきた。
「んんっ……!」
井戸で手を洗ったばかりなのか、頬に触れるしっとり冷たい感触と、唇に触れたアレクシスの温かくて柔らかい感触。そしてリズの口の中は、アレクシスのとろけそうな甘さで塗り替えられた。
「苦いの消えただろう?」
「きっ……消えたけど……!」
(『甘い』の意味が違うよ!)
苦い味を受け取っただろうに、アレクシスは熟れた果実でも頬張ったかのように満ち足りた表情で、唇の水分を親指で拭った。
朝っぱらから夫の色気にあてられて、リズは力のバランスなど崩れていないのに視界がくらくらしてきた。
二十二歳となったアレクシスは、あの頃よりも大人の魅力が増しており、リズにとっては刺激が強すぎる。
彼はこの二年で確実に、妹愛の激しい兄から恋愛小説のヒーローへと変貌を遂げていた。
「甘いの足りなかった?」
「もっ……もう大丈夫!」
心臓を落ち着かせるためにリズはアレクシスに背を向けたが、今度は後ろから彼に抱きしめられる。
「僕はもっと欲しかったんだけどな」
リズの耳元で甘えるように囁いた彼は、ねだるように頬や首筋に口づけし始めた。
(もう許してぇぇ!)
この二年で、リズのお子さまぶりはあまり変わっていない。アレクシスと釣り合うように慣れたいとは思っているが、慣れる隙を与えてもらえないのだ。
助けを求めるようにメルヒオールを目で探したが、彼は察しが良すぎるほうきなので、さっさと外にでも出てしまったようだ。
その代わり、開いていた家の扉からリズの母が姿を現した。
「あら、あなた達。まだ出かけていなかったの?」
「リズが可愛すぎて、時間を忘れていました」
リズを抱きしめたまま弾んだ声でそう返すアレクシスに、母は魔花をたっぷりと摘んだカゴをテーブルに置きながら笑みをこぼした。
「ふふ。今日も仲良しで良いわね」
アレクシスはいつもリズにべったりなので、母はもう慣れっこのようだ。周りはすんなりと適応しているのに、リズだけが慣れ遅れている。
「き……今日も、たくさん摘めたんだね」
リズは気を逸らすように、カゴの中の魔花に目を向けた。
なぜかフェリクスが消えて以来、魔女の森では年中魔花が咲くようになったのだ。
きっとフェリクスの仕業なのだろうが、これまで同様に証拠はない。なのでリズ達も、気兼ねなく摘ませてもらっている。
おかげで万能薬を安定供給することができるようになり、今では国外にも多く輸出されている。もしかしたらどこかで、あの二人の手にも渡っているかもしれない。
「今日は魔法薬店に寄るのよね。ミミちゃんに渡してちょうだい」
今では魔法薬店も王都に支店を構えるようになり、ミミはそこの店長を任されている。
「ありがとうお母さん。王都の魔花は乾燥させたのが多いってミミが嘆いていたから、きっと喜ぶよ」
リズとアレクシスは、メルヒオールに乗って元公宮の第二公子宮殿まで行くと、そこから瞬間移動で王都の王宮へと到着した。
これもおそらくフェリクスの仕業なのだろうが、彼が消えた日に王宮と第二公子宮殿が繋がっている場所が見つかり、大騒ぎとなったのだ。
フェリクスが不在となる国がどうなるかを、まるで予想していたかのよう。おかげでリズ達は、公国があった場所に留まりながらドルレーツ王族としての役目も果たせている。
「わぁ、嬉しい! 生の魔花なんて久しぶりだよぉ!」
王都の魔法薬店へと到着すると、予想どおりミミは大袈裟なくらい喜んでくれた。いつも元気いっぱいなのは、王都へ来ても健在だ。
「調子に乗って薬を作りすぎて、体調を崩すなよ。ミシェリーヌ」
横で釘を刺したのはカルステンだ。実はこの二人、リズ達よりも先に結婚したのだ。
二人の関係を知った時のリズは驚いたが、カルステン曰く、ミミは元気が良すぎるので逆に心配になるのだとか。
鏡の中の聖女のヒロインとミミはタイプが違うが、庇護欲をそそられるという意味で、カルステンの好みに合致したらしい。
「私は大丈夫だから心配しないで。カルくんはリズちゃんの護衛に専念してね! リズちゃんに何かあったら私、泣いちゃうから……」
「リゼット殿下はしっかりお守りするから。泣かないで待っていてくれよ……」
カルステンを言いくるめるのが上手いミミは、未来の伯爵夫人として立派にやっていけそうだ。
タジタジになっているカルステンが可愛くて、リズは笑いをこらえながら馬車へと乗り込んだ。
「本日のリゼット殿下のご予定は、大神殿で祈りを捧げた後――」
馬車の中で、リズの予定を確認し始めたのはローラントだ。聖女となったリズは前よりも忙しくなったので、ローラントがスケジュール管理をしてくれている。
ちなみにカルステンは結婚したが、ローラントは独身のままだ。彼はリズの補佐を生きがいにするのだと、張り切っている。
「昼食は一緒に食べられそうだね。その時間になったら、迎えに行くから」
スケジュールを聞いたアレクシスは、ちゃっかりリズの昼食休憩に会う約束をねじ込んだ。それを不服そうな顔で、ローラントは返す。
「アレクシス殿下は少しくらい、俺達兄妹の時間を尊重してくださってもよろしいのでは?」
「僕は我がままだから。例え兄だとしても、愛する妻が他の男といるのが許せないんだ」
アレクシスが兄だった頃は、ローラントと同じ主張でリズを独占していたのに。リズはぽかんとそのやり取りを見つめる。
「殿下は妻の心配より、国の心配をなさったほうがよろしいのでは? 皆、殿下が国王となられることを待ち望んでおりますよ」
ドルレーツ国王は、王弟の息子のどちらかを後継者にと願ったが、具体的にどちらを後継者にするかまではまだ決まっていない。
国民の多くは、アレクシスが次期国王となることを願っている。彼は私生児ではあるが、あのフェリクスを罪に問うことができた唯一の強者。その手腕を期待する声が大きい。
しかしアレクシスは、ずっとそれを拒否し続けている。理由は公王になりたくなかった時と同じで「リズを愛でる時間が減るから」という、なんとも個人的なもの。
しかもそれを実行すべく、弟を国王に仕立て上げるために毎日のように指導に励んでいる。
傲慢だったエディットを良い子に矯正したように、アレクシスなら目的のためならなんでも実現できそうだ。
リズが絡むと、無限の力が湧き出る人だから。
「国民もきっと、聖女であるリズの幸せを願っていると思うんだ。僕はそれに専念しなければならないから、国民もきっとわかってくれるよ」
アレクシスはリズを抱き寄せながら、幸せそうなため息をついた。
「お昼のデートはどこへ行こうか。今から楽しみだね」
リズの顔を覗き込むアレクシスがあまりに可愛くて、リズの心臓はドキドキしてくる。
彼の言うとおり、国民も理解してくれるだろう。これほど無垢な笑顔を向けられたら、誰もが彼の願いを叶えてあげたくなるはずだから。
かつては当て馬の私生児として、宮殿の隅で目立たないように生きてきた彼だが、今では国民から最も信頼を寄せられるヒーローとなった。
アレクシスの性格ならは、もっと早くにその地位を得られたはず。
けれど彼はリズと出会ったことで、やっと本気になれたのだ。
リズに関すること限定ではあるが、むしろリズは彼を独占できていることが、たまらなく嬉しいのだった。
おわり
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