【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

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26 鏡の中の聖女

5 公子様との誓い

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 その日、大神殿では前代未聞の婚約式がおこなわれた。

 公王代理として決定権を与えられていたアレクシスは、あろうことか自分達の婚約を勝手に決めてしまったのだ。

「こんなこともあるかと思って、印章も借りておいて良かったよ」

 嬉しそうに満面に笑みをたたえながら書類に印章を押した際のアレクシスを、リズは一生忘れないだろう。
 これだけの無茶ぶりを見せながらも悪びれもせず、幸せいっぱいな彼の表情が実に可愛かったから。

 小説では決して見ることのなかった、彼の幸せな場面。これからはリズとアレクシスだけの物語の中で、たくさん見ることができるはず。これまでの兄妹としての幸せではなく、愛し合う男女としての幸せを。


 ちなみにリズは、その場でバルリング家の養女となった。アレクシスは公王代理だけではなく、カルステンに当主代理と印章の用意までさせていたらしい。

「まさか、このようなことに使うとは……」

 養女を迎えるための書類に印章を押しながら、カルステンは呆れたようにこぼした。

「カルステン。勝手に私を養女にしちゃって大丈夫……?」

 さすがに、他の家にまで迷惑をかけるのは申し訳ない。リズは心配しながら尋ねたが、カルステンとローラントは受け入れるように交互にリズの頭をなでた。

「問題ございません。時が来たら公女殿下をお預かりしたいと、両親とも話し合っておりましたので」
「邸宅では今頃、リゼット殿下をお迎えするための大改造をしていることでしょう」

 どうやらバルリング家は、リズを迎えることを楽しみにしてくれているようだ。過保護な家族がまた増えそうな予感がする。



「リズ。僕はこれから一生をかけて、リズを幸せにすると誓うよ」

 大神殿の祭壇にて神に報告のお祈りをした際、アレクシスはリズの隣でそう囁いた。

「ふふ。アレクシスったら気が早いよ。それは結婚式で誓う言葉でしょう?」
「早くなんかないよ。僕は今すぐにでもリズを幸せにしたいんだから。その宣言だと思って受け取ってよ」
「そんな宣言しなくても、アレクシスはずっと前から私を幸せにしていると思うよ。アレクシスと出会って私を助けてくれると宣言してくれたおかげで、私の毎日は安心できるものに変わったんだから」

 彼の言葉を信じ切れていなかったリズを説得してまで、アレクシスは一緒に火あぶり回避することを誓ってくれた。
 アレクシスが守ってくれるおかげでリズは、魔女を侮辱する者達に一人で立ち向かう必要がなくなったのだ。

「僕もリズと出会ってから、毎日が幸せに満ちているよ」

 リズという守るべき存在ができたおかげで、無意味に思えたアレクシスの人生が意味のあるものへと変わった。
 リズを守り、幸せにすることこそ、アレクシスの幸せなのだ。

「それじゃ、訂正。僕はこれからも、リズを幸せにし続けるよ」
「うん。私も、アレクシスを幸せにし続けるね」

 その誓いは、二人にしか聞こえない小さなものだった。けれど、仲睦まじく祭壇で見つめ合っている二人の様子は、参列者の目にも印象的に映ったようだ。

 聖女は、真の伴侶と出会った。

 国民に広く知られた物語の結末は、後にそう締めくくられるようになる。
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