【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

廻り

文字の大きさ
上 下
108 / 116
25 王国での宴

1 王太子様の気持ちを確認したい

しおりを挟む

 フェリクスにエスコートされて宴会場に向かっていたリズは、彼に顔を覗き込まれてハッと我に返った。

「他の男のことでも考えていたのか?」
「ばっ……。変なこと言わないでください」
「慌てるところを見ると、図星だろう」
「違います……」

(アレクシスが、あんなふうに甘えるから……)

 あの後リズは、どうしてよいか分からず石化してしまい、アレクシスに笑われたのだ。
 きっとお子様だと思われたに違いない。リズはそれで落ち込んでいた。

「それより、王女殿下はアレクシスとパートナーになるそうですけど……。フェリクスは、私をパートナーに選んで良かったんですか?」
「気に食わないが、他国の貴賓をもてなすのも妻の務めだ。それに今日は、そなたを貴族に紹介せねばならない。俺の婚約者という立場を忘れたわけではないだろうな」

 じっとフェリクスに見つめられて、リズは居心地の悪さを感じた。

(フェリクスにはもう、私が婚約破棄するつもりだと知られているんだよね……)

 それでも粛々と婚約者としての務めを果たしている彼は、一歩も引くつもりはないと言っているように思える。




  二人そろって会場へ入ると、会場内は少し変な雰囲気でリズとフェリクスを迎えた。妙にピリピリしているというか、緊張しているような感じが伝わってくる。

(どうしたんだろう?)

 ドルレーツ王国とベルーリルム公国は、元々一つの国。貴族の態度にさほど違いはないはずだ。
 魔女を嫌っているからだろうかとリズは思ったが、蔑むような視線ではないようだ。どちらかといえば憐れむような。

「聖女様がお可哀そう……」

 微かに聞こえてきた声で、リズは理解した。

(この国の貴族達も、フェリクスの結婚問題には不満なんだ……)

 この国では実際に、フェリクスが側室を迎えるための法改正がされたはず。立場的な問題について反感を持った公国とでは、重みが違うのかもしれない。
 そもそも王弟は側室を許されず、独立して国まで作ったのだ。フェリクスの行動は不誠実と思われても仕方ない。
 
 フェリクスはそのままリズを連れて玉座へと向かうと、自らは玉座の前に立った。
 本来ならそこは国王の席であるが、この国では地位に関係なく常にフェリクスの席であった。
 脇に控えている国王を目にしたリズは、ひどく違和感を覚える。

(王位を譲ってもいない息子に、玉座を譲らなければならないなんて。どんな気分なんだろう……)

 そういえば真っ先に挨拶すべきフェリクスの両親に、紹介すらされていないことにリズは気がつく。

 何世にも渡って記憶を持ち続けている彼にとっては、両親を親とは思えないのだろうか。
 フェリクスの両親は、彼にとっては孫や曾孫でもある。親とは思えなくとも、聖女の魂と再会できた喜びを分かち合いたいとは思わないのか。

 ここへ来てさらに、小説ではわからなかった現実をリズは知ったような気分になる。


 貴族へとリズを紹介したフェリクスは、やはりリズとの婚約式を早めたいと提案してきた。
 リズはその提案を、予定どおりに受け入れた。





「フェリクス。あの約束は覚えてますよね?」

 その後、最初のダンスをフェリクスと踊りながら、リズは探るようにそう尋ねた。リズの思惑を知った彼が、考えを変えていないか心配になったのだ。

「前世を映す鏡に映らなくても、火あぶりにしないという約束か?」

 リズがこくりとうなずくと、フェリクスは懐かしむように目を細めた。

「俺はそなたとの約束を破ったことはない。それは今回も、例外ではない」

 どうやら彼の言うこれまでの約束とは、聖女の魂との約束を指しているようだ。聖女の魂との約束は、破りたくないということなのか。

「そうですか……」

 意外とあっさりとした態度に、リズは拍子抜けする。フェリクスはリズの思惑を知って、それを阻止しようとしているのではないのか?

「ただ。法律は重視させてもらう。この国の統治者として俺は、誰よりも法律に忠実でなければならないからな」

(どういう意味だろう……)

 魔女に関しては、根拠なく罰してはならないと法律で定められている。それに加えてフェリクスは、前世を映す鏡にリズ達が映らなくても罪に問わないと宣言してくれた。

 法律上は何も問題ないはずだが、フェリクスは何を言いたかったのだろうか。



 ダンスを終えてフェリクスから開放されたリズは、真っ先にそのことを報告しにアレクシスの元へと向かった。
 しかし、彼のそばにたどり着く前に、物凄い音でガラスが割れる音が聞こえてきた。

「キャー!」
「魔獣だー!」

 窓側にいた貴族達の叫び声とともに、会場内へ一匹の鳥型魔獣が押し入ってきたのだ。
 その魔獣は、一直線にとある方向へと突撃しようとしている。
 その先にいる人物が誰であるか気づいたリズは、慌てて駆けだした。

「アレクシス!!」

 剣さえあれば、アレクシスやバルリング兄弟によって魔獣と対峙することができたであろうが、会場内は剣の持ち込みが禁止されている。

 そのことを、この一瞬でリズが思い出して駆けだしたわけではない。
 前世の死因がそうであったように、目の前で危険に晒されている大切な者がいれば、反射的にかばってしまうのがリズの性格だ。

「リズ! 来るな!」

 リズの叫び声で気が付いたアレクシスが、必死な表情でリズに止まるよう叫び返したが、リズの動きを止めることはできない。
 リズはひたすらアレクシスをかばいたい一心で、彼の胸に飛び込んだ。

 アレクシスに抱きついた勢いで、彼を床へと押し倒したリズ。
 そのままの状態で、魔獣の攻撃に対して身構えた。

 しかし、魔獣の断末魔のような鳴き声とともに、辺りはシンっと静まりかえる。
 一向に衝撃が与えられないので、リズは固く閉ざしていた瞳を薄っすら開いてみた。

(あ…………あれ?)

 とりあえずアレクシスは、無事のようだ。
 彼の顔を真っ先に確認したリズは、痛みは感じていない様子の彼にホッとする。
 けれどアレクシスはどこかを凝視しており、目を見開いて驚いているのだ。誰かが魔獣を倒してくれたのだとしても、それほど驚くとは思えない。

「…………リズ。これは……?」

 リズの顔も見ずに、アレクシスはそう呟いた。

「…………えっ?」

 何がだろうと思いながら、リズもアレクシスの視線の先へ振り返ってみる。

「えっ……。なにこれ……?」

 目に映ったのは、透明のドームのようなもの。
 無数の六角形の膜で形成されているようで、うっすら光を帯びていることで、それがドームだと認識できる。
 そのドームはリズとアレクシスだけではなく、バルリング兄弟やエディットまですっぽりと覆っていた。

「魔獣は……?」

 再びリズが質問すると、アレクシスは呆けた顔で「それに触れた瞬間、掻き消えたよ……」と呟いた。

(魔獣を消し去れるドームって、まさか……)

 公宮図書館で借りた本の中に、これと似たような現象が記載されていた。そしてリズが借りた本は『鏡の中の聖女』しかない。
 それを口にしようとした瞬間、周りの貴族から声が上がった。

「聖女だ! 聖女の力が発現したんだ!」
「公女殿下は紛れもなく、聖女の魂をお持ちなのだわ!」

(ウソ……でしょ……)

 聖女の力はどの世でも必ず発現するものではないし、ましてやリズに聖女の力が発現するはずがない。前世で読んだ小説は、そのようなストーリーではなかったのだから。

 信じられない気持ちでリズは立ち上がろうとした。
 しかし膝立ちになった瞬間、ぐらりと視界が揺れる。

 起き上がっていられないほどの眩暈に襲われたリズは、アレクシスの胸に崩れ落ちた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されたくて悪役令嬢になりました ~前世も今もあなただけです~

miyoko
恋愛
前世で大地震に巻き込まれて、本当はおじいちゃんと一緒に天国へ行くはずだった真理。そこに天国でお仕事中?という色々と規格外の真理のおばあちゃんが現れて、真理は、おばあちゃんから素敵な恋をしてねとチャンスをもらうことに。その場所がなんと、両親が作った乙女ゲームの世界!そこには真理の大好きなアーサー様がいるのだけど、モブキャラのアーサー様の情報は少なくて、いつも悪役令嬢のそばにいるってことしか分からない。そこであえて悪役令嬢に転生することにした真理ことマリーは、十五年間そのことをすっかり忘れて悪役令嬢まっしぐら?前世では体が不自由だったせいか……健康な体を手に入れたマリー(真理)はカエルを捕まえたり、令嬢らしからぬ一面もあって……。明日はデビュタントなのに……。いい加減、思い出しなさい!しびれを切らしたおばあちゃんが・思い出させてくれたけど、間に合うのかしら……。 ※初めての作品です。設定ゆるく、誤字脱字もあると思います。気にいっていただけたらポチッと投票頂けると嬉しいですm(_ _)m

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。  手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。 大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。 成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで? 歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった! 出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。 騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる? 5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。 ハッピーエンドです。 完結しています。 小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

処理中です...