【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

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23 魔力の減少期

3 理由を教えてほしいんです。公子様

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「それで、リズ。正直に話してくれるよね?」

 急ぎ準備を整えたリズ達は、その日の夕方に公宮を出発した。馬車の中でやっと一息つける状況となったリズだが、なぜかアレクシスの膝の上に乗せられて顔を突き合わせている状態だ。
 アレクシスに頬をむにむに弄ばれ、リズは恥ずかしさの限界点に達する。

「わっわかったから、まずは放して!」

 アレクシスの腕を掴んでそう叫ぶと、彼はにこりと微笑みながらリズの頬から手を放した。そしてリズに話すよう目で合図するので、リズはやっと話を始めた。

 あの日は、フェリクスと魔法薬店を視察し、万能薬を実際に作って見せた。魔力を流しながらかき混ぜる作業が難しいと知ったフェリクスは、簡単にできるよう鍋に魔法陣を付与してくれたのだ。

「つまり、初めの一つはあいつの善意だったけれど、後の九つの鍋は対価が必要だったと」
「そいういうことです……」

 リズがうなずくと、アレクシスはため息をつきながらリズを抱き寄せた。疲れたので癒されたい。そんな雰囲気だ。

(またクッションにされてる……)

「もっと早く言ってくれたら、あいつが帰る時に金貨を押し付けたのに」
「ごめんなさい。まさかこんな手段を使って来るとは思っていなくて」

 今までのフェリクスは強引ではあったが、それなりにリズの気持ちを尊重してくれていた。これほど一方的に要求を突き付けてくるとは思ってもみなかったこと。
 これもリズが、ヒロインのポジションから遠ざかっている影響なのかもしれない。

「あいつはリズが思っているより、危険な手段を使う男だ。婚約破棄できるからって安心してはいけないよ」
「うん……」

 フェリクスが強引にリズを呼び寄せたということは、次は強引に婚約式をおこないたいのだろう。フェリクスの願いは、来世のためにリズを手に入れることだから。

「ねぇ。私、本当にフェリクスと婚約破棄できるのかな?」

 急に不安になってきたリズは、アレクシスの背中に腕を回しながらそう呟いた。これだけ強引な手段を取られると、婚約破棄を回避できる手段も持っているのではないかと思えてくる。

「大丈夫だよ。僕が必ず婚約破棄させるから」

 アレクシスは明るい声色で、リズを安心させるように背中をさすってくれた。
 それだけでリズの心は、陽だまりの中にいるように温かくなる。

(やっぱり私、アレクシスのことが好きなのかも)

 同じ言葉を他の者から聞いても、このような温かい気持ちにはならなかっただろう。
 アレクシスだからこそ、安心できるし、全てを委ねたい気持ちになる。

 それに温かいどころか、少し暑いくらいだ。リズのためにアレクシスががんばってくれていると思うだけで、ドキドキしてしまう。

 アレクシスを意識し出した途端に、ソワソワした気持ちになったリズは、やはり今朝のことが気になり始める。彼はどのような気持ちで、リズをデートに誘ったのか。

 結局はそのデートも中止となってしまったが、せめて理由だけでも知りたい。

「あの……アレクシス。聞きたいことがあるの……」

 抱きついていたアレクシスから離れて、意を決してリズは尋ねる。

「いいけど、顔が赤いよ。魔力の減少期の影響?」

 けれどアレクシスに顔を覗き込まれ、頬や額に触れて熱を測られると、リズの決意はすぐにガタガタに崩れた。
 彼は純粋にリズを心配しているのだろうが、あまり触れられるとドキドキしすぎて力が抜ける。

「ぜ……ぜんぜん元気だよ。そうじゃなくて……その……えっと」
「ちゃんと聞くから。ゆっくり、落ち着いて話して」

 慌てている様子のリズを見かねたのか、アレクシスは落ち着かせるようにリズの背中をぽんぽんなでる。

(ああ……。理由を聞くだけなのに、アレクシスにお世話されちゃってるよう……)

 今でこんな状態なら、彼に告白する日が来たならどれだけ迷惑をかけるのだろうか。
 これほど自分に、不甲斐ない部分があったとは。リズ自身、驚きだ。

 リズは深呼吸してなんとか心を落ち着かせてから、もう一度覚悟を決めた。

「……あのね。今朝は、どうしてデートに誘ってくれたの?」

 真剣な眼差しで尋ねると、アレクシスは少し驚いたように目を見開いた。

(あっ……)

 彼にとっては、さほど意味は無かったのだろうか。
 期待するような質問をされて、困っているのかもしれない。

(やっぱり、聞くんじゃなかった……)

 沈黙の中で、リズは後悔ばかりが心に浮かぶ。

 仲の良い兄妹関係まで崩れてしまわないか心配になっていると、アレクシスはリズの手に触れた。
 そのまま手を組み合わせながら、彼ははにかむように微笑んだ。 

「リズとの関係を、進めたかったから。かな」

 リズは心臓を押さえたくなるほど、ドキドキしているのを感じた。
 アレクシスも、女性として自分に興味を持ってくれていたのだ。そう思っただけで、天にも昇れるほど嬉しい気持ちでいっぱいになる。

 アレクシスはもう一度リズを抱き寄せてから、耳元で囁いた。

「公国へ戻ったら、改めてデートしようね」

 愛の告白ではない。二人の関係を一歩進めるための約束。
 アレクシスはそれ以上は何も言わなかったが、リズはそれだけで胸がいっぱいになった。
 
「うん……。約束だよ」
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