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22 戻ってきた日常?
4 公女としての役目
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到着した湖は、普段は常駐している者いないのでとても静かだ。
「おそらくこちら側は、ローラントも探していないはずです」
あの日、ローラントはやはり魔花を探しに行っていたようで、小さなブーケ程度の魔花をリズにプレゼントしてくれた。そのローラントが探していないであろう辺りを、リズとカルステンは捜索しようとしたが。
遊歩道に入ろうとした二人は、ぴたりと動きが止まる。
「遊歩道が舗装されてる……。アレクシス、本当に実行したんだ……」
「さすが公子殿下。仕事が早いですね」
仕事が早いどころの話ではない。この広大な敷地の遊歩道を全て舗装したなら、かなりの人員を投入したに違いない。
(アレクシスの過保護が加速してない?)
リズがすぐに、ここを再び訪れるとも限らないのにやりすぎだ。
しかし実際にリズが訪れる前に、舗装工事は完了している。アレクシスには、リズの行動を予知する能力でもあるのかもしれない。
遊歩道に入って魔花を探し始めた二人だが、見つけたのは枯れた魔花ばかりで咲いているものはなかなか見つけられない。カルステンは枯れた魔花を拾い上げて眉間にシワを寄せた。
「ピクニックへ来た日は、もっと見つける頻度が高かったのですが。数日でこれほど変わるものですか?」
その疑問は当然のことだが、魔花を見つけられない理由もリズには推測できる。
「本当なら魔力の減少期は、魔花がたくさん咲いている時期に起こるの。そして魔花は、空気中で足りなくなった魔力を補うために、地中から吸い取った魔力を、空気中に放出して枯れるって言われているんだぁ」
「それじゃ、これらは魔力を放出して枯れてしまったのですか?」
「たぶんね。今まではあまり気にならなかったけれど、魔花が少ない時期だとやっぱり目立つね……」
そして魔花が魔力を放出することで、魔力の減少期は収束すると言われている。
今のように魔花があまり咲いていない時期では、いつ収束するのだろう。リズは先の見えない不安に駆られる。
(もっと遠くへ、探しに行ったほうが良いかも……)
魔力の減少期はそれほど広範囲で起こるものではない。せいぜい大きな領地ひとつ分程度。公国にとっては国がひとつ分だが、国境付近までいけば影響は小さくなっている可能性がある。
それをカルステンに伝えようとリズが口を開きかけると、遠くからリズを呼ぶ声が聞こえてきた。
「リズ!」
「わぁ、アレクシスだ!」
頼りになる兄の登場に、リズは嬉しくなって駆け寄ろうとした。が、馬車でのカルステンとの会話を思い出して、急に顔が熱くなる。
おろおろしながら隠れる場所を探したが、あいにく遊歩道の脇は草地。なす術がないリズは、ふよふよと浮いていたメルヒオールを掴みとって穂先で顔を隠した。
「リズ……? メルヒオールがどうかした?」
急にほうきを見せられる恰好になったアレクシスは、首を傾げながらリズの顔を横から覗き込んだ。
「へっ? メッ……メルヒオールの穂先は今日も可愛いでしょ?」
なんだかよくわからないが、穂先を褒められている。メルヒオールは自慢するように穂先をふりふりさせた。
「うん、そうだね。メルヒオールの仕草にはいつも癒されるよ」
穂先をアレクシスになでられたメルヒオールは、甘えるようにアレクシスに飛びつく。
せっかく隠れ蓑にしていた相棒がリズから離れてしまったので、リズは「あっ……」と声を上げた。
不思議そうにアレクシスに観察され、リズはますます居場所に困る。
すると後ろからカルステンが、楽しそうな声色でアレクシスに話しかけてきた。
「公子殿下、こちらまでご足労いただき申し訳ございません」
「構わないよ。それより報告は聞いたけれど……、対処できそう?」
「今のところ、見つけられた魔花は一本だけです……」
すぐに真面目な雰囲気に戻ったカルステンは、先ほど見つけた一本をアレクシスへと手渡した。
「あの……アレクシス。国境付近まで行けば、まだ咲いているかもしれないから行きたいの」
「国境へ?」
リズはこくりとうなずくと、魔花の特性や魔力の減少期についての説明をした。
「その理由なら、国境付近は無事かもしれないね。けれど、それは他の者に馬で行かせよう」
「でも、私が行ったほうが早いよ?」
「そうだけれど、リズも魔力の減少期の影響は少なからず受けるんだろう? 大切な人には無理をさせたくない」
優しい瞳をリズに向けたアレクシスは、丁寧な仕草でリズの頭をなでた。
(今……、大切な人って言った?)
リズは再び顔の熱を感じて、それを隠すようにうなずきながら下を向く。『妹』と言われなかっただけで、これほど嬉しい気持ちになるとは。自分自身でも考えていなかった。
「それにリズには、できれば会議に出席してほしいんだ」
「会議?」
公宮では現在、謎の病に関する緊急の会議が開かれている。しかしこの病を知る者が貴族の中にはおらず、公女であり魔女でもあるリズの意見を聞こうということになったようだ。
(そっか……。私はもう公女だから、誰でもできるような仕事はお任せして、公女としての役目を果たさなければならないんだ)
他の魔女では、公宮でおこなわれる会議には出席させてもらえない。公女であるリズだからこそ、魔力の減少期について説明することができる。
「無理そうなら、僕が代弁するよ?」と心配そうに見つめるアレクシスに対しては、リズは笑顔で首を左右に振った。
「ううん。私、やってみるよ」
「おそらくこちら側は、ローラントも探していないはずです」
あの日、ローラントはやはり魔花を探しに行っていたようで、小さなブーケ程度の魔花をリズにプレゼントしてくれた。そのローラントが探していないであろう辺りを、リズとカルステンは捜索しようとしたが。
遊歩道に入ろうとした二人は、ぴたりと動きが止まる。
「遊歩道が舗装されてる……。アレクシス、本当に実行したんだ……」
「さすが公子殿下。仕事が早いですね」
仕事が早いどころの話ではない。この広大な敷地の遊歩道を全て舗装したなら、かなりの人員を投入したに違いない。
(アレクシスの過保護が加速してない?)
リズがすぐに、ここを再び訪れるとも限らないのにやりすぎだ。
しかし実際にリズが訪れる前に、舗装工事は完了している。アレクシスには、リズの行動を予知する能力でもあるのかもしれない。
遊歩道に入って魔花を探し始めた二人だが、見つけたのは枯れた魔花ばかりで咲いているものはなかなか見つけられない。カルステンは枯れた魔花を拾い上げて眉間にシワを寄せた。
「ピクニックへ来た日は、もっと見つける頻度が高かったのですが。数日でこれほど変わるものですか?」
その疑問は当然のことだが、魔花を見つけられない理由もリズには推測できる。
「本当なら魔力の減少期は、魔花がたくさん咲いている時期に起こるの。そして魔花は、空気中で足りなくなった魔力を補うために、地中から吸い取った魔力を、空気中に放出して枯れるって言われているんだぁ」
「それじゃ、これらは魔力を放出して枯れてしまったのですか?」
「たぶんね。今まではあまり気にならなかったけれど、魔花が少ない時期だとやっぱり目立つね……」
そして魔花が魔力を放出することで、魔力の減少期は収束すると言われている。
今のように魔花があまり咲いていない時期では、いつ収束するのだろう。リズは先の見えない不安に駆られる。
(もっと遠くへ、探しに行ったほうが良いかも……)
魔力の減少期はそれほど広範囲で起こるものではない。せいぜい大きな領地ひとつ分程度。公国にとっては国がひとつ分だが、国境付近までいけば影響は小さくなっている可能性がある。
それをカルステンに伝えようとリズが口を開きかけると、遠くからリズを呼ぶ声が聞こえてきた。
「リズ!」
「わぁ、アレクシスだ!」
頼りになる兄の登場に、リズは嬉しくなって駆け寄ろうとした。が、馬車でのカルステンとの会話を思い出して、急に顔が熱くなる。
おろおろしながら隠れる場所を探したが、あいにく遊歩道の脇は草地。なす術がないリズは、ふよふよと浮いていたメルヒオールを掴みとって穂先で顔を隠した。
「リズ……? メルヒオールがどうかした?」
急にほうきを見せられる恰好になったアレクシスは、首を傾げながらリズの顔を横から覗き込んだ。
「へっ? メッ……メルヒオールの穂先は今日も可愛いでしょ?」
なんだかよくわからないが、穂先を褒められている。メルヒオールは自慢するように穂先をふりふりさせた。
「うん、そうだね。メルヒオールの仕草にはいつも癒されるよ」
穂先をアレクシスになでられたメルヒオールは、甘えるようにアレクシスに飛びつく。
せっかく隠れ蓑にしていた相棒がリズから離れてしまったので、リズは「あっ……」と声を上げた。
不思議そうにアレクシスに観察され、リズはますます居場所に困る。
すると後ろからカルステンが、楽しそうな声色でアレクシスに話しかけてきた。
「公子殿下、こちらまでご足労いただき申し訳ございません」
「構わないよ。それより報告は聞いたけれど……、対処できそう?」
「今のところ、見つけられた魔花は一本だけです……」
すぐに真面目な雰囲気に戻ったカルステンは、先ほど見つけた一本をアレクシスへと手渡した。
「あの……アレクシス。国境付近まで行けば、まだ咲いているかもしれないから行きたいの」
「国境へ?」
リズはこくりとうなずくと、魔花の特性や魔力の減少期についての説明をした。
「その理由なら、国境付近は無事かもしれないね。けれど、それは他の者に馬で行かせよう」
「でも、私が行ったほうが早いよ?」
「そうだけれど、リズも魔力の減少期の影響は少なからず受けるんだろう? 大切な人には無理をさせたくない」
優しい瞳をリズに向けたアレクシスは、丁寧な仕草でリズの頭をなでた。
(今……、大切な人って言った?)
リズは再び顔の熱を感じて、それを隠すようにうなずきながら下を向く。『妹』と言われなかっただけで、これほど嬉しい気持ちになるとは。自分自身でも考えていなかった。
「それにリズには、できれば会議に出席してほしいんだ」
「会議?」
公宮では現在、謎の病に関する緊急の会議が開かれている。しかしこの病を知る者が貴族の中にはおらず、公女であり魔女でもあるリズの意見を聞こうということになったようだ。
(そっか……。私はもう公女だから、誰でもできるような仕事はお任せして、公女としての役目を果たさなければならないんだ)
他の魔女では、公宮でおこなわれる会議には出席させてもらえない。公女であるリズだからこそ、魔力の減少期について説明することができる。
「無理そうなら、僕が代弁するよ?」と心配そうに見つめるアレクシスに対しては、リズは笑顔で首を左右に振った。
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