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22 戻ってきた日常?
2 私がしたんですか!?
しおりを挟む彼は、フェリクス達を国境まで送るための護衛任務に当たっていたので、会うのは数日ぶりだ。
「ただいま戻りました、リゼット殿下。お出かけされるのですか?」
「魔法薬店の準備に行くところだよ」
「それでは、護衛致しますね」
「ローラントは疲れていると思うし、ゆっくり休んで。護衛はカルステンに頼むから」
にっこり微笑んだリズは、すぐにアレクシスの部屋から出て行った。
その姿を名残惜しそうに見つめたローラントは、それからアレクシスへと視線を向ける。
「リゼット殿下は、随分とご機嫌でしたね。何かございましたか?」
「ローラントが見てもそう思う? 僕とデートの約束をしたのが嬉しいみたい」
「寝る間も惜しんで調査してきた者に対して、酷い仕打ちですね」
「自分から聞いてきたんだろう。それより、どうだった?」
アレクシスが向かいのソファに座るよう目で合図すると、ローラントは疲れたようにドサッと腰を下ろした。それからテーブルの隅にあったティーポットを手に取ると、勝手にカップに注いで一気に飲み干した。
「やはり殿下の予想どおり、王太子殿下は王女殿下をフラル王国へは送り届けずに、ドルレーツ王国へと連れ帰りました。フラル国王を尋ねてみたところ、すでに情報が入っていたようで、大層ご立腹でしたよ」
「だろうね。フラルも歴史ある国だし、いくら相手が建国の大魔術師とはいえ、側室は受け入れられないだろう。あの話はしてくれた?」
「はい。側室入りを拒否するための絶好のネタがあると話したところ、興味を示してくれました」
アレクシスはイタズラでも仕掛けるように、やんちゃな笑みを浮かべた。
「それじゃリズの婚約式には、フラル国王も招待してもらわなければね」
「ところで、そのネタとは何ですか?」
「詳しくは言えないけれど、ローラントは懐かしくなると思うよ」
アレクシスは当日まで、ネタを明かすつもりはないようだ。懐かしいとはなんだろう? と、ローラントは考え込んだ。
「それより、ローラントに頼みたい仕事があるんだ。ここにある手紙を全て確認して、リズが安心して読めるものと、協力的な貴族の手紙だけを整理してくれないかな」
「先ほどリゼット殿下は、俺にゆっくり休めとおっしゃいましたが」
任務から戻ったばかりのローラントは、ぐったりしながらアレクシスを見つめる。するとアレクシスは、リズ宛の手紙の一枚をひらひらさせなが、彼に渡した。
「それを読んでもまだ、そんなことが言えるの?」
アレクシスが渡した手紙は、リズ宛のデートの誘い。それだけで、疲れているローラントを動かす原動力には十分だったようだ。
「喜んで、任務に当たらせていただきます」
カルステンと馬車に乗り込んだリズは、早く夕方にならないかなと思いなが、窓から空を眺めていた。
今はまだ、お昼前。夕方までにはたっぷりと時間がある。今からソワソワしているリズを見て、カルステンが不思議そうに声を掛けた。
「公女殿下、何か嬉しいことでもございましたか?」
「ふふ。実は今日の夜に、アレクシスとデートするの」
「ほう」
リズを観察するようにしながら相槌を打ったカルステンは、「お二人の間に進展でもございましたか?」と尋ねる。
「進展? 兄妹としての絆は深まったかな? アレクシスが前に『お兄ちゃん大好き』なままでいてほしいって言っていたから、私も『妹、大好き』なままでいてほしいって伝えたの」
「それは、つまり。お互いに想い人への気持ちを、伝えあったことになるのでは?」
真剣な表情でそう指摘され、リズは「へっ……?」と間抜けな声をあげた。
「でっでも……、兄と妹だよ。『大好き』って言い合っても、普通はそうならないでしょう?」
焦るリズに対して、カルステンは「はぁ」と溜息をついた。
「お二人は血の繋がりはございませんが、現状は兄妹です。直接的な表現を避けなければならないご関係の場合には、遠回しに伝え合うんです。貴族の常識です」
「うそ……。そんなの知らないよ。バルリング伯爵夫人から習ってないよ……! それに、本当に兄妹としての愛情表現とごっちゃになっちゃうじゃない。見分けがつかないよ……?」
「それは、その時々の雰囲気でご判断ください。殿下はどのようなタイミングで、大好きでいてほしいとお伝えしたんですか?」
カルステンがまるで恋愛の先生のようなので、リズは素直にその時の状況を説明する。すると、カルステン先生からの明確な回答があった。
「他の令嬢からのラブレターを読まれたくなくて、そのような発言をなさったのでしたら、そのまま愛の告白をしたようなものではありませんか」
「そんな……」
あの時のリズは、単にアレクシスを独占したいという欲に駆られただけ。
妹以上に見てほしいという気持ちが、なかったわけではないが、告白のつもりでの発言ではない。
「アレクシス殿下は、どのようなご反応でしたか?」
さらに先生からの質問があり、リズはあの時の状況を思い返す。
「私の気持ちはしっかりと受け止めたと、いつものように過剰に喜んで……。それから私に抱きついてきて、デートしようかって……」
(あれ? これって、告白して両想いになった二人が、初デートする流れじゃない?)
アレクシスがいつもどおりの反応だったので気が付かなかったが、流れだけをまとめると、リズにも理解できる。
「どうしようカルステン……。私、アレクシスに告白しちゃったの? アレクシスはそのつもりでデートに誘ってくれたの?」
自分の気持ちも整理できていないのに、展開が早すぎる。リズは涙目になりながら先生に縋る。
カルステン先生は、優しく生徒を見守るような視線をリズに向けた。
「これはあくまで、俺の推測ですから。本心は、ご本人からお聞きください」
(途中で生徒を見捨てるなんて、先生失格だよ……!)
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