98 / 116
22 戻ってきた日常?
2 私がしたんですか!?
しおりを挟む彼は、フェリクス達を国境まで送るための護衛任務に当たっていたので、会うのは数日ぶりだ。
「ただいま戻りました、リゼット殿下。お出かけされるのですか?」
「魔法薬店の準備に行くところだよ」
「それでは、護衛致しますね」
「ローラントは疲れていると思うし、ゆっくり休んで。護衛はカルステンに頼むから」
にっこり微笑んだリズは、すぐにアレクシスの部屋から出て行った。
その姿を名残惜しそうに見つめたローラントは、それからアレクシスへと視線を向ける。
「リゼット殿下は、随分とご機嫌でしたね。何かございましたか?」
「ローラントが見てもそう思う? 僕とデートの約束をしたのが嬉しいみたい」
「寝る間も惜しんで調査してきた者に対して、酷い仕打ちですね」
「自分から聞いてきたんだろう。それより、どうだった?」
アレクシスが向かいのソファに座るよう目で合図すると、ローラントは疲れたようにドサッと腰を下ろした。それからテーブルの隅にあったティーポットを手に取ると、勝手にカップに注いで一気に飲み干した。
「やはり殿下の予想どおり、王太子殿下は王女殿下をフラル王国へは送り届けずに、ドルレーツ王国へと連れ帰りました。フラル国王を尋ねてみたところ、すでに情報が入っていたようで、大層ご立腹でしたよ」
「だろうね。フラルも歴史ある国だし、いくら相手が建国の大魔術師とはいえ、側室は受け入れられないだろう。あの話はしてくれた?」
「はい。側室入りを拒否するための絶好のネタがあると話したところ、興味を示してくれました」
アレクシスはイタズラでも仕掛けるように、やんちゃな笑みを浮かべた。
「それじゃリズの婚約式には、フラル国王も招待してもらわなければね」
「ところで、そのネタとは何ですか?」
「詳しくは言えないけれど、ローラントは懐かしくなると思うよ」
アレクシスは当日まで、ネタを明かすつもりはないようだ。懐かしいとはなんだろう? と、ローラントは考え込んだ。
「それより、ローラントに頼みたい仕事があるんだ。ここにある手紙を全て確認して、リズが安心して読めるものと、協力的な貴族の手紙だけを整理してくれないかな」
「先ほどリゼット殿下は、俺にゆっくり休めとおっしゃいましたが」
任務から戻ったばかりのローラントは、ぐったりしながらアレクシスを見つめる。するとアレクシスは、リズ宛の手紙の一枚をひらひらさせなが、彼に渡した。
「それを読んでもまだ、そんなことが言えるの?」
アレクシスが渡した手紙は、リズ宛のデートの誘い。それだけで、疲れているローラントを動かす原動力には十分だったようだ。
「喜んで、任務に当たらせていただきます」
カルステンと馬車に乗り込んだリズは、早く夕方にならないかなと思いなが、窓から空を眺めていた。
今はまだ、お昼前。夕方までにはたっぷりと時間がある。今からソワソワしているリズを見て、カルステンが不思議そうに声を掛けた。
「公女殿下、何か嬉しいことでもございましたか?」
「ふふ。実は今日の夜に、アレクシスとデートするの」
「ほう」
リズを観察するようにしながら相槌を打ったカルステンは、「お二人の間に進展でもございましたか?」と尋ねる。
「進展? 兄妹としての絆は深まったかな? アレクシスが前に『お兄ちゃん大好き』なままでいてほしいって言っていたから、私も『妹、大好き』なままでいてほしいって伝えたの」
「それは、つまり。お互いに想い人への気持ちを、伝えあったことになるのでは?」
真剣な表情でそう指摘され、リズは「へっ……?」と間抜けな声をあげた。
「でっでも……、兄と妹だよ。『大好き』って言い合っても、普通はそうならないでしょう?」
焦るリズに対して、カルステンは「はぁ」と溜息をついた。
「お二人は血の繋がりはございませんが、現状は兄妹です。直接的な表現を避けなければならないご関係の場合には、遠回しに伝え合うんです。貴族の常識です」
「うそ……。そんなの知らないよ。バルリング伯爵夫人から習ってないよ……! それに、本当に兄妹としての愛情表現とごっちゃになっちゃうじゃない。見分けがつかないよ……?」
「それは、その時々の雰囲気でご判断ください。殿下はどのようなタイミングで、大好きでいてほしいとお伝えしたんですか?」
カルステンがまるで恋愛の先生のようなので、リズは素直にその時の状況を説明する。すると、カルステン先生からの明確な回答があった。
「他の令嬢からのラブレターを読まれたくなくて、そのような発言をなさったのでしたら、そのまま愛の告白をしたようなものではありませんか」
「そんな……」
あの時のリズは、単にアレクシスを独占したいという欲に駆られただけ。
妹以上に見てほしいという気持ちが、なかったわけではないが、告白のつもりでの発言ではない。
「アレクシス殿下は、どのようなご反応でしたか?」
さらに先生からの質問があり、リズはあの時の状況を思い返す。
「私の気持ちはしっかりと受け止めたと、いつものように過剰に喜んで……。それから私に抱きついてきて、デートしようかって……」
(あれ? これって、告白して両想いになった二人が、初デートする流れじゃない?)
アレクシスがいつもどおりの反応だったので気が付かなかったが、流れだけをまとめると、リズにも理解できる。
「どうしようカルステン……。私、アレクシスに告白しちゃったの? アレクシスはそのつもりでデートに誘ってくれたの?」
自分の気持ちも整理できていないのに、展開が早すぎる。リズは涙目になりながら先生に縋る。
カルステン先生は、優しく生徒を見守るような視線をリズに向けた。
「これはあくまで、俺の推測ですから。本心は、ご本人からお聞きください」
(途中で生徒を見捨てるなんて、先生失格だよ……!)
10
お気に入りに追加
486
あなたにおすすめの小説
愛されたくて悪役令嬢になりました ~前世も今もあなただけです~
miyoko
恋愛
前世で大地震に巻き込まれて、本当はおじいちゃんと一緒に天国へ行くはずだった真理。そこに天国でお仕事中?という色々と規格外の真理のおばあちゃんが現れて、真理は、おばあちゃんから素敵な恋をしてねとチャンスをもらうことに。その場所がなんと、両親が作った乙女ゲームの世界!そこには真理の大好きなアーサー様がいるのだけど、モブキャラのアーサー様の情報は少なくて、いつも悪役令嬢のそばにいるってことしか分からない。そこであえて悪役令嬢に転生することにした真理ことマリーは、十五年間そのことをすっかり忘れて悪役令嬢まっしぐら?前世では体が不自由だったせいか……健康な体を手に入れたマリー(真理)はカエルを捕まえたり、令嬢らしからぬ一面もあって……。明日はデビュタントなのに……。いい加減、思い出しなさい!しびれを切らしたおばあちゃんが・思い出させてくれたけど、間に合うのかしら……。
※初めての作品です。設定ゆるく、誤字脱字もあると思います。気にいっていただけたらポチッと投票頂けると嬉しいですm(_ _)m
偏屈な辺境伯爵のメイドに転生しましたが、前世が秋葉原ナンバーワンメイドなので問題ありません
八星 こはく
恋愛
【愛されスキルで溺愛されてみせる!伯爵×ぽんこつメイドの身分差ラブ!】
「私の可愛さで、絶対ご主人様に溺愛させてみせるんだから!」
メイドカフェ激戦区・秋葉原で人気ナンバー1を誇っていた天才メイド・長谷川 咲
しかし、ある日目が覚めると、異世界で別人になっていた!
しかも、貧乏な平民の少女・アリスに生まれ変わった咲は、『使用人も怯えて逃げ出す』と噂の伯爵・ランスロットへの奉公が決まっていたのだ。
使用人としてのスキルなんて咲にはない。
でも、メイドカフェで鍛え上げた『愛され力』ならある。
そう決意し、ランスロットへ仕え始めるのだった。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜
アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。
そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。
とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。
主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────?
「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」
「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」
これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる