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20 皆でピクニック
6 船遊び1
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その後、リズ達は船遊びをすることに。
公家所有の船は、五十人くらいが乗っても余裕なくらいの大きさがあった。
中央には椅子とテーブルが備え付けられていて、その上には日よけの屋根が設置されている。
テーブルにはお茶会用にティーセットやお菓子がセッティングされており、優雅な船遊びが楽しめそうだった。
しかしこのメンバーの雰囲気は、あまり良くない。っというか、リズがつまずいたせいで、悪化してしまった。
居心地の悪い船遊びになりそうだと察したリズは、エディットの腕に抱きつき、男性陣から逃げるようにして彼女を船の先端へと誘導した。
「先ほどは、とても面白いものを見せていただきましたわ」
船の縁に手をついて、リズと一緒に湖面を眺めていたエディットは、思い出したようにクスリと笑みをこぼした。
「私がつまずいてしまったばかりに、雰囲気を悪くしてしまいました……」
妹愛が過剰なアレクシスの態度は平常運転とも言えるが、ローラントとフェリクスまで雰囲気が悪くなるのは予想外だった。
「皆様、公女殿下をご心配してこそですわ。フェリクス様も、私のことなどすっかりお忘れのようでしたし」
リズもそれについては特に、不思議でならなかった。散歩へ出かける前の彼は、確かにリズに対して冷たい態度を取り、これでもかと言うほどエディットを大切にしているようだった。興味をなくしたはずのリズを気にする理由がわからない。
何はともあれ、アレクシスとエディットの作戦を邪魔をしてしまったのは事実。リズは素直に頭を下げた。
「作戦を邪魔してしまい、申し訳ございません」
「頭を下げる必要はございませんわ。一日や二日で、フェリクス様とお気持ちを通わせられるとは思っておりませんもの。これからも地道に活動を続けて参ります」
まるでエディットは、この作戦を幸せに思っているかのように、胸に手を当てヒロインのようにふわりと微笑んだ。
「王女殿下は本当に、フェリクスのことがお好きなんですね」
きっと前世のリズがフェリクスに抱いていた好意よりも、実際に本物の彼と接してきたエディットのほうが、ずっと強い気持ちを抱えているのだろう。
リズは小説のファンだからこそ、小説には無い彼の一面を見てがっかりもしたが、エディットはちゃんと一人の男性として、フェリクスを見ているのかもしれない。
「公子殿下からお聞きになられたかもしれませんが、私はとても傲慢なんです。私の夫に見合う方は、誰もが恋する素敵な方でなければ。――公女殿下は、どのような方がお好みなんですか?」
「私は…………。アレクシスみたいに、優しくて守ってくれるような人がいいです。私の性格とは合わないですけどね……ハハッ」
小説のヒロインのような恋に憧れたが、残念ながらリズはヒロインらしくない。ヒーローに助けられる前に、虐めを自ら回避できてしまうようなたくましさだ。
そんなリズを守ってくれているアレクシスは、ある意味ヒーロー以上ではなかろうか。実状は過剰な妹愛だが。
「ご自分を卑下しないでくださいませ。公子殿下と公女殿下は、とてもお似合いだと思いますわ」
二人を応援すると言いたげな表情のエディット。リズは顔を赤くして慌てた。
「あ……あの、今のは例えなので、アレクシスを好きなわけじゃ……」
「恋のご相談には、いつでも乗りますわよ」
ふふっと優雅にエディットが微笑むと、停泊中の船にそよそよと風が吹いた。ふわりと髪をなびかせる姿も、ヒロインのよう。花の背景がよく似合いそうだ。
(アレクシスもやっぱり、癒されるような子が好きなんだよね……)
完璧すぎるエディットの姿をみてリズが自信を無くしていると、エディットのボンネットを留めているリボンがするりと解け。強風でもないのに、ふわっとボンネットが湖に向かって飛んでしまった。
「あっ……、フェリクス様にいただいたボンネットが!」
(はいっ?)
昨日の今日で、フェリクスが彼女にプレゼントまで贈っていたというのか。
あまりの手の速さにリズは驚いてしまったが、それよりもエディットの体勢が危険だ。何が何でも帽子を落としたくない様子の彼女は、身体の大半を船の外へと乗り出してしまった。
「王女殿下、危ない!」
リズは慌てて彼女の腰に抱きついたが、リズだけでは彼女を引き戻せそうにはない。
抱きついた甲斐も虚しく、エディットに引きずられるようにしてリズも、船の外へと身体が引っ張り出される。
「リズ!!」
アレクシスの叫び声だけ辛うじて聞きとめたリズは、そのままエディットと一緒に湖の中へと落ちてしまった。
(どうしよう! 水を吸ったドレスが重すぎて、浮かべない……!)
落ちた勢いで、水中へと沈み込んでいく二人。
足をばたつかせようにもドレスがまとわりつくので、何の助けにもならない。エディットは泳げないのかリズにしがみつくばかりで、これではすぐに共倒れになってしまう。
(アレクシス、助けて……!)
最後に聞いた兄の声を思い出しながら、リズは身動きの取れない状況で水面を見上げた。
その少し前。船上でリズ達が落ちる場面を目撃したアレクシスは、瞬時に上着とシャツを脱ぎ捨てながら、船首へと走り出した。
「殿下おやめください!」
「俺達が救助します!」
一瞬だけ遅れたバルリング兄弟が後を追うも、アレクシスは構わず湖に飛び込んだ。「二人は上から引き上げて」と言葉を残して。
公家所有の船は、五十人くらいが乗っても余裕なくらいの大きさがあった。
中央には椅子とテーブルが備え付けられていて、その上には日よけの屋根が設置されている。
テーブルにはお茶会用にティーセットやお菓子がセッティングされており、優雅な船遊びが楽しめそうだった。
しかしこのメンバーの雰囲気は、あまり良くない。っというか、リズがつまずいたせいで、悪化してしまった。
居心地の悪い船遊びになりそうだと察したリズは、エディットの腕に抱きつき、男性陣から逃げるようにして彼女を船の先端へと誘導した。
「先ほどは、とても面白いものを見せていただきましたわ」
船の縁に手をついて、リズと一緒に湖面を眺めていたエディットは、思い出したようにクスリと笑みをこぼした。
「私がつまずいてしまったばかりに、雰囲気を悪くしてしまいました……」
妹愛が過剰なアレクシスの態度は平常運転とも言えるが、ローラントとフェリクスまで雰囲気が悪くなるのは予想外だった。
「皆様、公女殿下をご心配してこそですわ。フェリクス様も、私のことなどすっかりお忘れのようでしたし」
リズもそれについては特に、不思議でならなかった。散歩へ出かける前の彼は、確かにリズに対して冷たい態度を取り、これでもかと言うほどエディットを大切にしているようだった。興味をなくしたはずのリズを気にする理由がわからない。
何はともあれ、アレクシスとエディットの作戦を邪魔をしてしまったのは事実。リズは素直に頭を下げた。
「作戦を邪魔してしまい、申し訳ございません」
「頭を下げる必要はございませんわ。一日や二日で、フェリクス様とお気持ちを通わせられるとは思っておりませんもの。これからも地道に活動を続けて参ります」
まるでエディットは、この作戦を幸せに思っているかのように、胸に手を当てヒロインのようにふわりと微笑んだ。
「王女殿下は本当に、フェリクスのことがお好きなんですね」
きっと前世のリズがフェリクスに抱いていた好意よりも、実際に本物の彼と接してきたエディットのほうが、ずっと強い気持ちを抱えているのだろう。
リズは小説のファンだからこそ、小説には無い彼の一面を見てがっかりもしたが、エディットはちゃんと一人の男性として、フェリクスを見ているのかもしれない。
「公子殿下からお聞きになられたかもしれませんが、私はとても傲慢なんです。私の夫に見合う方は、誰もが恋する素敵な方でなければ。――公女殿下は、どのような方がお好みなんですか?」
「私は…………。アレクシスみたいに、優しくて守ってくれるような人がいいです。私の性格とは合わないですけどね……ハハッ」
小説のヒロインのような恋に憧れたが、残念ながらリズはヒロインらしくない。ヒーローに助けられる前に、虐めを自ら回避できてしまうようなたくましさだ。
そんなリズを守ってくれているアレクシスは、ある意味ヒーロー以上ではなかろうか。実状は過剰な妹愛だが。
「ご自分を卑下しないでくださいませ。公子殿下と公女殿下は、とてもお似合いだと思いますわ」
二人を応援すると言いたげな表情のエディット。リズは顔を赤くして慌てた。
「あ……あの、今のは例えなので、アレクシスを好きなわけじゃ……」
「恋のご相談には、いつでも乗りますわよ」
ふふっと優雅にエディットが微笑むと、停泊中の船にそよそよと風が吹いた。ふわりと髪をなびかせる姿も、ヒロインのよう。花の背景がよく似合いそうだ。
(アレクシスもやっぱり、癒されるような子が好きなんだよね……)
完璧すぎるエディットの姿をみてリズが自信を無くしていると、エディットのボンネットを留めているリボンがするりと解け。強風でもないのに、ふわっとボンネットが湖に向かって飛んでしまった。
「あっ……、フェリクス様にいただいたボンネットが!」
(はいっ?)
昨日の今日で、フェリクスが彼女にプレゼントまで贈っていたというのか。
あまりの手の速さにリズは驚いてしまったが、それよりもエディットの体勢が危険だ。何が何でも帽子を落としたくない様子の彼女は、身体の大半を船の外へと乗り出してしまった。
「王女殿下、危ない!」
リズは慌てて彼女の腰に抱きついたが、リズだけでは彼女を引き戻せそうにはない。
抱きついた甲斐も虚しく、エディットに引きずられるようにしてリズも、船の外へと身体が引っ張り出される。
「リズ!!」
アレクシスの叫び声だけ辛うじて聞きとめたリズは、そのままエディットと一緒に湖の中へと落ちてしまった。
(どうしよう! 水を吸ったドレスが重すぎて、浮かべない……!)
落ちた勢いで、水中へと沈み込んでいく二人。
足をばたつかせようにもドレスがまとわりつくので、何の助けにもならない。エディットは泳げないのかリズにしがみつくばかりで、これではすぐに共倒れになってしまう。
(アレクシス、助けて……!)
最後に聞いた兄の声を思い出しながら、リズは身動きの取れない状況で水面を見上げた。
その少し前。船上でリズ達が落ちる場面を目撃したアレクシスは、瞬時に上着とシャツを脱ぎ捨てながら、船首へと走り出した。
「殿下おやめください!」
「俺達が救助します!」
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