【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

廻り

文字の大きさ
上 下
94 / 116
20 皆でピクニック

6 船遊び1

しおりを挟む
 その後、リズ達は船遊びをすることに。
 公家所有の船は、五十人くらいが乗っても余裕なくらいの大きさがあった。
 中央には椅子とテーブルが備え付けられていて、その上には日よけの屋根が設置されている。
 テーブルにはお茶会用にティーセットやお菓子がセッティングされており、優雅な船遊びが楽しめそうだった。

 しかしこのメンバーの雰囲気は、あまり良くない。っというか、リズがつまずいたせいで、悪化してしまった。
 居心地の悪い船遊びになりそうだと察したリズは、エディットの腕に抱きつき、男性陣から逃げるようにして彼女を船の先端へと誘導した。

「先ほどは、とても面白いものを見せていただきましたわ」

 船の縁に手をついて、リズと一緒に湖面を眺めていたエディットは、思い出したようにクスリと笑みをこぼした。

「私がつまずいてしまったばかりに、雰囲気を悪くしてしまいました……」

 妹愛が過剰なアレクシスの態度は平常運転とも言えるが、ローラントとフェリクスまで雰囲気が悪くなるのは予想外だった。

「皆様、公女殿下をご心配してこそですわ。フェリクス様も、私のことなどすっかりお忘れのようでしたし」

 リズもそれについては特に、不思議でならなかった。散歩へ出かける前の彼は、確かにリズに対して冷たい態度を取り、これでもかと言うほどエディットを大切にしているようだった。興味をなくしたはずのリズを気にする理由がわからない。

 何はともあれ、アレクシスとエディットの作戦を邪魔をしてしまったのは事実。リズは素直に頭を下げた。

「作戦を邪魔してしまい、申し訳ございません」
「頭を下げる必要はございませんわ。一日や二日で、フェリクス様とお気持ちを通わせられるとは思っておりませんもの。これからも地道に活動を続けて参ります」

 まるでエディットは、この作戦を幸せに思っているかのように、胸に手を当てヒロインのようにふわりと微笑んだ。

「王女殿下は本当に、フェリクスのことがお好きなんですね」

 きっと前世のリズがフェリクスに抱いていた好意よりも、実際に本物の彼と接してきたエディットのほうが、ずっと強い気持ちを抱えているのだろう。
 リズは小説のファンだからこそ、小説には無い彼の一面を見てがっかりもしたが、エディットはちゃんと一人の男性として、フェリクスを見ているのかもしれない。

「公子殿下からお聞きになられたかもしれませんが、私はとても傲慢なんです。私の夫に見合う方は、誰もが恋する素敵な方でなければ。――公女殿下は、どのような方がお好みなんですか?」 
「私は…………。アレクシスみたいに、優しくて守ってくれるような人がいいです。私の性格とは合わないですけどね……ハハッ」

 小説のヒロインのような恋に憧れたが、残念ながらリズはヒロインらしくない。ヒーローに助けられる前に、虐めを自ら回避できてしまうようなたくましさだ。
 そんなリズを守ってくれているアレクシスは、ある意味ヒーロー以上ではなかろうか。実状は過剰な妹愛だが。

「ご自分を卑下しないでくださいませ。公子殿下と公女殿下は、とてもお似合いだと思いますわ」

 二人を応援すると言いたげな表情のエディット。リズは顔を赤くして慌てた。

「あ……あの、今のは例えなので、アレクシスを好きなわけじゃ……」
「恋のご相談には、いつでも乗りますわよ」

 ふふっと優雅にエディットが微笑むと、停泊中の船にそよそよと風が吹いた。ふわりと髪をなびかせる姿も、ヒロインのよう。花の背景がよく似合いそうだ。

(アレクシスもやっぱり、癒されるような子が好きなんだよね……)

 完璧すぎるエディットの姿をみてリズが自信を無くしていると、エディットのボンネットを留めているリボンがするりと解け。強風でもないのに、ふわっとボンネットが湖に向かって飛んでしまった。

「あっ……、フェリクス様にいただいたボンネットが!」

(はいっ?)

 昨日の今日で、フェリクスが彼女にプレゼントまで贈っていたというのか。
 あまりの手の速さにリズは驚いてしまったが、それよりもエディットの体勢が危険だ。何が何でも帽子を落としたくない様子の彼女は、身体の大半を船の外へと乗り出してしまった。

「王女殿下、危ない!」

 リズは慌てて彼女の腰に抱きついたが、リズだけでは彼女を引き戻せそうにはない。
 抱きついた甲斐も虚しく、エディットに引きずられるようにしてリズも、船の外へと身体が引っ張り出される。

「リズ!!」

 アレクシスの叫び声だけ辛うじて聞きとめたリズは、そのままエディットと一緒に湖の中へと落ちてしまった。


(どうしよう! 水を吸ったドレスが重すぎて、浮かべない……!)

 落ちた勢いで、水中へと沈み込んでいく二人。
 足をばたつかせようにもドレスがまとわりつくので、何の助けにもならない。エディットは泳げないのかリズにしがみつくばかりで、これではすぐに共倒れになってしまう。

(アレクシス、助けて……!)

 最後に聞いた兄の声を思い出しながら、リズは身動きの取れない状況で水面を見上げた。




 その少し前。船上でリズ達が落ちる場面を目撃したアレクシスは、瞬時に上着とシャツを脱ぎ捨てながら、船首へと走り出した。

「殿下おやめください!」
「俺達が救助します!」

 一瞬だけ遅れたバルリング兄弟が後を追うも、アレクシスは構わず湖に飛び込んだ。「二人は上から引き上げて」と言葉を残して。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されたくて悪役令嬢になりました ~前世も今もあなただけです~

miyoko
恋愛
前世で大地震に巻き込まれて、本当はおじいちゃんと一緒に天国へ行くはずだった真理。そこに天国でお仕事中?という色々と規格外の真理のおばあちゃんが現れて、真理は、おばあちゃんから素敵な恋をしてねとチャンスをもらうことに。その場所がなんと、両親が作った乙女ゲームの世界!そこには真理の大好きなアーサー様がいるのだけど、モブキャラのアーサー様の情報は少なくて、いつも悪役令嬢のそばにいるってことしか分からない。そこであえて悪役令嬢に転生することにした真理ことマリーは、十五年間そのことをすっかり忘れて悪役令嬢まっしぐら?前世では体が不自由だったせいか……健康な体を手に入れたマリー(真理)はカエルを捕まえたり、令嬢らしからぬ一面もあって……。明日はデビュタントなのに……。いい加減、思い出しなさい!しびれを切らしたおばあちゃんが・思い出させてくれたけど、間に合うのかしら……。 ※初めての作品です。設定ゆるく、誤字脱字もあると思います。気にいっていただけたらポチッと投票頂けると嬉しいですm(_ _)m

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

転生姫は国外に嫁ぎたい〜だって花の国は花粉症には厳しすぎるのよ〜【WEB版】

古森きり
恋愛
【書籍化決定!】詳細は決まり次第お知らせいたします! アルファポリス様の規約に基づき発売日以降は引き下げ削除となりますが、それまでは引き続き応援よろしくお願いします! 前世、花粉症で涙が止まらずくしゃみした途端電車のホームに落下。 花粉症のせいで死んだと言っても過言ではないフィエラシーラは『花真王国』の第一王女として新たな生を受ける。 城は杉に囲まれ、前世から引き継いだのかもはや杉の存在で前世の症状が出ているだけなのか涙や鼻水やくしゃみが出る。 年々酷くなるその症状に頭を抱えたフィエラシーラと父王。 隣国の大国に留学させ、他国に嫁げるよう婚活を開始するのだった。 カクヨムに読み直しナッシング書き溜め中。 小説家になろう、アルファポリス、ベリーズカフェにも掲載。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

[完結]凍死した花嫁と愛に乾く公主

小葉石
恋愛
 アールスト王国末姫シャイリー・ヨル・アールストは、氷に呪われた大地と揶揄されるバビルス公国の公主トライトス・サイツァー・バビルスの元に嫁いで一週間後に凍死してしまった。  凍死してしたシャイリーだったが、なぜかその日からトライトスの一番近くに寄り添うことになる。  トライトスに愛される訳はないと思って嫁いできたシャイリーだがトライトスの側で自分の死を受け入れられないトライトスの苦しみを間近で見る事になったシャイリーは、気がつけば苦しむトライトスの心に寄り添いたいと思う様になって行く。  そしてバビルス公国の閉鎖された特殊な環境が徐々に二人の距離を縮めて… *完結まで書き終えております*

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

処理中です...