【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

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20 皆でピクニック

5 騎士団長は損な役回り

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 大きく腕を振っている先には、貴重な魔花の束が握りしめられている。それを目にしたリズは、大きく瞳を輝かせた。

「わぁ! ありがとうカルステン!」

 そろそろ魔花の咲く時期も、終わり頃。ここは人の出入りがあまりない場所なので、まだ残っていたようだ。
 フェリクスが魔法陣を付与してくれたお鍋のおかげで、これからは万能薬を大量に作れる。来年は魔花をたくさん採取しなければと思いながら、リズはカルステンから魔花を受け取った。

「剣にしか興味がない兄上が、魔花を知っているなんて……」

 ローラントは、非常に驚いた様子だ。カルステンがリズの護衛を始めた頃は、雑草とハーブの区別もつかない状態だったので無理もない。

「お前がいない間、俺が毎日のように公女殿下のためにハーブを採取していたからな」

 カルステンは得意げにそう話す。するとローラントは、すくっとその場に立ち上がった。

「兄上は見回りでお疲れでしょう。次は俺が見回りへ行ってきます。ではリゼット殿下、失礼いたします」
「あっ、うん。行ってらっしゃい」

 話の途中だったが、カルステンもいるし仕方ない。
 リズが手を振ってローラントを見送っていると、カルステンはぼそっと呟いた。

「あいつ……。魔花を探しに行ったな」
「まさか。ローラントは真面目だよ?」
「そうだと良いのですが」

 やれやれと呆れた表情でカルステンは弟を見送るが、リズは杞憂だと思いながらティーポットを手に取った。

「それより、見回りお疲れさま。お茶でも飲む?」
「公女殿下が淹れてくださるのですか? 今日は最高のピクニックですね」

 カルステンはニコニコしながら、リズが勧めるままに敷物へと座る。そしてリズが淹れたお茶を嬉しそうに飲み、リズが勧めたクッキーも遠慮なく食べ始めた。
 同じ兄弟でも二人は性格が正反対だ。その対比を面白く思いながらリズが見つめていると、カルステンはおかわりのお茶も飲み干して一息ついたのか、リズに視線を向けた。

「ところで公女殿下は、皆様と散歩へお出かけにならなかったのですか?」

 カルステンは到着してすぐに見回りへ出てしまったので、あのやり取りは見ていない。

「う~ん。なんとなく、別行動のほうが良いかなと思って」

 関わりたくないと、はっきりは言えないリズはそう答える。するとカルステンは、にかっと笑みを浮かべた。

「俺もこちらへは何度も来たことがありますので、よろしければご案内いたしましょうか?」
「わぁ。うれしい」

 日向ぼっこも悪くはないが、大自然に来たからには満喫したい。リズは期待を込めて、カルステンへとうなずいた。



「メルヒオールも、一緒にお散歩へ行く?」

 リズは散歩へ出る前に、近くの木の上で昼寝しているメルヒオールに声をかけた。しかし彼は、穂先を左右にフリフリさせるだけ。どうやら行くつもりはないようだ。
 魔女の森にいた頃もメルヒオールは、たびたび自身の柄の素材である木に登っては、こうして昼寝のようなことをしていた。彼にとっては居心地の良い場所のようだ。

「メルヒオールは行かないって」
「それじゃ、二人きりのデートですね」
「ふふ。そうだね。どこへ行こうか」

 リズは辺りを見回した。大自然といっても、公家の所有地。湖や林を散策できるよう遊歩道が整備されている。湖の道は途中であの三人と出会ってしまいそうなので、リズは林の道を案内してもらうことにした。

 「ふぅ~。やっぱり森林浴は気持ちがいいなぁ」

 木々が空高く伸びているので湖周辺の日向よりは少し涼しいが、木漏れ日が温かい雰囲気を演出している。道端には雑草が生い茂っており、ちらほら薬作りに使えるヨモギなども生えていた。

「ここはハーブ採取の穴場だね。困ったらここを利用させてもらおっと」
「ハーブも良いですが、こちらには他の楽しみもございますよ」

 カルステンはおもむろにポケットから何かを取り出すと、それを地面にばら撒いた。
 なんだろう? とリズが首を傾げると、雑草の陰から一匹のリスが顔を出す。

「わぁ。リスだぁ!」

 カルステンが地面にばら撒いたのは、ヒマワリの種。それをお目当てに、あちらこちらからリス達が集まってきた。一生懸命にヒマワリの種を集めている姿が、とても愛らしい。

「このために、ヒマワリの種を持参してきたの?」
「公女殿下なら、お好きかと思いまして」
「ありがとう。すごく癒される」
「こいつらは人に慣れているので、手から直接やることもできますよ」

 カルステンはリズの手を取ると、手のひらにヒマワリの種をいくつか握らせる。

「本当に? 魔女の森のリス達は人には慣れなかったけど……」
「試してみてください」

 半信半疑ながらもリズは、身体をかがめて地面近くに手を差し出してみる。すると、ヒマワリの種を探していたリスの一匹が、リズの手に気が付きよじ登ってきた。
 これでもかというほど、リスは口にヒマワリの種を詰め込み、頬袋はパンパンだ。

「ふふ。とっても可愛いね」
「俺も、リズ・・様とリスのお可愛らしいお姿を見られて満足です」
「…………え」

(なんで今、あえて愛称で呼んだの? もしかしてダジャレ?)

 カルステンに視線を向けてみると、ドヤ顔の彼と目が合った。

「えっと……。カルステンも、冗談を言ったりするんだね……」
「騎士団長ともなると、部下から距離を置かれがちですから、冗談の一つも必要だと父に教えられたんですよ」

(うわぁ、それ。部下へ余計に気を使わせちゃうパターンの上司だよ!)

「そうなんだ……。でもカルステンは、普段のままで十分に親しみやすいと思うよ……」

 リズの周りはイケメンばかりだが、なぜこうも残念なイケメンが多いのだろうか。
 彼らは脇役なので、リズが彼らへ向ける好感度が上がりすぎないよう、調節されているのかもしれない。
 きっとそうに違いない、これが素の彼らなら残念すぎる。

 リスの餌やりを終えた後も、リズはそんなことを考えていた。
 おかげで足元がおろそかになってしまい、木の根に足が引っかかったようだ。

「うわぁっ!」

 顔面強打は免れないであろう状況。とっさに目を閉じたリズだが、後ろから引き寄せられる感覚が。

「大丈夫ですか? 公女殿下」
「あっ、ありがとう。カルステン」

 どうやら彼は、後ろからがっちりと抱き寄せることで、リズを助けてくれたらしい。
 さすがは護衛騎士。このような時は、頼りになる。

 ふぅ。と息を吐いて、気持ちを整えたリズ。
 そして視線を前方へと向けると、ちょうど遊歩道は三差路になっていた。そこへ、片側からローラントが、もう片側からは湖を散策していたはずの三人が姿を現す。

 この場に集まる形となった全員が、思わぬ遭遇に驚いた様子だ。
 そして全員の視線は、カルステンに抱きしめられている状態のリズへと注がれる。

「リズ……。そこで何をしているのかな?」

 最初に引きつった笑みを浮かべたのは、アレクシスだ。明らかに怒っている。

「リゼット殿下は、ご休憩されていたはずでは?」

 冷ややかな笑みを称えるのは、ローラント。イケメンスマイルが標準装備の彼が、どうしたことだろうか。

「一度ならず、二度までも……。そなたはその護衛騎士が、お気に入りのようだな」

 フェリクスはおそらく、市場でリズが似た状況に陥った時のことを言っているのだろう。あの時も無礼だと怒っていたので、今もそのようだ。

「リズ、二度ってどういうこと? 僕は何も聞いていないけれど?」

 フェリクスのせいで、アレクシスの怒りが増幅されてしまった。

「リゼット殿下。うちの兄は女性への配慮に欠けますので、距離を置かれほうがよろしいかと」

 イケメンスマイルを取り戻したローラントだが、視線だけなぜか鋭さを感じる。

「すみません、公女殿下……。これは完全に、俺のミスです……」

 リズが責められる形となってしまい罪悪感を抱いているのか、カルステンはリズの耳元で捨てられた子犬のような声を上げながら、リズから手を離した。

「みっみんな、誤解だよ! ほらここ、見て。この木の根っこにつまずいたところを、カルステンが助けてくれたのっ」

 リズは誤解を解こうとして、必死に木の根を指さして訴えるも、彼らはそう簡単に折れる性格ではない。

 フェリクスは、公家の敷地なのに管理がなっていないと、アレクシスを責め。
 アレクシスは、リズの安全のために全面舗装にしなければならないと、過保護ぶりを発揮。
 ローラントは、兄に護衛を任せなければよかったと悔み始めた。

 木の根につまずいただけで、どうしてこうなったのか。

 頭を抱えたくなったリズに唯一、手を差し伸べてくれたのはエディットだった。
 彼女のヒロインらしいフォローのおかげで、この騒ぎはなんとか収束したのだった。
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