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20 皆でピクニック
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しばらくして、アレクシスとエディットは、仲良く手を繋いで湖へとやってきた。
それをいち早く迎えたのはフェリクス。彼はアレクシスをけん制するかのように、エディットの空いてるほうの手を握った。
「エディット。湖の周辺を散歩へ行かないか?」
「わぁ! 嬉しいですわ。フェリクス様」
喜んだエディットがフェリクスの方へと歩み寄ろうとすると、アレクシスが引き止めるようにエディットの手を引く。
「エディット。ここに詳しいのは僕だよ。僕が素敵な場所へ案内してあげる」
「あっ、ありがとうございます。アレクシス殿下」
二人に誘われて、困った様子のエディット。彼女は皆で行こうと提案するも、フェリクスとアレクシスは不満な様子で、お互いをけなし合い始めた。
(わぁ……。本当に『鏡の中の聖女』みたい)
そんな様子をリズは、敷物に座ってクッキーを頬張りながら、ぼーっと見学していた。まるであの小説が、実写化されたような気分だ。
アレクシスよりもフェリクスのほうが体格が良いせいか、こんな時はやはりヒーローである彼のほうが、存在感があり、映える。
それでもリズが目で追ってしまうのは、兄であるアレクシスだ。
(アレクシスのあれは、演技なんだよね……?)
フェリクスがいる間、アレクシスはエディットと恋人同士を演じるつもりだと、リズは聞いている。
小説の内容を全て把握しているアレクシスの分析によると、フェリクスは当て馬役のものを欲しがる傾向にあるらしい。そんなフェリクスの性格を利用して、エディットに興味を持たせるつもりなのだとか。
アレクシスの作戦は順調そうだが、あまりに彼の演技が上手いので、本当にエディットのことが好きなように見えてしまう。
少しばかり心のモヤモヤを抱えていると、エディットはちらりとリズに視線を向けた。
「あの……。公女殿下も、ご一緒に散歩へ行きませんか?」
「私は少し休みたいので、お構いなく」
「そうですか……」
この三人に混ざるのは、普通に遠慮したい。リズは厄介事を避けるように断った。
すると、残念そうな表情を浮かべるエディットをかばうように、フェリクスが蔑むような視線でリズを見下ろす。
「そなたは聖女とは似ても似つかぬ、冷たい性格のようだな。それに比べてエディットの優しさは、聖女を思い出させる」
やはり今日のフェリクスは変だ。いくらエディットに興味を持ったからといって、これほどあからさまにリズへの態度を変えるだろうか。
(やっぱりこの小説は、ヒロインらしくない私を見限って、エディットをヒロインにしようとしているんじゃ……?)
それならばリズも、身を引きつつエディットを立てたほうが、すんなりと婚約回避できるかもしれない。
「私もそう思います」
にこりと微笑みながらフェリクスの言葉に賛同してみると、なぜか彼は目に見えて怒りを露わにしながら、エディットを引っ張って散歩にへと出て行った。
(自分から私をディスっておいて、なんで怒るの?)
頬を膨らませながら、三人が小さくなるのを見届けていると、ローラントが片膝を地面につけてリズと視線を合わせた。
「リゼット殿下の、今のお気持ちをお伺いしてもよろしいでしょうか」
「急にどうしたの?」
「殿下のお考えは、俺の予想をはるかに超えますので」
「ふふ。なにそれ、私は普通だと思うけど」
リズは隣に座るようローラントに勧めるも、真面目な彼は「護衛中なので」と地面に膝をついた状態を崩さない。
ならばとイタズラ心が湧いたリズは、ローラントの口にクッキーを押し付けた。
彼は恥ずかしそうにそれを食べてから「皆の前で、困ります」と下を向く。連れてきた他の使用人達も、準備を整えつつもピクニックを楽しんでいる。誰も注目してはいないだろうに、人の目が気になるようだ。
お酒を飲んでは自由奔放に振舞うローラントだが、いつもは人一倍恥ずかしがりな性格。
(やっぱり私の護衛騎士は、可愛いな)
久しぶりにその姿を見られて満足したリズは、先ほどの質問に答えた。
「フェリクスってば王女殿下が気にいったなら、そう言えばいいのに」
「王太子殿下の伴侶は、聖女の魂を持つ方と決まっておりますから、そうもいかないのでしょう」
「それって義務的だよね。『鏡の中の聖女』は、魂同士が惹かれあうところが素敵だと思っていたんだけどなぁ……」
お互いへの気持ちだけでは説明できないような、魂レベルでの繋がりを感じられるのがこの小説の魅力でもあった。しかし実際にヒロインとしてフェリクスと出会ったリズは、一度もヒーローに対して運命を感じるような感情は生まれていない。
推しに出会えたことで初めこそドキドキしたが、すぐにフェリクスの言動にがっかりしてしまった。
彼との婚約は不可能だと、初めから諦めていたせいもあるだろうが、本当に魂同士で惹かれあう関係だったなら、そのような感情など些細なことだったはず。
「ところでローラントに、聞きたいことがあったの」
気分を変えるようにリズが話題を変えると、ローラントは爽やかに微笑んだ。
「俺に答えられることでしたら、誠心誠意お答え致しますよ」
「実は昨日……、ローラントがね。私に対する気持ちを、話してくれたんだけど……」
ローラントの「慕っている」という言葉を、リズはずっと忠誠心からくるものかと思っていたが、さすがに昨夜のように吐露されては、意識せずにはいられない。
真相を確かめようとして尋ねてみたが、ローラントは一瞬にして緊張したような表情を浮かべる。
「その件につきましては、兄から詳細を伺いました。俺はリゼット殿下を、ご主人様としてお慕いしております。混乱させてしまい、申し訳ございません」
ローラントの心にあるのは、それ以上の恋愛感情。しかし、これからも護衛騎士を続けたければ、身の振り方をしっかりと考えろ。と今朝、カルステンに指摘を受けたばかり。
ローラントとしても、リズの絶対的守護者であるアレクシスに、勝てるとは思っていない。だからこそ舞踏会の日は、アレクシスに気持ちをぶつけて、それで諦めるつもりだった。
けれど、リズへの感情はそう簡単には消えてくれない。アレクシスと話せば対抗意識が湧いてしまうし、リズの言動に一喜一憂してしまう。
それでもローラントは、決意を固める時が来たと感じながら、無理やり微笑んでみせた。
「そっか……。ローラントはもしかして、私のことが好きなんじゃないかと、ひとりで勘違いしちゃったよ」
照れ笑いするリズを目にして、ローラントは思わず身を乗り出してリズの手を掴む。
「リゼット殿下は……! そう感じられた際に、どう思われたのですか?」
「えっ? もちろん、もしそうなら嬉しかったよ。でも……」
リズは考え込みながら、言葉を続けた。
「私に恋愛はまだ、少し早いというか……。アレクシスがお兄ちゃんなだけで満足というか……」
リズにとっての人生で最大の目標は、フェリクスとの婚約を無事に回避し、火あぶりにならないこと。本来なら恋に悩む年代だが、そんな心の余裕は今までなかった。
けれどアレクシスと出会ったことで、知らず知らずのうちにリズの心にアレクシスへの特別な感情が芽生え始めていることは、自分でも気づき始めている。その感情すらも、兄として大好きなのか、それとも異性としての感情なのかも曖昧ではあるが。
ローラントはゆっくりとリズから手を離すと、彼お得意のイケメンスマイルを見せた。
「リゼット殿下がアレクシス殿下と結婚なさるためには再度、貴族家の養女になる必要がございます。うちの両親は娘に恵まれなかったので、きっと喜ぶでしょう。もちろん俺も、リゼット殿下が妹になってくだされば嬉しいです」
「ちょっ……! ローラント何言ってるのよっ」
リズはあたふたしながら、周りに人がいないか確認した。幸いにも近くで聞いている者はいなかったが、湖を回ってカルステンがこちらへ来るのが見えた。
「公女殿下ー! 魔花を見つけたので、採取しておきましたよー!」
それをいち早く迎えたのはフェリクス。彼はアレクシスをけん制するかのように、エディットの空いてるほうの手を握った。
「エディット。湖の周辺を散歩へ行かないか?」
「わぁ! 嬉しいですわ。フェリクス様」
喜んだエディットがフェリクスの方へと歩み寄ろうとすると、アレクシスが引き止めるようにエディットの手を引く。
「エディット。ここに詳しいのは僕だよ。僕が素敵な場所へ案内してあげる」
「あっ、ありがとうございます。アレクシス殿下」
二人に誘われて、困った様子のエディット。彼女は皆で行こうと提案するも、フェリクスとアレクシスは不満な様子で、お互いをけなし合い始めた。
(わぁ……。本当に『鏡の中の聖女』みたい)
そんな様子をリズは、敷物に座ってクッキーを頬張りながら、ぼーっと見学していた。まるであの小説が、実写化されたような気分だ。
アレクシスよりもフェリクスのほうが体格が良いせいか、こんな時はやはりヒーローである彼のほうが、存在感があり、映える。
それでもリズが目で追ってしまうのは、兄であるアレクシスだ。
(アレクシスのあれは、演技なんだよね……?)
フェリクスがいる間、アレクシスはエディットと恋人同士を演じるつもりだと、リズは聞いている。
小説の内容を全て把握しているアレクシスの分析によると、フェリクスは当て馬役のものを欲しがる傾向にあるらしい。そんなフェリクスの性格を利用して、エディットに興味を持たせるつもりなのだとか。
アレクシスの作戦は順調そうだが、あまりに彼の演技が上手いので、本当にエディットのことが好きなように見えてしまう。
少しばかり心のモヤモヤを抱えていると、エディットはちらりとリズに視線を向けた。
「あの……。公女殿下も、ご一緒に散歩へ行きませんか?」
「私は少し休みたいので、お構いなく」
「そうですか……」
この三人に混ざるのは、普通に遠慮したい。リズは厄介事を避けるように断った。
すると、残念そうな表情を浮かべるエディットをかばうように、フェリクスが蔑むような視線でリズを見下ろす。
「そなたは聖女とは似ても似つかぬ、冷たい性格のようだな。それに比べてエディットの優しさは、聖女を思い出させる」
やはり今日のフェリクスは変だ。いくらエディットに興味を持ったからといって、これほどあからさまにリズへの態度を変えるだろうか。
(やっぱりこの小説は、ヒロインらしくない私を見限って、エディットをヒロインにしようとしているんじゃ……?)
それならばリズも、身を引きつつエディットを立てたほうが、すんなりと婚約回避できるかもしれない。
「私もそう思います」
にこりと微笑みながらフェリクスの言葉に賛同してみると、なぜか彼は目に見えて怒りを露わにしながら、エディットを引っ張って散歩にへと出て行った。
(自分から私をディスっておいて、なんで怒るの?)
頬を膨らませながら、三人が小さくなるのを見届けていると、ローラントが片膝を地面につけてリズと視線を合わせた。
「リゼット殿下の、今のお気持ちをお伺いしてもよろしいでしょうか」
「急にどうしたの?」
「殿下のお考えは、俺の予想をはるかに超えますので」
「ふふ。なにそれ、私は普通だと思うけど」
リズは隣に座るようローラントに勧めるも、真面目な彼は「護衛中なので」と地面に膝をついた状態を崩さない。
ならばとイタズラ心が湧いたリズは、ローラントの口にクッキーを押し付けた。
彼は恥ずかしそうにそれを食べてから「皆の前で、困ります」と下を向く。連れてきた他の使用人達も、準備を整えつつもピクニックを楽しんでいる。誰も注目してはいないだろうに、人の目が気になるようだ。
お酒を飲んでは自由奔放に振舞うローラントだが、いつもは人一倍恥ずかしがりな性格。
(やっぱり私の護衛騎士は、可愛いな)
久しぶりにその姿を見られて満足したリズは、先ほどの質問に答えた。
「フェリクスってば王女殿下が気にいったなら、そう言えばいいのに」
「王太子殿下の伴侶は、聖女の魂を持つ方と決まっておりますから、そうもいかないのでしょう」
「それって義務的だよね。『鏡の中の聖女』は、魂同士が惹かれあうところが素敵だと思っていたんだけどなぁ……」
お互いへの気持ちだけでは説明できないような、魂レベルでの繋がりを感じられるのがこの小説の魅力でもあった。しかし実際にヒロインとしてフェリクスと出会ったリズは、一度もヒーローに対して運命を感じるような感情は生まれていない。
推しに出会えたことで初めこそドキドキしたが、すぐにフェリクスの言動にがっかりしてしまった。
彼との婚約は不可能だと、初めから諦めていたせいもあるだろうが、本当に魂同士で惹かれあう関係だったなら、そのような感情など些細なことだったはず。
「ところでローラントに、聞きたいことがあったの」
気分を変えるようにリズが話題を変えると、ローラントは爽やかに微笑んだ。
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「実は昨日……、ローラントがね。私に対する気持ちを、話してくれたんだけど……」
ローラントの「慕っている」という言葉を、リズはずっと忠誠心からくるものかと思っていたが、さすがに昨夜のように吐露されては、意識せずにはいられない。
真相を確かめようとして尋ねてみたが、ローラントは一瞬にして緊張したような表情を浮かべる。
「その件につきましては、兄から詳細を伺いました。俺はリゼット殿下を、ご主人様としてお慕いしております。混乱させてしまい、申し訳ございません」
ローラントの心にあるのは、それ以上の恋愛感情。しかし、これからも護衛騎士を続けたければ、身の振り方をしっかりと考えろ。と今朝、カルステンに指摘を受けたばかり。
ローラントとしても、リズの絶対的守護者であるアレクシスに、勝てるとは思っていない。だからこそ舞踏会の日は、アレクシスに気持ちをぶつけて、それで諦めるつもりだった。
けれど、リズへの感情はそう簡単には消えてくれない。アレクシスと話せば対抗意識が湧いてしまうし、リズの言動に一喜一憂してしまう。
それでもローラントは、決意を固める時が来たと感じながら、無理やり微笑んでみせた。
「そっか……。ローラントはもしかして、私のことが好きなんじゃないかと、ひとりで勘違いしちゃったよ」
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「リゼット殿下は……! そう感じられた際に、どう思われたのですか?」
「えっ? もちろん、もしそうなら嬉しかったよ。でも……」
リズは考え込みながら、言葉を続けた。
「私に恋愛はまだ、少し早いというか……。アレクシスがお兄ちゃんなだけで満足というか……」
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けれどアレクシスと出会ったことで、知らず知らずのうちにリズの心にアレクシスへの特別な感情が芽生え始めていることは、自分でも気づき始めている。その感情すらも、兄として大好きなのか、それとも異性としての感情なのかも曖昧ではあるが。
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「リゼット殿下がアレクシス殿下と結婚なさるためには再度、貴族家の養女になる必要がございます。うちの両親は娘に恵まれなかったので、きっと喜ぶでしょう。もちろん俺も、リゼット殿下が妹になってくだされば嬉しいです」
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