【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

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19 隣国での公子様

3 公子様と王女様のお茶会2

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 フェリクスと結ばれるという言葉に釣られたエディットは、ポツポツと事情を話し始めた。
 それによると、リズの舞踏会がおこなわれた二日後。ドルレーツの密偵が、フェリクスの書簡を持ってフラル国王を尋ねてきたのだと言う。

 書簡には、舞踏会でのアレクシスの雄姿が書かれており、『これから彼は注目を浴びる存在となる。求婚するなら急いだほうが良い』との助言があったようだ。
 しかし私生児であるアレクシスとの結婚に難色を示していた国王は、その助言どおりにするつもりはなかった。
 それを予想していたかのように密偵は、アレクシスへの求婚と引き換えに、とある取引を持ちかけたのだとか。

「岩塩抗の採掘権とは……。随分と大きく出ましたね」

 ローラントは密偵を見下ろしながら、呆れ気味に呟いた。
 海が近くにないこの地域にとって岩塩は、貴重な鉱物として扱われている。どの国にも大なり小なり岩塩の取れる場所はあるが、フラル王国の岩塩抗はすでに、採掘し尽くしたと噂されていた。

 フラル王国にとっては、喉から手が出るほど欲しいもの。フェリクスはそれを利用して、アレクシスをフラル王国に縛り付けておこうとしたようだ。

 事情を話してスッキリしたのか、エディットは期待の眼差しをアレクシスへ向けている。事情さえ話せば、アレクシスが自分の恋を協力してくれるのだ。

 フラル国王は国民のためを思い、フェリクスの策略に乗ったようだが、エディットにとっては自分の恋さえ成就すれば、国民の生活などどうでも良いようだ。輸入する塩にどれだけ多額の関税がかけられているか、エディットは知らないのだろう。アレクシスは冷たい視線を彼女に向けた。

「事情は把握できました。フラル国民のためには、僕と貴女が手を組んだということは、伏せておいたほうが無難ですね」
「その辺はお任せいたしますわ。私の望みは、フェリクス様との結婚だけです。でも、殿下の妹がいる限り、私の願いは叶うのかしら?」

 エディットはこてりと首をかしげる。フェリクスと結婚するにあたって最大の壁は、聖女の魂を持つリズの存在だ。ドルレーツ王国の法律でも『王太子フェリクスの伴侶は、前世を映す鏡によって決定される』と記されている。
 だからこそ多くの女性は、フェリクスに恋い焦がれながらも遠くから見つめることしかできない。

 エディットにとっては、そんな雲の上の存在であるフェリクスが、自分を頼ってくれただけでも幸せだった。だからこそ、何が何でもアレクシスを引き留めようとしていたのだ。

「僕の妹は、王太子との結婚を望んでいません。詳しくは言えませんが、王太子との婚約は無効となる予定です。聖女の魂を見つけられなかった彼は、法律を変えて他の者と結婚するしか、子孫を残す方法がなくなるでしょう。そうなった際に貴女が、優しく支えて差し上げれば良いのです。そのためには今からでも、親しい関係を築いたほうが良いでしょう」

 リズが火あぶりにならないよう、公国でリズが大切にされ続ける活動さえ邪魔されなければ、必要以上にフェリクスと関わるつもりではなかった。
 しかし、フェリクスはアレクシスを排除しようと動き出した。このままおとなしく、やられているつもりはない。
 アレクシスが一番近くでリズを守るためにも、エディットには目くらましの役目になってもらうつもりだ。

 エディットがリズの代わりになるとは思えないが、フェリクスの性格を上手く利用すれば、きっとエディットを欲しがるだろう。

 瞳を輝かせるエディットと同じくらい、驚いた様子だったのはローラントだった。「魔女は、そのようなことまでできるのですか……」と感嘆の声をあげる。
 どうやらローラントは、魔女の魔法によってリズが前世の鏡に映らないようにできると、勘違いしているようだ。その勘違いをわざわざ正す必要もない。アレクシスはにこりと微笑んだ。

「それじゃ早速、作戦を始めようか。王女の矯正には時間がかかりそうだ」
「矯正って、なんですの?」

 フェリクスとの甘い結婚生活に思いを馳せていたエディットは、急にアレクシスに話しかけられて、目をぱちくりさせた。
 そんな彼女の反応を面白そうに見つめながら、アレクシスは席を立ちエディットへと歩み寄る。

「貴女の性格で、あいつを落とせると思っているの? あいつの好みは、清楚で、儚げな、庇護欲をそそられる子だ。貴女とは似ても似つかないね」

 失礼な物言いではあるが、アレクシスの口調が変わったことに、エディットは身構える。

「どっどうして、そんなことがわかりますの……?」
「残念なことに、僕の好みとあいつの好みは酷似しているんだ。大丈夫。僕が必ず、鏡の中の聖女に出てくるヒロインのような、可愛い女性にしてあげるよ」

 優しく微笑みながらも、エディットの肩を掴んだアレクシスの力は意外に強い。逃げることは許さないと言われているような気がしたエディットは、即座にこの取引は失敗だったと後悔した。

 それからアレクシスの悪魔のような指導が、朝から晩まで毎日おこなわれ、エディットは短期間で、ヒロインのような可愛らしい性格へと矯正された。

 全ての準備が整ったアレクシスは、「婚約前に、エディットを両親に紹介したい」とフラル国王に願い出て、無事に公国へ戻ることに成功したのだった。
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