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18 打ち明け大会
1 リズの前世について
しおりを挟む波乱に満ちた宴はなんとか終了し、客人用宮殿へと戻ったリズ達。この宮殿の管理者であるヘルマン伯爵夫人が捕らえられてしまったので、宮殿内は重苦しい雰囲気が漂っていた。
(フェリクスは、私のお願いを聞いてくれるのかな……)
真相を解明させるために求めた彼の交換条件は、リズと婚約し王国へ連れ帰ることだった。けれど結局は、半分しかフェリクスの望みは叶っていない。
リズの考えが正しければ、フェリクスはストーリーどおりに進むよう操作している。そんな彼からヘルマン伯爵夫人の無実を勝ち取るには、リズが彼に歩み寄るしかなさそうだ。
(明日のお茶会で、フェリクスを満足させなきゃだよね……)
不本意ではあるが、前世を映す鏡を見るまでは、彼と良好な関係を築いていたほうが得策だ。これ以上ストーリーを変えたことで、誰が不幸にならないためにも。
「さぁ、みんな。夜食のスープでも飲んで、元気出してよ!」
今日はリズも疲れたし、三人もよくわからない理由でお疲れのようだ。
疲れている時は、コレに限る。『リズ特製ブーケガルニスープ~魔法薬仕立て~』をせっせと作ったリズは、三人を部屋へと招待して振る舞った。
「リズのスープ。ずっと飲みたかったんだ……」
アレクシスは瞳をうるうるとさせながら、丁寧にスープをすくったスプーンを口へと運ぶと、嬉しそうに「美味しい」と微笑んだ。
(ふふ。アレクシスってば、いつもおおげさなんだから)
そこが、この兄の可愛いところでもある。リズもニコニコしながら、アレクシスがスープを飲む姿を観察する。
「リゼット殿下のお傍に帰ってこられたと、実感が湧きますね。スープがない日々は、本当に苦痛でした」
ローラントとアレクシスは、ずっとリズのスープを飲めなかったことで、疲れが取れなかったのだとか。
二人は、「リズの愛情が入っているからだ」と喜んでいるが、実際にこれは魔法薬のレシピで作ったもの。そういえば二人にはまだ話していなかったと、リズは思い出す。
しかし、この状況では真実を話しにくい。リズは苦笑いを浮かべながら、カルステンに視線を向けた。
彼は、我関せずという感じで黙々とスープを飲み、おかわりに手を付けようとしたところを、アレクシスに睨まれた。
「ところで、隣国訪問はどうだったの? 連絡が取れないほど、忙しかったの?」
リズが尋ねると、アレクシスはぴたりとスープを飲んでいた手を止めた。
「それより僕は、リズとカルステンがどう過ごしていたかのほうが気になるよ。詳しく、教えてくれるかな?」
(あ……。まだこの話、続くんだ……)
リズとしても、留守中の出来事を報告するつもりではいたが、これはストーリーに関わる重要な話だ。
そんな話を、リズの前世を知らない二人の前でしても良いのだろうか。リズは、コソッとアレクシスに耳打ちした。
「ストーリーに関することなんだけど、どうしよう?」
「今後は、二人の協力も必要になって来るかもしれない。この際、話してしまおう」
その後にアレクシスは、ボソッと付け加える。
「僕と同じ辱めを、受けたら良いよ」
(あれ……。しばらく会わないうちに、アレクシスが黒くなってる……)
状況が読めずに様子を伺っているバルリング兄弟に向けて、アレクシスは意味ありげに微笑みを向ける。
いやいや。心優しいアレクシスが、人の不幸を喜ぶはずがない。リズは、彼の言葉の意味を間違って解釈していると判断した。
「辱めとは、なんですか?」
「ローラントも聞きたがっているし、話してあげなよリズ」
アレクシスが言うとおり、今後は二人の協力も必要になってくるかもしれない。
リズは留守中の報告をする前に、リズの前世やこの世界についての説明を、バルリング兄弟に話して聞かせた――
「つまり俺は、告白すらできずに失恋のショックで、騎士団長を辞めてしまうと……。恥ずかしすぎて、死にたいです……」
「兄上はまだ、主要人物だから良いではありませんか。俺なんて、挿絵すらない地味な役ですよ……」
アレクシスに小説の内容を話した際は怒っていたが、カルステンは恥ずかしさのあまり顔を手で覆い、ローラントは脇役で残念なのか、しょんぼりとしている。役が違えば、反応も三者三葉だ。
「俺の気持ちを初めからご存知だったから、公女殿下は俺を気にしてくださったのですね……」
「黙っていて、ごめんなさい!」
ストーリーが元に戻ろうとする前の彼は、リズのことは好みではないと、はっきりと拒否していた。そんなカルステンが、ストーリーの影響でリズを好きになっていく姿を止められなかったことが申し訳なくて、リズは頭を下げて謝った。
「どうか、謝らないでください公女殿下。そのような事情でしたら、仕方ないですよ……。それよりもアレクシス殿下、俺はもう諦めておりますので、これ以上は嫌わないでくださいね……」
「それは、これからリズが話してくれる内容次第かな」
「公女殿下、お願いしますよ……」
カルステンは懇願するような表情を、リズに向ける。どうやらリズに対して、怒ってはいないようだ。それよりも、アレクシスに嫌われたくないという気持ちが大きいらしい。
カルステンは『アレクシス殿下は弟みたいなものですから』と、いつもアレクシスを気にかける素振りを見せていた。
もしかしたら、アレクシスが孤独を感じていたのはただの勘違いで、ちゃんと見守ってくれる人がいたのかもしれない。リズは、そう思いたい。
相変わらず冷たい態度のアレクシスと、タジタジになっているカルステンのやり取り。微笑ましく思いながら眺めていると、リズはふと視線を感じてローラントに目を向けた。
脇役だとがっかりしていた彼だが、なぜか今は顔を真っ赤にさせながら、黙りこくっている。
どうしたのだろう? とリズは考え込んだが、ハッと自分がした説明を思い出す。彼も小説内では、リズを好きになるのだ。
「だっ……大丈夫! ローラントは、忠誠を誓った騎士として慕ってくれているって、ちゃんとわかってるから!」
リズがフォローを入れてみると、ローラントの真っ赤な顔は一気に冷め、その場に立ち上がった。
「兄上。俺、ワインを調達してきますね……」
「お前も懲りないやつだな……。また失敗を重ねるつもりか?」
カルステンの助言も聞こえていない様子で、ローラントは部屋から出て行ってしまった。
「どうしよう……。私、ちょっと見てくるね!」
「リズ、待って……!」
リズの説明が、ローラントの気に触ったようだ。そう思ったリズは、アレクシスが止める声も聞かずに、慌ててローラントの後を追った。
後に残された二人。カルステンは、面白そうなものでも見るかのように、アレクシスへと視線を向けた。
「どうなさいますか? 殿下」
「僕達も、行くしかないだろう……」
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