82 / 116
17 公子様の帰国
4 公子様と幼馴染達の様子がおかしい
しおりを挟む
まるで小説の挿絵のような二人を見送っていると、アレクシスが「リズは僕と踊ろうね」と、リズの顔を覗き込んできた。
「うん。でも、フェリクスに譲って良かったの……?」
アレクシスに返事をしながらも、リズはあれ? と首を傾げる。
よくよく考えてみると、フェリクスを嫌っているアレクシスが、自分のパートナーを譲ったりするだろうか?
「別に構わないよ」
「えっ……でも。王女殿下は、アレクシスの大切な人なんでしょう?」
随分と冷めた返事をするので、リズは戸惑いながら尋ね返す。するとアレクシスは、意味ありげに微笑んだ。
「僕は王女のことを、『友人』だと紹介したはずだよ」
「それじゃ……」
「皆がどう解釈するかは自由だけど、彼女には彼女の事情があるんだ」
「どういうこと?」
「それは、後で話すよ」
どうやらここでは話せないような、込み入った事情があるようだ。
(エディットは、アレクシスの結婚相手ではなかったんだ……)
リズは、自分でも不思議なくらいに、気持ちが晴れていくのを感じた。エディットがただの友人ならば、これからもリズはアレクシスを独占できる。
嬉しさが表情に出るのが恥ずかしくて、リズは頬を手で押さえた。
そんなリズの行動は目に入っていないのか、アレクシスは突然、辛そうに顔を歪める。
「それより僕はもう、限界なんだけど……」
具合が悪いのだろうかと心配しながら、リズはアレクシスの顔色を確認しようとしたが、彼は倒れ込むようにしてリズに抱きついてきた。
「えっ……。ちょっとアレクシス、大丈夫?」
「大丈夫じゃない……。リズを補給しないと、もう動けない」
「こんな時に冗談言わないでよ」
「冗談じゃないよ。リズは寂しくなかったの? 僕はずっとリズに会いたかった……」
今にも泣いてしまいそうなほど、か弱いアレクシスの声。その声だけでも、本当に会いたいと思っていたことが伝わってくる。
アレクシスは今、どのような表情をしているのだろう。リズは見たいと思ったが、彼は見せたくなくてこうして抱きついてきたのかもしれない。
会いたいと思っていたのは自分だけではなかったと、リズは嬉しくなる。
「私もずっと、アレクシスに会いたかったよ。ずっと寂しかった」
「僕も寂しかった……」
こうして抱きついてくると、アレクシスのほうが弟のようだ。可愛く感じたリズは、よしよしと頭をなでる。
それが恥ずかしかったのか、アレクシスはリズから離れると、不満そうに目を細めながらリズを見下ろした。
「ところで、そのドレスは誰にもらったの?」
「えっ!? これはその……フェリクスが……。断る隙も与えてもらえずに……」
「へぇ……。そういえば、名前で呼び合っているんだね。僕がいない間に、随分あいつと仲良くなったみたいだ」
「それはお鍋の対価というか……、成り行きでどうしようもなく……」
言い訳にしか聞こえない事実を聞いたアレクシスは、ぶすっと顔を歪めるとリズの両肩を掴んだ。
「気に入らない。今すぐ、それを脱がしても良い?」
「ばっ……馬鹿! なにってんのよ!」
シャンパンで酔ったわけでもないだろうに、アレクシスの目は完全に座っている。危機を感じたリズは、アレクシスの腕を掴んで抵抗した。
そんな兄妹の様子を、横から笑う者がいた。
「帰国して早々、兄妹喧嘩ですか?」
「あっ。ローラントとカルステン!」
アレクシスが帰ってきたということは当然、一緒にいたローラントも帰ってきたのだ。彼も、兄であるカルステンとの再会を果たしていたようだ。
リズは笑顔で迎えるも、なぜかアレクシスとローラントは同時にため息をついた。
「やはり手遅れみたいですよ、殿下……」
「だから、最速で帰りたかったんだ……」
二人が落ち込んでいる理由が、全くわからない。リズは困りながらカルステンへと視線を向ける。カルステンはバツが悪そうに、小声でリズに話しかけた。
「俺はまだ、死にたくないって言いましたよね」
「うん……? それは覚えてるけど」
あの時カルステンは、それまでの行いをアレクシスには秘密にしてほしいと願っていた。そして名前呼びは、彼が望んだこと。つまりリズは、カルステンを名前で呼んではいけなかったのだ。
「わぁぁごめんなさい。そこまで考えが、及ばなかったよ……」
「いえ……。事前にお止めしなかった俺も悪いので、お気になさらず。ただもうお会いできそうにないので、永遠の別れを告げさせてください……」
リズの前に並んでいる三人が、ずっしり重い空気を背負っている。
名前を呼んだだけでどうしてこうなったのかと、リズは頭を抱えた。
困ったリズは、三人と順番に踊りながら事情を聞き出すことにした。
アレクシスとローラントの主張としては、剣などの勝負で、今まで一度もカルステンに勝てたことがないらしく、カルステンとは勝負したくないのだとか。
そしてカルステンとしては、アレクシスを応援したいが、アレクシスはカルステンに対して冷たいので、上手くいかないらしい。
事情を聞いてもますますよくわからないが、つまりリズがカルステンの名前を呼んだことで、カルステンを応援していると取られたようだ。
「みんなを平等に応援するから、安心して!」とリズは慰めてみたが、アレクシスとローラントは頭を抱えてため息をつくばかり。
「俺の気持ちにはすぐに気が付かれたのに、なぜ今は気が付けないんですか?」
「だって、剣の勝負はよくわからないし……」
そうリズが答えると、カルステンもため息をついた。
ちなみにローラントはダンス中に、リズに足を踏まれなかったこともショックだったのだとか。特殊な嗜好を持ち合わせているのは、アレクシスだけではなかったようだ。
泥酔に続いての特殊嗜好の発覚。リズの中でのローラントのイメージは、大きく変わったのだった。
「うん。でも、フェリクスに譲って良かったの……?」
アレクシスに返事をしながらも、リズはあれ? と首を傾げる。
よくよく考えてみると、フェリクスを嫌っているアレクシスが、自分のパートナーを譲ったりするだろうか?
「別に構わないよ」
「えっ……でも。王女殿下は、アレクシスの大切な人なんでしょう?」
随分と冷めた返事をするので、リズは戸惑いながら尋ね返す。するとアレクシスは、意味ありげに微笑んだ。
「僕は王女のことを、『友人』だと紹介したはずだよ」
「それじゃ……」
「皆がどう解釈するかは自由だけど、彼女には彼女の事情があるんだ」
「どういうこと?」
「それは、後で話すよ」
どうやらここでは話せないような、込み入った事情があるようだ。
(エディットは、アレクシスの結婚相手ではなかったんだ……)
リズは、自分でも不思議なくらいに、気持ちが晴れていくのを感じた。エディットがただの友人ならば、これからもリズはアレクシスを独占できる。
嬉しさが表情に出るのが恥ずかしくて、リズは頬を手で押さえた。
そんなリズの行動は目に入っていないのか、アレクシスは突然、辛そうに顔を歪める。
「それより僕はもう、限界なんだけど……」
具合が悪いのだろうかと心配しながら、リズはアレクシスの顔色を確認しようとしたが、彼は倒れ込むようにしてリズに抱きついてきた。
「えっ……。ちょっとアレクシス、大丈夫?」
「大丈夫じゃない……。リズを補給しないと、もう動けない」
「こんな時に冗談言わないでよ」
「冗談じゃないよ。リズは寂しくなかったの? 僕はずっとリズに会いたかった……」
今にも泣いてしまいそうなほど、か弱いアレクシスの声。その声だけでも、本当に会いたいと思っていたことが伝わってくる。
アレクシスは今、どのような表情をしているのだろう。リズは見たいと思ったが、彼は見せたくなくてこうして抱きついてきたのかもしれない。
会いたいと思っていたのは自分だけではなかったと、リズは嬉しくなる。
「私もずっと、アレクシスに会いたかったよ。ずっと寂しかった」
「僕も寂しかった……」
こうして抱きついてくると、アレクシスのほうが弟のようだ。可愛く感じたリズは、よしよしと頭をなでる。
それが恥ずかしかったのか、アレクシスはリズから離れると、不満そうに目を細めながらリズを見下ろした。
「ところで、そのドレスは誰にもらったの?」
「えっ!? これはその……フェリクスが……。断る隙も与えてもらえずに……」
「へぇ……。そういえば、名前で呼び合っているんだね。僕がいない間に、随分あいつと仲良くなったみたいだ」
「それはお鍋の対価というか……、成り行きでどうしようもなく……」
言い訳にしか聞こえない事実を聞いたアレクシスは、ぶすっと顔を歪めるとリズの両肩を掴んだ。
「気に入らない。今すぐ、それを脱がしても良い?」
「ばっ……馬鹿! なにってんのよ!」
シャンパンで酔ったわけでもないだろうに、アレクシスの目は完全に座っている。危機を感じたリズは、アレクシスの腕を掴んで抵抗した。
そんな兄妹の様子を、横から笑う者がいた。
「帰国して早々、兄妹喧嘩ですか?」
「あっ。ローラントとカルステン!」
アレクシスが帰ってきたということは当然、一緒にいたローラントも帰ってきたのだ。彼も、兄であるカルステンとの再会を果たしていたようだ。
リズは笑顔で迎えるも、なぜかアレクシスとローラントは同時にため息をついた。
「やはり手遅れみたいですよ、殿下……」
「だから、最速で帰りたかったんだ……」
二人が落ち込んでいる理由が、全くわからない。リズは困りながらカルステンへと視線を向ける。カルステンはバツが悪そうに、小声でリズに話しかけた。
「俺はまだ、死にたくないって言いましたよね」
「うん……? それは覚えてるけど」
あの時カルステンは、それまでの行いをアレクシスには秘密にしてほしいと願っていた。そして名前呼びは、彼が望んだこと。つまりリズは、カルステンを名前で呼んではいけなかったのだ。
「わぁぁごめんなさい。そこまで考えが、及ばなかったよ……」
「いえ……。事前にお止めしなかった俺も悪いので、お気になさらず。ただもうお会いできそうにないので、永遠の別れを告げさせてください……」
リズの前に並んでいる三人が、ずっしり重い空気を背負っている。
名前を呼んだだけでどうしてこうなったのかと、リズは頭を抱えた。
困ったリズは、三人と順番に踊りながら事情を聞き出すことにした。
アレクシスとローラントの主張としては、剣などの勝負で、今まで一度もカルステンに勝てたことがないらしく、カルステンとは勝負したくないのだとか。
そしてカルステンとしては、アレクシスを応援したいが、アレクシスはカルステンに対して冷たいので、上手くいかないらしい。
事情を聞いてもますますよくわからないが、つまりリズがカルステンの名前を呼んだことで、カルステンを応援していると取られたようだ。
「みんなを平等に応援するから、安心して!」とリズは慰めてみたが、アレクシスとローラントは頭を抱えてため息をつくばかり。
「俺の気持ちにはすぐに気が付かれたのに、なぜ今は気が付けないんですか?」
「だって、剣の勝負はよくわからないし……」
そうリズが答えると、カルステンもため息をついた。
ちなみにローラントはダンス中に、リズに足を踏まれなかったこともショックだったのだとか。特殊な嗜好を持ち合わせているのは、アレクシスだけではなかったようだ。
泥酔に続いての特殊嗜好の発覚。リズの中でのローラントのイメージは、大きく変わったのだった。
10
お気に入りに追加
486
あなたにおすすめの小説
愛されたくて悪役令嬢になりました ~前世も今もあなただけです~
miyoko
恋愛
前世で大地震に巻き込まれて、本当はおじいちゃんと一緒に天国へ行くはずだった真理。そこに天国でお仕事中?という色々と規格外の真理のおばあちゃんが現れて、真理は、おばあちゃんから素敵な恋をしてねとチャンスをもらうことに。その場所がなんと、両親が作った乙女ゲームの世界!そこには真理の大好きなアーサー様がいるのだけど、モブキャラのアーサー様の情報は少なくて、いつも悪役令嬢のそばにいるってことしか分からない。そこであえて悪役令嬢に転生することにした真理ことマリーは、十五年間そのことをすっかり忘れて悪役令嬢まっしぐら?前世では体が不自由だったせいか……健康な体を手に入れたマリー(真理)はカエルを捕まえたり、令嬢らしからぬ一面もあって……。明日はデビュタントなのに……。いい加減、思い出しなさい!しびれを切らしたおばあちゃんが・思い出させてくれたけど、間に合うのかしら……。
※初めての作品です。設定ゆるく、誤字脱字もあると思います。気にいっていただけたらポチッと投票頂けると嬉しいですm(_ _)m

モブはモブらしく生きたいのですっ!
このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す
そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る!
「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」
死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう!
そんなモブライフをするはずが…?
「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」
ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします!
感想めっちゃ募集中です!
他の作品も是非見てね!
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?
当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。
ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。
対して領民の娘イルアは、本気だった。
もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。
けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。
誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。
弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない
櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。
手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。
大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。
成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで?
歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった!
出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。
騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる?
5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。
ハッピーエンドです。
完結しています。
小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる