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11 公子様と隣国
1 (アレクシス視点)
しおりを挟む舞踏会から数日後。アレクシスは、本宮の謁見の間にいた。父親である公王から手渡された書簡に目を通したアレクシスは、ため息をついてから公王向けて視線を上げる。
「また、結婚の打診ですか。数か月前にも、来たばかりですよ」
「舞踏会でのお前の振る舞いが、王女の耳にも入ったようだな。他から打診が来る前に、先手を打ったのだろう」
隣国フラル王国には、アレクシスと同じ歳の王女がいる。アレクシスとは、アカデミー留学時代にドルレーツ王国でおこなわれた舞踏会で、一度ダンスを踊っただけの仲だ。けれどそれ以来、たびたび結婚の打診が舞い込むようになっている。
アレクシスとしては、公王の座を狙っているわけではないので、下手に後ろ盾となりそうな王女など、娶るわけにはいかない。誰かと結婚するにしても、弟が後継者に選ばれてからと決めていた。
しかし、何度断ってもこうして定期的に、打診の書簡が送られてくるのだ。
アレクシスの意思を知りつつも、公王が隣国からの書簡を見せる理由も、アレクシスは察している。公王はアレクシスに、王位を譲りたいと思っているからだ。
私生児である息子を王位に就けるには、隣国の王女はうってつけの結婚相手だと考えているのだろう。
「僕の結婚相手は、もう少し吟味して決めたいと思います……。公子妃となられる方には、それなりの能力も必要となりますので」
今までなら、「結婚はしない」と突っぱねていたアレクシスだが、今回は明言を避けるように返答した。
アレクシスが公子の証を身に着けたことで、今の公王は気を良くしている。リズを守るためには、公王の機嫌は取っておくに越したことはない。
「ふむ。お前にその気があるなら、自分で選んでみなさい。だが今回は、国王陛下からの親書だ。今までのような断り方は、通用しないぞ。誠意を持って対応しなさい」
「はい。父上」
第二公子宮殿へと戻ったアレクシスは、考え込みながら廊下を歩いていた。公王の言うとおり、今までのような書簡での断り方は国王に対して失礼にあたる。求婚を断るならば、直接フラル王国へ出向かねばならない。
「リズには、知られたくないな……」
王女に対しての気持ちは全くないが、結婚相手の候補がいるということを、リズには知られたくない。もしもリズに知られて応援でもされようものなら、アレクシスにとっては地獄そのものだ。
「はぁ。面倒だ……」
「何が面倒なんですか?」
突然、誰かに返答され、アレクシスは驚いて振り返った。そこには、幼馴染であるローラントの姿が。
「……急に話しかけるな。リズは?」
「リゼット殿下は、お部屋で本をお読みになっております」
「そう」
「それで、何が面倒なんですか?」
あの日以来、ローラントは機会を見つけては、アレクシスに話しかけるようになっていた。アレクシスに、これまでの不満をぶつけたことで、何かが吹っ切れたように自然な態度で、彼は接してくる。そんなローラントの態度を、アレクシスも悪い気はしないでいた。
「フラル王国の王女に、会いに行かなければならない」
「結婚の件ですか……?」
「うん。今回できっちりと、ケリをつけてくるつもりだ」
「そうですか。留守はお任せ下さい。リゼット殿下のことは、最優先でお守りいたします」
恋のライバルということはさておき、ローラントに任せておけば、リズの心配をせずにアレクシスは隣国へと向かえる。けれどアレクシスは、「いや」と否定を口にした。
「ローラントも、一緒に来て」
「なぜですか……?」
「少人数でいけば、最速で帰ってこられるだろう? 残念ながら、補佐と護衛の両方を任せられるのは、ローラントだけだしね」
ローラントは、何かを思い出したように苦笑いする。
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「それはお互い様」
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その役目を再び任せるのは、本人が嫌がるかとアレクシスは少し心配していたが、ローラントに異存はないようだ。
舞踏会の日、「頼ってほしい」と言っていたのは、酔っ払いの戯言ではなかったらしい。
「リゼット殿下は、どうなさるおつもりですか?」
「本当は任せたくないけれど、カルステンが適任だ」
「リゼット殿下が絡むと、兄上に厳しいですね。何かございましたか?」
小説の設定を知らないローラントにとっては、アレクシスの態度は不自然に見えるようだ。だからといって、リズとの二人だけの秘密を、易々とライバルに話すつもりはアレクシスにはない。
「リズって、カルステンの好みを生き写しにしたように見えない?」
事実だけを伝えると、ローラントは理解したように顔をしかめた。
「俺も、不安になってきました……。最速を越える速さで、帰って来ましょう」
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