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09 舞踏会の目的
6 公王との交渉4
しおりを挟む「お前の言い分はよくわかった。万能薬作りで功績を残した一族の娘に、国花の名である『リゼット』を贈りたいということだな」
「はい、父上」
「うむ。本来ならば、勲章に値する功績だ。国花の名を贈ることでその代わりとなるならば、名を贈ることに異存はないが。皆は、どうだろうか」
公王は、同意を求めるように貴族達を見回した。貴族達としても、名を贈るだけで万能薬が五倍になるなら、安いもの。誰も反対する者はいなかった。ぽつり、ぽつりと拍手が起こり、次第に盛大な拍手へと変わっていく。
「貴族の同意も得られたようだ。ならば正式に娘の名を――」
公王がそうまとめかけたその時、アレクシスは割って入るように言葉を発した。
「僕からもう一つ、提案がございます。先ほどの入場の際、彼女に対する貴族の対応は目に余るものでした。公女となる彼女に対して、このような差別は許されるべきではありません。今こそ、父上が温められてきた『魔女に対する差別撤廃法案』を、制定させる時ではございませんか」
にこりと微笑む息子に対して、公王は唖然としたまま言葉が出てこなかった。
公王は『魔女に対する差別撤廃法案』など、考えたことはない。
けれど、アレクシスが幼い頃。公王はアレクシスに「おじさんは、どんなしごとをしているの?」と尋ねられたことがある。
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しかも父を利用する形で、息子は自らの願いを叶えようとしている。公宮で目立たぬよう、ひっそりと暮らしていたと思っていた息子が、いつの間にそのような強かさを手に入れたのか。
公王は、そんなアレクシスの変貌ぶりが嬉しくて、一人で大声を出して笑い出した。
「良かろう。その法案は必ず、議会を通すことを約束しようではないか」
「陛下……。そのような独断は貴族の反感を……」
公王といえども、貴族の声は無視できない。宰相は心配してそう声をあげるも、公王は笑いを収めたばかりの明るい声で返す。
「まさか我が国に、『薬は欲しいが、差別は止めたくない』などという、浅ましい考えの者がいるとは思えんな。そうであろう? 誇り高き、貴族達よ」
先ほど盛大に拍手したばかりの貴族達は、公王にそう持ち上げられてしまえば反論できるはずがない。
少々気に入らなくとも、誇りと体裁を守りたがるのが貴族というもの。再び賛同する拍手が湧き起った。
「アレクシス。娘をこちらへ連れて来なさい」
「はい。父上」
全てがアレクシスの思いどおりに運び、アレクシスは上機嫌な様子で、リズを壇上へと案内する。
緊張しながらリズが公王の隣に立つと、公王はリズの肩を力強く抱き寄せた。
「皆に、新たな我が娘『リゼット』を紹介しよう。公国を陰から支えてきた一族の娘を、養女として迎え入れられたことを、誇りに思う。皆、公女に敬意を払って接するように」
会場にいる貴族達は、一斉に壇上に向かって礼をした。小説とはあまりに違う光景だ。
アレクシスと二人でリズの家へ行った日、彼は「一緒に頑張ろう」と言ってくれたが、結局はほぼ全てを、アレクシスが一人でやってのけてしまった。
妹愛の力は計り知れない。リズはひたすら感心するしかなかった。
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