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08 お披露目舞踏会
3 公子様との入場1
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「第二公子アレクシス殿下と、魔女リズ様のご入場です!」
会場の扉が開かれると、辺りは喧騒に包まれた。煌びやかな会場。華やかに着飾った貴族達が、様々な場所で談笑に花を咲かせている。
(えっ……。アレクシスが入場したのに、こんな態度でいいの……?)
公家の者が入場した際は、全員で挨拶するのが礼儀だと、リズはバルリング伯爵夫人から教えられている。それにも関わらす、アレクシスに向けて礼をしたのは数えるほどしかいない。
そして、リズの耳には耳障りな声が聞こえてくる。
「下賤の公子が……」
「私生児ごときが……」
喧騒に紛れた声のほとんどが、アレクシスへの中傷だ。
「アレクシス……」
「気分悪い思いをさせてしまって、ごめんね」
動揺したリズがアレクシスへ視線を向けると、彼は申し訳なさで一杯のような表情を浮かべる。
「こんなのひどいよ……」
「仕方ないさ。皆が言っていることは、事実なんだから」
「でも……」
「リズは、僕が貴族にどう思われようが、関係ないと言ってくれたじゃないか。早く階段を下りよう。じゃないと、いつまでも罵られ続けるよ」
アレクシスは慣れているかのように、リズをエスコートしながら階段を下り始めた。
(関係ないとは言ったけど、アレクシスへの無礼を許せるわけじゃないんだから……!)
かといって、まだ正式に公女として認められていないリズは、庶民のまま。この場で貴族に意見したところで、無礼として処罰されるのはリズのほうだ。
地位がなければ意見も言えない。リズは悔しさを噛みしめながら、階段を下りていく。すると、次第に罵りの対象はリズやメルヒオールへと移り始めた。
「公子をたぶらかすなんて、悪い魔女だ!」
「見てあのほうき、動いているわ! 気味が悪い……」
公子であるアレクシスには、多少なりとも配慮していたのか、ぼそぼそとしか聞こえていなかった罵りも、リズやメルヒオールに対しては遠慮がない。リズの耳にまで、はっきりと聞こえてくる。
そんな状況でリズは、ふと小説の展開を思い出した。
小説のヒロインは誰にも庇護されていなかったので、もちろん舞踏会への入場も一人きりだった。ヒロインは貴族中から罵声を浴びせられながら会場へと入ったのだ。
一番初めにヒロインを好きになったカルステンは、その場をどうにもできず、バルコニーの隅で泣いているヒロインを慰めることしかできなかった。
「ねぇ、アレクシス。これからは、嫌なことも半分こできるね」
しかし今は、アレクシスが一緒のおかげで、リズへの罵りは罵声とまではいかない程度。アレクシスへの罵りも、リズがいることで影を潜めつつある。
相乗効果のおかげで、小説の展開よりずっと良いと思えたリズは、アレクシスに向けて微笑んだ。
「リズ……。そんな悲しいことで、喜ばないで」
階段を下りることに専念していたアレクシスは、動きを止めてからリズへ悲しそうな目を向ける。それから、何かを決意したように表情を引き締めた彼は、会場全体を見回した。
「君達、無礼が過ぎるよ」
会場全体に、よく通るアレクシスの声が響き、一瞬にして会場は静まり返った。
多くの貴族が動揺の色を見せる中、会場の奥のほうから笑いながらこちらへ向かってくる者がいる。
「第二公子殿下、どうなされた! 気でも狂いましたかな?」
(ヘルマン伯爵? この人って確か、ヒロインを虐めていた首謀者だよね……)
小説では、ヒロインが滞在していた宮殿の管理を任されていたのが、ヘルマン伯爵夫人。夫婦は共謀して、侍女や使用人たちにヒロインを虐めさせていたのだ。
ヘルマン家はこの地に代々仕える家門であり、ドルレーツ王国の貴族であることに誇りを持っていた。
しかし十年前、この地は独立して公国となり、弱小国の貴族に成り下がったことを、ずっと恨んでいる。
独立に際して、王国民が反対しなかった理由である『魔女』が憎くて仕方なかったヘルマン家は、ヒロインを虐めて憂さ晴らしをしていた。
(作中では語られていなかったけれど、その恨みをアレクシスにも向けていたのね……)
ヘルマン家の他にも、国の成り立ちが理由で公家に対して不満を持っている者は多い。ドルレーツ王国民は愛国心が強いので、王弟の私情によって独立させられたことに、不満を抱くのは仕方のないことかもしれない。
(けれど、アレクシスは生まれを選べないのに、アレクシスに矛先を向けるなんて……)
「ヘルマン伯爵。気が狂っているのは、貴方のほうだ」
アレクシスに反論されたヘルマン伯爵は、怒りを露わにしながら、さらに近づいてくる。
「私の気が狂っているだと! 私生児ごときが、よくもそんな口を聞けたものだな!」
会場の扉が開かれると、辺りは喧騒に包まれた。煌びやかな会場。華やかに着飾った貴族達が、様々な場所で談笑に花を咲かせている。
(えっ……。アレクシスが入場したのに、こんな態度でいいの……?)
公家の者が入場した際は、全員で挨拶するのが礼儀だと、リズはバルリング伯爵夫人から教えられている。それにも関わらす、アレクシスに向けて礼をしたのは数えるほどしかいない。
そして、リズの耳には耳障りな声が聞こえてくる。
「下賤の公子が……」
「私生児ごときが……」
喧騒に紛れた声のほとんどが、アレクシスへの中傷だ。
「アレクシス……」
「気分悪い思いをさせてしまって、ごめんね」
動揺したリズがアレクシスへ視線を向けると、彼は申し訳なさで一杯のような表情を浮かべる。
「こんなのひどいよ……」
「仕方ないさ。皆が言っていることは、事実なんだから」
「でも……」
「リズは、僕が貴族にどう思われようが、関係ないと言ってくれたじゃないか。早く階段を下りよう。じゃないと、いつまでも罵られ続けるよ」
アレクシスは慣れているかのように、リズをエスコートしながら階段を下り始めた。
(関係ないとは言ったけど、アレクシスへの無礼を許せるわけじゃないんだから……!)
かといって、まだ正式に公女として認められていないリズは、庶民のまま。この場で貴族に意見したところで、無礼として処罰されるのはリズのほうだ。
地位がなければ意見も言えない。リズは悔しさを噛みしめながら、階段を下りていく。すると、次第に罵りの対象はリズやメルヒオールへと移り始めた。
「公子をたぶらかすなんて、悪い魔女だ!」
「見てあのほうき、動いているわ! 気味が悪い……」
公子であるアレクシスには、多少なりとも配慮していたのか、ぼそぼそとしか聞こえていなかった罵りも、リズやメルヒオールに対しては遠慮がない。リズの耳にまで、はっきりと聞こえてくる。
そんな状況でリズは、ふと小説の展開を思い出した。
小説のヒロインは誰にも庇護されていなかったので、もちろん舞踏会への入場も一人きりだった。ヒロインは貴族中から罵声を浴びせられながら会場へと入ったのだ。
一番初めにヒロインを好きになったカルステンは、その場をどうにもできず、バルコニーの隅で泣いているヒロインを慰めることしかできなかった。
「ねぇ、アレクシス。これからは、嫌なことも半分こできるね」
しかし今は、アレクシスが一緒のおかげで、リズへの罵りは罵声とまではいかない程度。アレクシスへの罵りも、リズがいることで影を潜めつつある。
相乗効果のおかげで、小説の展開よりずっと良いと思えたリズは、アレクシスに向けて微笑んだ。
「リズ……。そんな悲しいことで、喜ばないで」
階段を下りることに専念していたアレクシスは、動きを止めてからリズへ悲しそうな目を向ける。それから、何かを決意したように表情を引き締めた彼は、会場全体を見回した。
「君達、無礼が過ぎるよ」
会場全体に、よく通るアレクシスの声が響き、一瞬にして会場は静まり返った。
多くの貴族が動揺の色を見せる中、会場の奥のほうから笑いながらこちらへ向かってくる者がいる。
「第二公子殿下、どうなされた! 気でも狂いましたかな?」
(ヘルマン伯爵? この人って確か、ヒロインを虐めていた首謀者だよね……)
小説では、ヒロインが滞在していた宮殿の管理を任されていたのが、ヘルマン伯爵夫人。夫婦は共謀して、侍女や使用人たちにヒロインを虐めさせていたのだ。
ヘルマン家はこの地に代々仕える家門であり、ドルレーツ王国の貴族であることに誇りを持っていた。
しかし十年前、この地は独立して公国となり、弱小国の貴族に成り下がったことを、ずっと恨んでいる。
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(けれど、アレクシスは生まれを選べないのに、アレクシスに矛先を向けるなんて……)
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アレクシスに反論されたヘルマン伯爵は、怒りを露わにしながら、さらに近づいてくる。
「私の気が狂っているだと! 私生児ごときが、よくもそんな口を聞けたものだな!」
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