44 / 116
08 お披露目舞踏会
3 公子様との入場1
しおりを挟む
「第二公子アレクシス殿下と、魔女リズ様のご入場です!」
会場の扉が開かれると、辺りは喧騒に包まれた。煌びやかな会場。華やかに着飾った貴族達が、様々な場所で談笑に花を咲かせている。
(えっ……。アレクシスが入場したのに、こんな態度でいいの……?)
公家の者が入場した際は、全員で挨拶するのが礼儀だと、リズはバルリング伯爵夫人から教えられている。それにも関わらす、アレクシスに向けて礼をしたのは数えるほどしかいない。
そして、リズの耳には耳障りな声が聞こえてくる。
「下賤の公子が……」
「私生児ごときが……」
喧騒に紛れた声のほとんどが、アレクシスへの中傷だ。
「アレクシス……」
「気分悪い思いをさせてしまって、ごめんね」
動揺したリズがアレクシスへ視線を向けると、彼は申し訳なさで一杯のような表情を浮かべる。
「こんなのひどいよ……」
「仕方ないさ。皆が言っていることは、事実なんだから」
「でも……」
「リズは、僕が貴族にどう思われようが、関係ないと言ってくれたじゃないか。早く階段を下りよう。じゃないと、いつまでも罵られ続けるよ」
アレクシスは慣れているかのように、リズをエスコートしながら階段を下り始めた。
(関係ないとは言ったけど、アレクシスへの無礼を許せるわけじゃないんだから……!)
かといって、まだ正式に公女として認められていないリズは、庶民のまま。この場で貴族に意見したところで、無礼として処罰されるのはリズのほうだ。
地位がなければ意見も言えない。リズは悔しさを噛みしめながら、階段を下りていく。すると、次第に罵りの対象はリズやメルヒオールへと移り始めた。
「公子をたぶらかすなんて、悪い魔女だ!」
「見てあのほうき、動いているわ! 気味が悪い……」
公子であるアレクシスには、多少なりとも配慮していたのか、ぼそぼそとしか聞こえていなかった罵りも、リズやメルヒオールに対しては遠慮がない。リズの耳にまで、はっきりと聞こえてくる。
そんな状況でリズは、ふと小説の展開を思い出した。
小説のヒロインは誰にも庇護されていなかったので、もちろん舞踏会への入場も一人きりだった。ヒロインは貴族中から罵声を浴びせられながら会場へと入ったのだ。
一番初めにヒロインを好きになったカルステンは、その場をどうにもできず、バルコニーの隅で泣いているヒロインを慰めることしかできなかった。
「ねぇ、アレクシス。これからは、嫌なことも半分こできるね」
しかし今は、アレクシスが一緒のおかげで、リズへの罵りは罵声とまではいかない程度。アレクシスへの罵りも、リズがいることで影を潜めつつある。
相乗効果のおかげで、小説の展開よりずっと良いと思えたリズは、アレクシスに向けて微笑んだ。
「リズ……。そんな悲しいことで、喜ばないで」
階段を下りることに専念していたアレクシスは、動きを止めてからリズへ悲しそうな目を向ける。それから、何かを決意したように表情を引き締めた彼は、会場全体を見回した。
「君達、無礼が過ぎるよ」
会場全体に、よく通るアレクシスの声が響き、一瞬にして会場は静まり返った。
多くの貴族が動揺の色を見せる中、会場の奥のほうから笑いながらこちらへ向かってくる者がいる。
「第二公子殿下、どうなされた! 気でも狂いましたかな?」
(ヘルマン伯爵? この人って確か、ヒロインを虐めていた首謀者だよね……)
小説では、ヒロインが滞在していた宮殿の管理を任されていたのが、ヘルマン伯爵夫人。夫婦は共謀して、侍女や使用人たちにヒロインを虐めさせていたのだ。
ヘルマン家はこの地に代々仕える家門であり、ドルレーツ王国の貴族であることに誇りを持っていた。
しかし十年前、この地は独立して公国となり、弱小国の貴族に成り下がったことを、ずっと恨んでいる。
独立に際して、王国民が反対しなかった理由である『魔女』が憎くて仕方なかったヘルマン家は、ヒロインを虐めて憂さ晴らしをしていた。
(作中では語られていなかったけれど、その恨みをアレクシスにも向けていたのね……)
ヘルマン家の他にも、国の成り立ちが理由で公家に対して不満を持っている者は多い。ドルレーツ王国民は愛国心が強いので、王弟の私情によって独立させられたことに、不満を抱くのは仕方のないことかもしれない。
(けれど、アレクシスは生まれを選べないのに、アレクシスに矛先を向けるなんて……)
「ヘルマン伯爵。気が狂っているのは、貴方のほうだ」
アレクシスに反論されたヘルマン伯爵は、怒りを露わにしながら、さらに近づいてくる。
「私の気が狂っているだと! 私生児ごときが、よくもそんな口を聞けたものだな!」
会場の扉が開かれると、辺りは喧騒に包まれた。煌びやかな会場。華やかに着飾った貴族達が、様々な場所で談笑に花を咲かせている。
(えっ……。アレクシスが入場したのに、こんな態度でいいの……?)
公家の者が入場した際は、全員で挨拶するのが礼儀だと、リズはバルリング伯爵夫人から教えられている。それにも関わらす、アレクシスに向けて礼をしたのは数えるほどしかいない。
そして、リズの耳には耳障りな声が聞こえてくる。
「下賤の公子が……」
「私生児ごときが……」
喧騒に紛れた声のほとんどが、アレクシスへの中傷だ。
「アレクシス……」
「気分悪い思いをさせてしまって、ごめんね」
動揺したリズがアレクシスへ視線を向けると、彼は申し訳なさで一杯のような表情を浮かべる。
「こんなのひどいよ……」
「仕方ないさ。皆が言っていることは、事実なんだから」
「でも……」
「リズは、僕が貴族にどう思われようが、関係ないと言ってくれたじゃないか。早く階段を下りよう。じゃないと、いつまでも罵られ続けるよ」
アレクシスは慣れているかのように、リズをエスコートしながら階段を下り始めた。
(関係ないとは言ったけど、アレクシスへの無礼を許せるわけじゃないんだから……!)
かといって、まだ正式に公女として認められていないリズは、庶民のまま。この場で貴族に意見したところで、無礼として処罰されるのはリズのほうだ。
地位がなければ意見も言えない。リズは悔しさを噛みしめながら、階段を下りていく。すると、次第に罵りの対象はリズやメルヒオールへと移り始めた。
「公子をたぶらかすなんて、悪い魔女だ!」
「見てあのほうき、動いているわ! 気味が悪い……」
公子であるアレクシスには、多少なりとも配慮していたのか、ぼそぼそとしか聞こえていなかった罵りも、リズやメルヒオールに対しては遠慮がない。リズの耳にまで、はっきりと聞こえてくる。
そんな状況でリズは、ふと小説の展開を思い出した。
小説のヒロインは誰にも庇護されていなかったので、もちろん舞踏会への入場も一人きりだった。ヒロインは貴族中から罵声を浴びせられながら会場へと入ったのだ。
一番初めにヒロインを好きになったカルステンは、その場をどうにもできず、バルコニーの隅で泣いているヒロインを慰めることしかできなかった。
「ねぇ、アレクシス。これからは、嫌なことも半分こできるね」
しかし今は、アレクシスが一緒のおかげで、リズへの罵りは罵声とまではいかない程度。アレクシスへの罵りも、リズがいることで影を潜めつつある。
相乗効果のおかげで、小説の展開よりずっと良いと思えたリズは、アレクシスに向けて微笑んだ。
「リズ……。そんな悲しいことで、喜ばないで」
階段を下りることに専念していたアレクシスは、動きを止めてからリズへ悲しそうな目を向ける。それから、何かを決意したように表情を引き締めた彼は、会場全体を見回した。
「君達、無礼が過ぎるよ」
会場全体に、よく通るアレクシスの声が響き、一瞬にして会場は静まり返った。
多くの貴族が動揺の色を見せる中、会場の奥のほうから笑いながらこちらへ向かってくる者がいる。
「第二公子殿下、どうなされた! 気でも狂いましたかな?」
(ヘルマン伯爵? この人って確か、ヒロインを虐めていた首謀者だよね……)
小説では、ヒロインが滞在していた宮殿の管理を任されていたのが、ヘルマン伯爵夫人。夫婦は共謀して、侍女や使用人たちにヒロインを虐めさせていたのだ。
ヘルマン家はこの地に代々仕える家門であり、ドルレーツ王国の貴族であることに誇りを持っていた。
しかし十年前、この地は独立して公国となり、弱小国の貴族に成り下がったことを、ずっと恨んでいる。
独立に際して、王国民が反対しなかった理由である『魔女』が憎くて仕方なかったヘルマン家は、ヒロインを虐めて憂さ晴らしをしていた。
(作中では語られていなかったけれど、その恨みをアレクシスにも向けていたのね……)
ヘルマン家の他にも、国の成り立ちが理由で公家に対して不満を持っている者は多い。ドルレーツ王国民は愛国心が強いので、王弟の私情によって独立させられたことに、不満を抱くのは仕方のないことかもしれない。
(けれど、アレクシスは生まれを選べないのに、アレクシスに矛先を向けるなんて……)
「ヘルマン伯爵。気が狂っているのは、貴方のほうだ」
アレクシスに反論されたヘルマン伯爵は、怒りを露わにしながら、さらに近づいてくる。
「私の気が狂っているだと! 私生児ごときが、よくもそんな口を聞けたものだな!」
10
お気に入りに追加
486
あなたにおすすめの小説
愛されたくて悪役令嬢になりました ~前世も今もあなただけです~
miyoko
恋愛
前世で大地震に巻き込まれて、本当はおじいちゃんと一緒に天国へ行くはずだった真理。そこに天国でお仕事中?という色々と規格外の真理のおばあちゃんが現れて、真理は、おばあちゃんから素敵な恋をしてねとチャンスをもらうことに。その場所がなんと、両親が作った乙女ゲームの世界!そこには真理の大好きなアーサー様がいるのだけど、モブキャラのアーサー様の情報は少なくて、いつも悪役令嬢のそばにいるってことしか分からない。そこであえて悪役令嬢に転生することにした真理ことマリーは、十五年間そのことをすっかり忘れて悪役令嬢まっしぐら?前世では体が不自由だったせいか……健康な体を手に入れたマリー(真理)はカエルを捕まえたり、令嬢らしからぬ一面もあって……。明日はデビュタントなのに……。いい加減、思い出しなさい!しびれを切らしたおばあちゃんが・思い出させてくれたけど、間に合うのかしら……。
※初めての作品です。設定ゆるく、誤字脱字もあると思います。気にいっていただけたらポチッと投票頂けると嬉しいですm(_ _)m
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜
アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。
そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。
とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。
主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────?
「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」
「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」
これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる