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08 お披露目舞踏会
2 公子様の決意
しおりを挟む本宮へと移動したリズ達が回廊を進んでいると、アレクシスは急に立ち止まった。どうしたのかと皆が思っていると、アレクシスは自らの懐に手を差し入れる。
「リズ。これを、僕の首にかけてくれないかな」
アレクシスが取り出したのは、公子の証であるペンダント。
彼のその言葉に、ローラントやアレクシスの護衛が、驚いた表情を向ける。
「殿下……!」
「リズを守るためには、必要だろう?」
同意を求めるように、アレクシスがローラントへ視線を向けると、ローラントは意を得たように力強くうなずいた。
(確か、副団長はあの証を見たことがなかったみたいだから、アレクシスは公の場で、証を身に着けたことが無いってことだよね?)
公子として自身がなかったアレクシスにとっては、証を身に着けるということは大きな決断なのではないだろうか。
リズとしては、アレクシスに堂々と自分の隣にいてほしかっただけなので、少し心配になる。
「アレクシス、無理してない? 私は、アレクシスが隣にいてくれるだけで満足だよ」
「無理はしていないよ。可愛い妹のためと思えば、僕はなんでもできる気がするんだ。だからリズの手で、僕の首に掛けてくれないかな」
「そういうことなら」
公子の証を受け取ったリズは、アレクシスの首に掛けようと腕を伸ばした。アレクシスは背が高い。彼の髪を乱さないようにと思うと、自然とリズはつま先立ちになる。
すると突然、リズの身体は前方へぐらりと揺れた。
「きゃっ……!」
リズは、バランスを崩したのではない。アレクシスによって、腰を抱き寄せられたのだ。
アレクシスの意外と厚い胸板に密着してしまったリズは、一気に顔が熱るのを感じながらアレクシスを見上げた。
「ア……アレクシス。なにを……?」
「リズが不安定な体勢だったから、支えてあげようと思って」
(余計なお世話なんですけど……!)
「みんなの前で恥ずかしいから、離してよ……」
「リズが倒れないか、心配だ。早く僕の首に、掛けてしまって」
アレクシスは掛けやすくするためなのか、首を下へと傾けた。先ほどよりは手が楽に届くようになったが、リズには別の問題が浮上する。
(ちょ……。これじゃ、キスしようとしているみたいじゃない……!)
通りすがりの人にでも見られたら、変な噂が立ってしまう。リズは至近距離にあるイケメンに耐えながら、急いで公子の証をアレクシスの首に掛ける。それからすぐに離れようとしたが、アレクシスは離してくれないどころか、リズをぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう、リズ。僕はこの瞬間を、一生忘れないよ」
アレクシスにとっては、公子として自信をつけるための、重大な決意をした瞬間だったのかもしれない。
それならばもっと、真剣な態度で臨んでくれても良かったのでは?
アレクシスのペースにまんまとはめられたリズも、この瞬間はなかなか忘れられないだろうと感じた。
「本当に僕と入場して、後悔しない?」
会場の扉の前に立ったアレクシスは、最終確認のようにリズへ尋ねた。曇った表情が、彼の迷いをよく表している。
「公子の証まで掛けたのに、アレクシスはまだ心配なの?」
「そうじゃないんだ。リズが第一公子と入場すれば、少なくとも歓迎はされるから……」
「言ったでしょう。アレクシスが貴族にどう思われようが、関係ないって。私は、アレクシスと一緒に入場したいんだから、妹の望みを叶えてよ」
彼の弱い部分をついたお願いをすると、アレクシスは諦めたように微笑んだ。
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