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06 公女教育とお礼
4 リズの得意技
しおりを挟む厨房へと移動したリズとローラントは、料理長にお願いして料理を作らせてもらうことにした。
「リズ様、何をお作りになるのですか?」
「夜食だし、お腹に負担がかからないよう、ブーケガルニのスープにしようかと思って」
「美味しそうですね。俺もお手伝いしたいですが、料理は経験がないもので……」
「大丈夫。ローラントは見学してて」
料理長に食材を見せてもらったリズは、スープの具になりそうな鶏肉や根菜・キノコなどを選ぶ。それから、厨房を出てすぐ目の前にある菜園から、数種類のハーブを採取してきた。
それらのハーブを糸で束ねると、ブーケガルニになる。リズがせっせと束ねていると、料理長がじっとリズの手元を見つめていることに気がついた。
普通は、パセリ・ローリエ・タイム辺りを使うが、リズはそれ以上にいくつものハーブを使っているからだろう。中には、前世の世界にはなかったハーブなんかもあったりする。
「何種類も使うのが、魔女流なの」
「……さようでございますか」
無口そうで、いかにも職人のような雰囲気の料理長だが、リズの手順には興味があるようだ。料理長はすぐに自分の仕事に戻るも、チラチラとリズを気にしている。
そんな料理長の視線は気にせず、リズはスープ作りを続けた。全ての具材を鍋に投入したリズは、ヘラでゆっくりと鍋の中をかき混ぜ始める。
「魔女様……、そんなにかき混ぜては……」
具材が煮崩れすると、料理長は言いたいのだろう。
「これも魔女流なの」
「さようで……」
素人の料理だと判断したのか、料理長は興味を無くしたように洗い物を始めてしまった。
しかしリズには、こうしている理由がある。実は、鍋の中をかき混ぜながら、しれっと魔力を流していたのだ。ブーケガルニの材料が、魔法薬に使うものだということは、この場でリズしか知る由もない。
(ふふ。これで、疲労回復効果抜群のスープが完成するんだから)
完成したスープは、なんとも食欲がそそる香りで、ローラントは目が釘付けになってしまった。
「本当に美味しそうですね。公子殿下が羨ましいです」
「たくさん作ったから、後で侍従さんと一緒に食べて」
二人とも兄弟のことで悩んでいるようなので、これを食べれば少しは元気がでるだろう。リズはそう思いつつローラントにスープを勧めてから、料理長へと視線を移した。
「料理長も良かったら、味見してね」
「ゴホンッ……。恐れ入ります、魔女様」
香りに誘われたのか、再び料理長はスープが気になっていたようだ。
『リズ特製ブーケガルニスープ~魔法薬仕立て~』をワゴンに乗せたリズは、アレクシスの執務室へと向かった。
「アレクシス、入っても良い?」
いつものように扉からひょこっと顔を覗かせると、アレクシスは即座に立ち上がってリズの元へとやってきた。
「リズ! きっと、来てくれると思っていたよ。もしかして、僕の夜食を届けてくれたのかな?」
「あ……うん」
(あれ? 侍従さんが話しちゃったのかな……)
ちらりと侍従に視線を向けてみるが、侍従は小さく首を左右に振る。どうやら、彼が話したわけではないらしい。
(やっぱりアレクシスは鋭いから、わかっちゃったのかな……?)
サプライズは失敗したようだが、アレクシスは大喜びしている。リズは良しとすることにした。
「侍従さん達の分も厨房にあるんだけど、食べに行ってもらっても良い?」
「うん。構わないよ。――二人とも、しばらく戻らなくて良いから。ゆっくりと食べておいで」
気のせいか、ところどころ語調の強い箇所があったようだが、アレクシスはこころよく侍従二人を送り出してくれた。
リズがほっとしている間にも、アレクシスは自らワゴンを押しながらテーブルへと向かう。
「なんだか、いつもより美味しそうな香りがするね。もしかして、リズが作ってくれたのかな?」
「え……、そうだけど?」
リズがそう答えると、なぜかアレクシスは動きを止める。
(あれ? 気がついていたんじゃないの?)
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