33 / 116
06 公女教育とお礼
3 作戦実行
しおりを挟む「行動ね……。それなら私にもできるかも」
アレクシスにはお世話になりっぱなしだが、リズはまだなにも返せていない。アレクシスが少しでも喜んでくれるなら、何かしてあげたいとリズは思った。
「ローラント、相談に乗ってくれてありがとう」
「少しでも、リズ様のお力になれたのでしたら幸いです。これからは、どのような些細なお悩みでも、どうか俺にご相談ください」
「うん。頼りにしているね」
嬉しそうに微笑んだローラントは、それからリズの手の甲に口づけた。これは忠誠を誓った騎士からの、敬愛の印。バルリング伯爵夫人からはそう学んだが、そのような貴族の習慣に慣れていないリズは、不覚にも頬が熱を持ってしまう。
そして「夫人の息子さんは、イケメンが過ぎますよ!」と心の中で苦情を述べた。
夕食後。アレクシスの執務室が見える廊下の陰に、リズとローラントは身を潜めていた。
「リズ様……。こうして待ち伏せせずとも、侍従を呼び出せばよろしいのではございませんか?」
「アレクシスは、すご~~~く感が鋭いんだから。侍従を呼び出したら、すぐにバレちゃうよ」
「しかし、リズ様にご不便をおかけする訳には……。侍従が執務室を出ましたら、俺が連れて行きますので。リズ様はどうか、お部屋でお待ちください」
「いいの、いいの。侍従さんの戻りが遅くなったら、それこそアレクシスが怪しむもん」
廊下の陰で、ひそひそと主従がやり取りをしていると、執務室の扉がカチャリと開いて、侍従が廊下へと出てきた。
「あっ! 出てきたよ。お~い、侍従さ~ん!」
リズが小声で呼びかけると、侍従は廊下の角へと視線を向けた。
「魔女様。公子殿下に御用でございますか?」
「し~! アレクシスに聞こえちゃうよ。こっちの陰で話そう」
「はい……」
リズに手招きされ、廊下の角を曲がった侍従は、不思議そうな顔でリズとローラントを交互に見つめた。
「お二人そろって、どうなさったのですか?」
「あのね……。実は……、アレクシスにはいつもお世話になっているから、お礼がしたいの。何をしたら、アレクシスは喜ぶかな?」
照れながらも、兄のために何かしたいというその姿は、ヒロイン補正のおかげか、この上なく健気な美少女に見える。この場にいる男性二人の心には、『羨ましい』という言葉が浮かばずにはいられなかった。
「くっ……。このような妹君を迎えられて、公子殿下はなんと幸せなお方なのでしょう」
(侍従さんはなぜ、悔しそうなの? 妹なら侍従さんにもいたよね……)
「そうですよね。俺もいつかは、公子殿下を『義兄』と呼びたいものです」
(ローラントは、カルステンが大好きなんじゃなかったの……?)
「二人とも……。兄弟のことで悩みがあるなら、いつでも相談してね?」
「魔女様のお心遣いだけで、私は十分に幸せですっ……」
どうみても悔しさが滲みでているような表情の侍従に、大丈夫かな? とリズが首を傾げていると、侍従は話を元に戻した。
「……それより、公子殿下にお礼をなさりたいとのことですが。ちょうどこれから、殿下の夜食を頼みに行くところでしたので、魔女様がメニューを考えられてはいかがでしょうか」
「私が勝手に決めて良いの?」
「いつもは料理人に任せきりですので、魔女様が考えられたとお知りになれば、きっと殿下はお喜びになるかと思います」
妹のことに関してはやたらとこだわるアレクシスだが、自分自身については意外と無頓着のようだ。
「メニューね……。それって、私が作っても良いのかな?」
「魔女様にそこまで、お手を煩わせるわけには……」
使用人の仕事を、リズにさせるわけにはいかないと思った侍従は、慌ててそう申し出てみるも、リズは笑顔で首を横に振る。
「私なら気にしないで。こう見えて料理は結構、得意なの」
この国では、高貴な身分の娘は料理などしない。故に侍従も、妹の料理を食べたことがなかった。やはり羨ましいと思いながら、侍従は執務室へと戻った。
「ただいま戻りました、公子殿下。本日の夜食は、スペシャルメニューだそうですよ」
「へぇ。それよりも先ほど、リズの声が聞こえた気がするんだけど?」
夜食には全く興味がない様子のアレクシスは、やはり今日も妹のことで頭の中がいっぱいの様子。あの小声を聞き取ったとは恐ろしい耳をしていると、侍従は驚く。
「廊下でお会いしましたので、ご挨拶させていただきました」
「そう……。ここまで来たなら、僕にも会いに来てほしかったな……。もしかしてリズは、僕の夜食を作りたいとか言っていなかった?」
リズと別れる際に、「アレクシスは鋭いから、気づかれないようにしてね」と侍従は念を押されている。しかしアレクシスのこの発言は、鋭いというよりも、妄想だろうと確信した。
10
お気に入りに追加
486
あなたにおすすめの小説
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
愛されたくて悪役令嬢になりました ~前世も今もあなただけです~
miyoko
恋愛
前世で大地震に巻き込まれて、本当はおじいちゃんと一緒に天国へ行くはずだった真理。そこに天国でお仕事中?という色々と規格外の真理のおばあちゃんが現れて、真理は、おばあちゃんから素敵な恋をしてねとチャンスをもらうことに。その場所がなんと、両親が作った乙女ゲームの世界!そこには真理の大好きなアーサー様がいるのだけど、モブキャラのアーサー様の情報は少なくて、いつも悪役令嬢のそばにいるってことしか分からない。そこであえて悪役令嬢に転生することにした真理ことマリーは、十五年間そのことをすっかり忘れて悪役令嬢まっしぐら?前世では体が不自由だったせいか……健康な体を手に入れたマリー(真理)はカエルを捕まえたり、令嬢らしからぬ一面もあって……。明日はデビュタントなのに……。いい加減、思い出しなさい!しびれを切らしたおばあちゃんが・思い出させてくれたけど、間に合うのかしら……。
※初めての作品です。設定ゆるく、誤字脱字もあると思います。気にいっていただけたらポチッと投票頂けると嬉しいですm(_ _)m
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜
アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。
そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。
とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。
主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────?
「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」
「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」
これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる