【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

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06 公女教育とお礼

3 作戦実行

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「行動ね……。それなら私にもできるかも」

 アレクシスにはお世話になりっぱなしだが、リズはまだなにも返せていない。アレクシスが少しでも喜んでくれるなら、何かしてあげたいとリズは思った。

「ローラント、相談に乗ってくれてありがとう」
「少しでも、リズ様のお力になれたのでしたら幸いです。これからは、どのような些細なお悩みでも、どうか俺にご相談ください」
「うん。頼りにしているね」

 嬉しそうに微笑んだローラントは、それからリズの手の甲に口づけた。これは忠誠を誓った騎士からの、敬愛の印。バルリング伯爵夫人からはそう学んだが、そのような貴族の習慣に慣れていないリズは、不覚にも頬が熱を持ってしまう。
 そして「夫人の息子さんは、イケメンが過ぎますよ!」と心の中で苦情を述べた。


 夕食後。アレクシスの執務室が見える廊下の陰に、リズとローラントは身を潜めていた。

「リズ様……。こうして待ち伏せせずとも、侍従を呼び出せばよろしいのではございませんか?」
「アレクシスは、すご~~~く感が鋭いんだから。侍従を呼び出したら、すぐにバレちゃうよ」
「しかし、リズ様にご不便をおかけする訳には……。侍従が執務室を出ましたら、俺が連れて行きますので。リズ様はどうか、お部屋でお待ちください」
「いいの、いいの。侍従さんの戻りが遅くなったら、それこそアレクシスが怪しむもん」

 廊下の陰で、ひそひそと主従がやり取りをしていると、執務室の扉がカチャリと開いて、侍従が廊下へと出てきた。

「あっ! 出てきたよ。お~い、侍従さ~ん!」

 リズが小声で呼びかけると、侍従は廊下の角へと視線を向けた。

「魔女様。公子殿下に御用でございますか?」
「し~! アレクシスに聞こえちゃうよ。こっちの陰で話そう」
「はい……」

 リズに手招きされ、廊下の角を曲がった侍従は、不思議そうな顔でリズとローラントを交互に見つめた。

「お二人そろって、どうなさったのですか?」
「あのね……。実は……、アレクシスにはいつもお世話になっているから、お礼がしたいの。何をしたら、アレクシスは喜ぶかな?」

 照れながらも、兄のために何かしたいというその姿は、ヒロイン補正のおかげか、この上なく健気な美少女に見える。この場にいる男性二人の心には、『羨ましい』という言葉が浮かばずにはいられなかった。

「くっ……。このような妹君を迎えられて、公子殿下はなんと幸せなお方なのでしょう」

(侍従さんはなぜ、悔しそうなの? 妹なら侍従さんにもいたよね……)

「そうですよね。俺もいつかは、公子殿下を『義兄』と呼びたいものです」

(ローラントは、カルステンが大好きなんじゃなかったの……?)

「二人とも……。兄弟のことで悩みがあるなら、いつでも相談してね?」
「魔女様のお心遣いだけで、私は十分に幸せですっ……」

 どうみても悔しさが滲みでているような表情の侍従に、大丈夫かな? とリズが首を傾げていると、侍従は話を元に戻した。

「……それより、公子殿下にお礼をなさりたいとのことですが。ちょうどこれから、殿下の夜食を頼みに行くところでしたので、魔女様がメニューを考えられてはいかがでしょうか」
「私が勝手に決めて良いの?」
「いつもは料理人に任せきりですので、魔女様が考えられたとお知りになれば、きっと殿下はお喜びになるかと思います」

 妹のことに関してはやたらとこだわるアレクシスだが、自分自身については意外と無頓着のようだ。

「メニューね……。それって、私が作っても良いのかな?」
「魔女様にそこまで、お手を煩わせるわけには……」

 使用人の仕事を、リズにさせるわけにはいかないと思った侍従は、慌ててそう申し出てみるも、リズは笑顔で首を横に振る。

「私なら気にしないで。こう見えて料理は結構、得意なの」

 この国では、高貴な身分の娘は料理などしない。故に侍従も、妹の料理を食べたことがなかった。やはり羨ましいと思いながら、侍従は執務室へと戻った。

「ただいま戻りました、公子殿下。本日の夜食は、スペシャルメニューだそうですよ」
「へぇ。それよりも先ほど、リズの声が聞こえた気がするんだけど?」

 夜食には全く興味がない様子のアレクシスは、やはり今日も妹のことで頭の中がいっぱいの様子。あの小声を聞き取ったとは恐ろしい耳をしていると、侍従は驚く。

「廊下でお会いしましたので、ご挨拶させていただきました」
「そう……。ここまで来たなら、僕にも会いに来てほしかったな……。もしかしてリズは、僕の夜食を作りたいとか言っていなかった?」

 リズと別れる際に、「アレクシスは鋭いから、気づかれないようにしてね」と侍従は念を押されている。しかしアレクシスのこの発言は、鋭いというよりも、妄想だろうと確信した。
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