【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

廻り

文字の大きさ
上 下
24 / 116
04 真夜中の約束

4 意外な行き先

しおりを挟む

「……行ってもいいんですか?」
「リズの生家なんだから、いつでも帰れるよ。ただ、護衛は必要だけれどね」

 アレクシスはそう言いながら、自分自身を指さす。
 護衛という名の監視だろうとは思ったが、それでもリズは期待で胸が膨らむ。

「あの……、お母さんに会っても?」
「もちろん。報告書によれば、ろくに挨拶もできなかったようだし。リズのお母さんを安心させてあげなきゃね」

 それを聞いてリズは、表情を和らげた。母にも小説のストーリーは話してあるので、リズがどのような展開になっているか、予想はできているはず。それでもきっと心配な日々を過ごすことになるので、安心させてあげられるに越したことはない。
 感謝したリズは、すぐに魔女の森へとほうきを向けた。


「ねぇ、リズ。そろそろ僕のことを、『お兄ちゃん』って呼んでくれないかな?」

 魔女の森へ向かっている途中、アレクシスはそんなことを呟いた。

「……私はまだ、正式な養女ではありませんよ?」

 それに出会ってまだ、二度目の夜だ。
 アレクシスに助けられてからは、侍女達からの虐めの誤解を解き、小説の運命を変えると宣言され、ひたすら甘やかされるという濃い一日だったが、それでもまだ出会ったばかり。兄と呼ぶには、早すぎる。

「せっかく仲良くなったのに、公子と呼ばれるのは寂しいな。せめて、名前で呼んでくれない?」
「それじゃ……、アレクシス……様」

 そうリズが呼ぶと、様付けが不満なのか彼は「アレクシス」と言い直させる。

「ですが、私はまだ一般庶民ですし……」
「それじゃ、やっぱりお兄ちゃんって呼んで」

 アレクシスはどうしても、呼び方を変えたいらしい。
 そう要求されるも、兄弟がいなかったリズとしては、急にお兄ちゃんと呼ぶのは気恥ずかしさもある。

「アレクシスと、呼ばせてください……」

 それで妥協してもらうつもりだったが、アレクシスは嬉しかったようだ。急に、後ろからリズに抱きついてくる。

「嬉しいよ。もう一回呼んでみて」
「ちょ……、アレクシスっ。急に抱きつかないでください。バランスが崩れるじゃないですか」
「う~ん。呼び捨てなのに、敬語っておかしいよね。敬語も止めてくれる?」
「それは困りますし……、離れてくださいっ」

 イケメンに抱きつかれたら、落ち着いてほうきを操縦できないではないか。リズは焦るも、アレクシスはお構いなしの様子。

「妹を抱きしめるって、最高の気分だね。ずっと、こうしていたいよ」

 幸せを感じている様子のアレクシスは、さらに行動がエスカレート。リズの真横に顔を近づけたかと思えば、お互いの頬をぴとりと、くっつけてくる。
 滑らかで暖かなその感触に、リズの頬はカッと熱を帯びた。

「リズの頬は、温かいね」
「…………っ」


 気持ち良い夜風を受けながら、空高く飛んでいたメルヒオールだが、唐突にリズからの魔力の供給が途絶え、がくりと高度を落とした。
 慌ててバランスを取ろうとするも、リズ側の制御に問題があり、上手くいかない。
 なす術がないメルヒオールは、夜空に芸術的で複雑な曲線を描くことになってしまった。
 




 それでもなんとか魔女の村へと到着したリズは、ぐったりとしながら自分の家の壁に両手をついた。

「はぁ……。アレクシスのせいで、魔力が大量消費されちゃったよ……」

 結局、アレクシスの押しに負けて、敬語も止めたリズは、恨めしく思いながらアレクシスに振り返った。
 あのような状況で、自分の要求を突き通すとは、どうかしている。

 酔って具合が悪くなってもおかしくないほどの、ひどい操縦になってしまったが、アレクシスにダメージはないようだ。

「ごめん、ごめん。リズの慌てぶりが可愛くて、つい調子に乗ってしまったよ」

 ほうきに乗っている間中、ずっと『妹』を堪能できたアレクシスは、満ち足りたような表情で微笑んでいる。

「もう……! 帰りもこんなことしたら、宮殿までたどり着けないんだからね!」
「わかったよ。帰りは我慢する」

 さも残念そうに、ため息をつくアレクシス。釘を刺していなければ、帰りも同じ目に遭っていたようだ。

(アレクシスって、こんなキャラだったっけ……)

 小説での彼とは異なり、穏やかで人を和ませる力があるとリズは感じていたが、基本的に公子らしい態度には変わりなかった。
 けれど、小説の運命を変えると宣言してからというもの、彼はやたらとリズとの距離を縮めてくる。
 妹ができて嬉しいという気持ちが強いようだが、彼の言動は高貴な者というよりは、まるで庶民の家のお兄ちゃんのようだ。

(男爵子息として、育ったからかな?)

「ほら、早く家に入ったら?」
「う……うん」

 アレクシスに背中を押され、玄関扉の前にリズは立った。しかし扉を開ける前に、内側から開かれる。

「こんな夜中に、どなた?」
「お母さん……!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されたくて悪役令嬢になりました ~前世も今もあなただけです~

miyoko
恋愛
前世で大地震に巻き込まれて、本当はおじいちゃんと一緒に天国へ行くはずだった真理。そこに天国でお仕事中?という色々と規格外の真理のおばあちゃんが現れて、真理は、おばあちゃんから素敵な恋をしてねとチャンスをもらうことに。その場所がなんと、両親が作った乙女ゲームの世界!そこには真理の大好きなアーサー様がいるのだけど、モブキャラのアーサー様の情報は少なくて、いつも悪役令嬢のそばにいるってことしか分からない。そこであえて悪役令嬢に転生することにした真理ことマリーは、十五年間そのことをすっかり忘れて悪役令嬢まっしぐら?前世では体が不自由だったせいか……健康な体を手に入れたマリー(真理)はカエルを捕まえたり、令嬢らしからぬ一面もあって……。明日はデビュタントなのに……。いい加減、思い出しなさい!しびれを切らしたおばあちゃんが・思い出させてくれたけど、間に合うのかしら……。 ※初めての作品です。設定ゆるく、誤字脱字もあると思います。気にいっていただけたらポチッと投票頂けると嬉しいですm(_ _)m

乙女ゲームのヒロインですが、推しはサブキャラ暗殺者

きゃる
恋愛
 私は今日、暗殺される――。  攻略が難しく肝心なところでセーブのできない乙女ゲーム『散りゆく薔薇と君の未来』、通称『バラミラ』。ヒロインの王女カトリーナに転生しちゃった加藤莉奈(かとうりな)は、メインキャラの攻略対象よりもサブキャラ(脇役)の暗殺者が大好きなオタクだった。 「クロムしゃまあああ、しゅきいいいい♡」  命を狙われているものの、回避の方法を知っているから大丈夫。それより推しを笑顔にしたい!  そして運命の夜、推しがナイフをもって現れた。   「かま~~~ん♡」 「…………は?」    推しが好きすぎる王女の、猪突猛進ラブコメディ☆ ※『私の推しは暗殺者。』を、読みやすく書き直しました。

死にたがりの悪役令嬢

わたちょ
恋愛
ある日、突然前世の記憶を思い出したトレーフルブランはここが前世で彼女が好きだったゲームの中の世界であることを思い出した。それと同時に彼女がゲームの悪役キャラであることにも気付き、この先の未来も知った彼女は ただ死を望んだ

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜

アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。 そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。 とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。 主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────? 「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」 「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」 これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...