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04 真夜中の約束
4 意外な行き先
しおりを挟む「……行ってもいいんですか?」
「リズの生家なんだから、いつでも帰れるよ。ただ、護衛は必要だけれどね」
アレクシスはそう言いながら、自分自身を指さす。
護衛という名の監視だろうとは思ったが、それでもリズは期待で胸が膨らむ。
「あの……、お母さんに会っても?」
「もちろん。報告書によれば、ろくに挨拶もできなかったようだし。リズのお母さんを安心させてあげなきゃね」
それを聞いてリズは、表情を和らげた。母にも小説のストーリーは話してあるので、リズがどのような展開になっているか、予想はできているはず。それでもきっと心配な日々を過ごすことになるので、安心させてあげられるに越したことはない。
感謝したリズは、すぐに魔女の森へとほうきを向けた。
「ねぇ、リズ。そろそろ僕のことを、『お兄ちゃん』って呼んでくれないかな?」
魔女の森へ向かっている途中、アレクシスはそんなことを呟いた。
「……私はまだ、正式な養女ではありませんよ?」
それに出会ってまだ、二度目の夜だ。
アレクシスに助けられてからは、侍女達からの虐めの誤解を解き、小説の運命を変えると宣言され、ひたすら甘やかされるという濃い一日だったが、それでもまだ出会ったばかり。兄と呼ぶには、早すぎる。
「せっかく仲良くなったのに、公子と呼ばれるのは寂しいな。せめて、名前で呼んでくれない?」
「それじゃ……、アレクシス……様」
そうリズが呼ぶと、様付けが不満なのか彼は「アレクシス」と言い直させる。
「ですが、私はまだ一般庶民ですし……」
「それじゃ、やっぱりお兄ちゃんって呼んで」
アレクシスはどうしても、呼び方を変えたいらしい。
そう要求されるも、兄弟がいなかったリズとしては、急にお兄ちゃんと呼ぶのは気恥ずかしさもある。
「アレクシスと、呼ばせてください……」
それで妥協してもらうつもりだったが、アレクシスは嬉しかったようだ。急に、後ろからリズに抱きついてくる。
「嬉しいよ。もう一回呼んでみて」
「ちょ……、アレクシスっ。急に抱きつかないでください。バランスが崩れるじゃないですか」
「う~ん。呼び捨てなのに、敬語っておかしいよね。敬語も止めてくれる?」
「それは困りますし……、離れてくださいっ」
イケメンに抱きつかれたら、落ち着いてほうきを操縦できないではないか。リズは焦るも、アレクシスはお構いなしの様子。
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幸せを感じている様子のアレクシスは、さらに行動がエスカレート。リズの真横に顔を近づけたかと思えば、お互いの頬をぴとりと、くっつけてくる。
滑らかで暖かなその感触に、リズの頬はカッと熱を帯びた。
「リズの頬は、温かいね」
「…………っ」
気持ち良い夜風を受けながら、空高く飛んでいたメルヒオールだが、唐突にリズからの魔力の供給が途絶え、がくりと高度を落とした。
慌ててバランスを取ろうとするも、リズ側の制御に問題があり、上手くいかない。
なす術がないメルヒオールは、夜空に芸術的で複雑な曲線を描くことになってしまった。
それでもなんとか魔女の村へと到着したリズは、ぐったりとしながら自分の家の壁に両手をついた。
「はぁ……。アレクシスのせいで、魔力が大量消費されちゃったよ……」
結局、アレクシスの押しに負けて、敬語も止めたリズは、恨めしく思いながらアレクシスに振り返った。
あのような状況で、自分の要求を突き通すとは、どうかしている。
酔って具合が悪くなってもおかしくないほどの、ひどい操縦になってしまったが、アレクシスにダメージはないようだ。
「ごめん、ごめん。リズの慌てぶりが可愛くて、つい調子に乗ってしまったよ」
ほうきに乗っている間中、ずっと『妹』を堪能できたアレクシスは、満ち足りたような表情で微笑んでいる。
「もう……! 帰りもこんなことしたら、宮殿までたどり着けないんだからね!」
「わかったよ。帰りは我慢する」
さも残念そうに、ため息をつくアレクシス。釘を刺していなければ、帰りも同じ目に遭っていたようだ。
(アレクシスって、こんなキャラだったっけ……)
小説での彼とは異なり、穏やかで人を和ませる力があるとリズは感じていたが、基本的に公子らしい態度には変わりなかった。
けれど、小説の運命を変えると宣言してからというもの、彼はやたらとリズとの距離を縮めてくる。
妹ができて嬉しいという気持ちが強いようだが、彼の言動は高貴な者というよりは、まるで庶民の家のお兄ちゃんのようだ。
(男爵子息として、育ったからかな?)
「ほら、早く家に入ったら?」
「う……うん」
アレクシスに背中を押され、玄関扉の前にリズは立った。しかし扉を開ける前に、内側から開かれる。
「こんな夜中に、どなた?」
「お母さん……!」
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