【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

廻り

文字の大きさ
上 下
21 / 116
04 真夜中の約束

1 逃げ出すチャンス

しおりを挟む
 その夜。リズは、新しく与えられた部屋の大きなベッドの中にいた。
 アレクシスは一日中リズと買い物をしていた間に、リズ専用の部屋を整えさせていたらしい。夕食後に、この部屋へ案内されたリズは驚いた。
 なぜなら、昼間に買い物をした際に、可愛いと思って眺めていた雑貨類が、全て部屋に並べられていたのだから。

「公子様は……、私の心が読めるのですか?」
「心は読めないけれど、表情は読めたみたいだね。リズは可愛いものを見ると、愛おしそうに蕩けたような瞳になるんだ」

 出会ってまだ一日しか経っていないのに、そこまで観察されていたことにリズは驚いたが、それと同時に自分がそんな表情をしていたとは、思いもしなかった。
 魔女のリズでは、貴族が出入りするようなお店には入れなかったので、久しぶりに目の保養を楽しめたが。気を抜いたら、過保護な義兄が店ごと買い占めてしまいそうだ。これからは顔に出さないよう気をつけようと、リズは心に誓った。

(それにしても、これからどうしよう……)

 今日はすっかりと、アレクシスのペースに乗せられてしまったが、リズは義兄との生活を楽しみたいのではなく、火あぶりの未来を変えたいのだ。
 それなのに、未来を変えると宣言したアレクシスは、リズを甘やかして楽しんでいるだけのように見えた。アレクシスに任せておくのは、不安が残る。

(やっぱり、自分でも計画を進めなきゃダメだよね)

 当初の予定どおりローラントを味方につけて、逃亡計画を進めなければ。まずはローラントに、本気で逃亡についてきてくれるのか、意思確認をする必要がある。
 それからローラントには、ほうきを乗りこなせるようになってもらい、長旅への準備を備えよう。

 そこまで考えたリズは「……あれ?」と辺りを見回した。

 ローラントに、逃亡の手助けをしてもらいたいと思った理由は、主に二つ。一人では宮殿から逃げ出せないと思ったのと、魔女の森で育ったリズよりは、ローラントのほうがこの世界に詳しいと思ったからだ。

 しかし後者はさて置き、前者はどうだろう?
 リズに新しく付けられた侍女達は、リズを寝間着に着替えさせたら部屋から出て行ったので、監視の任務を受けているとは思えない。
 護衛騎士としてローラントはまだ着任していないし、他の騎士が見張っている気配もない。

(もしかして私……、今は誰にも監視されていないんじゃない?)

 それを確かめるため静かにベッドから出たリズは、足音を立てないよう注意しながら、部屋の扉へと近づいた。
 そっと扉に耳を当ててみたが、廊下から物音は聞こえない。
 ゆっくりと扉を開けて顔を廊下に覗かせてみたが、リズが思ったとおり、廊下には誰もいなかった。
 
(やっぱり、監視がいない……!)

 はやる気持ちを抑えながら、再びゆっくりと扉を閉めたリズは、メルヒオールのもとへ駆け寄る。ほうきの柄を揺すりながら、小声で呼びかけた。

「メルヒオール起きて! 今なら逃げられそうなの!」

 ゆさゆさ揺すられたメルヒオールは、さも気だるそうな雰囲気で、寝ていた長椅子から起き上がるように、ほうきの柄を垂直にさせる。
 この長椅子は、過保護にもアレクシスがメルヒオールのために用意したもので、人間らしい行動を好むメルヒールに大いにウケたのだ。
 リズの家では、適当な壁に寄りかかって休んでいた彼だが、今夜は初めてのフカフカな長椅子で、極上の眠りを得ていたようだ。リズに起こされたが、ぼーっとした様子。

 リズは、そんな相棒の様子に構わず、クローゼットから魔女の帽子とローブをひっぱり出す。着替える時間が惜しいので、寝間着の上から身に着けた。そして荷解きがされていなかった旅の荷物を持ち出して、メルヒオールに括りつけようとしたが。

「ちょっ……、また寝ないでよ~! 今すぐ出発するんだから!」

 再び長椅子に横たえたメルヒールを起こそうとするも、ぴくりとも動いてくれない。
 せっかくのチャンスなのに、非協力的な相棒にムッとしたリズは、寝ている相棒に荷物を括りつけると、強制的にほうきを持ってバルコニーへと出た。

「メルヒオールだって、燃やされたくないでしょう? お願いだから起きて! ねっ?」

 外へ出されてさすがに目が覚めたのか、メルヒオールはリズの手から離れて、垂直に浮かび上がった。これで逃げ出せると、リズはほっと息を吐く。
 しかしそれも束の間、メルヒオールは『嫌だ』とばかりに、ほうきの柄を左右に大きく振るではないか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されたくて悪役令嬢になりました ~前世も今もあなただけです~

miyoko
恋愛
前世で大地震に巻き込まれて、本当はおじいちゃんと一緒に天国へ行くはずだった真理。そこに天国でお仕事中?という色々と規格外の真理のおばあちゃんが現れて、真理は、おばあちゃんから素敵な恋をしてねとチャンスをもらうことに。その場所がなんと、両親が作った乙女ゲームの世界!そこには真理の大好きなアーサー様がいるのだけど、モブキャラのアーサー様の情報は少なくて、いつも悪役令嬢のそばにいるってことしか分からない。そこであえて悪役令嬢に転生することにした真理ことマリーは、十五年間そのことをすっかり忘れて悪役令嬢まっしぐら?前世では体が不自由だったせいか……健康な体を手に入れたマリー(真理)はカエルを捕まえたり、令嬢らしからぬ一面もあって……。明日はデビュタントなのに……。いい加減、思い出しなさい!しびれを切らしたおばあちゃんが・思い出させてくれたけど、間に合うのかしら……。 ※初めての作品です。設定ゆるく、誤字脱字もあると思います。気にいっていただけたらポチッと投票頂けると嬉しいですm(_ _)m

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。  手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。 大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。 成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで? 歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった! 出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。 騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる? 5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。 ハッピーエンドです。 完結しています。 小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

処理中です...