【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

廻り

文字の大きさ
上 下
17 / 116
03 公子様は当て馬

2 リズのイメージ

しおりを挟む

「今、確認する。――ごめんね、リズ。先にドレスを見ていて」
「はい、お構いなく」

(昨夜の報告書ってことは、ローラントが書いたのかな?)

 ローラントは事後処理を任されていたようなので、報告書も書いた可能性が高い。彼が書いたなら、魔女を悪くは書いていないだろう。
 副団長への怒りを一旦収めたリズは、気を取り直してドレスを見学することにした。

 ドレスは一着一着、トルソーに着せて美しく飾られている。衣装倉庫というよりは美術館のようだ。トルソーには説明書きも添えられており、ドルレーツ王国歴代の妃や王女の、誰が所有していたものかも記載されている。
 それらを見て回ったリズは、あってもおかしくないものが無いことに気がついた。

(エリザベートのドレスが、一着もないのね)

『エリザベート』とは、ドルレーツ王国建国時に活躍した聖女の名前。つまりリズの魂の名前だ。何世代にも渡り、王太子の妻となった聖女は、いつも名前をエリザベートに改名していた。
 小説でも、ヒロインと王太子が出会った際に、王太子みずからヒロインにエリザベートという名を贈っている。

 そのため、エリザベートが着用したドレスは大量にあるはずだが、ここには一着もないようだ。

(王太子が、大切に保管してるのかな?)

 リズ自身の魂が、どのようなドレスを着用していたのか。少し興味があったリズだが、残念ながら今は見られないようだ。


 次にリズは、ドレスを着ていないトルソーが目に入る。

(きっとあそこに、このマーメイドドレスがあったのね)

 一体誰の所有物だったのだろうと興味が沸いたリズは、一直線にそちらへ向かった。が、説明書きを読むと、がっくりと肩を落とした。

(やっぱり魔女だよ……。それも、悪い魔女!)

 説明書きには、百年ほど前に世間を騒がせた魔女からの、寄贈品<呪い解除済み>と記されている。
 今すぐこのドレスを脱ぎ捨てたい気分になったリズは、着替えても良いか尋ねようとアレクシスに視線を向けた。
 しかしアレクシスは、報告書を持った手をぶるぶると震わせながら、鋭い視線を侍従に向けていた。

「今すぐ昨日の騎士団全員を、幽閉塔送りにして」

 口調こそ穏やかだが、怒りを抑えている様子がよくわかる声色。侍従が足早に去っていくのを見届けてから、リズはアレクシスのもとへ駆け寄った。

「公子様! 報告書に何が書かれていたんですか?」
「リズには何度、謝罪をしても足りないよ……。本当に辛い思いをさせてしまって、ごめんね」
「え?」

 リズは首を傾げながら、報告書を見せてもらう。報告書の作成者は、予想通りローラントだ。

 それによると、騎士団長カルステンは当初、少数で魔女の森へ行くつもりだったようだ。しかし、罠を見つけた副団長が勝手に援軍を呼んだことで、時間を取られたと書かれている。

(それで到着時間が、大幅に遅れたのね……)

 罠に手こずったのだとリズは考えていたが、援軍の到着に大幅な時間を取られたようだ。

 援軍が到着し、罠もなんとか抜けて魔女の村へ到着。カルステンは魔女達を怯えさせないように、少数で村の中へ入った。
 しかしそれでは甘いと判断した副団長は、村を囲むようにして騎士を配置させた。
 おかげで、魔女達が驚いて警報の鐘が鳴ったりして、大騒ぎになったようだ。

 どうやら、リズが逃げ損ねた理由は、副団長の用意周到さによるものだったようだ。リズは思わず「はは……」と渇いた笑いをあげる。

(それにしてもこの報告書、意図的に騎士団を悪く書いているような……)

 作戦の失敗点や、副団長の暴走具合については事細かく書かれているが、リズがどのような罠を仕掛けたかについてなどは、どこにも書かれていない。ローラントなりに、リズへ配慮してくれたことが伺える。

 ローラントの優しさはありがたいが、一方的にリズが被害者に見えるのはフェアじゃない。

「あの……、公子様」
「他にも嫌な事をされたなら、遠慮なく言って」
「そうじゃないんです……。私には前世の記憶があるので、王太子妃になることは事前に知っていたんです」

 小説の世界だということは伏せたリズは、王太子妃になりたくないので罠を仕掛けて逃げようとしたことを、アレクシスに告白した。
 リズは一方的な被害者ではなく、それなりに騎士団とやり合った末の結果であると告げると、優しい視線を向けていたアレクシスの瞳が、徐々に冷めていく様子がありありと観察できた。

 それは、アレクシスの心に築かれていた『可哀そうな魔女』像が崩れ去った瞬間だった。

(どうしよう……、アレクシスに見捨てられたら、また虐められるかも……。でも、黙って被害者ぶるのも嫌だし……)

 戦々恐々としながら、リズがアレクシスの反応を伺ていると、アレクシスは大きくため息をついてから、リズを見つめた。その目は、完全に呆れの色に染まっている。

「僕も少し、疑問に思っていたんだ。リズを迎えにいく任務は極秘のはずだったのに、なぜメルヒオールに、旅の荷物が括りつけてあったのかな?」
「えっと……、それは……」
「前世の記憶があるだけでは、迎えが来る日までは想定できないよね?」
「そっそうですよね……」
「他にもまだ、隠していることがあるんじゃないの?」

(うぅ……。アレクシスが、鋭すぎる!)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されたくて悪役令嬢になりました ~前世も今もあなただけです~

miyoko
恋愛
前世で大地震に巻き込まれて、本当はおじいちゃんと一緒に天国へ行くはずだった真理。そこに天国でお仕事中?という色々と規格外の真理のおばあちゃんが現れて、真理は、おばあちゃんから素敵な恋をしてねとチャンスをもらうことに。その場所がなんと、両親が作った乙女ゲームの世界!そこには真理の大好きなアーサー様がいるのだけど、モブキャラのアーサー様の情報は少なくて、いつも悪役令嬢のそばにいるってことしか分からない。そこであえて悪役令嬢に転生することにした真理ことマリーは、十五年間そのことをすっかり忘れて悪役令嬢まっしぐら?前世では体が不自由だったせいか……健康な体を手に入れたマリー(真理)はカエルを捕まえたり、令嬢らしからぬ一面もあって……。明日はデビュタントなのに……。いい加減、思い出しなさい!しびれを切らしたおばあちゃんが・思い出させてくれたけど、間に合うのかしら……。 ※初めての作品です。設定ゆるく、誤字脱字もあると思います。気にいっていただけたらポチッと投票頂けると嬉しいですm(_ _)m

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

[完結]凍死した花嫁と愛に乾く公主

小葉石
恋愛
 アールスト王国末姫シャイリー・ヨル・アールストは、氷に呪われた大地と揶揄されるバビルス公国の公主トライトス・サイツァー・バビルスの元に嫁いで一週間後に凍死してしまった。  凍死してしたシャイリーだったが、なぜかその日からトライトスの一番近くに寄り添うことになる。  トライトスに愛される訳はないと思って嫁いできたシャイリーだがトライトスの側で自分の死を受け入れられないトライトスの苦しみを間近で見る事になったシャイリーは、気がつけば苦しむトライトスの心に寄り添いたいと思う様になって行く。  そしてバビルス公国の閉鎖された特殊な環境が徐々に二人の距離を縮めて… *完結まで書き終えております*

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。  手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。 大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。 成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで? 歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった! 出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。 騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる? 5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。 ハッピーエンドです。 完結しています。 小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。

処理中です...