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02 第二公子宮殿での暮らし
4 見逃さない公子様
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朝食を食べ終え廊下へと出たリズは、自分の部屋はどこだっただろうかと考えた。
とりあえず歩き始めなければ、迷子がバレてしまう。そう思ったリズは一歩、足を踏み出してみたが、「リズの部屋はこちらだよ」と、アレクシスに逆方向を指さされた。
「あ……そうでしたよね!」
「宮殿は広いから、覚えるのが大変でしょう。部屋まで送るよ」
「ふふ……助かります、公子様」
アレクシスに案内されて部屋に戻ると、先に部屋へ戻っていたメルヒオールが、ちょうど床の掃き掃除をしているところだった。
リズの家ではそれが彼の日課だったので、家は変われど、日課をこなしていたようだ。
「メルヒオール、お掃除してくれていたの? ありがとう!」
リズがお礼を述べると、メルヒールはご機嫌な様子で柄の先をフリフリさせた。ほうきである彼にとっては、乗り物として役立つことも嬉しいが、本来の目的で使用されるのも、また喜び。
感謝されて嬉しいメルヒオールは、再び掃き掃除を始めた。
しかしリズの背後では、アレクシスが怒りを露わにした表情をほうきに向けている。
それに気がついたメルヒオールは、怯えながらベッドの天蓋を支えている柱の陰に逃げ込んだ。ほうきだからこそ可能な、細い隠れ場所である。
「メルヒオール……?」
相棒の様子がおかしい。どうしたのだろうと思いながらリズは近づこうとしたが、それを遮るようにしてアレクシスに肩を掴まれる。
「リズ。君だけではなく、君の相棒にまで苦労をかけさせてしまったようだ」
「へ?」
アレクシスは何を言っているのだろうと、リズは首を傾げたが、アレクシスは申し訳なさでいっぱいの表情を向ける。
「僕の宮殿で、こんな目に遭わせるつもりはなかったんだ。すぐにでも処罰するから、安心して」
アレクシスは、リズに付けた侍女達を呼ぶよう侍従に指示してから、リズを連れてソファへと腰を下ろした。
何がそれほど、アレクシスの逆鱗に触れたのだろう。リズが考えている間にも、今朝の侍女三名が部屋へと入ってくる。
「お前達は、僕の可愛い妹を虐めていたようだね」
淡々とした口調ではあるが、アレクシスに威圧的なオーラを向けられ、三人は身体をびくりと震わせた。
「決して……そのようなことは……!」
「そうですわ……。湯浴みの準備も、させていただきましたしたもの」
「私達は、誠心誠意お世話させていただきました……」
初めは本当に虐めるつもりだった三人だが、怖い魔女だと気がついた瞬間に、そんな考えなど吹き飛んでいた。
恐怖しながらも、彼女達なりにリズの世話をしたことを訴えると、アレクシスはため息をついた。
そして、アレクシスはリズの肩を抱いたかと思うと、ぐいっと引き寄せてリズを自身の胸の中に納める。
(へっ! 急になに!?)
突然の事態に驚いたリズは、「公子様!?」と声を上げるも、アレクシスはリズに視線を向けることなく、侍女達に冷たい視線を向けた。
「それじゃ、この不格好な編み上げは、どういうことなのかな?」
アレクシスは、リズの背中を見せるために抱き寄せたようだ。
(いやあ~! それは、私の不器用な結果です~!)
リズとしてはそれなりに整えたつもりだったが、アレクシスの目には不合格だったようだ。
恥ずかしさのあまりリズは、今すぐにでもドレスの編み上げを隠したいと思ったが、アレクシスががっちりとリズを抱き込んでいるので、びくとも動かない。
「申し訳ございません!」
侍女達は、一人では着用しにくいドレスを渡してしまったことを後悔しながら謝る。
その謝罪を無視したアレクシスは、次に部屋を見渡した。
「それに、今は掃除をおこなう時間のはずだ。リズのほうきに掃除を押し付けて、お前達はサボっていたのか?」
彼女達は、リズが朝食を食べている間に、掃除を済ませるつもりで作業していた。しかし部屋に突然、動くほうきが入ってきたかと思うと掃除を始めるではないか。気味が悪くなり、部屋から逃げ出してしまったのだ。
それを思い出したのか、三人は手と手を取り合って震え出す。
一方メルヒオールは、自分のせいで揉めているようなので、気になってそろりと柱の陰から姿を現した。
だがそれは、侍女達の恐怖心に追い打ちをかけることになってしまった。侍女達は、「きゃ~! おばけ~!」と叫びながらその場にうずくまってしまう。
その様子を眺めていたアレクシスは、疲れたようにため息をつく。事前に、リズとメルヒオールについての説明は受けさせ、偏見なく接するよう命じたはずだが、侍女達にはまるで伝わっていなかったようだ。
「お前達の無礼を、許すわけにはいかない。十日間、幽閉塔での謹慎を命じる」
「そんな……、幽閉塔だけはどうか、お許しくださいませ……!」
侍女達のすすり泣く声を聞きながらリズは、幽閉塔はそれほど行きたくない場所なのだろうかと考えた。
小説でも幽閉塔送りは、重罪を犯した者が入るような場所のように描写されていたのを思い出す。
「あの……、公子様」
「強く抱きしめすぎたかな。ごめんね」
大切なものでも扱うかのように、優しく頭をなでながらアレクシスは謝る。
(アレクシスは少し、過保護じゃないかな……)
とりあえず歩き始めなければ、迷子がバレてしまう。そう思ったリズは一歩、足を踏み出してみたが、「リズの部屋はこちらだよ」と、アレクシスに逆方向を指さされた。
「あ……そうでしたよね!」
「宮殿は広いから、覚えるのが大変でしょう。部屋まで送るよ」
「ふふ……助かります、公子様」
アレクシスに案内されて部屋に戻ると、先に部屋へ戻っていたメルヒオールが、ちょうど床の掃き掃除をしているところだった。
リズの家ではそれが彼の日課だったので、家は変われど、日課をこなしていたようだ。
「メルヒオール、お掃除してくれていたの? ありがとう!」
リズがお礼を述べると、メルヒールはご機嫌な様子で柄の先をフリフリさせた。ほうきである彼にとっては、乗り物として役立つことも嬉しいが、本来の目的で使用されるのも、また喜び。
感謝されて嬉しいメルヒオールは、再び掃き掃除を始めた。
しかしリズの背後では、アレクシスが怒りを露わにした表情をほうきに向けている。
それに気がついたメルヒオールは、怯えながらベッドの天蓋を支えている柱の陰に逃げ込んだ。ほうきだからこそ可能な、細い隠れ場所である。
「メルヒオール……?」
相棒の様子がおかしい。どうしたのだろうと思いながらリズは近づこうとしたが、それを遮るようにしてアレクシスに肩を掴まれる。
「リズ。君だけではなく、君の相棒にまで苦労をかけさせてしまったようだ」
「へ?」
アレクシスは何を言っているのだろうと、リズは首を傾げたが、アレクシスは申し訳なさでいっぱいの表情を向ける。
「僕の宮殿で、こんな目に遭わせるつもりはなかったんだ。すぐにでも処罰するから、安心して」
アレクシスは、リズに付けた侍女達を呼ぶよう侍従に指示してから、リズを連れてソファへと腰を下ろした。
何がそれほど、アレクシスの逆鱗に触れたのだろう。リズが考えている間にも、今朝の侍女三名が部屋へと入ってくる。
「お前達は、僕の可愛い妹を虐めていたようだね」
淡々とした口調ではあるが、アレクシスに威圧的なオーラを向けられ、三人は身体をびくりと震わせた。
「決して……そのようなことは……!」
「そうですわ……。湯浴みの準備も、させていただきましたしたもの」
「私達は、誠心誠意お世話させていただきました……」
初めは本当に虐めるつもりだった三人だが、怖い魔女だと気がついた瞬間に、そんな考えなど吹き飛んでいた。
恐怖しながらも、彼女達なりにリズの世話をしたことを訴えると、アレクシスはため息をついた。
そして、アレクシスはリズの肩を抱いたかと思うと、ぐいっと引き寄せてリズを自身の胸の中に納める。
(へっ! 急になに!?)
突然の事態に驚いたリズは、「公子様!?」と声を上げるも、アレクシスはリズに視線を向けることなく、侍女達に冷たい視線を向けた。
「それじゃ、この不格好な編み上げは、どういうことなのかな?」
アレクシスは、リズの背中を見せるために抱き寄せたようだ。
(いやあ~! それは、私の不器用な結果です~!)
リズとしてはそれなりに整えたつもりだったが、アレクシスの目には不合格だったようだ。
恥ずかしさのあまりリズは、今すぐにでもドレスの編み上げを隠したいと思ったが、アレクシスががっちりとリズを抱き込んでいるので、びくとも動かない。
「申し訳ございません!」
侍女達は、一人では着用しにくいドレスを渡してしまったことを後悔しながら謝る。
その謝罪を無視したアレクシスは、次に部屋を見渡した。
「それに、今は掃除をおこなう時間のはずだ。リズのほうきに掃除を押し付けて、お前達はサボっていたのか?」
彼女達は、リズが朝食を食べている間に、掃除を済ませるつもりで作業していた。しかし部屋に突然、動くほうきが入ってきたかと思うと掃除を始めるではないか。気味が悪くなり、部屋から逃げ出してしまったのだ。
それを思い出したのか、三人は手と手を取り合って震え出す。
一方メルヒオールは、自分のせいで揉めているようなので、気になってそろりと柱の陰から姿を現した。
だがそれは、侍女達の恐怖心に追い打ちをかけることになってしまった。侍女達は、「きゃ~! おばけ~!」と叫びながらその場にうずくまってしまう。
その様子を眺めていたアレクシスは、疲れたようにため息をつく。事前に、リズとメルヒオールについての説明は受けさせ、偏見なく接するよう命じたはずだが、侍女達にはまるで伝わっていなかったようだ。
「お前達の無礼を、許すわけにはいかない。十日間、幽閉塔での謹慎を命じる」
「そんな……、幽閉塔だけはどうか、お許しくださいませ……!」
侍女達のすすり泣く声を聞きながらリズは、幽閉塔はそれほど行きたくない場所なのだろうかと考えた。
小説でも幽閉塔送りは、重罪を犯した者が入るような場所のように描写されていたのを思い出す。
「あの……、公子様」
「強く抱きしめすぎたかな。ごめんね」
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