【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

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02 第二公子宮殿での暮らし

2 イメージ作りって大切ですよね……

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 朝からお湯につかるという行為が、これほど気持ちの良いものだと初めて知ったリズは、天に召されてしまいそうなほど、ふわふわした気分で浴槽を出た。

 服を脱いだ場所へと戻ると、新しい着替えが用意されており。魔女のリズでは一生かかっても手にすることがなかったであろう、最高級の生地で作られたドレスが……。

「え……、これを着るの?」

 思わず声に出したリズは、決して『自分の身に余る贅沢』とは思っていない。無理やり王太子と結婚させられるのだ。受けられる贅沢をわざわざ断る理由もない。

 それよりも、問題はドレスの色と型。
 袖もなく、体のラインがくっきりと出そうなマーメイドドレスは、なぜか真っ黒で。膝上までのスリットを縁取るフリルだけが真っ赤という、大胆かつ、清楚さに欠けるドレスだ。

(これってどう考えても、『悪い魔女』をイメージしたドレスだよね……)

 小説のヒロインは、もっと可愛いドレスを着ていたはずだが、どうしてこうなったのだろう。腕を組んで考えるリズだが、これが侍女達がリズに抱いた第一印象であり、威圧的なリズに似合いそうなドレスを、必死で探した結果だったりする。

 そんな事情を知らないリズは、仕方ないのでそのドレスを着用することに。
 背中の編み上げを一人で整えるのは苦労したが、何とかドレスを着ることには成功。
 鏡の前で確認したリズは、思わず鏡に両手をついて項垂れた。

「似合う……、似合いすぎるわ……」


 ほどほどにボリュームのあるバストと、しなやかな曲線を描く腰のくびれからヒップのライン。ピンクの髪の毛が、悪い魔女な雰囲気を少しだけ緩和してくれている。
 ヒロイン補正のおかげで、何でも似合ってしまうこの容姿をリズは恨めしく思った。



 浴室を出たリズは食堂へ向かおうとしたが、食堂の場所を聞くのをうっかり忘れていたことに気がついた。
 それらしき部屋を探してみようと散策を始めてみたけれど、宮殿内は思いのほか広くて、どこが食堂なのか見当もつかない。
 途中ですれ違ったメイドに道案内を頼もうかと思ったが、「きゃー! 魔女!」と悲鳴を上げながら逃げられてしまった。

(そりゃそうよね。こんな格好の魔女に出会ったら、私も逃げ出すわ……)

 魔女の森に住んでいる魔女は、善良な魔女ばかりだけれど、世の中には本当に悪い魔女もいるらしい。そういった魔女は、悪いオーラを発しているから近づいてはいけないと、リズは母から聞いたことがある。
 リズは今まさに、その悪いオーラ・・・・・を発しているのかもしれない。

 空腹感よりも、がっかり感を覚えながら歩いていると、向かい側からアレクシスが、護衛や侍従を引き連れて歩いてくるのが見えた。
 アレクシスの横には、妙に機嫌が良さそうなメルヒオールの姿もある。
 それを目にしたリズは「あっ」と声を漏らした。

 昨夜はさすがに、リズが逃げ出さないか心配だったのか、アレクシスは「ほうきとも仲良くなりたい」と言い訳をしつつ、メルヒオールを連れていったのだ。
 今朝は寝起きに問題があったので、リズはすっかり忘れていたようだ。

「公子様、皆様、おはようございます。メルヒオールもおはよう」
「おはよう、リズ。昨夜はあまり眠れなかったよね。疲れていない?」
「お気遣いありがとうございます。先ほど湯浴みをさせてもらったので、良い気分です」
「それは良かった。ちょうど会ったことだし、メルヒオールを返すね」
「えっ。いいんですか?」

 ほうきさえあれば、監視の目をかいくぐって公宮から逃げられる。使用人達はリズと関わりたくないようなので、そのチャンスはいくらでもあるはず。
 これほどあっさりと返して良いのかと、リズは疑問に思いながらもメルヒールに視線を向ける。

「あれ? メルヒオールが、つやつやしてる……」
「実は、魔法の杖などの手入れに使うワックスを見せたら、メルヒオールが塗って欲しそうだったから。勝手な真似をしてしまったかな……?」

(この高級感漂う、艶やかさ。きっと魔法具専用の、高級ワックスだ……)

 リズが顔を寄せて、じっくりとメルヒオールを観察すると、メルヒオールは自慢するように、その場でくるりと一回転する。ご機嫌だった理由がわかり、リズはクスリと笑った。

「いいえ、ありがとうございます公子様。良かったね、メルヒオール」

 リズの家では、魔法具専用のワックスなど買えなかったので、蜜蜂の巣から作る蜜蝋で代用していたが、高級ワックスの塗り心地はひと味違うようだ。メルヒオールはよほど嬉しいのか、猫のようにアレクシスにすり寄っている。

「メルヒオールは可愛いね」
「公子様のことが気に入ったようです」

(こんなに仲良くなるなんて。実は本当に、仲良くなりたいだけだったのかな?)

 メルヒオールをなでているアレクシスを見つめながら、リズがそう考えていると、アレクシスがリズに視線を戻した。

「ところで……、そのドレスはリズの私物?」
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