【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

廻り

文字の大きさ
上 下
4 / 116
01 小説の始まりと出会い

3 騎士団長弟は優しい?1

しおりを挟む
 リズの髪から手を離したカルステンは「宮殿へ連れて行け」と副団長に命令すると、リズへの興味を失ったようにこの場を後にした。

「魔女が暴れないよう、手足を縛っておけ!」

 副団長もご立腹のようだ。拘束を命じたので、リズもおとなしく従うことにした。

(まだ、物語は始まったばかりよ。逃亡作戦は失敗したけれど、まだまだチャンスはあるわ)

 相棒が気になり視線を移動させると、メルヒオールもまた、縄で縛り付けられているところだった。心なしか、彼はしょげているように見える。

「ごめんね、メルヒオール。疲れてしまったでしょう」

 リズが声をかけると、メルヒオールは違うとばかりに柄の先を振り回す。
 すると、メルヒオールに縄をかけていた騎士が、ほうきに掴みかかった。

「お前、動くな! 燃やされたいのか!」
「乱暴にしないで! そのほうきは、私の問いかけに応えただけですよ。言葉を話せなければ、あなただって身体を使うしかないでしょう?」

 騎士をなだめるようにリズがにこりと微笑むと、騎士はハッとしたようにメルヒオールから手を離した。
 騎士道精神を置き去りにしてきた者ばかりではなかったようで、リズも少し安心する。

「……暴れるつもりではないのなら、構いません。あの……、俺もこのほうきに乗れるのですか?」
「魔女としての修行を積んでいない者は、ほうきを自由に操ることはできません。けれどメルヒオールにお願いしたら、散歩くらいはさせてもらえますよ。あっ、メルヒオールというのは、そのほうきの名前ね。彼はもうおじいちゃんなので、労わってくれるとうれしいです」

 魔女がほうきに乗っている姿を目にした人間が、必ずと言ってよいほど抱く感情。リズもこれまでの人生で、幾度となくかけられてきた質問だ。
 魔女は悪魔の末裔として信じられており、人々から忌み嫌われる存在だが、ほうきのおかげでリズは、これまで一般人と交流する機会を得てきた。

「そうでしたか。メルヒオール殿、先ほどは大変失礼いたしました」

 思いのほか誠実な性格のようで、騎士はメルヒオールに向けて頭をさげる。メルヒオールは『気にするな』とばかりに、若造の肩をほうきの柄でぽんぽんとなでた。

「メルヒオールは怒っていないみたいですよ。あなた、お名前は?」
「俺は、ローラント・バルリングと申します。先ほどは兄が、大変失礼を致しました」

(カルステンの弟さんね。彼は挿絵がなかったから、わからなかったわ)

 兄よりも落ち着いた色合いの赤い髪と、兄より濃い青の瞳。兄よりも柔らかい顔立ちの彼は、小説ではあまり目立たないキャラだった。

 ローラント自身もヒロインには好意を抱くも、兄からヒロインへの想いを打ち明けられたことで、自らの気持ちは断ち切り、兄の協力へ回る。
 ヒロインとカルステンが、宮殿の庭でたびたび遭遇していた理由は、彼の協力によるものだったとリズは思い出した。

「ローラント様、素敵なお名前ですね。機会があればメルヒオールにお願いして、一緒に空の散歩でもしましょう」
「光栄です、魔女リズ様。あなたの名も素敵です」

 はにかむように微笑んだローラントは、挿絵のカルステンよりも素敵だとリズは思った。
 彼には挿絵すらなかったことが、悔やまれる。彼の挿絵もあれば、SNSは大いに盛り上がっただろうにと。

 ローラントは、「では参りましょう」とリズを抱き上げた。
 人生初めてのお姫様抱っこが、このイケメンの彼。心トキメキたいところだが、リズはげんなりと自分の手首を見つめる。

(罪人よろしく、手足を縛られたままでお姫様抱っこは無いよね……)




 再び村の中へと入ると、広場には村の魔女達の多くが集まっているのが見えた。けれどその中に、母の姿はない。こんな姿は見せたくないリズは、ほっとしながら皆に笑顔を向ける。

「皆さん。私はこの村を去らなければならないけれど、母をよろしくお願いします」
「リズちゃん、どうして!」

 親友のミミが、心配そうに顔を歪ませて駆け寄ろうとしたが、騎士に止められてしまった。逆らわないほうが良いと理解している他の魔女達はおとなしくしているが、皆もリズを心配そうに見つめている。
 皆を巻き込みたくなかったリズは、誰にも事情を話していない。前世の記憶があることは、母とリズだけの秘密だった。

 親友にどう説明しようか迷っていると、リズよりも先にローラントが口を開く。

「心配には及ばない。先日、ドルレーツ王国でお告げがあり、リズ様が王太子妃に選ばれたのだ」
「えっ! リズちゃんが!?」

 それを聞いたミミや魔女達は不安な表情から一転、喜びにあふれたように歓声があがった。
 お告げがあり王太子妃になるということは、すなわちリズの魂が『建国の聖女』であることを意味する。

「驚かれないのですね」とローラントに声をかけられて、リズは小さくうなずいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されたくて悪役令嬢になりました ~前世も今もあなただけです~

miyoko
恋愛
前世で大地震に巻き込まれて、本当はおじいちゃんと一緒に天国へ行くはずだった真理。そこに天国でお仕事中?という色々と規格外の真理のおばあちゃんが現れて、真理は、おばあちゃんから素敵な恋をしてねとチャンスをもらうことに。その場所がなんと、両親が作った乙女ゲームの世界!そこには真理の大好きなアーサー様がいるのだけど、モブキャラのアーサー様の情報は少なくて、いつも悪役令嬢のそばにいるってことしか分からない。そこであえて悪役令嬢に転生することにした真理ことマリーは、十五年間そのことをすっかり忘れて悪役令嬢まっしぐら?前世では体が不自由だったせいか……健康な体を手に入れたマリー(真理)はカエルを捕まえたり、令嬢らしからぬ一面もあって……。明日はデビュタントなのに……。いい加減、思い出しなさい!しびれを切らしたおばあちゃんが・思い出させてくれたけど、間に合うのかしら……。 ※初めての作品です。設定ゆるく、誤字脱字もあると思います。気にいっていただけたらポチッと投票頂けると嬉しいですm(_ _)m

モブはモブらしく生きたいのですっ!

このの
恋愛
公爵令嬢のローゼリアはある日前世の記憶を思い出す そして自分は友人が好きだった乙女ゲームのたった一文しか出てこないモブだと知る! 「私は死にたくない!そして、ヒロインちゃんの恋愛を影から見ていたい!」 死亡フラグを無事折って、身分、容姿を隠し、学園に行こう! そんなモブライフをするはずが…? 「あれ?攻略対象者の皆様、ナゼ私の所に?」 ご都合主義です。初めての投稿なので、修正バンバンします! 感想めっちゃ募集中です! 他の作品も是非見てね!

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。  手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。 大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。 成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで? 歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった! 出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。 騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる? 5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。 ハッピーエンドです。 完結しています。 小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜

アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。 そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。 とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。 主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────? 「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」 「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」 これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。

処理中です...