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01 小説の始まりと出会い
3 騎士団長弟は優しい?1
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リズの髪から手を離したカルステンは「宮殿へ連れて行け」と副団長に命令すると、リズへの興味を失ったようにこの場を後にした。
「魔女が暴れないよう、手足を縛っておけ!」
副団長もご立腹のようだ。拘束を命じたので、リズもおとなしく従うことにした。
(まだ、物語は始まったばかりよ。逃亡作戦は失敗したけれど、まだまだチャンスはあるわ)
相棒が気になり視線を移動させると、メルヒオールもまた、縄で縛り付けられているところだった。心なしか、彼はしょげているように見える。
「ごめんね、メルヒオール。疲れてしまったでしょう」
リズが声をかけると、メルヒオールは違うとばかりに柄の先を振り回す。
すると、メルヒオールに縄をかけていた騎士が、ほうきに掴みかかった。
「お前、動くな! 燃やされたいのか!」
「乱暴にしないで! そのほうきは、私の問いかけに応えただけですよ。言葉を話せなければ、あなただって身体を使うしかないでしょう?」
騎士をなだめるようにリズがにこりと微笑むと、騎士はハッとしたようにメルヒオールから手を離した。
騎士道精神を置き去りにしてきた者ばかりではなかったようで、リズも少し安心する。
「……暴れるつもりではないのなら、構いません。あの……、俺もこのほうきに乗れるのですか?」
「魔女としての修行を積んでいない者は、ほうきを自由に操ることはできません。けれどメルヒオールにお願いしたら、散歩くらいはさせてもらえますよ。あっ、メルヒオールというのは、そのほうきの名前ね。彼はもうおじいちゃんなので、労わってくれるとうれしいです」
魔女がほうきに乗っている姿を目にした人間が、必ずと言ってよいほど抱く感情。リズもこれまでの人生で、幾度となくかけられてきた質問だ。
魔女は悪魔の末裔として信じられており、人々から忌み嫌われる存在だが、ほうきのおかげでリズは、これまで一般人と交流する機会を得てきた。
「そうでしたか。メルヒオール殿、先ほどは大変失礼いたしました」
思いのほか誠実な性格のようで、騎士はメルヒオールに向けて頭をさげる。メルヒオールは『気にするな』とばかりに、若造の肩をほうきの柄でぽんぽんとなでた。
「メルヒオールは怒っていないみたいですよ。あなた、お名前は?」
「俺は、ローラント・バルリングと申します。先ほどは兄が、大変失礼を致しました」
(カルステンの弟さんね。彼は挿絵がなかったから、わからなかったわ)
兄よりも落ち着いた色合いの赤い髪と、兄より濃い青の瞳。兄よりも柔らかい顔立ちの彼は、小説ではあまり目立たないキャラだった。
ローラント自身もヒロインには好意を抱くも、兄からヒロインへの想いを打ち明けられたことで、自らの気持ちは断ち切り、兄の協力へ回る。
ヒロインとカルステンが、宮殿の庭でたびたび遭遇していた理由は、彼の協力によるものだったとリズは思い出した。
「ローラント様、素敵なお名前ですね。機会があればメルヒオールにお願いして、一緒に空の散歩でもしましょう」
「光栄です、魔女リズ様。あなたの名も素敵です」
はにかむように微笑んだローラントは、挿絵のカルステンよりも素敵だとリズは思った。
彼には挿絵すらなかったことが、悔やまれる。彼の挿絵もあれば、SNSは大いに盛り上がっただろうにと。
ローラントは、「では参りましょう」とリズを抱き上げた。
人生初めてのお姫様抱っこが、このイケメンの彼。心トキメキたいところだが、リズはげんなりと自分の手首を見つめる。
(罪人よろしく、手足を縛られたままでお姫様抱っこは無いよね……)
再び村の中へと入ると、広場には村の魔女達の多くが集まっているのが見えた。けれどその中に、母の姿はない。こんな姿は見せたくないリズは、ほっとしながら皆に笑顔を向ける。
「皆さん。私はこの村を去らなければならないけれど、母をよろしくお願いします」
「リズちゃん、どうして!」
親友のミミが、心配そうに顔を歪ませて駆け寄ろうとしたが、騎士に止められてしまった。逆らわないほうが良いと理解している他の魔女達はおとなしくしているが、皆もリズを心配そうに見つめている。
皆を巻き込みたくなかったリズは、誰にも事情を話していない。前世の記憶があることは、母とリズだけの秘密だった。
親友にどう説明しようか迷っていると、リズよりも先にローラントが口を開く。
「心配には及ばない。先日、ドルレーツ王国でお告げがあり、リズ様が王太子妃に選ばれたのだ」
「えっ! リズちゃんが!?」
それを聞いたミミや魔女達は不安な表情から一転、喜びにあふれたように歓声があがった。
お告げがあり王太子妃になるということは、すなわちリズの魂が『建国の聖女』であることを意味する。
「驚かれないのですね」とローラントに声をかけられて、リズは小さくうなずいた。
「魔女が暴れないよう、手足を縛っておけ!」
副団長もご立腹のようだ。拘束を命じたので、リズもおとなしく従うことにした。
(まだ、物語は始まったばかりよ。逃亡作戦は失敗したけれど、まだまだチャンスはあるわ)
相棒が気になり視線を移動させると、メルヒオールもまた、縄で縛り付けられているところだった。心なしか、彼はしょげているように見える。
「ごめんね、メルヒオール。疲れてしまったでしょう」
リズが声をかけると、メルヒオールは違うとばかりに柄の先を振り回す。
すると、メルヒオールに縄をかけていた騎士が、ほうきに掴みかかった。
「お前、動くな! 燃やされたいのか!」
「乱暴にしないで! そのほうきは、私の問いかけに応えただけですよ。言葉を話せなければ、あなただって身体を使うしかないでしょう?」
騎士をなだめるようにリズがにこりと微笑むと、騎士はハッとしたようにメルヒオールから手を離した。
騎士道精神を置き去りにしてきた者ばかりではなかったようで、リズも少し安心する。
「……暴れるつもりではないのなら、構いません。あの……、俺もこのほうきに乗れるのですか?」
「魔女としての修行を積んでいない者は、ほうきを自由に操ることはできません。けれどメルヒオールにお願いしたら、散歩くらいはさせてもらえますよ。あっ、メルヒオールというのは、そのほうきの名前ね。彼はもうおじいちゃんなので、労わってくれるとうれしいです」
魔女がほうきに乗っている姿を目にした人間が、必ずと言ってよいほど抱く感情。リズもこれまでの人生で、幾度となくかけられてきた質問だ。
魔女は悪魔の末裔として信じられており、人々から忌み嫌われる存在だが、ほうきのおかげでリズは、これまで一般人と交流する機会を得てきた。
「そうでしたか。メルヒオール殿、先ほどは大変失礼いたしました」
思いのほか誠実な性格のようで、騎士はメルヒオールに向けて頭をさげる。メルヒオールは『気にするな』とばかりに、若造の肩をほうきの柄でぽんぽんとなでた。
「メルヒオールは怒っていないみたいですよ。あなた、お名前は?」
「俺は、ローラント・バルリングと申します。先ほどは兄が、大変失礼を致しました」
(カルステンの弟さんね。彼は挿絵がなかったから、わからなかったわ)
兄よりも落ち着いた色合いの赤い髪と、兄より濃い青の瞳。兄よりも柔らかい顔立ちの彼は、小説ではあまり目立たないキャラだった。
ローラント自身もヒロインには好意を抱くも、兄からヒロインへの想いを打ち明けられたことで、自らの気持ちは断ち切り、兄の協力へ回る。
ヒロインとカルステンが、宮殿の庭でたびたび遭遇していた理由は、彼の協力によるものだったとリズは思い出した。
「ローラント様、素敵なお名前ですね。機会があればメルヒオールにお願いして、一緒に空の散歩でもしましょう」
「光栄です、魔女リズ様。あなたの名も素敵です」
はにかむように微笑んだローラントは、挿絵のカルステンよりも素敵だとリズは思った。
彼には挿絵すらなかったことが、悔やまれる。彼の挿絵もあれば、SNSは大いに盛り上がっただろうにと。
ローラントは、「では参りましょう」とリズを抱き上げた。
人生初めてのお姫様抱っこが、このイケメンの彼。心トキメキたいところだが、リズはげんなりと自分の手首を見つめる。
(罪人よろしく、手足を縛られたままでお姫様抱っこは無いよね……)
再び村の中へと入ると、広場には村の魔女達の多くが集まっているのが見えた。けれどその中に、母の姿はない。こんな姿は見せたくないリズは、ほっとしながら皆に笑顔を向ける。
「皆さん。私はこの村を去らなければならないけれど、母をよろしくお願いします」
「リズちゃん、どうして!」
親友のミミが、心配そうに顔を歪ませて駆け寄ろうとしたが、騎士に止められてしまった。逆らわないほうが良いと理解している他の魔女達はおとなしくしているが、皆もリズを心配そうに見つめている。
皆を巻き込みたくなかったリズは、誰にも事情を話していない。前世の記憶があることは、母とリズだけの秘密だった。
親友にどう説明しようか迷っていると、リズよりも先にローラントが口を開く。
「心配には及ばない。先日、ドルレーツ王国でお告げがあり、リズ様が王太子妃に選ばれたのだ」
「えっ! リズちゃんが!?」
それを聞いたミミや魔女達は不安な表情から一転、喜びにあふれたように歓声があがった。
お告げがあり王太子妃になるということは、すなわちリズの魂が『建国の聖女』であることを意味する。
「驚かれないのですね」とローラントに声をかけられて、リズは小さくうなずいた。
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