3 / 116
01 小説の始まりと出会い
2 騎士団長がキャラ違いすぎる
しおりを挟む
夜は、黒より白い服のほうが見えやすいように、この薄いピンクの髪の毛も、それなりに目立つ。それも、ウェーブがかった長い髪の毛は背中全体を覆っているのだから、とても目立っているはず。
昨日の時点では、髪の毛は束ねてローブの中に隠そうとリズは計画していたが、今日は朝から母の体調が悪かったので、すっかりと忘れていた。
これでは黒いローブと帽子で、闇夜に紛れる計画が台無しだ。
こうなったら、無理やりにでも包囲網を突破して、森を抜けるしかない。メルヒオールを掴んだリズは、彼にまたがり、森に向かって飛び出した。
「森へ向かったぞ! 捕まえろ!」
後ろから騎士達が追いかけてくるが、空飛ぶほうきに追いつけるはずもない。リズは難なく、彼らを振り切ることができた。
そのまま森へ入るが、そこにも騎士達は点在している。それを避けつつ、木にも激突しないように飛ぶとなると、あまり速度は出せない。
焦る気持ちを抑えつつ、振り落とされないようリズはほうきにしがみつく。
「メルヒオール! もっと高く飛べないの?」
そう提案するも、今のメルヒオールではこれが限界。上昇しようと試みるが、上下に揺れるだけの力しか残っていなかった。
元々は亡くなった祖母のほうきだった彼は、年季の入ったご老体。しかも運が悪いことに、今はこの地域の魔力が減少期に入ってしまったので、空気中からの魔力の吸収が困難な状態。
それに加えて、薬作りで魔力を消費してしまったリズからも、あまり力を貰えず。今は主従ともに、魔力がかつかつ状態。
申し訳なさげに、穂先をが垂れ下がるメルヒオールだが、騎士の様子を伺っているリズには見えていない。
(どうしよう。こんなに小刻みに動いていたら、メルヒオールがすぐに疲れちゃうよ……)
リズも、彼の事情は理解している。上空のほうが飛びやすいかと思い提案したが、その力も彼には残っていないようだ。
逃亡計画が足元から崩れ去るような感覚に襲われ、リズは背筋に寒気を感じる。
母の体調悪化は誤算だったけれど、小説の中でも騎士達が迎えにきた日のリズは、薬を作っていた。
薬作りはリズの仕事でもあるので、その部分については気にしていなかったが、まさか母のために作っていたとは思いもしなかった。
結局は前世の情報があっても、リズは逃げ延びられそうにない。何年もかけて、母と一緒に準備を整えてきたというのに、全てが無駄になりそうで悔しさがこみ上げてくる。
けれど、諦めるわけにはいかない。どうにかして、逃げ延びる方法はないだろうか。
必死に前世の情報を思い出していたリズだが、突然に身体が締め付けられる感覚に襲われ、ハッとする。
そして訳もわからないまま、リズの身体は後ろへと引っ張られ、その勢いで身体は空中へと放たれた。
「きゃ~~~!」
身体が宙に浮いたのは、一瞬だけのこと。メルヒオールなしでは空を飛べないリズは、受け身の体勢も取れないまま、ドサッと地面へと転がり落ちた。
「痛っ……!」
しかし、メルヒオールが高く飛んでいなかったことと、地面に草が生えていたこと。そして垂直落下ではなく、引っ張り落とされことで転がり、力を分散できたこと。それらが幸いして、骨が折れるような激痛は免れた。
とは言うものの、地面へ落ちた痛みそれなりにあり、骨は折れていなくとも打ち身で数日は痛いだろう。
呻きながらも状況を確認してみると、リズの身体には縄が巻き付いている。どうやら縄に絡めとられて、動物のごとく捕獲されてしまったようだ。
(ひどい……。仮にも私は、ヒロインなのに……)
あまりに粗雑な扱いに、リズは悲しくなってくる。小説の中では、それはそれはご丁寧な態度で、騎士団長がヒロインのもとへ迎えにきたのだから。
けれど、彼らの粗雑な態度にも一理あるかもしれない。
リズは騎士団の訪問を少しでも遅らせようとして、森にかなりの数の罠を仕掛けておいたのだから。
小説での訪問時刻は昼間だったにも関わらず、夜になってから到着した彼ら。相当、罠に手こずったことが伺える。村へ到着する前に、騎士道精神など置き去りにしてきたのだろう。
「手こずらせてくれたな、魔女」
リズの髪を鷲掴みにして、一人の青年が顔を確認してきた。
燃えるような赤い髪に水色の瞳をもつ彼は、二十三歳という若さで、ベルーリルム公国近衛騎士団長の座についた、カルステン・バルリング。
凛々しい顔立ちでヒロインを迎えにきた彼の挿絵は、多くの読者を虜にしたが、今のリズの目に映るカルステンは、盗賊が獲物を捕らえて喜んでいるような表情にしか見えない。
(そりゃそうよね……。縄で捕らえておいて、礼儀正しく「お迎えに上がりました」と微笑まれても、そっちのほうが怖いわ)
ちなみに小説の中のカルステンは、見目麗しいヒロインに一目惚れするが、そのくだりは完全に消え去ったようだ。
リズ自身も逃げようとしていたので、彼の愛など求めていないが。
昨日の時点では、髪の毛は束ねてローブの中に隠そうとリズは計画していたが、今日は朝から母の体調が悪かったので、すっかりと忘れていた。
これでは黒いローブと帽子で、闇夜に紛れる計画が台無しだ。
こうなったら、無理やりにでも包囲網を突破して、森を抜けるしかない。メルヒオールを掴んだリズは、彼にまたがり、森に向かって飛び出した。
「森へ向かったぞ! 捕まえろ!」
後ろから騎士達が追いかけてくるが、空飛ぶほうきに追いつけるはずもない。リズは難なく、彼らを振り切ることができた。
そのまま森へ入るが、そこにも騎士達は点在している。それを避けつつ、木にも激突しないように飛ぶとなると、あまり速度は出せない。
焦る気持ちを抑えつつ、振り落とされないようリズはほうきにしがみつく。
「メルヒオール! もっと高く飛べないの?」
そう提案するも、今のメルヒオールではこれが限界。上昇しようと試みるが、上下に揺れるだけの力しか残っていなかった。
元々は亡くなった祖母のほうきだった彼は、年季の入ったご老体。しかも運が悪いことに、今はこの地域の魔力が減少期に入ってしまったので、空気中からの魔力の吸収が困難な状態。
それに加えて、薬作りで魔力を消費してしまったリズからも、あまり力を貰えず。今は主従ともに、魔力がかつかつ状態。
申し訳なさげに、穂先をが垂れ下がるメルヒオールだが、騎士の様子を伺っているリズには見えていない。
(どうしよう。こんなに小刻みに動いていたら、メルヒオールがすぐに疲れちゃうよ……)
リズも、彼の事情は理解している。上空のほうが飛びやすいかと思い提案したが、その力も彼には残っていないようだ。
逃亡計画が足元から崩れ去るような感覚に襲われ、リズは背筋に寒気を感じる。
母の体調悪化は誤算だったけれど、小説の中でも騎士達が迎えにきた日のリズは、薬を作っていた。
薬作りはリズの仕事でもあるので、その部分については気にしていなかったが、まさか母のために作っていたとは思いもしなかった。
結局は前世の情報があっても、リズは逃げ延びられそうにない。何年もかけて、母と一緒に準備を整えてきたというのに、全てが無駄になりそうで悔しさがこみ上げてくる。
けれど、諦めるわけにはいかない。どうにかして、逃げ延びる方法はないだろうか。
必死に前世の情報を思い出していたリズだが、突然に身体が締め付けられる感覚に襲われ、ハッとする。
そして訳もわからないまま、リズの身体は後ろへと引っ張られ、その勢いで身体は空中へと放たれた。
「きゃ~~~!」
身体が宙に浮いたのは、一瞬だけのこと。メルヒオールなしでは空を飛べないリズは、受け身の体勢も取れないまま、ドサッと地面へと転がり落ちた。
「痛っ……!」
しかし、メルヒオールが高く飛んでいなかったことと、地面に草が生えていたこと。そして垂直落下ではなく、引っ張り落とされことで転がり、力を分散できたこと。それらが幸いして、骨が折れるような激痛は免れた。
とは言うものの、地面へ落ちた痛みそれなりにあり、骨は折れていなくとも打ち身で数日は痛いだろう。
呻きながらも状況を確認してみると、リズの身体には縄が巻き付いている。どうやら縄に絡めとられて、動物のごとく捕獲されてしまったようだ。
(ひどい……。仮にも私は、ヒロインなのに……)
あまりに粗雑な扱いに、リズは悲しくなってくる。小説の中では、それはそれはご丁寧な態度で、騎士団長がヒロインのもとへ迎えにきたのだから。
けれど、彼らの粗雑な態度にも一理あるかもしれない。
リズは騎士団の訪問を少しでも遅らせようとして、森にかなりの数の罠を仕掛けておいたのだから。
小説での訪問時刻は昼間だったにも関わらず、夜になってから到着した彼ら。相当、罠に手こずったことが伺える。村へ到着する前に、騎士道精神など置き去りにしてきたのだろう。
「手こずらせてくれたな、魔女」
リズの髪を鷲掴みにして、一人の青年が顔を確認してきた。
燃えるような赤い髪に水色の瞳をもつ彼は、二十三歳という若さで、ベルーリルム公国近衛騎士団長の座についた、カルステン・バルリング。
凛々しい顔立ちでヒロインを迎えにきた彼の挿絵は、多くの読者を虜にしたが、今のリズの目に映るカルステンは、盗賊が獲物を捕らえて喜んでいるような表情にしか見えない。
(そりゃそうよね……。縄で捕らえておいて、礼儀正しく「お迎えに上がりました」と微笑まれても、そっちのほうが怖いわ)
ちなみに小説の中のカルステンは、見目麗しいヒロインに一目惚れするが、そのくだりは完全に消え去ったようだ。
リズ自身も逃げようとしていたので、彼の愛など求めていないが。
19
お気に入りに追加
486
あなたにおすすめの小説
愛されたくて悪役令嬢になりました ~前世も今もあなただけです~
miyoko
恋愛
前世で大地震に巻き込まれて、本当はおじいちゃんと一緒に天国へ行くはずだった真理。そこに天国でお仕事中?という色々と規格外の真理のおばあちゃんが現れて、真理は、おばあちゃんから素敵な恋をしてねとチャンスをもらうことに。その場所がなんと、両親が作った乙女ゲームの世界!そこには真理の大好きなアーサー様がいるのだけど、モブキャラのアーサー様の情報は少なくて、いつも悪役令嬢のそばにいるってことしか分からない。そこであえて悪役令嬢に転生することにした真理ことマリーは、十五年間そのことをすっかり忘れて悪役令嬢まっしぐら?前世では体が不自由だったせいか……健康な体を手に入れたマリー(真理)はカエルを捕まえたり、令嬢らしからぬ一面もあって……。明日はデビュタントなのに……。いい加減、思い出しなさい!しびれを切らしたおばあちゃんが・思い出させてくれたけど、間に合うのかしら……。
※初めての作品です。設定ゆるく、誤字脱字もあると思います。気にいっていただけたらポチッと投票頂けると嬉しいですm(_ _)m
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜
アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。
そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。
とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。
主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────?
「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」
「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」
これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる