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00 小説『鏡の中の聖女』
鏡の中の聖女
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ドルレーツ王国に代々伝わる『前世を映す鏡』。
それは愛する者同士が、前世でも想い合っていたと証明するための鏡。
かつて、ドルレーツ王国を繁栄に導いた聖女エリザベートと大魔術師フェリクスは、互いに心から愛し合っていた。
『来世でも出会いたい』と願った二人が、前世の伴侶であることを証明できるようにと作らせたのが『前世を映す鏡』。
「俺は何度でも、この国の王太子に生まれ変わる。そして必ず、エリザベートを見つけ出そう」
「私も必ず、フェリクス様のもとへと戻りますわ」
誓いを立てた二人はそれ以降、何世にも渡り再び出会い、鏡を使って前世の伴侶であることを証明してきた。
そして現世でも、それを証明しようとしている二人がいた。
――ドルレーツ王国、大神殿。
儀式場の祭壇には、成人男性の背丈よりも二倍ほどの高さがある、大きな鏡が安置されている。
その鏡の前に立ったフェリクス・ドルレーツ王太子は、愛する婚約者エリザベート・リズ・ベルーリルム公女に微笑みかけた。
彼女の愛らしさを象徴するような薄いピンクの髪の毛は、純白のドレスに溶けるように垂れ下がり、アメジストのような神秘的な紫の瞳が、フェリクスだけを映している。
婚約式という大勢の貴族が見守る場で、それは証明されようとしていた。
「ついに俺達の愛が、証明される日が来たよ。怖くはないかい?」
「怖くありませんわ。私達は前世から繋がっていると、信じておりますもの。フェリクス様は?」
「俺だって同じ気持ちさ。エリザベートが聖女だと信じているよ。さぁ、エリザベートもこちらへおいで」
儀式場が静寂に包まれる中、フェリクスに手を引かれたエリザベートも、鏡の前へと移動する。
すると、鏡は一瞬だけ眩い光を放ったかと思うと、前世のエリザベートとフェリクスの姿を映し出した。
これによりエリザベートは、正式に聖女の魂を持つ者として認められ、貴族達から祝福を受けながら、王太子と婚約した。
のちに盛大な結婚式が執り行われ、二人は現世でも幸せになったのだった。
そんな小説の内容を、意識が朦朧とする中で思い出している女子大生がいた。
大地震に襲われ、咄嗟にペットのハムスターをかばった彼女は、本棚の下敷きになってから何十時間過ぎただろうか。いくら待っても、救助の声は聞こえてこない。
三年程度しか生きられないハムスターをかばって命を危険に晒すとは、馬鹿げていると思う者もいるかもしれない。
しかし『物』であれ『命』であれ、自分が大切にしている存在が目の前で危険に晒されていたら、無意識に手を出してしまうのが人間の本能ではなかろうか。
地方の親元から離れて大学に通い、恋人もいなかった彼女にとっては、この部屋の中で最優先に保護したかったのが、このハムスターだっただけのこと。
結局、恋すらできずに人生は終わってしまいそうだと、彼女はこの状況で悟るしかなかった。
命がけで助けたのが、ハムスターではなく恋人だったら良かったのに。
そう思いつつも、彼女の顔の周りを元気に動き回っているハムスターの姿が、最後の安らぎとなっている。
やっぱり助けて良かったと。
けれど来世があるなら、今度こそ恋愛小説みたいな恋がしたい。
そう、あの小説『鏡の中の聖女』のような恋を……!
それは愛する者同士が、前世でも想い合っていたと証明するための鏡。
かつて、ドルレーツ王国を繁栄に導いた聖女エリザベートと大魔術師フェリクスは、互いに心から愛し合っていた。
『来世でも出会いたい』と願った二人が、前世の伴侶であることを証明できるようにと作らせたのが『前世を映す鏡』。
「俺は何度でも、この国の王太子に生まれ変わる。そして必ず、エリザベートを見つけ出そう」
「私も必ず、フェリクス様のもとへと戻りますわ」
誓いを立てた二人はそれ以降、何世にも渡り再び出会い、鏡を使って前世の伴侶であることを証明してきた。
そして現世でも、それを証明しようとしている二人がいた。
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彼女の愛らしさを象徴するような薄いピンクの髪の毛は、純白のドレスに溶けるように垂れ下がり、アメジストのような神秘的な紫の瞳が、フェリクスだけを映している。
婚約式という大勢の貴族が見守る場で、それは証明されようとしていた。
「ついに俺達の愛が、証明される日が来たよ。怖くはないかい?」
「怖くありませんわ。私達は前世から繋がっていると、信じておりますもの。フェリクス様は?」
「俺だって同じ気持ちさ。エリザベートが聖女だと信じているよ。さぁ、エリザベートもこちらへおいで」
儀式場が静寂に包まれる中、フェリクスに手を引かれたエリザベートも、鏡の前へと移動する。
すると、鏡は一瞬だけ眩い光を放ったかと思うと、前世のエリザベートとフェリクスの姿を映し出した。
これによりエリザベートは、正式に聖女の魂を持つ者として認められ、貴族達から祝福を受けながら、王太子と婚約した。
のちに盛大な結婚式が執り行われ、二人は現世でも幸せになったのだった。
そんな小説の内容を、意識が朦朧とする中で思い出している女子大生がいた。
大地震に襲われ、咄嗟にペットのハムスターをかばった彼女は、本棚の下敷きになってから何十時間過ぎただろうか。いくら待っても、救助の声は聞こえてこない。
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しかし『物』であれ『命』であれ、自分が大切にしている存在が目の前で危険に晒されていたら、無意識に手を出してしまうのが人間の本能ではなかろうか。
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結局、恋すらできずに人生は終わってしまいそうだと、彼女はこの状況で悟るしかなかった。
命がけで助けたのが、ハムスターではなく恋人だったら良かったのに。
そう思いつつも、彼女の顔の周りを元気に動き回っているハムスターの姿が、最後の安らぎとなっている。
やっぱり助けて良かったと。
けれど来世があるなら、今度こそ恋愛小説みたいな恋がしたい。
そう、あの小説『鏡の中の聖女』のような恋を……!
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