追放された脇役聖女は、推し王子にストーカーされています

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53 卵の孵化1

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 その後。クローディアは三日に一度だけ大神殿へ行き、儀式場でお祈りをするというお勤めを始めた。
 聖女が卵を授かり、結婚するのは初めてのこと。様々な弊害や批判なども覚悟していたが、竜神様がお認めになったことならと、国民はすんなり受け入れてくれた。

 神殿でもクローディアの負担にならないよう、子育てに余裕が生まれるまでは、祈り以外のお勤めを求めないことが決定している。
 オリヴァーの卵休暇に続き、クローディアの働き方改革。この国では急速に、卵を持つ親に優しい環境が整いつつあるのだった。

 皆の配慮のおかげで二人の卵も順調に育ち、模様もあと一つで完成というところまでやってきた。
 今も二人でベッドに寝ころび、卵を温め合っている。
 クローディアは卵の模様を手でなぞりながら、ゲームでの卵の模様を思い出す。

(後一つハートの模様が浮き出たら完成だわ)

「今夜辺り、孵化が始まりそうな気がしますわ」
「楽しみですね。城内でも、孵化式の準備が整ったそうですよ」

 この国の王族には、孵化を皆で見守る『孵化式』なる儀式が存在する。
 クローディア達の卵も模様が完成次第、孵化式を始めることになる。

「ディア。これまで俺と一緒に卵を温めてくれて、ありがとうございます」

 彼はクローディアの唇に軽くキスを落としてから、柔らかく微笑む。

「俺がどのような姿でも、変わらずに受け入れてくれるディアが大好きです。もしこの卵から竜が生まれても、ディアが母親なら安心です。きっと俺と同じように愛してくれるでしょうから」

 生まれた子が竜に変化できるかどうかは、孵化の時点ではっきりとわかる。竜に変化できる子は竜の姿で生まれ、そうではない子は竜人の姿で生まれる。

「オリヴァー様と私の子ですもの。どのような姿でもきっと可愛いし愛おしいと思いますわ」

 クローディアもキスのお返しをしてから「私も大好きです」と伝える。

「卵にも二人でキスをしませんか? よろこんで孵化が始まるかもしれませんわ」
「そうですね。俺達の愛情をたっぷりと卵に注ぎましょう」

 二人で同時に卵に口づける。そしてそのまま空白の箇所を、二人でじっとみつめる。
 すると、ふわっとハートの模様が浮き出てきた。

「模様が」

 オリヴァーがそう呟くと同時に、卵は淡くピンクの光を灯し始めた。

「オリヴァー様、孵化が始まりますわ!」
「すぐに準備しましょう!」

 そこからは一分一秒を争う忙しさとなった。呼ばれた侍女達が慌てて各方面へと連絡を入れている間に、クローディア達は孵化式の会場となる大広間へと急ぎ移動する。
 ぐずぐずしていると、移動途中に卵が割れて孵化してしまうなんてことも、過去にはあったそうだ。

 会場へと入ると、オリヴァーは卵を乗せる台に丁寧に卵を寝かせる。

「ディアこれで良いですか?」
「ええ。ヒビが入る前で良かったですわ」

 あとはじっと見守るだけだ。卵の状態を確認しながら二人で安心していると、後ろからイアンが声をかけてくる。

「お二人とも、冷えますからガウンをどうぞ。殿下は仮面も」

 にこりと微笑まれて、クローディアとオリヴァーは同時に頬を赤く染める。二人は今、寝間着姿だ。随分と快速にたどり着いたと思えば、着替えるのを忘れていたのだ。

「ありがとうございますイアン。危うくディアの寝間着姿を大勢に見られるところでした」

 できればイアンの記憶からも消してくださいと、オリヴァーは真顔で冗談を言う余裕を見せている。彼に後れを取ってはいけないと、クローディアはガウンを着こんでから深呼吸をした。


 卵に少しヒビが入った頃になって、王族や貴族達が会場へと集まり始める。
 国王は「私達の時より多いな」と呟いた。どうやら黒竜に変化できるオリヴァーの子なので、期待値が高いようだ。

 皆に見守られながら、会場の中央でクローディア達が卵の様子を観察していると、なぜか会場の外が騒がしくなる。

「どうしたのかしら?」
「見てくるよ」
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