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 翌日以降もオリヴァーは毎日、お昼に食堂を訪れた。
 他愛もない会話をクローディアと交わして、普通に食事をして帰っていく。
 ウェイトレスがクローディアだと彼は気が付いているだろうに、特に彼は素性を明かそうとはしない。
 相変わらず視線は気になるが、クローディアに用があるわけではなさそうだ。

 彼はたまたまこの町を訪れただけで、クローディアともたまたま再開した。そんな彼女と、幼馴染の関係を復活させようという気はないようだ。
 今のお客とウェイトレスの関係は、彼が仕事を終えるまでのこと。その後は、もう会うことはないだろう。
 オリヴァーもそのつもりで、深く関わるつもりはないのかもしれない。

 ならばこちらも、気にする必要はなさそうだ。
 そう判断したクローディアは、ウェイトレスとして接することに専念した。




 イアンの送り迎えがなくなったので、クローディアは仕事帰りに、自分自身でも町を散策する活動を始めた。

 少しでも町に詳しくなって、オリヴァーから質問された時に答えられるようにしたい。
 そんなよこしまな考えもあったが、もう一つ切実な問題があった。

 最近、誰かに後をつけられている気がする。

 毎日のようにオリヴァーに見つめられているせいか、他人の視線に敏感になってしまったようだ。
 家までついて来られたくない気持ちもあり、こうして寄り道を繰り返していた。

 今日は本屋さんを訪れている。この店は背の高い本棚が何列もあり、通路が細長く伸びている。人とすれ違うのもやっと状態だが、品ぞろえは良さそう。

(お菓子作りの本はこの辺ね)

 料理本のコーナーでクローディアが探していたのは、初心者にも簡単に作れるお菓子の本。
 先日、クリスから初めてのお給料が送られてきたので、神殿の皆に差し入れしようと思ったのだ。
 初めはお菓子を購入するつもりでいたが、イアンのおかげで料理の基礎は覚えられた。問題なく一人暮らしできていることを皆に知らせるためにも、手作りすることにした。

 本を何冊か読んでみて、一番丁寧に説明が書かれている本に決める。その本を抱えてお金を支払いに向かおうとしたところ、通路の先にオリヴァーがいるのが見えた。

(オリヴァー様も調べ物かしら)

 彼はこの町をくまなく調べているようで、クローディアが行く先々で彼を目にしている。
 昨日は夕食の食材を買いに市場へ行ったら、彼は魚を真剣に眺めており。
 その前の日は、金物屋へお菓子作りの調理器具を見に行ったところ、スコップを念入りに調べている彼を発見。
 さらにその前の日、店に飾る花を買いに花屋へ行ったら、隣の骨董品店でクマの置物と睨めっこしている彼がいた。
 今日は何を探しているのだろうか。

(あの棚は確か、恋愛小説の棚よね)

 それも、過激な内容が書かれている本の場所だ。イアンには、読まないほうがいいと念を押されたので、クローディアはよく覚えている。

(オリヴァー様もきっとお疲れなのね……)

 これ以上の詮索は無粋だ。頬を赤く染めたクローディアは、彼に見つからぬようこっそりとお会計をしに向かった。


 彼女がその通路から去った後、オリヴァーは開いていた本をパタンと閉じる。そして全く興味がなかったかのような表情でその本を棚に戻すと、床に置いていた荷物を肩にかけて、すぐさま移動を始めた。
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