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23 領地での出会い5
しおりを挟む空を見上げるとクローディアが思ったとおり、黒竜が飛行している姿が目に映った。これもまた、日課のような光景となっている。
(今日のオリヴァー様も、素敵だわ)
太陽に照らされた黒竜は、とてもかっこいい。クリスの白竜は綺麗だったが、黒竜は圧倒的な存在感がある。人間の国では恐怖の象徴のように思われているが、竜人族にとって黒竜は憧れの対象だ。
最近のオリヴァーは遠出を好んでいるのか、首都から遠いこの町まで毎日のように飛んでくる。初めは大騒ぎしていた町人達も最近は慣れたようで、穏やかに彼の飛行を見守っている。
「……俺、いつか黒竜に食われるかも」
「黒竜はそんなことしないわ」
「そう思うなら、いつか俺を全力でかばってくれな」
黒竜の姿を見るたびに、イアンは妙な呟きをする。これも日課の一つと言えよう。
黒竜は、竜の頂点に君臨する存在。赤竜である彼にとっては、畏怖の対象なのだろうかとクローディアは首を傾げた。
一方オリヴァーのほうも、卵を口の中に入れてクローディアが住む町を飛行するのが日課となっていた。
飛行能力が最も高い黒竜でも、聖竜城から町までは片道三時間はかかる。それでも毎日訪れるには理由があった。クローディアの近くにいると、卵が温かみを増しているような気がするのだ。
それはわずかな違いではあるが、クリスの言葉を確信に変えるための大きな希望でもあった。
けれど、町で暮らし始めたクローディアは、常にあの男と一緒にいる。
どのような理由で行動を共にしているのかまでは上空からではわからないが、毎日のようにお互いの家を行き来しているのでそれなりに親しい間柄のようだ。
クローディアは懐中時計を捨てて、新しい人生を歩み始めている。
そう思うたびに、オリヴァーの心は締め付けられるほど苦しかった。
今すぐにでもあの男を排除したいが、今のクローディアにとってオリヴァーは、友達ですらないはず。
そんな彼女の生活を邪魔したら、ますます嫌われてしまう。
なんとか気持ちを抑えて、オリヴァーは聖竜城へと戻った。
オリヴァーには、もう一つ気づいたことがあった。
ベアトリスと卵を交互に温める過程で、彼女が温めた後は卵の温度が低くなる。
初めは気のせいかと思ったが、何度もやり取りをするうちに確信へと変わった。
少なくとも、ベアトリスはこの卵の親ではない。
そう思えるだけの自信がついたオリヴァーはこの日、一歩踏み出す決意をした。
「しばらく聖竜城を留守にします。卵も連れて行きたいのですが良いでしょうか」
卵の受け渡しをする際に、オリヴァーはベアトリスにそう提案した。
父である国王には、すでに許可を得ている。
新たな可能性について話した際、国王は「やはりな……」と後悔するように呟いた。
そしてオリヴァーに対して頭を下げたのだ。「そなたの気持ちを無視して、婚約を進めてしまい申し訳なかった」と。
「まぁ! オリヴァー殿下はそれほど、卵を愛しておられるのですね。私は構いませんわよ。卵をよろしくお願いいたしますわ」
しばらくは楽ができそうだと、ベアトリスは心の中で喜んだ。卵を温める行為は嫌ではないが退屈していたところだ。数日はゆっくり羽を伸ばせそうだ。
「お嬢様……。本当によろしかったのですか?」
オリヴァーが部屋を去った後、侍女の一人が心配してそう尋ねる。
「殿下が卵に興味を示してくれるのは、良いことじゃない」
ベアトリスの気持ちは理解できるが、侍女が言いたいのはそのような意味ではなかった。
卵と離れても、不安ではないのか?
これは卵を持つ親なら、誰でも感じる感情。それを微塵も感じていない様子のベアトリスに対して、侍女は疑念を抱き始めた。
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