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12 神殿からの追放5
しおりを挟む神聖力とは、魔術師が使う魔力のようなもので、竜神へ祈りを届けるためには神聖力を多く必要とする。
傍から見れば、祈るだけの楽な仕事に見えるだろうが、疲労度は肉体労働者と変わらない。祈りの内容によっては、それ以上の場合もある。だからこそ聖女は、祈る以外の労働は強制されないのだ。
「仕方ないですわ。聖女の苦労は、聖女にしかわからないですもの」
納得がいっていない様子の聖女達に、クローディアはにこりと微笑みながら続けた。
「それより、筆頭聖女としての最後の役目を果たさせてくださいませ。マリー、次の筆頭聖女はあなたにお願いします」
クローディアが筆頭聖女の証である装身具を身体から外し始めると、マリー不安そうに両手を組み合わせた。
「私に筆頭聖女が務まるとは思えません……」
「あなたは六年間、私と一緒に筆頭聖女について学んできましたわ。マリーならきっと、立派に役目を果たせます」
クローディアが十二歳で筆頭聖女となった際に、一緒に補佐として任命されたのがマリーだ。
本来なら年長であるマリーが筆頭聖女を務める番であったが、前教皇は力の強いクローディアにその役目を任せ、幼い彼女と一緒に学ぶ者が必要だとマリーを補佐につけたのだ。
マリーは聖女の力が発現した際に、恋人から婚約破棄されていた。結婚適齢期を過ぎ、聖女を引退してからでなければ結婚できないマリーを、恋人は鬱陶しく思ったようだ。
存在自体を否定されて自信喪失していたマリーと、幼いクローディアを一緒に学ばせることで、前教皇は相乗効果を狙った。
教皇の狙いどおり、クローディアとマリーは二人で協力して筆頭聖女としての役目を学び、筆頭聖女としての経験を積んできた。
儀式などで人前に出たのはクローディアだが、マリーも同じことができる。彼女自身はまだ自信がないようだが、クローディアが安心して任せられるのは彼女だけだ。
「マリーならきっと、私より上手く立ち回れますわ。怖いと思う時は目を閉じて、私の後ろにいると思ってください」
マリーに装身具をつけさせながら元気づけるようにそう述べると、マリーの瞳は潤み始めた。
「いつまでも年少のクローディア様に頼ってはいられませんね。……ありがとうございます。そのお言葉で勇気が湧きました」
決心がついたような表情を浮かべるマリーを、クローディアはぎゅっと抱きしめた。
クリスはいつもクローディアを庇護する存在であったが、マリーは共に戦う戦友のような関係だった。苦楽を共にし、二人で困難を乗り越えることで一緒に成長してきた。お互いに一人前の聖女となれたので、これからはそれぞれの道を歩む時が来たのだ。
本当ならもっと良い形で筆頭聖女を譲りたかったが、こればかりはクローディアにはどうすることもできない。神殿で唯一、聖女よりも地位が上なのが教皇。その教皇に追放を言い渡されたのだから、逆らえるはずがない。
最後に皆で、クリスからもらったクッキーを食べながら、思い出話に花を咲かせつつ別れを惜しみ合った。
彼女達は、クローディアがいなくなると美味しいお菓子も食べられなくなると、冗談交じりに嘆く。管理人の仕事で最初に得たお給料は、彼女達への差し入れにしようと、クローディアは心に決めた。
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