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11 神殿からの追放4

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 クリスと今後の生活について話し終えたクローディアは、荷物をまとめるために自室へと戻った。
 少ない衣服を畳みながらクローディアは、クリスの善意に胸がいっぱいになっていた。

 神殿の外の生活をほとんど知らない彼女のために、クリスはいろいろと考えてくれていたのだ。
 彼の領地には、町から少し離れた林の中に狩りを楽しむ際に使用している別荘があるのだとか。
 そこの管理を町長に任せているが、管理人の役目をクローディアに譲ってくれることになった。
 管理人として働く代わりに、給料を支払う。それで生活には困らないだろうと。

 一人で生きていくには住む場所のほかにも、働いて生活費を稼がなければならない。竜神に仕える以外の仕事をしたことがないクローディアにとっては、とても有り難い提案だった。

 使用人の手配もしてくれると彼は言ったが、クローディアは一人で暮らしたいと断った。働かせてもらう身で使用人は贅沢だと感じたのもあるが、なにより今のクローディアは初めて得た自由を満喫してみたい気分だった。

 何もかも自分一人でしなければならない環境は、毎日が大変で忙しくなるだろう。初めての経験に一喜一憂しながら充実した毎日を送れば、卵のことは忘れられるかもしれない。そう思っていた。

 衣服をトランクケースに詰め終えたクローディアは、次に机の引き出しを開けた。中に入っているのは、聖書と紙とペン。
 それからクローディアの宝物となっていた、黒竜の細工が施された懐中時計。

「これはもう、必要ないわね……」

 懐かしく思いながら、細工を手でなぞったクローディアはそう呟いた。
 これは五歳の時に、オリヴァーから初めて贈られたもの。

『この針がここに来たら、ボクに会いにきてください』
『はい! こちらの噴水のまえで、待ち合わせしましょう』

 それが、二人が会う際の時間の決め方だった。
 今思えば、クローディアはその時間になってから伯爵家を出発していた。クローディアが到着するまで彼は、ずっと待っていたのだろうか。彼女は思い出して笑みを浮かべた。

 両親からは、この懐中時計は貴重なものだから大切にしなさいと言われていた。黒竜の細工がほどこされたものをいただけるのは、特別な証だと。
 クローディア自身も彼から貰った大切な宝物だったので、神殿入りする際に許可を得て持ち込んだ。

 寂しい時は、この懐中時計が慰めになったことも多かったが……。クローディアにはもう必要ない。
 彼とはすでに、別々の道を歩んでいる。二人の時間はとうの昔に止まっているのだから。

 懐中時計を引き出しの奥へと押し込めたクローディアは、聖書だけを取り出してトランクケースへと詰め込んだ。

 他に持っていくものはないだろうかと部屋の中を見回していると、扉をノックする音が。

「はい。どうぞ」

 クローディアが返事をすると、部屋に入ってきたのは神殿にいる聖女達だった。現在、この国にはクローディアを含めて六名の聖女がいる。その全員がこの場に集まった。

「筆頭聖女様……。本当に出て行かれるのですか?」
「ええ。私の意思ではないけれど」
「私達だけでは、国を支える自信がありませんわ。どうか、お考え直しくださいませ!」
「教皇聖下のお考えでは、聖女の力によって国を守る仕組みはもう古いそうですわ。これからは、騎士の時代なのだとか」

 聖女を輩出した家門に、多額の報奨金を支払う制度が国の財政を圧迫しているのだと、先ほど教皇に愚痴られたばかりだ。
 その報奨金を騎士の育成に充てたほうが、効率的で確実に国を守れると。

「ひどいですわ! 私達が毎日、どれだけ神聖力を削ってお祈りしているのかも知らないくせに!」
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