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09 神殿からの追放2
しおりを挟む儀式の際のベアトリスは、神殿による卵への祈りを約束されたことで怒りを納めたようだったが、父親である公爵は違った。
クローディアの行動を責め、神殿をとことん追求するつもりなのだ。
クリスはロスウィル公爵家の次男でもあるので、その地位を使いモンターユ公爵と交渉を試みたが、クリスが庇えば庇うほどモンターユ公爵は彼が父親なのではと疑いを掛ける。
結局、今日の話し合いではまとまらなかったという。
そうなるであろうと予想した現教皇は、早々にクローディアを切り捨てたのだ。
前教皇は、クリスにクローディアを守るよう命じたらしいが、それを果たせなかったことを彼は気にかけているようだ。
「クリス枢機卿が気に病まないでください。筆頭聖女として相応しくない行動を取ってしまったのは、私ですから」
あの時、クローディアがもっと上手く立ち回っていれば、このような事態にはならなかった。
けれどあの時は、どうしても本能のまま動かずにはいられなかった。それどころか卵を渡してしまった今も、あの卵のことが頭から離れない。
「クローディア様の行動に、過ちなどございませんでした。私は……、竜神様のご意思だったのだと思っております」
クリスは急にクローディアに迫ると、彼女の両手を掴んだ。彼に手を握られるのは、聖女見習いの頃以来のこと。クローディアは驚いて瞳をぱちくりさせた。
「クリス……枢機卿?」
「クローディア様。正直にお答えください」
「何を、でしょうか……?」
クリスの並々ならぬ勢いに気圧されつつもそう返すと、クリスは急に勢いを無くしたように言葉を詰まらせる。
「その……。私から告白させていただきますが。本日の儀式の最中、私はずっとクローディア様のことを考えておりました」
「……えっ?」
思いもよらぬ告白に驚いていると、クリスは慌てたように言葉を続けた。
「決して、やましい気持ちではございません! 私はただ、クローディア様のご体調を心配していたのです。あまりに心配する気持ちが強かったばかりに、竜神様が愛情と勘違いされたのではないかと、心配になりまして……」
クリスは儀式の後から、それがずっと気にかかっていた。
幼い頃から神殿で暮らしているクローディアは、男性との交流があまりない。仮に、本当にクローディアが卵を授かったなら、兄代わりとしての関係を築いてきた自分以外に、相手はいないのではないかと。
もしもこの信頼関係が愛情として判断されてしまったのなら、クリスは責任を取るつもりでいた。
「クローディア様はあの時、何を……どなたを思い浮かべていたのですか?」
クローディアがあの時考えていたのは、オリヴァーの境遇についてだ。
決して、ベアトリスよりも自分が彼の相手に相応しいと思っていたわけではないし、ましてや彼との結婚を望んでいたわけでもない。
ただ、仲の良かった幼馴染には幸せになってほしかっただけ。
けれどクリスが心配するように、相手を思う気持ちが強すぎたために愛情と受け取られてしまった可能性は否定できない。が、卵はどちらか一方の気持ちだけで授かるものではない。愛し合っている二人にだけ、卵は天から降ってくる。
だからこそクリスも確認しているのだ。『誰を思い浮かべていたのか』と。
(まさか、オリヴァー様が私のことを?)
一瞬だけその考えが浮かんだが、クローディアはすぐに考えを打ち消した。
彼と会話を交わしたのは五歳の時が最後。それ以降は、顔を合わせることはあってもお互いに気軽に話せる間柄ではなくなってしまった。
そんな彼が、いつまでも自分のことを考えているはずがない。
それに、ゲームの設定が生きているなら、ヒロインは一定の好感度を得なければ攻略対象との儀式に臨めない。
つまりベアトリスとオリヴァーの間には、それなりの恋愛感情があることを意味している。
彼がクローディアのことを思っていたなど、ありえないのだ。
「私は……。儀式に専念しておりましたわ。どなたのことも考えておりませんでした」
(今回の件に、オリヴァー様を巻き込んではいけないわ)
彼はこの国の王太子であり、卵を授かったばかりの大切な時期。そのような時に、スキャンダルはもってのほかだ。
「そうでしたか……。私の発言は、どうかお忘れください……」
クリスは、ホッとしたような、恥をかいたような。複雑な感情が入り混じっている様子の笑みを浮かべながら、クローディアから手を離した。
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